何もかも変わってしまった……「明日になれば」アフガニスタンの女性監督が語る現状

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5月6日に封切られる「明日になれば~アフガニスタン、女たちの決断~」より、監督を務めたサハラ・カリミのインタビューが到着した。

サハラ・カリミ

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「明日になれば~アフガニスタン、女たちの決断~」ポスタービジュアル

本作は3人のアフガニスタン女性が直面する人生の試練を描いたオムニバスドラマ。義父母の面倒を見ながら家事に追われる孤独な妊婦、夫との離婚を決意するも妊娠が発覚した高学歴のニュースキャスター、恋人が姿を消し、いとこのプロポーズを受け入れる妊娠中の18歳の少女という生活環境や社会的背景が異なる3人の女性たちの姿がつづられる。

アフガニスタンに生まれ、中学卒業後、教育の機会を求めてイランへと渡った経歴を持つカリミ。その後スロバキアへと移住し、大学、大学院で映画を学び、博士課程修了後の2012年にアフガニスタンに帰国した。これまで映画ではテロと結びつけられることが多かったというアフガニスタン。「普通のアフガニスタンを見せたかった」というカリミは、ステレオタイプに陥りがちな母国の描写を避けるべく、国内の各地を旅し、直接女性たちから見聞きしたことからインスピレーションを受けたという。

「明日になれば~アフガニスタン、女たちの決断~」

「明日になれば~アフガニスタン、女たちの決断~」

「カブールは普通の都市であること、普通の人々の普通の生活があることを表現したかった。アフガニスタンの女性は、英雄か、被害者・犠牲者と二極化して描かれることが多いです。普通の女性はその間のどこか、グレーゾーンに位置しています。そういう普通の女性を描きたかった」と語る。そして異なるバックグラウンドを持つ主婦、自立した女性、ティーンエイジャーの状況を見せることを決めた。その理由について、カリミは「置かれている状況が違っても、3人とも同じ問題を抱いているからです。結局同じところに至るんですね。つまり、家父長制の社会や反女性的な社会に生まれれば、バックグランドは関係ないんです。同じ問題に直面すれば(誰でも/社会的背景にかかわらず)同じような決断に至る」と明かす。

「明日になれば~アフガニスタン、女たちの決断~」

2019年にアフガニスタンでは数少ないインディペンデント映画として制作された本作。同国でタブーとされる女性たちのある決断を描きながら、国内でも上映された。カリミは「アフガニスタンで見せるのは簡単なことではありませんでした。でも、私はこれらのタブーを破って、この映画を撮って、アフガニスタンで上映しました。映画が社会の考え方を変化させ、社会の中で対話を生み出す力があると信じているからです。困難ではありましたが、不可能ではありませんでした」と述懐する。

「明日になれば~アフガニスタン、女たちの決断~」

しかし、2021年8月、イスラム原理主義組織タリバンによってアフガニスタンが制圧され、女性権利の向上に取り組む“女性問題省”が廃止。3月には女子中等教育が再開されると発表があったものの、当日に延期されてしまった。カリミは現状を「この映画に出た人はみんな、アフガニスタンを去りました。タリバンの再支配によって、状況は永久に変わってしまったんです。女性たちの状況は、再び石器時代に押し戻されてしまいました。学校に行けないし、映画にも出られないし、仕事もできません。女性をめぐる状況は悪化の一途をたどっています。私は、本作のような映画を、アフガニスタンでは、タリバンが存在する限りもう撮ることができません。本当に何もかも変わってしまったんです。この20年間で前進し達成されてきたたくさんのものが失われたんです」と語っている。

また日本の観客に向けて「日本でも女性に関連する問題がたくさんあると思います。ただ、その困難さや、方向性が違うだけです。でもきっと日本の上の世代の女性は(主婦の)ハヴァにとても同感できると思います。特に地方に住んでいる女性たちは、ハヴァと同じような生活を送ってきたかもしれません。そして都会の女性や自立した女性、パワフルな女性は、どこであってもなんらかの困難や問題に直面しがちだと思います。映画館にお越しいただいて私の映画をご覧いただき、アフガニスタン、アフガニスタンの女性とアフガニスタンのリアルなストーリーを支持していただけたらうれしいです」と呼びかけた。

「明日になれば~アフガニスタン、女たちの決断~」は東京・アップリンク吉祥寺ほか全国で順次ロードショー。なおタリバンによる制圧後、カリミがウクライナに難民として受け入れられ、キーウ(キエフ)に避難した関係から、上映の収益の一部は人道支援、復興支援のためにウクライナ大使館に寄付される。

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(c)2019 Noori Pictures

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ルートヴィヒ白鳥王 @lohengrin_lud

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