土岐麻子の「大人の沼」 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.18 [バックナンバー]

Stray Kidsが独特であり続ける理由

土岐麻子がスキズ沼にどっぷりハマったきっかけとは?

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シンガー土岐麻子が中心となり、毎回さまざまな角度からK-POPの魅力を掘り下げる本連載。今回は土岐が今年どっぷりとその魅力に取りつかれ、“入沼”したというStray Kidsを取り上げる。

11月10日にリリースしたミニアルバム「樂-STAR (ROCK-STAR)」は「Billboard200」で1位を獲得し、4作連続で米ビルボード1位を記録したStray Kids。グローバルに支持される彼らの独特さとは、どのような背景から生まれているのだろうか? ドームツアー「Stray Kids 5-STAR Dome Tour 2023」も鑑賞した土岐が、同じアーティストとしての観点から自らペンを取り、考察していく。

/ 土岐麻子

脈絡がないのにまとまった世界

2023年夏。ピョル・エ、ピョレピョレ、ピョル・エ、ピョレピョレ……鬼気迫るサウンドと妙な言葉のリフレインに「えっなんだろうこれ」とスクロールする手を止めた人も多かったのではないだろうか。Stray Kidsの「S-Class」がリリースされてから連日、あちこちでダンスチャレンジ動画がアップされていたことは記憶に新しい。カメラをキッとにらみ、右脚を揺すりながら両手をジャギジャギジャギとクロスさせる、あまり見たことがない類の振付。カッコいいとかかわいいといった言葉では表せない“独特”さ!

Stray Kids「특(S-Class)」MV

私が彼らを初めて知ったのは3年ほど前、この連載へ寄せられた投稿がきっかけだった。読者の方に「神메뉴 (God's Menu)」をおすすめしてもらったのだ。ずっしり重いのに高揚感のあるサウンドからはメタルロックを連想したし、そこに乗る的確なラップ、そしてメロディパートにはスティーヴィー・ワンダーを思わせるようなR&Bルーツも見え隠れし……いなたさと洗練さのバランスが絶妙だなぁと感じ、一気に頭から沼に突き落とされた。

曲もさることながらミュージックビデオの面白さも衝撃だった。料理店がモチーフとなっている曲だが、舞台は厨房からカーレース場、工事現場や研究施設……など脈絡なく場面転換していき、料理人や化学者に扮したメンバー、防護服を着たダンサーが次々に登場する。車の整備をするのは当時「Nizi Project」に参加していた、のちのNiziU(!)だし、バンコラン(マンガ「パタリロ!」の登場人物)のような美青年が敬礼しながら「はい、お客様!」と叫ぶ狂気。画面の転換時にはカラスを飛ばすし、まるで高めの熱が出たときに見る変な夢、みたいな世界がめくるめく。脈絡ないのに、ひとつのまとまった世界がハッキリと浮かび上がってくる。

Stray Kids "神메뉴" M/V

CGに目が慣れた昨今、このMVでのカメラワークと美術の演出も新鮮だった。どこかに隙を残す「手作り感」が、彼らの隙のない魅力(目力がとても強い閻魔系の魅力)と相まると、ちょっと脱力するようなユーモラスな効果を生むようだ。今40代の私は、00年代にハマったミシェル・ゴンドリーやスパイク・ジョーンズの作品群の中毒性を思い出したりした(映像が似ているという意味ではない)。ということで、まずこの1曲で彼らがほかのグループとはまったく違った、独自の道を走る面白ハイセンスなグループ、という認識を持った。

Stray Kids "神메뉴(God's Menu)" M/V MAKING FILM

「神메뉴 (God's Menu)」のシグネチャーダンスは“激しくヘドバンしながらドカドカと包丁を刻む”動きだったが、「S-Class」の“手をジャギジャギクロスしたりするダンス”にも歌詞と結びついた意味があるそうだ。メンバーによると「星がキラキラ光っている様子を体現した」とのことで、昔のアニメでよく観るような、星が十字に光る描写を模したということだろう。なんというか、とても率直な感性ではないか。率直さを持った表現はユニークさにつながり得るものだと思っているが、そういった感性を持ち続けることは努力してなせるものではないから、Stray Kidsが唯一無二たる理由のひとつを知った気がした。

ほかにも「Back Door」ではメンバーが一列になって次々とドアを叩いて入室していくという振付(メンバーがドア役もやる)があったり、「소리꾼(Thunderous)」では目隠しでハンドナイフトリック(指の間などをペンなどでスカスカやるゲーム)をモチーフにしたダンスがあったり、ブレイクに入っている笑い声に合わせ両腕を口のように動かしたりなど、さまざまな振付師と組んでいる中でも、創作ダンスのようなアクセントがところどころに光る振付が彼らの持ち味といえよう。

「Stray Kids 5-STAR Dome Tour 2023」東京ドーム公演の様子。(撮影:石井亜希 / 田中聖太郎写真事務所)

また、ダンスとともに表情管理も個性的だ。テレビ番組で披露された「MANIAC」でヒョンジンの白目を観てビックリしてしまい、何回もリプレイした記憶がある。“憑依型”という声も聞こえてくるが、曲によってはメンバー全員が顔や目線の向きまできれいにそろえていたりするので、振付に関わる彼は、明確なイメージ像をもって完璧な表現を貫く“美学の人”のようにも思えるがどうか。

自由な魂にあふれたグループ

さて、私は「神메뉴 (God's Menu)」で頭から沼に落ちたものの、長らくStray Kidsの音楽と映像を楽しみに待つ「作品推し」として居続けた。韓国の雑誌「月刊デザイン」に日本のクリエイターとしてのコメントを求められた際も、Stray KidsとそのMVの特異性について寄稿した。一方、メンバーの年齢やケミ名などは当時ほとんど知らなかった。

しかしそんなスタンスに転機が訪れたのが先日。9月のバンテリンドーム ナゴヤでの公演(「Stray Kids 5-STAR Dome Tour 2023」)を観て変わったのだ。現在の私は、沼面(沼の表面。マイ造語)に足の指1本も浮かんでいない状態といえよう。今はもう、知っている。グループの成り立ちも、J.Y. Parkプロデューサーとの信頼関係も、誰と誰がなぜどうやってケンカしたかも、味噌っていうケミがあることも……。

「Stray Kids 5-STAR Dome Tour 2023」東京ドーム公演の様子。(撮影:石井亜希 / 田中聖太郎写真事務所)

もとい、バンテリンでは秒で推しメンバーが決まった。ステージ上のStray Kidsは、1人ひとりの個性が見えるような人間的なライブをするグループだったから。まるでバンドのようだった。実際に、後ろにはドラム、ベース、ギター、キーボードという4リズムの生バンドを背負っていて、躍動感のあるライブアレンジもカッコよかった。もちろん必要な音は同期音源で出しているが、歌は基本は生で勝負している。バックミュージシャンとの信頼関係も感じられて、MCで話している途中に誰かが歌い出せば、バンドが合わせて演奏し出す。そのときの歌もとてもいい! また、メンバーが触ってみたいと言って、奏者がギターとドラムを貸す場面も。ちなみにそのときはうまく演奏できず、ぐだぐだで終わってアハハとなった。ドームという大会場で、思いつきでアドリブをかますとは。本当にステージを楽しんでいる様子が伝わってきた。

Stray Kids。上段左からスンミン、ハン、ヒョンジン。中段左からチャンビン、アイエン。下段左からリノ、フィリックス、バンチャン。

チャンビンはStray Kidsの「声」そのもの。個性的な声と安定感のあるリズムを持っている。見るからに筋肉量が一番多い体格で、パフォーマンスもどっしりしている。ハンは常に自信に満ちあふれたようなパフォーマンスで、音楽が大好きなことが伝わってくる。立ち上がりが速くて華がある声なので、曲のドライブ感を上げる。反対にレイドバック気味な歌で曲のテンションをほどくスンミン。誠実さが伝わる細やかな歌唱と、ジャストなピッチ(音程)感が気持ちいい。歌唱スタイルは似ているけれど甘い声、かつ少し低めにピッチを取って歌うアイエン。それは彼のキャラクターそのものと同じで、どこかほっとするような味がある。

体幹が強そうな重心の低いダンスから跳躍まで、スポーツ選手のような気迫でステージ全体のパワーを強めるリノ。彫刻のような顔をして、MCではひときわ不穏なことを言う悪魔の魅力! 天使みたいなルックスでキラキラしたメイクが映えるフィリックス。低い声はロックにもヒップホップにもハマり、彼が歌うパートはグローバルな雰囲気がアップする。目線から指の先まで、常に孤高の哲学が感じられるダンスパフォーマンスを見せるヒョンジン。グループに芸術的な印象を与えているのはまさに彼だと思った。そして激しいフォーメーション移動がある振付のさなかにあっても、リーダーのバンチャンはメンバーたちを見て、心から楽しそうに笑う! 音楽が本当に好きで、音の中で思いっきり楽しんでいる。そういうリーダーのもと、自由な魂にあふれたグループだと感じた。

彼らが音楽で自由に遊ぶ感覚を感じられたコンテンツの1つが、韓国の良質な歌番組「リムジンサービス」にハンが出演した回。1曲目は彼らの曲「CASE 143」をラテンアレンジによるセルフカバーで、2曲目はTWICEの「Alcohol Free」を恋人からの目線の歌詞に編み直し、ラップパートも付けて披露した。司会のイ・ムジンとのデュエットや対話も非常によく、私は自分のライブが終わって寝る前、この動画を観て昂った神経をチルらせることが多い。

[JPN sub][リムジンサービス] EP.32 Stray Kids ハン | CASE 143, Alcohol Free, 白ひげクジラ, 長い夢

ずっとフレッシュで“独特”な存在

彼らが音楽の中で、誰に遠慮するでもなくのびのびして見えるのは、自分たちで曲を制作していることが大きいのではないかと思う。リーダーのバンチャン、ラッパーのチャンビン、ハンの3人がプロデュースユニットを組み、中心となって作業をしているそうだ。3RACHA(スリーラチャ)と呼ばれる彼らは9月、ニューヨークでのフェス「2023 Global Citizen Festival」のステージに上がった。グループのときとは一転、装飾のない素に近い演出で、ヒップホップらしいステージを完璧にこなした。

[Stray Kids : SKZ-TALKER GO! Season 4] Ep.02 2023 GLOBAL CITIZEN FESTIVAL

レコーディングの際はメンバーがディレクションもするし、クレジットを見るとエンジニアリングまで手がけている曲もある。動画で観られるバンチャンのボーカルディレクションは、私からするととてもリアルだ。ブース(歌う人が入る個室)は普通、コントロールルーム(エンジニアやスタッフがいる部屋)と防音の厚い扉で隔たれている。ヘッドホンから音楽が流れていないときは、コントロールルームにいるほうの人がトークバックボタン(2つの部屋をつなぐ声の回線のボタン)を押さない限り、ブースではみんなの会話が聞こえず無音の状態になる。宇宙空間に糸電話1個、みたいな状況である。どんなにレコーディングに慣れている歌手でも、ずっとブースにいるとだんだんと不安になったり孤独感に陥ったりするものだ。だから、よいボーカルディレクターの多くは前提としてその孤独を理解している人で、閉所にいる孤独な歌手を絶えず気遣って話しかけてくれる(大概の人は、不安に陥って心を閉ざすと、喉も閉ざされてしまうから)。バンチャンの行動はまさによいディレクターのもので、こういう人とレコーディングをしたらいいテイクがたくさん録れそうだなと思う。

Stray Kids "★★★★★ (5-STAR)" Recording Scene|2023 STAYweeK

自分たちが中心となって楽曲を制作しているということは、Stray Kidsが“独特”に見える大きな理由でもあると思う。冒頭で触れた「神메뉴 (God's Menu)」は当時、ドラマ「梨泰院クラス」からのインスピレーションで作られ、料理をモチーフとした曲となったそうだ。本当は別の曲をリード曲として準備が進んでいたそうだが、どうしても「神메뉴 (God's Menu)」でカムバックしたかったメンバーが、会社のプロデューサーであるJ.Y. Parkに直談判をし、J.Y. Parkは「正しいと思うことを貫きなさい」と伝え、その後をメンバーに委ねた。メンバー外のプロデューサーの視点が入らないことで、どのグループにも似ていない、ある意味非商業的な個性を持つ楽曲が生み出されるのは、Stray Kidsの大きな魅力と言えるだろう。「ALL IN」はJ.Y. Park発信で作られたとのことで、この曲にはStray Kidsがマニアックに傾きすぎないよう、間口を広げるようなサウンドで軌道補正をしようという、J.Y. Parkからの愛情を感じる。気鋭のアーティストと、彼らを信じつつも知恵を貸す天才プロデューサー。なんて素晴らしい関係性。

Pre-TALK "JYP X 3RACHA"

【Stray Kids×J.Y. Park】 Special Interview

11月10日にミニアルバム「樂-STAR (ROCK-STAR)」でカムバックしたばかりの彼ら。リード曲「락 (LALALALA)」のMVは、なんと公開約20時間で再生回数1207万回という自己新記録を更新! 力強く疾走感のあるサウンドで、困難を突破して進んでいくようなメッセージが頼もしい。8人の意志表明のような仕上がりだ。

Stray Kids "락 (樂) (LALALALA)" M/V

アルバムの収録曲は言うまでもなくすべて愛すべき曲なのだが、ラストに「락 (LALALALA)」のRock Ver.と題した曲が収録されていて、これが重めのバンドサウンドによるアレンジで最高すぎるので、未沼(まだ沼にハマりきっていない状態。マイ造語)の方はぜひ聴いてほしい。

ドームツアーを経てバンドや観客と一緒に、よりいっそう音楽との一体感を得たであろう彼ら。これはそんな彼らの今後がますます楽しみになる1曲である。

락 (樂) (Rock Ver.) LALALALA (Rock Ver.)

Stray Kidsには長く活動を続けてほしい。そして、長く続くだろうと思わせられたスンミンの言葉があるので、その意訳を最後に。先日終わったツアー「Stray Kids 5-STAR Dome Tour 2023」の千秋楽公演、東京ドームにて、終盤のコメントの際、彼はこのように語った。

「1日目の公演をしながらふと思いました。この先もまた同じこの場所でライブをすることがあるのかなと。会場が大きくなったからといって、それに伴って自動的に自分の実力も上がるわけではありません。これが当たり前と思わずにもっと成長した姿をお見せできるように、皆さんの見えないところでも実力を磨き続けます。いつも僕の歌を真摯に聴いてくださってありがとうございます」

これが、ドームツアーを成功させ、今まさにドームのステージに立っている20代前半の青年から出た言葉とは! もう少し調子に乗ったっていいんじゃないかと思うくらいだが、この精神を共有しているグループならば、ずっとフレッシュに“独特”な存在であり続けるだろうと思った。

「Stray Kids 5-STAR Dome Tour 2023」東京ドーム公演の様子。(撮影:田中聖太郎)

土岐麻子

土岐麻子

1976年東京生まれのシンガー。1997年にCymbalsのリードボーカルとしてデビュー。2004年の解散後よりソロ活動をスタートさせる。本人がCMに出演したユニクロCMソング「How Beautiful」(2009年)や、資生堂「エリクシール シュペリエル」のCMソング「Gift ~あなたはマドンナ~」(2011年)などで話題を集める。CM音楽やアーティスト作品へのゲスト参加、ナレーション、TV・ラジオ番組のナビゲーターなど、“声のスペシャリスト”として活動。またさまざまなアーティストへの詞提供や、エッセイやコラム執筆など、文筆家としても活躍している。2023年12月18日に、東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEにてワンマンライブ「土岐麻子~X'MAS LIVE 2023 Ring the Bell~」を開催する。K-POPでの最推しはMONSTA XのジュホンとBLACKPINKのジェニ、そしてStray Kidsのハン。

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