JO1が“新しい音楽の届け方”を追求した理由

取材・文 / 岸野恵加 撮影（崔信化社長） / 曽我美芽

バームクーヘン、お守り、石鹸……音源＋グッズのリリース例

ストリーミング配信はもはや当たり前のものとなり、アーティストが音楽を届ける方法はCDという形態にとらわれなくなってきている。そんな中、JO1がこれまでにない方法で新曲を発表するというニュースが報じられると、大きな話題を呼んだ。7月24日にリリースされた「NEWSmile」である。

JO1は2019年にオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN」により結成された11人組グローバルボーイズグループ。デビュー4年目を迎えた今年、メンバーは俳優としてドラマや映画にも引っ張りだこだ。活動の幅を広げる一方で、パフォーマンスリーダーの川尻蓮が韓国へ、ボーカルリーダーの河野純喜がアメリカ・ロサンゼルスに単身武者修行に行くなどパフォーマンスにも磨きをかけ続けており、2023年内には2回目のアリーナツアー、そしてアジアツアーの開催も控えている。

そんな彼らのニューシングル「NEWSmile」は今年4月からフジテレビ系「めざまし8」のテーマソングとして採用されており、7月3日からはデジタル先行配信中。メンバーの木全翔也、河野、金城碧海、與那城奨、大平祥生が作詞に参加し、何気ない毎朝に“新しい笑顔”を届けるポップチューンとなっている。JO1といえば目まぐるしいフォーメーションチェンジを交えたキレのいいシンクロダンスが持ち味だが、「NEWSmile」ではメンバーがわちゃわちゃと笑顔で跳ね回り、エネルギッシュでかわいらしい面が際立っている。

「NEWSmile」は音楽CDではなく、「Charming Daily Goods」略して「CD GOODS」という形態で発表される。「CD GOODS」には普段使いできる歯ブラシやジャム、トイレットペーパーなど12種類の日用品グッズがラインナップされ、そこに付属しているQRを読み込むか、JO1公式アプリのARカメラでグッズを撮影すると楽曲を楽しめるという仕組みだ。グッズのデザインもこだわり抜かれており、アメリカンでポップな色使いは、見ているだけで元気が出る。さらにリリース日から7日間にわたり、「CD GOODS」を販売する期間限定ポップアップショップ「JO1 MART」が東京・渋谷にオープン。これらの展開が6月30日に明らかになると、JAM（JO1ファンの呼称）以外からも「画期的なリリース方法！」「環境にも優しいし素敵」「自分の推しのアーティストでもこんな企画をやってほしい」など、多くのリアクションが起こっていた。

これまでも、CDではなくグッズとデジタル音源という形態で楽曲が発表される例はあった。ゲスの極み乙女。は、2020年にリリースしたアルバム「ストリーミング、CD、レコード」に、CDの代わりにCDサイズのバームクーヘンが付くという“賞味期限付き”アルバムを用意。メンバーは当時「今もうCDを聴いていない人が多いんだろうな、と思いました。でも歌詞やクレジットの入ったブックレットは届けたいので、CDの代わりに美味しいバームクーヘンを入れてお届けします」とコメントしていた。またゴールデンボンバーは、2023年2月にリリースしたアルバム「COMPACT DISC」にて、グッズが付属するトートバッグ盤、ポーチ盤、ミラー盤を展開。これは鬼龍院翔（Vo）の「今の時代、CDを出してもみんな所持しようと思わないのでは」というアイデアから始まったという。いずれもCDが付属するバージョンも別途用意されてはいたが、“CDの必然性”への疑問を形にした作品であったと言えるだろう。

森山直太朗は2017年に、ダウンロードコード付きのお守り「絶対、大丈夫」を8888個限定でリリース。MICO（ex. SHE IS SUMMER）は2022年にスタートさせた自身のプロジェクト・GIRLS FIGHT CLUBにて、石鹸やパジャマ、キャンドルなどこだわり抜かれたオリジナルグッズとともに毎回楽曲を発表している。ほかにも東郷清丸はコーディアルシロップ、どついたるねんは弁当箱、Emily likes tennisは水やうちわ……斬新なアイデアは枚挙にいとまがない。さらに近年ではレコード人気が高まり、CDをリリースせず、レコードまたはカセットテープにダウンロードコードという組み合わせで楽曲を発表するアーティストも増えている。

このようにさまざまな例が挙げられはするが、JO1のような人気ボーイズグループがこうしたリリース形態を取ることは極めて珍しい。また12種にも及ぶ（グッズによってはさらにメンバー個別のデザインも用意されている）多種多様な商品ラインナップや、ポップアップストアを展開するという試みも斬新だ。なぜこうしたリリース方法を選んだのか。JO1の所属事務所・LAPONEエンタテインメントの崔信化社長に詳しく話を聞くと、「僕たちは常に面白いことをやりたいと思っているんです」と繰り返した。

「『めざまし8』さんとのタイアップが決まり、円盤という形ではないのであれば、どのような発売方法をとったらいいかと話し合ったところ、朝をテーマにした日用品グッズと一緒に音楽を展開するというアイデアがメンバーとスタッフの会話の中で出てきました。それまで僕たちはアーティストの肖像を使った一般的なグッズしか展開したことがなかったので、日常生活で必要なものをグッズにするという発想はすごく面白いなと。グッズの企画としては100点満点だと思いました」（崔信化社長）

リリース方法が発表された6月30日には、Twitterで「NEWSmile」がトレンド1位を獲得。大きな話題を集めたが、“新しい音楽の届け方”という観点では、崔社長は冷静で控えめな口ぶりだ。

「今回のリリース方法が革命的とまでは思っていないです。グッズに付属しているQRを読み込んだら既存のサイトにつながって曲が聴けるという仕組みですが、それは別に新しいことではない。でも現状の範囲ではこれしかできなかったんですよね。そういう意味では、トータルで60、70点くらいの企画であると個人的には思っています。今後はもっと、僕らだけの面白いことができる、今まで存在していなかった音楽配信のやり方を考えていけたらと」（崔信化社長）