映画と働く 第16回 [バックナンバー]

映画館Stranger代表:岡村忠征 / 45歳を過ぎたときに表現者になりたいと思った

デザイン会社設立を経て、“映画へのリベンジ”としてStrangerを開業

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今あるパイをどう分けるかではなく、広げたい

──具体的にはどうブランディングしていく予定ですか?

コロナの影響もありますが、映画の市場はシュリンク(縮小)しています。そして「映画館と配給会社で協力して新しい顧客を獲得しよう」という感じではなく、今あるパイをどう分けるかという交渉になっている。Strangerではそのパイを広げたいと思っています。古着屋やコーヒーショップの中には、スタッフとお客さんが同じものを愛する仲間としてコミュニケーションを取っているような空間がありますが、映画館はお客さんとの距離が遠い気がしていて。そこを改善すれば違った劇場体験を提供できるのではないかなと。こちらが用意したものをお客さんが見て楽しむミュージアム型ではなく、作品を通してお客さんが作家やスタッフと交流できるギャラリー型のイメージです。映画を愛するお客さん、作家、スタッフの全員にとって居心地がいい空間になればと考えています。

Stranger内観

──なるほど。

あと映画館の地位向上も目指しています。映画監督や俳優、配給会社に比べて、映画館ってあまりリスペクトされていない気がしていて。一般論として、どちらかというと感謝よりもクレームの対象になっていないだろうかと。配給会社にお金を払って調達した作品をかけてるだけと思われがちなんですが、それを実現するためにはやらなければいけないことが膨大にある。例えば上映作品は事前に必ず実機で全編スクリーン試写をしなくてはいけないのですが、都内の映画館って基本的に休館日はないです。じゃあ何十本という映画の映写チェックをいつ行っているかというと、徹夜でやっていたりするんですよ。配給会社の担当者に連絡を取って、歩率かフラットかを決めて、告知タイミングを調整して、チラシデータのやり取りをして、本編のチェックをしたうえで音量なども調整する。お客さんに映画を届けるためには、当たり前にやらなければいけないことではあるんですが、その大変さがあまり伝わっていない気がするんですよね。

──自分たちの仕事をもっとアウトプットしていく必要があると。

はい。規模が小さいので、ユーロスペースやシアター・イメージフォーラムのように封切り館になるのは厳しいと思うんです。どういう新作を上映するかで映画館の色を出すのが難しいのであれば、スタッフが仕事を丁寧にやっていることを知ってもらうとか、そういう部分でStrangerの魅力を伝えていかないといけないと思っています。

──今後はどういった試みを実施していく予定ですか?

飲食店やアパレルはコラボレーションやポップアップショップが当たり前になっていますが、映画館ってあまりほかとコラボしない印象なので、Strangerという場所を使って外のブランドと一緒に何かをやっていきたいです。これまでにも東陽町にあるダウンタウンレコードとコラボしてサントラ限定のレコードショップを期間限定で開いたり、外部と接続することで映画との接点を作ってきました。映画館がある菊川のお店や、東東京のブランドとも積極的にコラボしていきたいです。

まずは自主上映会から始めるのがお勧め

──読者の中には将来映画館を作りたいと考えている人がいるかもしれません。どんなアドバイスを送りますか?

……やめておいたほうがいいですよね(笑)。それは冗談として、常設の映画館を作るって法律的にも経済的にも非常にハードルが高いので、まずは自主上映会みたいなことから始めるのがいいと思います。Gucchi's Free School(グッチーズ・フリースクール)さんは、自分たちで作品を調達していろんな劇場で上映してますよね。

──個人で海外の権利元から作品を調達している人もわりといますよね。

英語のやり取りは必要ですが、今は自動翻訳があるし、ダイレクトに連絡を取って上映権を買うことはできます。渋谷のユーロライブとかは場所を貸してると思うので、そこで1日だけの上映会をやってみたり、そういうことからスタートして映画を届けることの楽しさを体感していくのがいいと思います。

岡村忠征(オカムラタダマサ)

1976年生まれ。映画美学校修了後、映画・ドラマの制作業務に従事する。その後はグラフィックデザイナーに転身し、2011年にアートアンドサイエンスを設立。現在は映画館Strangerの代表を務める。

Stranger - 墨田区菊川の映画館ストレンジャー
okamura tadamasa (@okamuratadamasa) | Twitter

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磯田勉 @isopie_

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