細野ゼミ 6コマ目(中編) [バックナンバー]

細野晴臣とロック

ロックンロールとロックの境目をThe Beatles、The Rolling Stones、The Whoの音楽から考察する

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The Beatlesを聴くタイミングを失っている安部勇磨

──安部さんはどうですか? 60年代のイギリスのバンドとか。

安部 僕、The Beatlesをいまだにちゃんと聴いたことがないんですよ。その都度、おかしいよって言われて。「White Album」とか持ってるんですよ。で、聴くんですけど、なんかわかんないんですよ。

──意外すぎる。

ハマ 意外、意外!

安部 いや、よすぎてなんにも言うことないでしょっていう(笑)。もうなんかすごすぎちゃって今さら入るタイミングを見失って。

ハマ そういうものだよね。

安部 そう。なんか、どこから入っていいのかわからなくて。The Rolling Stonesとかも一応レコードは買ったんですよ。で、聴くんですけど、なんだかわからないなって(笑)。僕の生活にはなじまなくて。普段聴くような感じの音楽ではないというか(笑)。僕は90年代に生まれてしまったから、どこか歴史に触れるような気持ちというか、博物館にいるみたいな気持ちになって。もちろん、すごくいいなって思うんですよ。でも耳なじみがよすぎて。だったら友達の音楽を聴こうって感じになるんですよね。

ハマ 超ベタだけど1stアルバムから聴いたら?

細野 中期以降は完成されすぎてるよね。

ハマ 最初は、ほぼカバーだから。ロックンロール好きの人たちみたいな。

Please Please Me (Remastered)の再生はこちら

安部 なんなんですかね。ジョン・レノンのソロは聴くんですよ(笑)。でもThe Beatlesになると曲もすごいし、カッコいいのになぜか魅力的に感じないんです。ジョンのソロのほうが人間のくだけた部分とかが見える気がして。

ハマ 面白い。これはいい記事になりますね。

The Beatles聴いてないコンプレックス

安部 でもThe Beatlesをちゃんと聴いたことがないのって、自分の中ではコンプレックスなんですよ。そういう基礎のようなものを知っておかないと、あとあと自分が作るものの匂いとか変わってくるような気がして。

──never young beachを聴いてる人はたぶん、「安部さんはThe Beatlesが好きなんだろうな」って思っていますよ(笑)。

安部 あ、でも僕の周りはみんなThe Beatles好きなんですよ。バンドメンバーも。みんなリンゴがどうとか話してるし。

ハマ リンゴ(↑)じゃなくてリンゴ(↓)ね(笑)。リンゴの発音が椎名林檎さんみたいになってる(笑)。

安部 ははは(笑)。僕はたぶん完成度が高いものよりも、パッと作ったようなものに興味がそそられるタイプなんでしょうね。そういえば、この前、「ダブルファンタジー展」行きましたよ。

ハマ まあジョンだしね。

──今のところはジョン派というか。

安部 ジョン派ですね、僕は(笑)。それこそ細野さんの記事を読んだりとかして、昔の音楽をもっと知りたいと思って、いろいろ聴いてみてるんですけど、でもThe Beatlesは、まだよくわからないです。

細野 いや同じだよ、僕も。The Beatlesの「White Album」が好きかって聞かれたら、そうでもないかもしれない(笑)。一番好きなのは「Rubber Soul」。

ハマ 「Rubber Soul」なんですね!

安部 じゃあ「Rubber Soul」を聴いてみよう。

Rubber Soul (Remastered)の再生はこちら

細野 中学生の頃は、「抱きしめたい(I Want To Hold Your Hand)」とか、ああいう曲が大ヒットしてて好きだったけど、レコードまでは買わなかったからね。The Beach Boysばっかり聴いてた。The Beatlesは彼らを脅かす存在だと思ってた(笑)。

ハマ 邪魔だな、みたいな(笑)。

細野 だからThe Beatlesはずっと横目で見てたんだけど、「Rubber Soul」あたりから「あれ……? すげえ」って思って(笑)。そこから入り込んじゃった。

「やっぱりThe Beatles最高!」で終わっちゃう

ハマ ベタですけど、細野さんはジョン派ですか? ポール派ですか?

細野 いやー、どうかなあ。やっぱりソングライターっていう意味ではポール・マッカートニーが天才だと思う。でも2人の作品はソングライティングの域を超えてるから。音作りから何から。

ハマ レノン=マッカートニー名義だ。

細野 まあでも、そういう話してるとジョージ・ハリスンが好きって人もいるしね。

──少ないけれど、何気にリンゴの曲もいいですしね。

ハマ 結局こうなるんですよね。で、「やっぱりThe Beatles最高!」で終わる(笑)。でもThe Beatlesに限らず、音楽を好きになるのって、きっかけでしかないもんね。だから焦って聴かなくていいと思う。

安部 そっか。

ハマ いや、勇磨がThe Beatlesを通ってないのが意外だなってだけで。めちゃくちゃ盛り上がったけど(笑)。

安部 でも、なんか恥ずかしいんだよね、こういうとき。すごく無知だなって。恥部丸出しみたいな感じで(笑)。

──The Beatlesはロックンロール文脈もあるしポップミュージック文脈もあるから。

ハマ そうですね。あとは録音技術の発達文脈もありますからね。一番面白がれるところだと思うけど。

安部 なんか、そういう映像だけ切り取って観るのはすごい好きなの。ジョンがこういうふうに録音してたとかはすごい楽しいんですよ。でも音になった瞬間に完成度が高すぎて、なんかわかんないやって。

ハマ なんも言えないっていう。

安部 そうそう。だったらなんか、ハマくんとかが家でベースをポンポンッて弾いてるやつを聴いてたいなって(笑)。

ハマ 比べるものとして、どうなのそれは(笑)。

安部 そういうなんかポンポンみたいなテンション感のほうが、ふっと入れるというか(笑)。The Beatlesみたいな完成度の高い音楽に、どう入っていいのかっていうのは、ずっと悩んでる。

細野晴臣とポールの共通点

安部 ポールのジャムっぽいアルバムあるじゃないですか、一発で録った「Kisses on the Bottom」。あれは好きで、音とかめっちゃカッコいいなって思うんです。なんなんですかね。

細野 同じだよ、趣味。

安部 本当ですか? うれしいです。

──細野さんも一発録りされますし。

安部 そうなんですよ。勝手に細野さんの作品と共通する空気みたいなものを感じたり。

ハマ ルーツが出てるからじゃない? さっき勇磨が言った、人間が見える感じっていうか。

安部 あ、そうかも。ポールのソロは、The Beatlesに比べて、人間がもうちょっと見えてくる。完璧すぎると、やっぱ見えなくなってくる部分があるのかな。

細野 ポールでいえば、僕は「Ram」が好き。

ハマ 最高ですよね。

細野 パーソナルな雰囲気が好き。

安部 そっか! パーソナルっていうのが大事なのかもしれないです。

Ram (Archive Collection)の再生はこちら

ハマ 「Ram」聴いてほしいな。

安部 それ知らないので。最近、ポールのことが気になり始めたから。

ハマ その発言、すごくいいと思う。最近ポールが気になり始めたって(笑)。すっげえいいよ。同じような人も読者の中にもいっぱいいるはずだからね。勇気を与えてくれると思うよ。

安部 でも玄人の人が怖いです(笑)。

ハマ それがよくない。よくないというか歴史があるからしょうがないけど、本人より細かい次元で作品を理解したり解釈したりする人たちっていうのは、どのジャンルにもいるからね。でもそういう人たちの存在によって、ちょっと入りづらいみたいなことってあるよね。俺にとっての「エヴァンゲリオン」みたいな(笑)。もうなんか怖いです……ってなっちゃうから。

安部 そうそう!

ハマ でも、勇磨みたいな人が、「全然知らないので、今からThe Beatlesやポールを聴いてみます」って発言することによって、ぐっと敷居が下がると思うんだよね。とてもいい発言だと思う。

安部 でもホント怖いです、こういう発言するのは(笑)。

ハマ 気持ちは、めっちゃわかる(笑)。

<後編に続く>

細野晴臣

1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2021年7月に、高橋幸宏とのエレクトロニカユニット・SKETCH SHOWのアルバム「audio sponge」「tronika」「LOOPHOLE」の12inchアナログをリリースする。

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安部勇磨

1990年東京生まれ。2014年に結成されたnever young beachのボーカル&ギター。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演。2016年に2ndアルバム「fam fam」をリリースし、各地のフェスやライブイベントに参加した。2017年にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表。日本のみならず、上海、北京、成都、深セン、杭州、台北、ソウル、バンコクなどアジア圏内でライブ活動も行い、海外での活動の場を広げている。2021年にソロ活動を開始し、6月30日に自身初となるソロアルバム「Fantasia」を自主レーベル・Thaian Recordsよりリリースする。

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ハマ・オカモト

1991年東京生まれ。ロックバンドOKAMOTO'Sのベーシスト。中学生の頃にバンド活動を開始し、同級生とともにOKAMOTO’Sを結成。2010年5月に1stアルバム「10'S」を発表する。デビュー当時より国内外で精力的にライブ活動を展開しており、最新作は2021年5月に配信リリースした「Band Music」。またベーシストとしてさまざまなミュージシャンのサポートをすることも多く、2020年5月にはムック本「BASS MAGAZINE SPECIAL FEATURE SERIES『2009-2019“ハマ・オカモト”とはなんだったのか?』」を上梓した。

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