アイドルのセカンドキャリアを考える 最終回 [バックナンバー]

犬山紙子&劔樹人がファン目線で考える“アイドルのセカンドキャリア”(聞き手:レナ)

まず変わるべきはファンのほう? アイドルに休みと学びの時間を

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もっと寛容になれる可能性はある

 コロナ禍以降、表舞台に出る人が多少休みやすくなった感じってありませんか?

レナ 確かに、以前よりは「体調が悪いです」と正直に言える空気はありますよね。

 ファンも演者の不調を受け入れるようになったというか。「なら仕方ない」と気付けたということは、もっと寛容になれる可能性があるということ。そうやってファンや社会、環境が変われば、アイドル側も気持ちに余裕ができて、自分に本当に必要なものや立ち位置が見つけやすくなるんじゃないかな。

犬山 アイドルはずっと見られ続けて、いろんなことを言われて本当にすごい職業ですよ。ライブもたくさんあるから体調管理も必要ですし、メンタルにかかる負荷は想像できないくらいだと思う。

劔樹人

 個人的にはアイドルは音楽をやってる人たちなので、グループ卒業後も音楽を続ける人が増えてほしいんですよ。

犬山 それは私も、ファンとしてそう願ってしまう。

レナ 作詞作曲ができたり楽器を弾けたり、自給自足みたいなことがアイドルに必要ですよね。チェキ以外のお金の生み方を確保するといいますか。楽曲ができあがるまでのプロセスを理解して、どこかの工程を自分でやれたらアイドルの息も長くなるでしょうし。

 うん。そっちのほうが楽しくなると思う。

レナ ただ、グループに所属していると1人でステージに立つ自信がない子もいると思うんです。私がまさにそれで、今でもたまに歌のオファーをいただくんですけどすべて断っていて。「2人が1人になっただけじゃないか」と思われるかもしれないけど、私はセンターには立ったことがないから1人で歌う自信がないんです。

 そういう理由もあるんですね。でも小さい頃から音楽に触れているわけですから、もっと気楽にトライしてもいいんじゃないかなと思いますけどね。

日々の活動の積み重ねを自信に

犬山 先ほどのレナさんのお話を聞いて、もしかしたらグループに所属するアイドルの子たちは「お前1人じゃどうにもならない」という変な呪いをかけられているのかなと感じました。

レナ それはあるかもしれないです。私は事務所の社長に「お前は1人じゃ何もできないから2人組なんだよ」と言われ続けていたんです。それは「もっとメンバーの力を借りなさい」という意味だったと思うんですけど、当時の私には「自分は半人前なんだ」という考えしか残らなくて。

 そう思っているアイドルは多そうですよね。大きなグループに所属していると自然にそういう考え方になっちゃうと思う。

犬山 特性だけを評価され続けると自己効力感は育たないと思うんです。自分はアイドルという属性や肩書きがあるから評価されているのであって、アイドルを辞めたらなんの価値もなくなってしまう、と思わされている風潮はおかしい。私はお仕事でいろんなアイドルの方に会う機会があるんですけど、本当に素敵でトークもうまくてすごい能力に満ちあふれている子たちなのに、なんでこんなに自虐したり自信がなかったりするんだろうと不思議だったんですよ。レナさんのお話を聞いて腑に落ちました。本当にもったいない……。レナさんのように言語化してくれている人がいるから、その言葉が若い子に届くといいな。

 自己肯定感を高めるということも大切なテーマですよね。ただ、悪い意味で言うと自己肯定感が低い人のほうが使う側はやりやすい。一般企業でも「お前はこの会社を辞めてやっていけるのか?」というプレッシャーのかけ方をしているところもあるでしょうから。だからこそ何回も言うけどファンの側から変わっていくべきなんですよ。

犬山 私はレナさんのような言語化能力がある人に「あなたはここが素晴らしいんだよ!」と教えてあげる活動をしてほしい(笑)。

レナ

レナ (笑)。私は自己肯定感がとても低いんですけど、11年間の活動で積み重ねてきたものがあるから自己評価は高いんですよ。ちゃんと歩んできたという自信がちゃんとついているので、それだけで今のところは仕事ができていて。

犬山 おお! まさにそれだと思います。年齢を重ねるとアイドルとしての価値がなくなるとか、そういった価値観に対して「いや、私はこれだけできるようになりましたけど?」と言える。これこそが解ですよね。それだけ魅力的になっているし、やれることも増えているんだから、もっといろんな仕事もできるしっていう。

アイドルがセカンドキャリアを考えるために

レナ 今回お二人とお話して、アイドルの立場からだとなかなか発信できないようなことを言っていただけてうれしかったです。さまざまな経験をしているお二人から人生を歩むうえでのアドバイスは何かありますか?

 僕は就職などを理由に何度かバンドを辞めているんですが、結局また音楽の道に戻ってきて、今となっては売れたくて続けている感覚はないんですよ。バンドが好きなんですよね。アイドルも「これは仕事だから」とか「食べていくためにやらなきゃいけない」と言う感覚と関係なく、自分が好きだからやっているという環境を作れるといいかもしれないですね。

レナ その考え方に至ったのは、ご結婚されたことも大きい?

 そうですね。自分は家族で支え合っているから、今の環境で音楽ができています。音楽という他人から評価される表現をやってはいるけど、その評価が続けたり辞めたりする理由にはならないです。

レナ 犬山さんはいかがですか?

犬山 アイドルには当てはまらないアドバイスになってしまうんですけど、私が自分の人生をいい感じに送るために大切にしていることがあって。まずスケジュール帳に休みの日を書いていくんです。

レナ 休みのスケジュールから書き込む?

犬山 そう。仕事もプライベートも無視して、1週間のうち「ここは絶対に休むぞ」という日を確保するんです。そこに仕事が入ってきたら、休みのリスケをする。私の場合そうしないと体やメンタルが潰れるというのが30代前半でわかったので、同じことができる人は参考にしてほしい。それをやらないと人って永遠に働き続けてしまうので。あとは信頼できる友達を作ること。

レナ それは男女関係なく?

犬山 どちらでもいいと思います。私の場合は女友達なんですけど、「これを言ったらさすがに私のことを嫌いになるよね」くらいの自分の醜い部分もさらけ出せる相手。それに傾聴できるようになることも大切です。友達の話に茶々を入れずに最後まで聞いて、なおかつ変なアドバイスや駆け引きはしない。「大好きだよ」という気持ちを惜しみなく毎回伝えて、お互いにその関係を構築できると強いと思うんですよ。つるちゃんは夫ですけど信頼できる友達でもあって、そんな存在がいると生きていける。セカンドキャリアに悩んだときに、まずは相談できる人がいることが一番大事だと思うんです。そういう人に巡り会って、自分をさらけ出して、人の話を傾聴できたらいいなって。これは子供たちにも伝えたいことで、そんな関係性の人がいたら一生幸せになれると思います。

左から犬山紙子、劔樹人。

レナ 私のアイドル時代を振り返ると相談できる相手はいなかったですね。友達も少なかったですし。

犬山 忙しくて友達を作る時間がないですもんね。もし難しかったらプロのカウンセラーさんに頼ってもいいと思います。それも「ちょっとしんどい」くらいでもいいから、メンタルがやられる前に相談に行く。まずは孤立しないことが大切だと思います。

レナ では最後に、アイドルが理想のセカンドキャリアを歩んでいくために、当人や社会へメッセージがあればお願いします。

 自分もファンという立場なので、悪い風潮はファンから変えていきたいです。時代の流れに合わせて少しずつ状況もいい方向に変わっていくなら、自分自身もそうなっていきたいなと思います。あとはさっきも言いましたけど、もう少し音楽をやりたいって人が増えてもいいんじゃないかと(笑)。音楽は自由な表現なので、自分には無理だと思わずに気楽にトライしてみるといいと思います。

犬山 セカンドキャリアがうまくいきそうにないと悩んでいる人がいたとしたら、それは社会にそう思わされているだけ。「グループを背負っていない私に価値なんてあるんだろうか?」と思わされている状態なので、まずはそんなことはないということ、自分にはいろんな魅力があるってことを思い出してほしいです。あとはファンの方は一緒に声を上げて、アイドルたちが休みと学びの時間を作れるようにしましょう。とにかく自己責任だと思わないでほしいな。悩みごとは1人で抱えないで、つらくなったらレナさんに相談しましょう!(笑)

左から犬山紙子、レナ、劔樹人。

レナの取材後記

レナ

いよいよ最終回となりました。
最後にお二人とお話しをさせていただけて本当にうれしかったです。
アイドルをやっていたことも、1人の女性としても救われた気がしました。

私はグループが解散し、事務所を移籍して、
お仕事がなくなり正直、この業界から引退を考えていました。
自分の実力のなさを感じたり、「自分はもうこの業界に必要とされていないのではないか?」と思ったりもしました。
でも、家族の支えや、そして何よりもグループ時代の仕事への姿勢を見ていてくれた方がいたことに救われて。だから今、恵まれた環境でお仕事をさせていただけています。
この場を借りてお礼を言わせていただきたいです。
ありがとうございます!!!

こんな不器用な私でも見てくれている方がいることが本当にうれしいです。
犬山さんのお言葉を胸に“いい感じに生きる”を実践していきたい!
本当これに尽きると思います!!
この連載を通してたくさんの方々にお話を聞いてきましたが、皆さんいい感じに生きていてすごくカッコよかったです!!
これを読んでくれてるあなたも自分が思う“いい感じに生きる”を試してほしいです!
またどこかで会える日を楽しみにしています!
アデュー!
ありがとうございました。

犬山紙子(イヌヤマカミコ)

1981年12月28日生まれ、大阪府出身。エッセイスト。2011年、女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで描いたブログ本を出版しデビューを果たす。近年の著書に「私、子ども欲しいかもしれない。」「アドバイスかと思ったら呪いだった。」「すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある」がある。現在はテレビ、ラジオ、Webなど多方面で活動している。
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劔樹人(ツルギミキト)

1979年生まれのベーシスト / マンガ家。狼の墓場プロダクション所属。大学在学中より音楽活動を開始し、2009年より神聖かまってちゃん、撃鉄、アカシックなどのマネジメント、プロデュースを手がける。現在はあらかじめ決められた恋人たちへ、LOLOETなどのバンドでベーシストとして活動中。著作に「今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻のほうが稼ぐので僕が主夫になりました」「高校生のブルース」「怪のリディム」など。2021年2月に自伝的コミックエッセイ「あの頃。男子かしまし物語」が松坂桃李主演の映画「あの頃。」として実写化された。
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レナ

2007年にデビューした女性アイドルユニット・バニラビーンズの元メンバー。バニラビーンズはスウェディッシュポップを意識したサウンドとレトロなビジュアルで渋谷系ファンなどから高評価を得る一方で「ガラス張りトラック生活」などの風変わりな活動でも注目を浴びた。2018年9月にラストシングル「going my way」をリリースし、10月のライブをもって解散。バニラビーンズ解散後は、トークスキルを生かしてMC・タレント業をメインに活躍しており、“多摩川のおんな”としてボートレース多摩川の選手インタビュー、生配信の番組進行を担当している。
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Megu@Negicco @Megu_Negicco

インタビュー読んでいたら、Negiccoの事も話してくださっている😭✨ありがとうございます🙇‍♀️✨ https://t.co/ZVPLmXfrsz

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