ナタリー15周年記念インタビュー 第3回 [バックナンバー]

山口一郎(サカナクション)×カンタ(水溜りボンド)が見つめるインターネットシーンの未来

音楽家が一番YouTubeを使えていない? ミュージシャンとYouTuberが新たなコラボの可能性探る

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ミュージシャンとYouTuberが議論する場を

山口 僕は時代の変化を意識した施策をどんどんやってきたつもりなんだけど、YouTubeだけは本当に使いこなせてないんだよね(笑)。インターネット上での著作権の問題も絡んでくるけど、例えばカンタくんが動画にBGMを付けようと思っても、フリー音源しか使えないわけじゃない? その配信者がどんな音楽が好きか、どんな音楽のセンスをしているかも人柄が見える部分だと思うんだけどね。

カンタ 確かに。僕たちは「Cat life」というフリー音源をBGMとして使っているんですけど、ファンの人たちにとっては水溜りボンドの音だと認識してくれていたりするんですよ。

山口 またそれとは別の話で、YouTubeが盛り上がってきたときにやろうと思っていたプロジェクトがあって。フリー音源はたくさんあるけど、プロのミュージシャンが本気でフリー音源を作ってみたらどうだろうと思っていて。

山口一郎

──それ僕も考えてました。いわゆるライブラリーミュージックを今の時代に合わせて現役のアーティストが作ると面白いんじゃないかと。

山口 これからインターネット上での著作権の考え方がどんどん変わっていって、音楽の使われ方、使い方というのがもっと自由になっていくとは思うんだけど、そのためにも僕らの世代のミュージシャンや音楽メディアがそこを意識した活動をしていかなきゃいけないと思う。僕はライブ映像のサブスクリプション化が進んだらいいなと思っているんだけど、どうやら難しそうだなと。でも抜け道があって、YouTubeのメンバーシップ機能を使って、そこだけでサカナクションのライブ映像を全部公開してみたらどうかなと思っているんだよね。そしたらそれはある種、個人的な音楽のサブスクリプションになるわけじゃん。そこに視聴者を呼び込むための前段になる動画をどう作っていくかを考えれば、音楽的にYouTubeを使えるんじゃないかって。本当はNetflixとかAmazon Prime Videoみたいな形式で音楽専門のサブスクリプションチャンネルができれば、60年代とか70年代の過去のライブ映像から最新のライブまでいろんなものが観れて、その中で「どんな映像表現をしていこう」というような発明も生まれると思うんだよね。でもそれはまだまだ時間がかかるから、せめて自分でYouTubeの活用法を探そうと思うと今のところそのくらいしか思い浮かばない。

──ライブ映像のアーカイブを多くそろえている動画配信サービスもあるにはありますけど、現在進行形のものも含めて音楽に特化した動画のサブスクリプションがあると、確かに夢が膨らみますね。

山口 アーティストが楽曲に関連するもの以外で音楽にまつわることをYouTubeでやろうと思うと、今の感じだと結局、機材紹介くらいしかないじゃないですか。

カンタ YouTuberみたいなことをすることになっちゃいますもんね。

山口 そうなんだよね。それはファンクラブの中でやればいいことでもあるじゃん。ファンクラブは言わば凪いでいる静かな海で、自分たちのファンだけが見てくれているわけだから寛容さはある。でも、YouTubeという荒波の中でミュージシャンが音楽を使ってどんなコンテンツを発信するかは未開拓なんだよね。藤井風くんはそこがストーリーになっているからすごいし、それがあるから彼の活動は長く続いていくだろうと思う。そういうミュージシャンが出てくると、メジャーに行く意味やテレビに出る意味はなくなってくると思うんだよね。

山口一郎

カンタ 確かに少しずつそうなってきている感じがしますね。

山口 僕らの時代にもあったけど「テレビに出るバンドは聴かない」みたいな、流行っているものを好きだと言いたくない人もいるんだよね。例えばこれからの時代はテレビだけじゃなく、フェスに出る時点で「もうちょっと違うよね」となる可能性もあると思う。音楽業界はこれから厳しい時代が到来する気がするんだけど、逆にその分チャンスも転がっているんじゃないかな。だからこそミュージシャンはYouTuberとジャンルを超えた議論をする場をたくさん作るべきだと思うし、素材を交換し合ったり、お互いを補い合えるような関係が築けたら、新しい音楽の生まれ方や、発明的なYouTubeの使い方が出てくる気がするんだよね。

カンタ YouTube自体の可能性はまだまだあるはずですもんね。

自分たちの遊び場を広げるためラジオの世界へ

山口 僕は水溜りボンドの「オールナイトニッポン0(ZERO)」が始まったときに、どういう気持ちでオープンメディアに行ったのかを聞きたかったんだよね。YouTubeでもラジオと同じことはできるわけじゃん。無作為にたくさんの人が聴くラジオというものを始めたのは、ラジオも自分たちのホームにしたいというチャレンジ精神だったの?

カンタ まずYouTubeがホームだというのは変わらないですね。ただ、僕らはしっかりとトーク力を磨いて、ほかのメディアでも通用する人間になることが将来的にYouTuberを続けるうえで必要だと思ったんです。あとは僕らはずっと「チャンネル登録者数100万人」を目指して活動していたんですけど、そういった大きな目標を達成していくと、次第に目的を見失う感覚もあって。それはファンの方も一緒で「この人たちは今何を目標に活動しているんだろう?」と感じてしまうと思うんですよ。もちろん自分たちが作りたいものを作ってアウトプットするわけですけど、ファンの方と何か共通の目標があると、一緒に戦っている感覚になれるというか。

カンタ

山口 うんうん。

カンタ 例えばYouTubeが好きな人は、「テレビよりもYouTubeのほうが面白い」と言いたかったと思うんです。芸人さんがYouTubeを始めると「テレビの芸人がYouTubeに来るな」みたいなムードがあったけど、情熱を持ってYouTubeをやっている芸人さんが増えてくると、みんな少しずつ好きになってくるんですよね。「この人、本気でやろうとしてるからちょっと好きかもしれない」みたいな(笑)。だから芸能人の方が次々YouTubeに参入してきたときに「戦国時代が来る」と思ったんです。それで僕らは次の目標として、ほかのメディアでも通用する人間になろう、テレビやラジオに挑戦していこうと。

山口 なるほどね。ラジオきっかけでYouTubeを見始めた人もいるの?

カンタ そう言ってくださる人も多いですね。でも僕ら的にうれしかったのは、「水溜りボンドの番組をきっかけにほかのラジオ番組も聴くようになりました」という声があったことで。

山口 水溜りボンドのYouTubeを観ていた人たちがラジオというコンテンツに触れたわけだ。

カンタ そうなんですよ。僕らとしては「戦いに行っている」という気持ちはありつつ、ファンのみんなと一緒にYouTubeとは違う場所で遊んでいるような感覚もあって。山口さんもそうですけど、僕が憧れている人たちは自分のホームから離れた場所で何かを発信しても、その人らしさが絶対に残っているんです。だから僕らもラジオ番組でディレクターさんの指示を100%聞いているだけだったら、ファンは「これじゃない!」と離れていくと思うけど、ラジオを使って遊んでいたら一緒に楽しんでくれるじゃないかって。

山口 自分たちの遊び場を広げる作業でもあったんだね。

カンタ はい。当時は「オールナイトニッポン」を担当させてもらえるYouTuberは誰もいなかったので。何かの1番目になりたい気持ちもあったし、「YouTuberってこんなこともできるんだぜ」と伝えることも必要だと感じていたんです。今はYouTuberがテレビに出ることも珍しくないけど、昔はほんの5秒出演するだけでもすごいことで、みんなでその放送を観て感想を言い合うのが楽しかった。YouTuberには近所の兄ちゃん感があると思っていて、ファンの人たちは「あの仲よくしてた兄ちゃん、大きい仕事が決まったらしいよ」って一緒に喜んでくれるんです。だから自分たちのストーリーにないことを突然始めても、ファンの人たちは全然盛り上がらないんです。

カンタ

──YouTuberのファンの人たちにとっても、テレビやラジオに好きなYouTuberが出演するのは特別なことなんですかね?

カンタ 学校の友達がニュースの街頭インタビューを受けて、身内がザワつく感じに近いんだと思います。で、全然スベってもいいんですよ。そのあとみんなでイジり合うところまでを楽しみにしているから。

──本当に友達のような感覚なんですね。

カンタ そうですね。前にSHIBUYA109のシリンダー広告を水溜りボンドでやらせていただいたことがあって、そのときも「一緒に夢を叶えた」という感覚で見てくれていたんですよ。よく「私はチャンネル登録者が5000人の頃から見ていました」みたいなコメントをいただくんですけど、それって「僕らの活躍する場が広がる=その人のそのときの感覚が正しかった」という証明にもなるじゃないですか。昔からファンは僕が大学を卒業して就職するかどうか悩んでいたことも知っているから、「お前、就職せずにYouTube続けてきてよかったな」と思ってくれていると思う。

──今の時代、テレビよりもYouTubeのほうが馴染みがあるという子供たちが増えてきている気もしますけど、そうすると将来的には「テレビに出る」ということになんのステータスも感じなくなるんじゃないかと思うんです。あるいはすでにそうなっているんじゃないかと。

カンタ うーん、どうだろう……。将来的にはわからないですけど、今20代前半でテレビに出てるYouTuberは盛り上がっているんですよ。YouTuber自身が「テレビってすごいものだよ」と思っているから、その下の世代のファンも一緒に喜んでいて。

左から山口一郎、カンタ。

山口 テレビカルチャーの終焉ってよく言われるじゃないですか。でもそれは、全盛期に比べると終焉に近付いているのかもしれないけど、現状はどのエンタテインメントよりもパイを持っているんですよね。僕はYouTuberという人たちはYouTubeのクリエイションをして自分の表現をする人というイメージだったんだけど、カンタくんの話を聞いて、YouTuberというよりはネットクリエイターに近いのかなと思いました。自分たちの動画を観てもらうためにラジオに出演したりタレントとして活躍するのかなと思っていたけど、そうじゃなくて「あっちに遊びに行ってみようぜ」みたいな感覚で、自分たちの表現が通用する場所を探して泳いでいるというか。

カンタ そうかもしれないですね。だからニッポン放送さんが僕たちらしさを認めてくれたのは本当にうれしかったです。

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循環しながらも血を濃くしていく

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カンタ(水溜りボンド) @kantamizutamari

本当に最高すぎる時間でした!!!!
新しいアルバムの最高でした。。! https://t.co/cz2WXgmn4n

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