映像で音楽を奏でる人々 第16回 [バックナンバー]

90年代から“カッティングエッジ”を追求する丹修一

hide、ミスチル、サザン……名だたるアーティストのMVを手がける映像作家

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海外ロケの思い出

My Little Lover「STARDUST」(1998年)の撮影で上海に初めて行ったときのことは印象に残ってます。外灘(バンド)エリアの向かいが浦東(プートン)エリアで、今は大きなホテルとかが乱立してますが、当時はテレビ塔くらいしかなかったんですよ。テレビ塔の下で撮影することにして大きなクレーンを持ち込んで、夜のシーンだから照明も焚いて。準備してたら現地のロケコーディネーターの方が急に「お願いです! みんな伏せてください!」と突然言うんです。「照明もすぐ消して!」って。何が始まったんだろうと思ったら「政府の高官が通ります!」と。許可取ってるはずなんですけど、「許可とかそんな問題じゃないんです!」って(笑)。で、その車が通り過ぎるまでじっとしていたことがありました。今じゃなかなかできないかもしれませんね。

あと海外だとTK(凛として時雨)くんに同行して、「Secret Sensation」と「like there is tomorrow」(2016年)のMVをドイツのベルリンで撮影しました。「like there is tomorrow」の演奏シーンはデヴィッド・ボウイとかU2とかがレコーディングで使ったハンザスタジオで撮ったものです。

アーティストと対峙することで生まれる映像

MVを作るときに、僕はルーティンワークとして必ずやることがあります。それは「可能であれば何かを構想し始める前にアーティストと会う」ということ。会うことで曲に対するキーワード、思いを本人から得て、自分なりにどういうムードにしていくか考え始めることが多いです。

エレファントカシマシの「RESTART」(2017年)は宮本浩次さんの髪を切ったり、上裸になってもらったりしてるんですけど、「髪の毛を切りたい」と言ったのは宮本さんですからね(笑)。会って話している中で出てきたアイデアで。宮本さんはあの頃からソロ活動への沸々とした思いがすでにあって、“2人の宮本さん”がいたと思います。当然彼はエレカシを愛しているから、バンドがベースにあるのはもちろんだけど、別レイヤーの“シンガー宮本浩次”を模索したかったんだろうなと話していて感じました。だからこそ振り切った何かをやりたいんだなって。そしてこのMVに関していうと、宮本さん自身を出すというよりは役を演じてもらった感が大きいですね。ロックスターを夢見るサラリーマンがいて、夢中の自分はMotley Crueや、The Rolling Stonesで……。化粧はもちろん、サングラスをかけてギラギラで……みたいな。そんな話で盛り上がって、あのリップシンク・演奏シーンになっています。

僕は広告の仕事もしていますが、MVと比べると広告ってすごく刹那的で、被写体の方とは仕事の期間しか会わないんです。タレントさんなら打ち合わせを入れてものべ5日間くらい一緒にいて終わっちゃう。さみしいんです(笑)。だから人にググッと入り込んだ作品を撮ろうといつも心がけています。ドキュメンタリーと言うと平たいんですけど、人に深く入って何かを表現できたらなって。先日はSUPER BEAVERを撮らせていただきました。人に入る……っていう感覚でいうと、とてもいい撮影だったと感じています。彼らの曲に対する思い入れや、アーティストとしての瞬発力、とても素晴らしかったです。

合言葉は「歌が聞こえてくるような画にしましょう」

映像を作るとき、詩的でありたいなと思っています。激しい画でも静かな画でも。詩って“うた”とも読みますよね。だから僕のチームでは「歌が聞こえてくるような画にしましょう」と合言葉のように話してます。撮影手法はいろいろありますけど、スモークは好きですね。back numberの「大不正解」(2018年)でも使ってるんですけど、スモークは同じ形に2度とならないから。

まどろんだ感じも好きで、フォーカスはパンフォーカスではなくてシャローフォーカスが大好きです。想像できる余白が欲しくて。まあいろんな手法があるので、この歳になると引き出しは多いと思います(笑)。だからどんな話が来ても撮れちゃうんですけど、逆にそれがヤバいとも思います。「こんな感じのものはこうやればいい」ってなるのもよくないので、自分を疑ってかかるようにしてますね。INORANの「I'm Here for you」(2018年)は画用紙6000枚を使ったコマ撮りアニメーション作品なんですけど、みんな手伝ってくれると思ったんですけど誰も手伝ってくれなくて死ぬかと思いました。プロデューサーと2人っきりで6000枚(笑)。1枚でも間違えるとフレーム数が変わるので、慎重にレイアウトして撮って、捨てて、撮ってを2日間繰り返しました。

胎内回帰願望から生まれた“無重力感”

こうして振り返ってみると、ありがたいことにいろんなアーティストのMVを手がけていますね。hitomiちゃんは「LOVE2000」(2000年)もやりましたけど、「there is...」(1999年)の水中撮影では、あの頃誰もやっていないことをやれたと思います。

水中撮影はサザンオールスターズの「東京VICTORY」(2015年)でも使ってます。オリンピックを応援したいと桑田(佳祐)さんがおっしゃっていたから、水泳選手の画を使うことにして。水中で天地逆に撮影した手法は、「there is...」でもやってるんですよね。hitomiちゃんのほうは鉄球を水に投げ込んで空気の泡を撮影して天地逆にすることで浮遊感が出せて。サザンのほうだと水泳飛び込みをした人がまるで上に登っていくように見える。水中撮影はレミオロメンの「蒼の世界」(2005年)でもやってます。無重力感が好きなんですよね。僕は以前、胎内回帰したいと思うことがあったので、それが影響しています。ちなみにレミオロメンは「粉雪」(2005年)のMVも撮影しています。こちらはシンプルな壁1枚でどこまでストーリーを紡げるかを追究しました。

クリエイター志望者に向けて

「僕は明日からディレクターです」と言えばみんなディレクターになれるのが僕らの業界です。カメラマンも同じだし、ライターもそうですよね。いろんなメディアがあって、そこここにフィールドが広がっているので。ただ、そのフィールドで少しでも抜きん出てクリエイトしたい!と感じるのあれば何かを観たり聴いたりするとき、まず好き嫌いのアンテナを瞬時に働かせて、その次になぜこれが好きなのか、なぜ嫌いなのかの理由を自分なりに納得するまで考える。それを続けると、自分で作るものの方向性が見えてくると思います。映像だけでなくクリエイターなら当てはまる話ですよね。好き嫌いと、その理由を持つことがオリジナリティにつながる。あと、自身が中心になって物事を捕らえていると自覚する。例えば色だと、今僕が目の前で見てるこの景色は、ほかの誰とも同じ色で見てないんですよ。脳みそも違えば網膜も違うので。だから僕のこの赤は、僕だけの赤。あなたの赤はあなたの赤でっていう(笑)。他との差異と、自分の中にしかないモノを意識すること。それが、クリエイターに大切なオリジナリティになっていくと思います。そして、オリジナリティを持つ人が抜きん出るのだと。

僕はもう90年代からMV監督をしてますけど、今のMVは記号化してると思います。でも記号を作ったのは僕らの世代かもしれませんね。MVはこうあるべきみたいなフォーマットがある程度存在しているから、逆にかわいそうだなと思うこともあります。僕は全部が全部初めてで、「本当にこれでいいのかな」と思いながらも突き進んできたから毎回が賭けでした。「これで失敗したらもう仕事が来なくなる」というときも「絶対にこれでいけるはずだ」と賭けに出て……というのを積み重ねて今に至りますけど、今やすごい数の作品が簡単に観ることができるから、自然とそういう情報が頭に入ってきちゃう。今から始めるとしたら、ある程度フォーマットから選ぶという作業になりがちかもしれませんね。

そういう環境でのオリジナリティってなんなんでしょうね? 僕は自分の手法がパクられても怒ることはありませんよ、若い頃は「真似しやがって!」とか頭に来てましたけどね(笑)。誰かが同じ手法を使ったとしても、そのクリエイターの血肉になっていればよいのかと思います。それはすでに真似ではなく見えるはずなので。

丹修一

敵は自分の中にいる

なんでも好き嫌いを付けると、不思議なことに好きなものは自分にプールされていくんですよね。街を歩いていても、絵画を観に行っても。クリエイターは毎瞬脳トレをしてるようなものじゃないかなと思います。広告案件とかだと、なんでこれがいいと思うか説明しなきゃいけないから、やっておいて損はないですよ(笑)。あと僕は、昔好きになったものを嫌いになることがあまりないので、好きなものはどんどん増えていくんです。逆に苦手なことが減ってるのかも……これが歳を取るということかな。歳を重ねると人は丸くなるって言いますもんね。

でも何歳になっても、カッティングエッジなものを作りたいですね。引き出しが多くなるとさっきも話した通り、ルーティンになる。「こういうものにはこの引き出しを使おう」と選択にはもう悩まないんですが、それを今一度疑わないとダメですね。「お前本当にこれでいいの?」と自分を疑う。あえて生み出すのが苦しくてつらい環境に自分を置く。そうしないと僕は次に行けない気がします。だから常に敵は自分の中にいますよ、絶対(笑)。

丹修一が影響を受けた映像作品

マドンナ「ベッドタイム・ストーリー」(マーク・ロマネク監督 / 1995年)

「僕にはこんな作品作れない……」とノックアウトされるほどに衝撃を受けました。当時HENRYという何億もするハイエンドのノンリニア編集機に取り込んで、1フレームずつ観ました。ひたすら感動しながら。すごさの秘密を少しでも分析できればと思ったんですけど、結局なんにもわからなかった(笑)。

映画「シクロ」(トラン・アン・ユン監督 / 1996年)

シクロと呼ばれる自転車タクシーを生業にしてる少年が主人公の話なんですが、ストーリーにも魅了されたし、そのストーリーをこんな画で表現するのかと。また、色はすべてに意味を持っているんだと強く思わされた作品で、劇中の死のシーンは完璧な美しさで涙します。主人公のポートレートのショットが随所に入るんですけど、衝撃的に美しいです。舞台のベトナムにはこの映画の影響からか、縁があって行く機会が多いです。

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読者の反応

タカオミ @takamin_

俺が一番好きなMV監督。カッコいい

90年代から“カッティングエッジ”を追求する丹修一 | 映像で音楽を奏でる人々 第16回 https://t.co/J86tTFIBLC

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