「ふじのくに→せかい演劇祭2022」テーマは“生きるための劇場”、「星座へ」の上演も決定

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「ふじのくに→せかい演劇祭2022」のプレス発表会が本日3月9日に行われた。

「ふじのくに→せかい演劇祭2022」プレス発表会より。左から沢則行、宮城聰。(撮影:平尾正志)

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「ふじのくに→せかい演劇祭」は、SPACが主催する舞台芸術の祭典。SPAC活動25周年となる今年は、既報の通り、「カリギュラ」、SPAC「ふたりの女 平成版 ふたりの面妖があなたに絡む」、「私のコロンビーヌ」、SPAC「ギルガメシュ叙事詩」のほか、本日新たにブレット・ベイリーがコンセプトを手がける「星座へ」が上演されることが発表された。

「ふじのくに→せかい演劇祭2022」プレス発表会より、宮城聰。(撮影:平尾正志)

SPAC芸術総監督の宮城聰は今年のテーマを「生きるための劇場」としたことについて、「2・3年前くらいまでは、生きるために芸術は必要だ、つまり“生きることにプラスアルファとして芸術が必要だ”という言い方をしてきました。でも、2年前から“生きるだけで我慢しよう”という空気が蔓延するようになり、そこでわかったことは劇場や芸術というものがないと、ただ生きることさえできない人たちが一定数いるということです。さらに考えると、今の日本社会では大半の人が、『誰も自分と向き合ってくれない』という孤立や孤独を抱えているのではないかと思います。しかし劇場は、舞台上にいる人たちが客席の人たちにまったく分け隔てなく、全身全霊で何かを伝えようとする場所です。劇場や芸術によって、何とか世界とのつながりを回復していただけるのではないかと、そんなことを思っております」と話した。

「ふじのくに→せかい演劇祭2022」プレス発表会より。ウォーリー木下の動画メッセージを見る宮城聰(左)と草野冴月。(撮影:平尾正志)

続けて各作品が紹介された。ブルガリアの演出家ディアナ・ドブレヴァが手がけるイヴァン・ヴァゾフ国立劇場「カリギュラ」は日本初演作。宮城は本作の招聘には、駐ブルガリア日本大使からの“ブルガリアの方は日本に非常に興味を持っている。ブルガリアと日本の演劇の文化交流ができないかと思っている”というレターがきっかけになったと話す。また、イヴァン・ヴァゾフ国立劇場の魅力を「演劇らしい演劇を守り続けている劇場」と評し、「同劇場の主任演出家ディアナ・ドブレヴァさんの、若いエネルギーも含めてブルガリアの演劇の厚みというものを感じていただきたい」と語った。

オマール・ポラスの「私のコロンビーヌ」は2020年に招聘予定だった作品。宮城は1999年のシアター・オリンピックスで観たポラスの「血の婚礼」に衝撃を受けたことや、ポラスとの対話を振り返りながら、本作が彼の自叙伝的な一人芝居であると説明した。

「ふじのくに→せかい演劇祭2022」プレス発表会より。左から桑原博之、沢則行。(撮影:平尾正志)

SPAC「ふたりの女 平成版 ふたりの面妖があなたに絡む」は2009年の初演以来上演を重ねている人気作。宮城は作家・唐十郎の特徴を「唐さんは自分が体験して知っていることを読み手や観客に教えよう、という姿勢ではなく、ご自身も観客や読み手と同時にその事件を体験しているんです。書いている唐さん自身もどこにいくかわからないし、作者と観客が作品を通してまったく同じ経験をしているんですね」と述べ、「そんな書き手は唐さん以外、ヴィクトル・ユゴーしか思いつかないです(笑)」とその魅力を語った。

「星座へ」より。

本日新たに情報公開されたのは、南アフリカのアーティスト、ブレット・ベイリーがコンセプトを手がける「星座へ」。本作は日本平の森で繰り広げられる回遊型演劇で、観客は森の中に点在する灯りを巡り、灯りを司る“ガーディアン”たちのパフォーマンスを楽しむ。なお今回の上演ではSPAC文芸部の大岡淳が日本版キュレーションを手がける。宮城はベイリーについて「南アフリカの演出家と言うと社会問題への発言が注目されがちですが、ベイリーさんはそんな社会と関係した作品作りの中でも極めて純粋な美を求めている。その点に共感します」と紹介した。

また「ふじのくに→せかい演劇祭2022」と同時期に開催される「ストレンジシード静岡2022」について、フェスティバルディレクターのウォーリー木下が動画でメッセージを寄せた。ウォーリーは「ストレンジシードはストリートシアターのフェスティバルです。普段暮らしている風景の中の、日常に使っている場所がステージになります。生で出会い、個人的で深い体験を提供したいと思います。ぜひ静岡の街でゴールデンウィークにお待ちしております」と呼びかける。さらに各演目の見どころについて草野冴月が紹介した。

「ふじのくに→せかい演劇祭2022」プレス発表会より。左から桑原博之、沢則行、宮城聰、草野冴月。(撮影:平尾正志)

最後に「ギルガメシュ叙事詩」について紹介。本作はフランス国立ケ・ブランリー美術館の委嘱作品で、3月末にフランスで初演されるSPACの新作となる。また本作には人形劇師の沢則行が人形デザインと操演で携わっている。沢は初めてのSPACとの創作について「“人間と自然がどう生きていくか”という宮城さんのコンセプトが非常にクリアで働きやすかったです」と述べ、巨大な操り人形・フンババのデザイン画を披露。「デザイン画は12、13回描き直しました。いわゆる神話や伝説に出てくるような怪物ではなく、粘菌やウイルスの写真を見て描いたんです。宮城さんにはとにかく大きいのが良いと言われたのでかなり大きなものを作ったのですが稽古場に入らず(笑)、野外劇場で稽古しています」と語った。

宮城は「僕は人形が出てくるものが好きなんです。昔から“人間は1人ひとりが唯一の存在だ”というような近代的な人間観に対してどこか息苦しさを感じており、“人間は違いを超えてみんな同じだ”ということとか、人間の限界を超えたいという思いが、人形だとわかりやすく表現できるのではないかと思って。そんな人間を超えたものを描くには、生身の俳優では表現できないところがあり、今回は沢さんの力をお借りすることにしました」と話した。

質疑応答の時間では、沢にコロナ禍での活動にどんな実感を持っているかという質問が寄せられた。沢は「この2年半くらい、変更は多かったですね。ただ幸いにも仕事の全体量はむしろ増えているんです」と答える。さらに「今宮城さんのお話を伺いながら、『演劇は何かがあったからやめてしまうという商売ではないな。それでも演劇はやるのだ』と感じました。ですので、5月の駿府城公園での上演が楽しみです。ただ……」と宮城に目をやり「(宮城さんが)“世界第2位の雨男”だと聞いたので、防水処理がされている人形で臨みたいと思います!」と話し、会場を笑いで包んだ。

「ふじのくに→せかい演劇祭2022」のチケットの一般前売は3月27日にスタート。

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「ふじのくに→せかい演劇祭2022」

「カリギュラ」

2022年4月29日(金・祝)・30日(土)
静岡県 静岡芸術劇場

作:アルベール・カミュ
演出:ディアナ・ドブレヴァ

SPAC「ふたりの女 平成版 ふたりの面妖があなたに絡む」

2022年4月29日(金・祝)・30日(土)
静岡県 舞台芸術公園 野外劇場「有度」

作:唐十郎
演出:宮城聰
出演:SPAC

ふじのくに野外芸術フェスタ2022静岡 SPAC「ギルガメシュ叙事詩」

2022年5月2日(月)~5日(木・祝)
静岡県 駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場

台本・演出:宮城聰
翻訳:月本昭男(ぷねうま舎「ラピス・ラズリ版 ギルガメシュ王の物語」)
音楽:棚川寛子
人形デザイン:沢則行
出演:阿部一徳、大高浩一、石井萠水、大内米治、片岡佐知子、榊原有美、桜内結う、佐藤ゆず、鈴木陽代、関根淳子、大道無門優也、舘野百代、本多麻紀、森山冬子、山本実幸、吉植荘一郎、吉見亮、渡辺敬彦 / 沢則行(操演)、桑原博之(操演)

「私のコロンビーヌ」

2022年5月3日(火・祝)・4日(水・祝)
静岡県 静岡芸術劇場

作:ファブリス・メルキオ
演出・舞台美術・衣裳・出演:オマール・ポラス

「星座へ」

2022年5月6日(金)~8日(日)
静岡県 日本平の森

コンセプト:ブレット・ベイリー
日本版キュレーション:大岡淳

「ストレンジシード静岡2022」

2022年5月3日(火・祝)~5日(木・祝)
静岡県 駿府城公園、静岡市役所、葵区役所 ほか

フェスティバルディレクター:ウォーリー木下
出演:少年王者舘、contact Gonzo、範宙遊泳、ままごと ソロ・ワークス、渡邉尚、壱劇屋×サファリ・P×SPACストレンジチーム ホナガヨウコ、モモンガ・コンプレックス、sunday、コトリ会議 和太鼓+ダンスユニット<まだこばやし>、齊藤コン、山田裕幸 × 劇団渡辺、劇団かいぞく船、羊のクロニクルズ ほか

※「ふじのくに→せかい演劇祭」の「→」は相互矢印が正式表記。

読者の反応

ウォーリー木下 @worry_kino

動画メッセージで参加させてもらいました。GWは静岡へ!!どれも面白そう。 https://t.co/yQR4gOpy19

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