アイドルのセカンドキャリアを考える 第4回 [バックナンバー]

遠藤舞が初めて「これをやりたい」と思えたボイストレーナーの道(聞き手:レナ)

いつか来る“その日”から目を背けない

22

219

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 58 144
  • 17 シェア

「我慢できる」なんて思っちゃいけない

レナ 今はボイストレーナーとしていろんな人に指導していると思うんだけど、月にどのくらい仕事を入れているんですか?

遠藤 休みはほとんどないかも。丸1日休んだのはコロナにかかったときくらいかな。療養期間中もリモートで作業してたんだけどね(笑)。正月はさすがに少し休んだけど、正月明けから1日ダラッとした日はないかもしれないです。

レナ そこまでスケジュールを詰め込まなくても金銭的に困らないと思うんだけど、先を見据えて「今やっておかないと!」みたいな気持ちがあるんですか?

遠藤 うーん、求められたら全部応えちゃうところはあるかもしれない。オファーの内容的にお受けできないこともあるんだけど、基本的にレッスンとかは受けられる分だけ受けちゃうから。

レナ 元AKB48の高橋みなみさんはアイドル時代に1年に1、2日しか休みがなかったらしくて、メンタルスケジュールを書くようにしてたってお話されていたんです。仕事のスケジュールがバーッと入ったら「この日の会食は断ろう」と心を休める日を作るみたいな。舞ちゃんはアイドリング!!!時代に、メンタルケアみたいなことは考えていた?

レナ

遠藤 私は何もやってなかったかな。「私は我慢できる人間だ」とずっと自分に言い聞かせてた気がする。「私が耐えれば済むんだ」って考えていたというか。

レナ それで感情があふれちゃったことはないの?

遠藤 ある(笑)。魂が抜けちゃった時期があって、それはファンの皆さんにも気付かれていたと思う。アイドリング!!!を卒業する少し前だから24歳くらいの頃かな。うつ病になっちゃって。体調が悪くて内科に行ったら「あなたが行くべきは心療内科です」と言われて、そのときに初めて精神的にいっぱいいっぱいになっていたことに気付いたんです。

レナ そうだったんだ。わりと近くで舞ちゃんの活動を見ていたはずなんだけど気が付かなかった。

遠藤 患っていたのは半年間くらいだったかな。その間は薬を飲みつつ通院してなんとかやってたけど、自分のメンタルを過信しちゃいけないんだなと思った。「我慢できる」なんて思っちゃいけないんだよ。

レナ あの頃はメンタルの不調をあまり公に言えない風潮があったよね。今は同じように苦しんでいる人の助けになればと公表する人もいるけど。

遠藤 当時も隠せとは言われてないけど、なんだか言いづらい雰囲気があって。「自分の心が弱ってる」みたいなことを公表しちゃいけないと思い込んでたのかもしれない。

遠藤舞

レナ 今思い返してみると、病気の原因はなんだったの?

遠藤 性格上の問題が一番大きいんだけど、さっき話したように人生設計がうまくいってなかったんですよね。本当はもう少し早くアイドリング!!!を辞めようと思っていたんだけど、リーダーという立場もあってなかなか辞めるのも大変で。「思い描いていた通りに人生が進まない。どうしよう?」みたいなストレスが大きかったんじゃないかな。自分で言うのもあれだけど、完璧主義で真面目な人ってうつ病になりやすいんだと思う。私はアイドルの生徒さんも受け持っているんだけど、中には同じようなタイプの子もいるから「うまく息抜きできるかな?」って心配になることもある。

レナ みんなに分け隔てなく接する優しい子ほど、「あれ言いすぎちゃったかな?」とか、あとで反省しちゃうからね。最近の子は自分のメンタルをうまく調整できるというか、自分を守る術を知っている子が多いような気もするけど。

遠藤 私たちの頃と比べるといろんな情報に触れる機会が多いから、その中で自分の癒やし方みたいなものを見つけやすくなっているのかもしれない。

レナ 確かに私たちのデビュー当時はそこまでインターネットが発達してなかったから。

遠藤 そうだね。使い方をよく理解できてなかったし、もう少し個人の発言が統制されていた感じがする。でもやっぱりグループでやってる以上はある程度のルールは必要だから、好き勝手に発言しないようにっていうムードはあったよね。

SNSの誹謗中傷とどう向き合うか?

レナ 舞ちゃんはお仕事やプライベートについてSNSで発信していて、いつも使い方がうまいなと思っているんだけど、何か意識していることはありますか?

遠藤 自分のキャリアを育てるためにはメディアに出たり、イベントに出たりが必要じゃない? そうなると集客力みたいなものも必要だから、アイドル時代のファンにも届けたほうがいいかなって。いつまでもアイドル視されるのも違うと思うから、バランスが難しいんだけど。

レナ うんうん。

遠藤 でも特に戦略的なことは考えてないかな。あと私の生徒さんにはアイドルもいるから、その子のツイートをリツイートすると私のファンの目に触れる機会が作れる。それで生徒さんにファンが付いたらうれしいし、私のファンが次の世代のアイドルを知るきっかけになったらいいなと思っていて。

レナ ウィンウィンの関係になるのはいいよね。でも、その一方で誹謗中傷の被害に遭う場合もあって。舞ちゃんはそういう声ともしっかり戦うのがすごいなと思う。

遠藤舞

遠藤 ファンの人から「そういうのはスルーしたら」って言われるんだけど、私はスルーしたくない(笑)。だって嫌なことを言われたらちゃんと「うるさい!」って言いたくないですか?

レナ いやー、私は見ないようにしちゃうかも……。

遠藤 そういうのに反応したら負け、みたいな風潮がある気がするんだけど、私はそれを「スルースキルがない」で終わらせたくないんですよ。私も誹謗中傷してくる人も人間同士で対等なんだから、「そういうのはやめたほうがいい」というのはちゃんと伝えたい。

レナ アイドルを卒業してもそういうことに巻き込まれるとメンタルがやられたりしない?

遠藤 今の私が守るべきなのは生徒さんだから、その子たちのためにも自分が悪い見え方をするのはよくないとは思う。でも基本的に私はもうアイドルではないから、嫌なコメントに対してどう対応しても自分の責任みたいなところがあるから、現役時代よりは気が楽になったかも。

いつか来る“その日”に目を背けない

レナ ほとんど休みなく働いてるということだけど、1日何人くらいレッスンしているんですか?

遠藤 日によるかな。アイドルは現場があるから土日はわりと空いてるんだよね。多くて1回1時間のレッスンが9コマ入ったりする。月末は詰まってくるから1日7~9コマくらいレッスンしてると思う。

レナ ほんと休みがないんですね。舞ちゃんはアイドル時代からお金を無駄遣いしないタイプだったからすごく貯め込んでそう(笑)。

遠藤 フリーランスって何があるかわからないから(笑)。怖くてあんまり使えないだけです。

ボイストレーナーとして生徒に指導する遠藤舞。

レナ じゃあ最後に、将来について悩んでいる現役アイドルの子たちに何かアドバイスをお願いします。

遠藤 うーん……難しいですよね。アイドル活動に情熱を注げば注ぐほど、ほかのことができなくなるじゃない? それはセカンドキャリアの足を引っ張ることにもなるからすごく難しい。だから、まずは頭の隅で考えておくだけでもいいんじゃないかな。「卒業したら何をしてみようかな?」みたいに。あとはアイドル時代のほうが関わってくれる人は多いから、何か別の目標や関心のあることが見つかったら「〇〇をやりたいんだよね」って話しておくだけでもいいと思う。結局仕事って完全に1人ではできないというか、全部がご縁だと思うんですよね。私のボイストレーナーの仕事が軌道に乗ってきたのも、全部人とのつながりだとも言えるから。女の子が1人でご飯を食べていくために、人の流れが多い環境にいるアイドル時代に自分のやりたいことをどんどん伝えておくのがいいかな。

レナ それはアイドル活動に全力を注いでいない、ということではないですもんね。

遠藤 そうそう。あとは現実から目を背けちゃダメだと思う。それはただの現実逃避だし、いつかは終わりが来るから。長くアイドル活動をしている人もいるけど、それができるのは本当にひと握りなので。いつかその日が来る、そのことに目を向けておくことが大切だと思います。

遠藤舞とレナ。

レナの取材後記

レナ

今回も最後まで読んでくださった皆様ありがとうございます!
うん。やっぱり私のアイドル人生において、遠藤舞という人物は偉大でした。

4回目ということもあり、お友達ということもあり、
かなりリラックスしてインタビューをさせていただきました。

非現実的な演出が必要不可欠なアイドルという職業で、
「自分の人生を現実的に考えた方がいいよ」
なんて言われても、当事者には伝わらないと思う。
だけどアイドルには、やっぱり器用に生きてほしい!
やっぱりいつもここにたどり着く。

そして、アイドルとは偶像。
これも忘れてはいけない。
だけど、だからこそ素晴らしい。
これもまた忘れてはいけない。

遠藤舞(エンドウマイ)

2006年にフジテレビ発のアイドルグループ・アイドリング!!!の1期生としてアイドルデビュー。同グループには7年半在籍し、リーダーを務める。ソロシンガーとしてメジャーデビューもしており、2017年12月には最初で最後となるオリジナルソロアルバム「最終回」をリリースした。芸能界引退後はボイストレーナーの道に進み、科学的根拠に基づいたボイトレを探究するため理学療法士のもとで解剖学を学び、海外メソッドの講習にも参加。約90組を超えるアイドル、シンガーや女優などのボイストレーニングを担当している。2021年9月には調査機関「インディーズアイドル研究所」を設立。よりアイドルファンが喜ぶステージはどういったものか、データをもとに考察し、その結果をレッスン内容に取り入れている。
Endo Mai Voice Training Studio
遠藤 舞 ボイストレーナー (@endo_mai2) | Twitter

レナ

2007年にデビューした女性アイドルユニット・バニラビーンズの元メンバー。バニラビーンズはスウェディッシュポップを意識したサウンドとレトロなビジュアルで渋谷系ファンなどから高評価を得る一方で「ガラス張りトラック生活」などの風変わりな活動でも注目を集めた。2018年9月にラストシングル「going my way」をリリースし、10月のライブをもって解散。バニラビーンズ解散後は、トークスキルを生かしてMC・タレント業をメインに活躍しており、“多摩川のおんな”としてボートレース多摩川の選手インタビュー、生配信の番組進行を担当している。
レナ(多摩川のおんな) (@VB_Rena) | Twitter
レナ(多摩川のおんな) (@vb_rena913) ・Instagram

バックナンバー

この記事の画像・音声(全15件)

もっと見る 閉じる

読者の反応

レナ(多摩川のおんな) @VB_Rena

遠藤舞が初めて「これをやりたい」と思えたボイストレーナーの道(聞き手:レナ) | アイドルのセカンドキャリアを考える 第4回 https://t.co/CO8qrhKLs7

コメントを読む(22件)

おすすめの特集・インタビュー

遠藤舞のほかの記事

このページは株式会社ナターシャの音楽ナタリー編集部が作成・配信しています。 遠藤舞 / アイドリング!!! / バニラビーンズ の最新情報はリンク先をご覧ください。

音楽ナタリーでは国内アーティストを中心とした最新音楽ニュースを毎日配信!メジャーからインディーズまでリリース情報、ライブレポート、番組情報、コラムなど幅広い情報をお届けします。