さいたまゴールド・シアターとわたし 第3回 [バックナンバー]

彼らは人生を舞台上に載せて、老いや演出家と戦っている

松井周が感じた“決意や執念のようなもの”

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故・蜷川幸雄によって2006年に創設されたさいたまゴールド・シアター(以下ゴールド・シアター)が、今年12月に最終公演を迎える。高齢者のプロ劇団として、数々のレジェンドを生み出してきたゴールド・シアター。本連載では、その足跡をゴールド・シアターゆかりのアーティストたちの言葉によってたどる。第3回は、第4回公演「聖地」の劇作を手がけた松井周が登場。松井は2020年に第8回公演「聖地2030」で作・演出を手がける予定だったが、新型コロナウイルスの影響により中止となった。しかし本稽古を前に行われたゴールド・シアターとのやり取りで、彼らの“決意や執念のようなもの”を感じていたという。その思いとは?

「私たちと伴走する決意はありますか?」と問われるような経験

第4回公演「聖地」より。(撮影:宮川舞子)

演出について頭を悩ませているときに、蜷川さんならどうするかを考えるのが1つのプロセスのようになっています。蜷川さんが演出をしてくださった拙作「聖地」(2010年)では、さいたまゴールド・シアターの俳優たちが火事場のばか力を発揮しているし、空間は時間を軽々と飛び越えるしで、蜷川さんの引力を実感しました。舞台上の何かがあふれて客席に満ちてくるのがわかります。でもこの“何か”がよくわからないのです。

第4回公演「聖地」より。(撮影:宮川舞子)

それを知りたくてゴールド・シアターの面々と「聖地 2030」(2020年、上演中止)を作るつもりでいました。フィクションと即興的な意見表明を合わせてみてはどうだろう?と。僕にとってはゴールド・シアターの作品は半分即興劇のように見えたからです。俳優たちが老いに呑まれ、抵抗しながらの動きやセリフ1つひとつが生々しく、蜷川さんが舞台横から大声でセリフを投げかけていたことを鮮明に覚えています。あの“何か”はフィクションの即興化から生まれるのではないかと考えました。

でもそういうことではないと感じたのはプレ稽古(正式な稽古前の稽古)のときです。彼らの大事にしているモノについて語ってもらうと、そこから趣味や生活や旅行や結婚や離婚、病気や死別について、また蜷川さんとのやり取りについて、僕のような若輩者では到底受け止めきれないほどの複雑なエピソードが出てきました。その後、ちょっとした即興劇を始めると、愚直なほどそれぞれの人生の経験を舞台上のエネルギーに転換しようと考えていることがわかります。それはもう決意や執念のようなものでした。彼らの中ではいまだに蜷川さんの見ている前で稽古をした感覚が身についています。

これはもう“何か”とか言ってる場合じゃないと思いました。「私たちと伴走する決意はありますか?」と問われるような経験です。“何か”っていうのは方法のことじゃなく、俳優と演出家との対決で生まれるものでしかない。それを自分たちで発明しながら作品を作らなくてはと感じました。今考えれば当たり前のことですが、僕は蜷川さんではないのです。それを懐の深いゴールド・シアターのメンバーに教えてもらった気がします。

残念ながら上演はできませんでしたが、きっと杉原邦生さん演出の「水の駅」でも彼らは自分たちの人生(大げさではなく)を舞台上に載せて、老いや演出家と戦っていることでしょう。それはきっと最後ではなく、死ぬまで終わらない業のようなものです。蜷川さんに出会ってしまったという運命の行く末です。

さいたまゴールド・シアター

さいたまゴールド・シアター(撮影:宮川舞子)

2006年に埼玉・彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督だった蜷川幸雄により立ち上げられた高齢者劇団。創設時の平均年齢は66.7歳。その後、岩松了、ケラリーノ・サンドロヴィッチら多彩なアーティストとのコラボレーションを行うほか、海外にも活躍の場を広げる。2016年に蜷川が死去した後も精力的に活動を行うが、12月に「水の駅」で活動を終える。

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