ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.6(前編) [バックナンバー]

日本語ラップシーンの立役者が語るMCバトルの歴史:Zeebra

“日本語で韻を踏む”という行為

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現在のMCバトルの隆盛を語る上で、決して外せないファクターである「フリースタイルダンジョン」。字幕や解説などを通してMCバトルというアートフォームを一般視聴者にもわかりやすく提示した一方、現役のラッパーがしのぎを削るバトルをそのまま放送するストロングスタイルによって、シーンに大きな潮流を巻き起こした。その熱はバトルイベントの急増や、日本各地で生まれたサイファーなど、MCバトル人口、ラッパー人口の増加を促していった。

その企画を立ち上げたのがZeebra。日本語ラップシーンの立役者であると同時に、「B-BOY PARK」のMCバトルや、「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」にも携わり、現在は「FSL(FREE STYLE LEAGUE)」のチェアマンとしてシーンに関わり続けている。

Zeebraはこれまでのバトルシーンについてどう考え、これからをどのように想像しているのか。KEN THE 390が聞いた。

取材・/ 高木“JET”晋一郎 撮影 / 斎藤大嗣 ヘアメイク(KEN THE 390) / 佐藤和哉(amis)

“日本語で韻を踏む”という行為

左からZeebra、KEN THE 390。

──ZeebraさんとKENさんは、2009年開催の「B-BOY PARK」(BBP)で行われた「3 ON 3 PROFESSIONAL MC BATTLE」にともに参加され、チームとして戦われた経緯がありますね(※チーム「T.O.P. RANKAZ」がZeebra、UZI、Chino Braidz。チーム「B BOY STANCE」がKEN THE 390、MASARU、DARTHREIDER)

KEN THE 390 でも直接対戦はできなかったんですよ。

Zeebra 俺が出る前にKENがUZIに負けちゃったからね。で、俺はダースに負けたんだよ。俺の初めてのバトルに土をつけたのはダース。もうあの日はテキーラ飲みまくったね。悔しくて(笑)。そう考えるとKENとはバトルの縁が深いね。

──Zeebraさんが最初にフリースタイルを意識されたきっかけはなんだったんですか?

Zeebra たぶん、DJ Jazzy Jeff & the Fresh Princeのアルバム「He's the DJ, I'm the Rapper」に収録されてる「Live at Union Square, November 1986 (Live)」かな。Jazzy JeffのDJに乗せてFresh Princeがハイプアップ、いわゆる盛り上げ役をするんだけど、フリースタイル的な感覚があったし、できあがってるヴァースじゃないカッコよさをそこに感じたんだよね。もっと厳密にバトルを意識したのは「Wild Style」のBusy BeeとRodney Ceeのシーンになるかな。

KEN やはりUSのヒップホップを通じて知っていったんですね。

Zeebra そうやっていろんな情報をかき集める中で、「どうもフリースタイルという文化があるらしい」と理解していったかな。向こうのラジオの存在も大きかった。ゲストのラッパーがフリースタイルをするのがどの番組でも定番だったし、それができないとラッパーはダメなんだなって。

KEN そういう場合、持ちネタもありですよね。

Zeebra そうそう。自分の持ち曲をラップしたり、それ用にヴァースを作ってくるのもアリだし、完全にフリースタイル、トップオブザヘッドのやつもいて。Tony Touchのミックステープ「#50 - Power Cypha (Featuring 50 MCs)」がモロそういう構成だよね。90年代だとSupernaturalかな。ただ、フリースタイルが話題にはなってたんだけど、音源がほとんどなかったから、あんまりよくわかんないままだったけど(笑)。BETで放送されてた「106 & Park」のMCバトルで(中国系アメリカ人の)MC Jinが勝ち上がって、ラフ・ライダーズ入りしたときは、フリースタイルに夢があるなと感じたけど、あれはもう2000年代に入ってたよね。

──2002年ぐらいですね。

KEN 日本ではもうBBPが始まってましたね。

Zeebra だから、あれを見て「向こうはバトルからデビューする道をちゃんと作ってるんだ、うらやましい」と思った記憶がある。

──フリースタイルはさまざまなところに偏在していたということですね。

Zeebra そうだね。俺はラップを始めたぐらいの頃から「フリースタイルができるようになりたい」と思ってた。だけど「瞬時にラップして韻を踏むなんて、日本語では無理なのかな……」という不安も同時にあった。だから「フリースタイル信じてたら韻辞典は禁じ手」なわけ。

──キングギドラ「見まわそう」のZeebraさんの一節ですね。

Zeebra あの曲をリリースした1995年の時点では“信じてたら”という歌詞なんだよね。フリースタイルができると“信じてる”だけで、“できて”はいない。できるようになる時代がきっと来るっていう願望を込めるしかなかった。

KEN ライミング自体もまだ試行錯誤の段階ですよね。

Zeebra そうだね。英語圏では韻は日常だし、誰でもちょっとは韻が踏める。でも“日本語で韻を踏む”“韻を意識する”という行為は、日本ではほぼ日本語ラップから始まってると思うんだ。

──押韻は日本語表現ではスタンダードではありませんね。

Zeebra だから、韻を踏むこと自体にハードルがあるし“即興でフリースタイルをする、バトルをする”以前に、そもそも韻を踏んで即興ができるかできないか、それができると信じるのか、信じないかの話だったんだよね。でも「できるべきだ、それこそリアルラッパーだ」って信じて、ひたすら練習してた。特にURBARIAN GYM(UBG)とFUNKY GRAMMAR UNIT(FG)は、なんとかできるようにがんばってて。例えば、曲の前口上で、RHYMESTERだったら「S.H.I.R.O. オンザマイクロフォン! 今日の調子はどう!」みたいに韻を合わせるようなことをやってたし、フリースタイルでの韻の文字数や、踏める回数をどんどん伸ばすトライをしてる段階だった。

UZIは“カリブの海賊”と恐れられてた(笑)

KEN UBGは川の字で練習してたという話が有名ですよね。

Zeebra 俺の家にUZIとRHYMEHEADが泊まりにきて、3人で並んで寝っ転がって、延々ラップするんだよね。トラックは「フリースタイル地獄」。

KEN あ! 「フリースタイル地獄」はKREVAさんの回でも出てきましたよ。

Zeebra INOVADERがいろんな曲のインストをひたすらミックスした90分テープがあって、それでずっとフリースタイルの練習してたんだよね。そのテープの名前が「フリースタイル地獄」(笑)。

KEN KREVAさんが「フリースタイル地獄」を聴いたのはUZIさんの車の中だったとおっしゃってましたね。

Zeebra UZIは当時、トヨタのカリブに乗ってたんだけど、ラッパーを見つけると車に乗っけてフリースタイルさせるということで、“カリブの海賊”と恐れられてた(笑)。

KEN ははは! UZIさんのフリースタイル伝説としては、僕が学生のときに、慶応大でラップやってる友達がいて、学校でそいつらが3人ぐらいでラップしてたら、いきなりUZIさんが通りかかって「俺がUZI! 通すのは話の筋! がんばれよ!」とラップしてさっそうと去っていったという(笑)。

Zeebra UZIは慶応に通ってたけど、マジで留年しすぎて、KENと同じぐらいの時期まで通ってたからな(笑)。

UBGとFG、会えばとにかくフリースタイル!

Zeebra

Zeebra UBGとFGの話に戻ると、宇多丸が「今MELLOW YELLOWのKINちゃんのフリースタイルがヤバい」と話してて、「うちもT.A.K. the RHYMEHEADがすげーんだよ」なんて話をしてたんだよね。

──RHYMEHEADさんのフリースタイルがすごかったという話はよく伺うんですが、実際はどういう形だったんですか?

Zeebra 韻の組み合わせをとにかくたくさん溜め込んでて、それをつなげたり、ゆるくハメたりするスタイルだったんだよね。だから、めちゃくちゃしっかりしたライミングだったし、「うめえ!」「悔しい~!」みたいな。本当にぶっ飛ばされたし、俺とUZIは一気に差をつけられた感じだった。それで、俺とUZIはもっと完全即興を目指そうとしてたね。

KEN 切磋琢磨があったんですね。

Zeebra そうだね。UBGとFGは会えばとにかくフリースタイル。そこでゾーンに入ったりして、ラップが止まらなくなると「ああ、日本語でフリースタイルってできてるね、俺たち」とめちゃくちゃうれしかった。

──当時、参考にしていたフリースタイルはありますか?

Zeebra 1993、94年の時期は、Hieroglyphicsがフリースタイルでも注目されてて、彼らのような、日本語で言えば4文字ぐらいの韻をしっかり踏んでいくスタイルは、日本語だと熟語ぐらいの長さになるし、韻が踏みやすくなるなと参考にした。あとJeru The Damajaがやってたような、ケツで踏まないでちょっとズラして踏んだり、フロウで無理やり踏んでいくみたいな方法は、比較的初心者としても真似しやすかった。

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「B-BOY PARK」の舞台裏

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MCバトルの歴史をKEN THE 390とゲストが語る「#ジャパニーズMCバトル」
第6回は日本語ラップシーンの立役者Zeebraが登場!

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