ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.6(後編) [バックナンバー]

「フリースタイルダンジョン」が見せた夢:Zeebra

「世界で一番デカいMCバトルシーンは日本にある」と言わせたい

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ラッパーのKEN THE 390がホストとなり、MCバトルに縁の深いラッパーやアーティストと対談する本連載。EPISODE.6の前編では、ゲストのZeebraがフリースタイルとの出会い、「B-BOY PARK」の舞台裏などについてエピソードを語った。

後編では、バトルブームの火付け役となった番組「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」「フリースタイルダンジョン」立ち上げの裏話、フリースタイルのプロリーグ化を掲げる「FSL(FREE STYLE LEAGUE)」、さらにこれからのシーンについて語り合う。

取材・/ 高木“JET”晋一郎 撮影 / 斎藤大嗣 ヘアメイク(KEN THE 390) / 佐藤和哉(amis)

メディアをどう使ったら、ヒップホップが広まるのか

Zeebra

──「B-BOY PARK」(BBP)のMCバトルは2003年以降、MCバトルイベントの主役の座を「ULTIMATE MC BATTLE」(UMB)に譲るような形になりましたが、それはどう見えていましたか?

Zeebra 「UMBがバトルのフィールドを補完してくれてるから、もう任せていいんじゃないですか?」とAKIRAくん(CRAZY-A)に言った覚えがある。誰かが全部のパートをやらなきゃいけないもんじゃないし、逆にいろんな人たちが補い合うのがベストだから、MCバトルはもうUMBに任せればいいでしょって。ただバトルは見てたよ。時代は飛ぶけど、R-指定の存在は大きかったもん。UMBで三連覇したときのRは、KREVAがBBPで三連覇したときみたいな無双感があったじゃない? 晋平太が先鞭をつけた“バトル強者”という存在を、Rがもっと広く明確に、確固たるものにしたことで、“バトルヒーロー”という存在が生まれたんだなと思った。

KEN THE 390 Rはバトラーとして無敵だったし、当時の試合は今でもコンテンツ力が超高いと思うんです。でも、バトル全体が今ほどの知名度を持ってなかったし、Rの存在も含めて、まだまだアンダーグラウンドだったなって。

Zeebra 本当に時代はあるよね。「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」(「高ラ」)だって「BSスカパー!」で始まったじゃない? 「BSスカパー!」なんて……なんてってことはないけど(笑)、たまたま家にケーブルが入ってて「あ、こんなチャンネルあるんだ」ぐらいの感じだったし、今考えたらだいぶ視聴へのハードルが高い。でも、あの時代はギリギリまだメディアが新しいアプローチをできた時代だったよね。

KEN 「高ラ」はYouTubeで拡散された部分も大きかったですからね。

──「BAZOOKA!!!」というメディアのコンテンツの制作力と、YouTubeというプラットフォームの連携は大きかったですね……とはいえ違法アップロードではあったんですが。

Zeebra 「メディアをどう使ったら、ヒップホップが広まるのか」は、ずっと考えてきたことなんだよね。あんまりピリッとしなかった「シュガーヒルストリート」(※2006年から2007年まで日本テレビで放送されていた音楽番組。Zeebraは司会を務めた)とかもあったからさ(笑)。

KEN みんな観てましたよ!(笑)

──僕も取材に入ってましたから(笑)。

Zeebra わはは! 番組自体は面白かったし、チャレンジングではあったんだけど、時代とマッチはしてなかった。そうやって手を変え品を変え、いろいろやってきたけど、「高ラ」がバズったときは「バトルはこんなに時代と相性のいいコンテンツだったんだ」と正直驚いたね。

完全に新しいリスナーを開拓した「高校生RAP選手権」

──「高ラ」へのZeebraさんの関わり方を改めて教えてください。

Zeebra もともと俺に密着取材でピタ付きしてたフジテレビのプロデューサーがいて、俺が(真木)蔵人とツルんでた流れで、彼から「蔵人を司会にしたい」という話が来て。俺はヒップホップに絡んだ内容のときには出てって、いろんなラッパーをスタッフに紹介したりしてさ。その時期は「学校へ行こう!」みたいなことと、ヒップホップを絡めたような企画をやりたいなと思ってた。それこそいろんな学校に行って、ヒップホップダンスをちゃんとレクチャーしたり、DJやラップを教えるみたいなことをやりたくて。というのも、当時はヒップホップ全体の年齢層がかなり上がってたんだ。

KEN わかります。若手の数が減ってきていたし、注目もされにくかった。

Zeebra それ以前は20代前半どころか、10代もいっぱいいたのに、「あれ……ラッパーもリスナーも30代以上ばっかりだし、高校生なんて誰もヒップホップ聴いてねえぞ」という状況になってた。それがとにかく不安だったし、若い世代をなんとかヒップホップに呼び込むべく、若い世代のためのヒップホップコンテンツを作ろうとしてたんだ。その中で「BAZOOKA!!!」のスタッフにDARTHREIDERと仲のいいやつがいて、「MCバトルとかってどうなんですかね?」という話が出てきて。それで「確かにU-20とかもあったりするから、高校生でもできるかもしれないけど、どのぐらい絶対数がいるかわかんないな」みたいな。最初はそれぐらい手探りな感じだった。

KEN 今からすると隔世の感がありますね。

Zeebra 本当だね。で「まあ、とりあえずやってみましょう」と始まったのが1回目だった。それで川崎の、やつらの先輩を経由して知り合ったT-PablowやYZERRに声をかけて。2人は当時バトル未経験だったから、KM-MARKITに特訓してもらったりしてさ。

──そんな流れがあったんですね。

Zeebra で、いざ収録したら「なんですか! このエモさ!?」みたいな。それで「これは注目されるかもな」という予感はしてたんだけど、あんなにすごい勢いで急拡大したのは予想外だった。

──「BAZOOKA!!!」は生中継でタトゥーを入れたり、宗教やエロ、陰謀論など、かなりアンダーグラウンドな内容を放送していましたね。

Zeebra 「実話ナックルズ」のテレビ版みたいな感じだよね(笑)。

──制作陣には堀雅人さんや岡宗秀吾さん、佐々木堅人さんなど、ヒップホップシーンともつながりのある方が顔をそろえていたので、「面白くなる」とは思ってたけど、ただ、その面白さのベクトルがどこに向くのかは、「高校生RAP選手権」というタイトルを聞いたときは不安でもあって。

Zeebra だから「学校へ行こう!」みたいなティーン向けの内容をイメージしてたとはいえ、そこで「B-RAPハイスクール」みたいなコミカルなものには絶対にしたくなかったし、そういう存在は完全に知らないふりしてた(笑)。

──でも、そういった構成をイメージしていた人は多かったと思います。

KEN 当時のラップは、マスに届けるために曲自体を丸くするとか、そういう手法を取る場合が多かったですよね。「高ラ」も「高校生同士がラップバトルをする」というパッケージ自体はキャッチーだったと思います。でも、内容はMCバトルをそのまま放送するコアなものだったし、発想の転換が大きかったと思うんですよね。

Zeebra “ヒップホップのビートに歌謡曲の歌詞が乗る”んじゃなくて、“歌謡曲に超ハードコアなリリックが乗る”感じだよね(笑)。そして、結局それがマスに刺さった。しかも、ヒップホップリスナーよりも先に、普通の高校生とか、ラップに興味がないであろう層に響いてバズったのも大きかった。

KEN 完全に新しいリスナーを開拓したし、それが今につながる道になっていますね。

Zeebra 本当だよ。そう思えば思うほど、若い子たちが大切なんだよね。これからも若い子がいれば、ずっとこのままシーンは存在し続けるし、若い子が途切れる時間を作ってはいけない。

──なぜ「高ラ」が始まる時期は、若い子が途切れていたんでしょうか。

Zeebra ヒップホップの面白さの1つに、“アカデミックな部分”があるじゃない。「この曲は実はあの曲を引用してるんだよ」みたいな、知識の楽しさというか。当時はそれが行きすぎて、知ってる人同士で楽しんで、知らない人をどんどん置いていった部分はあると思う。

──排他的な、内輪的な部分は自省も込めて感じます。

Zeebra だから、あの時期はそういうヒップホップ的な楽しみのほかに、もっとわかりやすい入り口もあるべきだったし、それが「高ラ」の果たした大きな役割だったよね。俺だってヒップホップを聴き始めた頃は、知識なんてなかったわけだからさ。それは全員そうなんだから。

MCバトルブームに火を付けた「フリースタイルダンジョン」

KEN THE 390

──「高ラ」に続き「フリースタイルダンジョン」がスタートしたことで、MCバトルブームが本格化します。その状況をどう見ていましたか?

Zeebra 昨今の日本のヒップホップブームには、大きく2つの由来があると思うんだ。1つは「高ラ」をはじめとするMCバトル由来、もう1つはKOHH以降の、ストリートとファッションやアートが密接につながる、カッコいいしゃれたものとしてのヒップホップ。その2つは2012、13年ぐらいの、ちょうど同じ時期に盛り上がったし、これは2つの武器を手に入れたなと。

KEN 「ダンジョン」を始めたときに考えていたことはありますか?

Zeebra 「ダンジョン」は民放とABEMAだから、本気でわかりやすさを考えた。で、それを考えすぎたせいで、最初はラッパーを山車に乗せて旗持たせたりしてさ。山車が止まったときに、(慣性の法則で)ユラっとするのがとにかくカッコ悪すぎた(笑)。

KEN でも、T-Pablowに聞いたら「全然気にしてなかった」って言ってて(笑)。

Zeebra わはは! YUTAKAくんが「ターンテーブルの上に寿司を乗っけて回転寿司やってください」とかテレビマンに言われてた時代を知らない世代だからな(笑)。ただ、山車は別にしても、放送の中でバトルやラップの魅力は当然として、“そこで何が行われているか”という根本を伝えたかったよね、番組として。

KEN 確かに、MCバトルはパッと見ただけでは、何が行われてるかは瞬時に理解しにくいタイプの構造ではありますね。

Zeebra 格闘技みたいに「パンチが当たったから倒れた」みたいな、わかりやすさはないからさ。

──「何が起こったのか」「何がすごいのか」という共通言語や理解度が必要という。

Zeebra それをすぐにわかってもらうために、テロップが必要だったんだよね。バトル中に歌詞のテロップを入れるのは絶対で。なんだったら韻の部分に色を付けようと思ってたぐらい。

KEN それはわかりやすいですね。

Zeebra それによって、“今何が行われているのか”がわかりやすくなると思ったし、ジャッジ陣の解説を入れることで、“何が基準なのか”も伝わりやすくなるなと。俺らだってバトルの言葉を聞き取れないことあるじゃん。

KEN ありますね。

Zeebra ラップに耳が慣れてない人が一発で聞き取るなんて、なおさら無理だから、テロップは入れようと。目論見通り、視聴者に伝わったのがうれしかったね。「ラッパーってすごいんですね!」とか超言われたもん(笑)。

KEN 「頭いいんですね!」とか言われましたね(笑)。

Zeebra 「即興ができないラッパーでも、みんな家でがんばってリリックを書いてるんですよ」という話が、ちゃんと伝わったというか(笑)。少なくとも「チェケラッチョかヤンキーか」みたいな、ザックリした見方はかなり薄れたと思う。

KEN そもそも「ダンジョン」の企画はどうやって始まったんですか?

Zeebra 「高ラ」を卒業したラッパーが出られるメディアが欲しかったんだよね。ほかのMCバトルはメディアでは展開されてないから、その場を作るべきだなと。それで自分で企画書を作って。自分でも民放でバトルをやりたいと思ってたし、藤田(晋 / サイバーエージェント社長)くんも何か一緒にやりたいという話をしてたので、この企画を持っていったら、それが通ったという感じ。

KEN 「ダンジョン」は、「チャレンジャーがモンスターに挑む」、「3ラウンド制」のような番組ならではのシステムがありましたが、その発案は?

Zeebra 俺の企画書の段階で、「フリースタイルダンジョン」というタイトルはもちろん、3ラウンド制、クリティカルみたいなアイデアはすでにあった。あとはマッチメイク制、階級制というのもあって、どちらかと言えば、今の「FSL(FREE STYLE LEAGUE)」の方式に近いかな。それをテレビ制作者側とブラッシュアップする中で、「ダンジョン……RPGっぽいのはどうですかね」「ラスボスがいると面白いかも」という話に進んでいって。で、その企画会議の最中に般若に電話して、「こんな企画を考えてるんだけど、どう思う?」「面白いですね」「よし決まり! 般若がラスボスです」みたいな(笑)。

KEN 般若さんがラスボスという構図は誰も想像できなかったですよね。

Zeebra やっぱり般若がUMBで優勝した瞬間は俺も泣いたし、ドラマを生める男だから、ラスボスは任せられると思った。あと、RPGだと魔法が得意、オールラウンダー、攻撃力が高いみたいな、いろんなキャラがいるじゃん。そういうバランスを考えながら、モンスターを選んでいったんだよね。ラスボスの般若、総合力最強のR-指定、若手ホープのT-Pablow、UMB含めてキャリアのある漢、ジョーカーとしてサイプレス上野、みたいな。

──まさにヨコハマジョーカー(笑)。

KEN モンスターの人選で「これは本気なんだ」とわかったし、出る側も出やすくなった部分がかなりありますね。

Zeebra モンスターは本当にがんばってくれたよ。般若はモンスターのリーダーとして、モンスター側の苦情を吸い上げて、俺ともいろいろな話し合いをしたし。「モンスターが5人じゃキツい」という話がモンスター側から出て、それでCHICO CARLITOとDOTAMAが入ったんだ。

──あれはモンスター側からの要請だったんですね。

KEN 3ラウンド制というシステムは、すごく効果的でしたね。バトルは基本的に一度でも負けたらその日は終わり。でも3ラウンド制は、1回負けてもまだ戦えるんですよね。

──クリティカルは一発KOですが、票が割れれば次ラウンドに進み、負けを挽回することができる。

KEN ちょっと格闘ゲームっぽいですよね。1回で勝負が決まったら味気ないけど、一度負けても次戦で戦略を組み立て直すこともできるし、観る側もどうなるのか考える猶予がある、みたいな。

Zeebra 1回で勝負が決まるのは、スピーディな反面“流れていっちゃう”感じがあったんだ。それで試合が軽く思われることになるのは嫌だったから、ラウンド制を取り入れて。あと、やっぱりビートの得手不得手は確実にあるから、それも平等にしたかったね。

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「BATTLE SUMMIT」参戦と「FSLトライアウト」での誤算

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