ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.5(前編) [バックナンバー]

“高校生RAP選手権”という衝撃:T-Pablow

嫌な言い方をすれば「ヒップホップに人生を狂わされた」

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「『高ラ』と『ダンジョン』がなかったら、今の日本のヒップホップはないというのはみんな言うことだし、僕もそう思います」。「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」の第1回と第4回大会の優勝者であり、「フリースタイルダンジョン」に初代モンスターとして登場、現在のMCバトルブーム、そしてヒップホップシーンの隆盛に大きな役割を果たしたT-Pablowはそう話す。そして、その言葉が決して大言壮語ではないことは、彼が所属したBAD HOPが東京ドームで単独公演を果たしたことが証明しているだろうし、彼がスターになったことで、新しい風が起き、シーンが次の段階に登ったことは間違いない。

「ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE」第5回は、この企画のホストであり、「ダンジョン」では審査員を務めたKEN THE 390を聞き手に、T-Pablowのバトル史を通して、バトルシーンを紐解いていく。

取材・/ 高木“JET”晋一郎 撮影 / 斎藤大嗣 ヘアメイク(KEN THE 390) / 佐藤和哉(amis)

中学3年、アメリカでヒップホップの面白さを知った

左からT-Pablow、KEN THE 390。

KEN THE 390 パブロがMCバトルの話をするのは珍しいよね。

T-Pablow お話をいただいたときに「KEN THEさんの企画だったらぜひ!」と。

KEN それはうれしいな。まずパブロがMCバトルを知ったきっかけから知りたいんだけど。

T-Pablow 明確なことは覚えてないんですけど、多分「8 Mile」が最初だった気がします。

KEN 映画が入り口だったんだ。

T-Pablow 中学3年のときにアメリカに行って、そこでヒップホップの面白さを知ったんですよね。それでアメリカから帰ってきてすぐに、幼馴染だったBAD HOPの仲間とかに「俺はもうヤンキーみたいな格好はやめるから、お前らもB-BOYファッションにしろ」って(笑)。

KEN そんなにハマったんだ。

T-Pablow そしたら地元の先輩に「そんな服を着てんだ。じゃあ『8 MILE』は観た?」「まだ観てないっす」「ダメだよ! あれは観なきゃ!」と。それで先輩の家で観せてもらって「エミネム、ヤバいな!」みたいな。バトルの表現もわかりやすいじゃないですか。

KEN ちゃんとカッコいいしね。

T-Pablow それでMCバトルのことをネットで調べたら、日本にもあることを知って。

KEN 調べて出てきたのは「B-BOY PARK」(BBP)のMCバトルとか?

T-Pablow そうですね。特にZORN(当時はZONE THE DARKNESS)くんのバトルを観て、こんなことが日本人でもできるんだ、カッコいいなと驚きました。それが14、5歳ぐらいですね。

──自分でラップやフリースタイルを始めたのもその時期ですか?

T-Pablow それを観てすぐですね。ビートもなんもなくて、アカペラで始めたんですけど、実際にやったら「めちゃくちゃ難しいことをやってるんだな」と。どうしても言葉に詰まっちゃうから、「これは頭の作り自体が違うのかな……」って普通に悩みましたね。

KEN いきなりZORNのようなラップはできないもんね。

T-Pablow 今考えれば、当時は韻の踏み方もなんもわからないで始めたから、できなくて当然だったんですけどね。それでできないなりに仲間内でもサイファーをするようになって、カラオケでラップ曲を流してフリースタイルする、みたいな。

出たくなかった「高校生RAP選手権」で優勝

T-Pablow

──キャリアのお話を進めると、そこからすぐ2012年7月放送の「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」(以下「高ラ」)へ、K-九名義で参加されるんですよね。なんと「高ラ」への参加はラップを始めて3、4カ月だったという。

T-Pablow ちゃんとマイクを握ったのが高1のときで、それから3カ月ぐらいで話を受けたんですよね。

KEN それはオーディション?

T-Pablow いや、違います。その時期に双子の弟のYZERRが少年院から出てきて、一緒にラップをちゃんと始めたんですよ。同じ時期から、先輩に川崎のクラブの運営を任されるようになって。

KEN でも16ぐらいでしょ?

T-Pablow ええ(笑)。それでイベントや営業が終わって、朝6時ぐらいから掃除しながらラップして、周りが付き合いきれないって脱落していっても1人で夕方までやってる(笑)。やればやるほど言葉が次々と出てくるようになっていったし、それが楽しくてひたすらラップしてる感じでしたね。本当に人生で初めて何かにハマったというか、打ち込める素晴らしさに気付いた感じでした。今で言う半グレの子がラップやってんのと一緒ですよね。あの子たちもラップが楽しくて、そこに夢中になるわけじゃないですか。だから、その気持ちはすごくわかる。ただ当時は自分がラップで食っていけるなんて思いもしなかったから、生活としては不良とかギャングの道に進んでいて。その中で先輩から「お前ら、向こうのギャングはちゃんと人前でラップできるから」って言われて、その先輩からクラブでデビューさせられて。

KEN させられて(笑)。

T-Pablow それで出たイベントのホストMCが真木蔵人さんで、「あの双子、面白いじゃん」と目をかけてもらって、その流れで「BAZOOKA!!!」に紹介されたんですよね。それがクラブでマイクを握って1回目か2回目ぐらい。

──「BAZOOKA!!!」は真木蔵人さんがMCだったので、その流れだったんですね。

KEN めちゃくちゃ展開が早いね。

T-Pablow でも「テレビには出たくない」って言ってたんですよ。やっぱりテレビのエンタメ番組みたいなものに出ると、どんな扱われ方をするかもわからないし、それによって潰しが効かなくなって、ストリートにいられなくなるんじゃないかな、と。だけど地元の先輩に強制的に出させられて。川崎の中華料理屋で「出たくないっす。勘弁してください」「ダメだよ」と(笑)。

KEN 選択の余地なし(笑)。

T-Pablow いわゆる、不良の流れから芸能界に入る人っているじゃないですか。そういう流れを川崎でも作りたかったみたいなんですよね。

KEN なるほどね。「高ラ」に出てみてどうだった?

T-Pablow すげえ緊張しましたよ。収録自体、当日までどこでやるか、どんな内容なのか全然教えてもらえなかったんです。だから、公園でサイファーするのかな、ぐらいの気持ちでいたんですよね(笑)。

KEN ははは!

T-Pablow で、蓋を開けたらすげえデカいスタジオだし、カメラは何台も入ってるし、まったく知らない高校生とラップバトルするっていうので、本当にハメられたと思いましたよ。なんか学生服着てる子とかもいたし、バラエティ番組感があったから、YZERRと「ああ……終わったな……」と(笑)。

KEN 結果的にはティーンのラッパーが有名になる登竜門的な企画として有名になったけど、第1回が失敗してれば、マジでイタい企画だったかもしれないもんね。

T-Pablow 収録中も「ガチンコファイトクラブ」のラップ版っぽい内容になるのかなと思ってましたね。当時自分たちが目指してたりイメージしてたラッパー像は「リリカルなギャングスタラップ」だったから、もうその道を進めなくなるなと絶望しました。

KEN 「高ラ」以前に、バトルの経験はあったの?

T-Pablow なかったですね。

KEN ぶっつけだったんだ。

T-Pablow 仲間内でのサイファーぐらい。でもその経験は「高ラ」にも生かされたし、勝つ自信もありました。ラップしてる期間は短いけど、時間はほかの人よりも長いだろうなというのが、自信になってて。ゾーンに入って、気付いたら10時間とかラップしてたときもあったんで。それは今でも自分のラップスキルに反映されてますね。

KEN 実際にほかの高校生のラッパーと戦ってみての感触はどうだった?

T-Pablow 「こんな感じか」と。自分も相手も、スタッフでさえも、この番組がどうなるのかわかってないから、手応えもなかったし、「なんか優勝したな」ぐらいで。

──審査員にはZeebraさん、DABOさん、SIMONさんが登場していました。

T-Pablow その3人の前でラップするなんて考えられないことだったけど、それがチャンスにつながるとは、俺も含め誰も思ってなかったんじゃないかな。そんな余裕もなかった気がします。

KEN Zeebraさんやスタッフに話を聞くと、この企画がどうなるか不安だったけど、パブロとYZERRが登場した瞬間、これはイケると思ったという話をしてて。実際、あの時期はMCバトル自体がマニアックなものになってたけど、パブロやYZERRはストリートのバックグラウンドがあって、そういうスタイルの人間が勝ち上がるのは当時のMCバトルの主流とも違ったから、それも新鮮に映ったと。R-指定やKOPERUが16、7歳ぐらいでBBPで活躍したときに、「その年代でフリースタイルがこんなに巧いんだ」と驚いたけど、彼らとはまた全然スタイルが違ったから。

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KEN THE 390 @KENTHE390

T-Pablowがゲストに来てくれました!
ぜひ読んでみてくださいー! https://t.co/8fd1a3HwbI

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