佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 3回目 前編 [バックナンバー]

神宿と新しいアイドルの在り方を考える

“THE LIFE OF IDOL” これが私たちの生きる道!

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髪色もネイルも、自分が好きなように

佐々木 冒頭でも少し話したんですが、僕は皆さんの変化するスピードと活動の振れ幅が本当にすごいなと思っていて。その要因の1つにYouTubeがあると思うんですが、どうでしょうか? 僕もYouTubeを観て神宿を知ったし、1個1個のコンテンツも企画やアイデアがすごく凝っていて。皆さんが目隠しをして踊る動画(「アイドルが目隠しして踊ってみた!」シリーズ)とかも、独自性があって面白い企画ですよね。

一ノ瀬 あれ、企画したのみきなんです。

羽島 そうなんです。私自身がYouTubeをよく観ているんですけど、あるYouTuberさんが韓国のアイドルさんの曲を目隠しで踊っている動画をアップしていて、それがすごく面白くて。で、自分たちがやってみたらどうなるかなと思って、みんなに提案しました。それで「ほめろ!」(2019年2月発表)という曲でやってみたら、ファンの皆さんも面白いと言ってくれて。「あの動画がきっかけで神宿のファンになりました」と言ってくれる方もけっこういるんです。

佐々木 まさに僕がそうですね。

羽島 ありがとうございます!(笑)

佐々木 あの「目隠しして踊ってみた!」ってどんなアイドルでもできる汎用性の高いものだと思うんですが、今ではもう神宿の特許的な企画になっていますよね。いち早く、しかも本人たちがやっているというのがすごいと思います。

南波 YouTubeで新規のファンを開拓することって、けっこう難しいと思うんですよ。でも神宿の動画からは事務所にやらされている感じではなく、自分たちで率先して新しいことにチャレンジしていこうという気持ちが伝わってくる。だからこそ、いろいろな人たちに届いているのかなと思うんです。

左から佐々木敦、南波一海。

羽島 ちょうど塩見が加入した頃から「みんなで自分たちをプロデュースしていこう」と話すようになったんです。自分が一番自分のことを知っているわけだから、それぞれが個々をどう見せていくかが大事なんじゃないかって。それで髪色やネイルも自分が好きなようにしてもOKということになって。それがきっかけで、みんなどんどん成長したのかなと思います。

南波 そうだったんですね。神宿は「黒髪でぱっつん前髪じゃなきゃ」みたいな、他者から求められがちな「アイドルだからこうであってほしい」という無言の縛りから脱却したように見えたので、どうしてそうなれたんだろう?と思っていたんです。

羽島 「ボクハプラチナ」(2019年11月発表)のときも同じようなトライがありました。あの曲は、それまでの楽曲と雰囲気が全然違って、すごく大人っぽくて、カッコいい感じだったから、最初はファンの方にどう思われるんだろうとちょっと不安だったんです。でも実際歌ってみたら、「神宿ってこんな一面もあるんだ」と受け入れてもらえて。あの曲に挑戦したことで、自分たちが見せたいものを見せてもいいんだと思えるようになりましたね。

佐々木 確かに「グリズリーに襲われたら▽」(2020年1月発表)とのギャップはすごいですよね(笑)。※「▽」は白抜きハートマークが正式表記。

羽島 はい、よく言われます(笑)。

いつでも素の自分でいられるアイドル

南波 音楽的にも、まさに「ボクハプラチナ」あたりから、いろいろなチャレンジをするようになりましたよね。その変化はどのようにして起こったんですか?

塩見 自分たちの思いや意向をチーム内で議論する時間が増えたからかもしれないです。私の加入直後、幕張メッセ公演をやるかどうかを話し合う会議が行われたんですけど、そこでいきなり、「塩見はどう思う?」と聞かれて(笑)。私はそのとき入ったばかりで、どんな意見を出すのが正解なのかわかっていなかったけど、「やってみたらいいんじゃないですか」と言ったら、「そうだよね」と意見を聞いてもらえて。そういう大きなことから些細なことまで、みんなで頻繁にディスカッションするようになってグループが変わっていったんじゃないかと思うんです。

南波 話し合いの場は定期的に設けられているんですか?

塩見 そうですね。ライブ後はメンバー同士はもちろんスタッフさんからもフィードバックをもらったり、自分たちのメンタリティやフィジカルについて議論しています。「どうしたらもっとライブがよくなるんだろう?」「自分たちはどうなりたい?」みたいなことを常に話し合っているんですよ。

左から塩見きら、一ノ瀬みか、羽島みき。

南波 そういうことがないと、今はアイドルってなかなか続けられないと思うんですよね。

羽島 プロデューサーさんに「ああしなさい、こうしなさい」と言われて、それを言われた通りに実行したからといって、成長できるとは限らないと思うんですよね。それよりも「自分たちはこうありたい、こうしていきたい」という気持ちを持って実行に移していくほうが、ファンの方々により強い気持ちを伝えられる気がして。だから自分たちが好きなようにやっていいと思うんです。

佐々木 プロデューサーや運営の方ってもちろん重要な役割ですけど、やりたくないことをやらされている感じというのは自然とファン側にも伝わってしまいますもんね。「ボクハプラチナ」以降も神宿は変わり続けていて、もちろん陰の努力が必要だったり、時にはしんどい思いをすることもあったと思うんですが、それはどうやって乗り越えてきたんでしょうか?

塩見 最近メンバーとコミュニケーションを取り合う中で、私たちにはステージに立っている自分と素の自分とが乖離していないことが重要なのかなと話していて。

佐々木南波 ああー。

塩見 ステージに立ったときも素の自分でいられることを目指しているんです。今はまだ誰も正解を見つけられていない成長段階だとは思うんですが、そんな中でも、自分の思いを楽曲に乗せて届けたいというところから作詞を始めたり、YouTubeの企画をメンバー主導で考えたり……各自の中で自己プロデュース感覚が強くなったことが大きいんじゃないかなと。

南波 でも自分から意見を出したり素を見せることで、逆にプレッシャーに感じることはないですか?

一ノ瀬 どうだろうね? そんなに感じていない?

羽島 うん。私的にはアイドルの素……例えばライブ後の姿とか、ファンの方はすごく気になるんじゃないかと思って。それで打ち上げの様子を撮影した動画(「神宿の打ち上げ見せちゃうよ」シリーズ)を出したんですよ。

一ノ瀬 伝説の企画が生まれてしまったよね(笑)。

羽島 ふふふ(笑)。私たちも楽しかったし、ファンの方にも「神宿ってライブのあとはこんな感じなんだ」「こんなこと話してるんだ」と身近に思ってもらえるいい機会になったのかなと(関連:神宿「神宿全国ツアー2019-2020 "GRATEFUL TO YOU"」札幌公演密着レポ|YouTubeで人気の「打ち上げ動画」現場に潜入)。

南波 こっちが思っていたよりもずっと自然に、ポジティブに、新しい試みにチャレンジしていたんですね。

塩見 はい。でも、素を出す分、自分たちの人間性が求められるというか……人間力を高めなきゃというところではそれぞれ苦戦しているかもしれないです(笑)。でも今自分たちがやっていることに関しては、違和感は感じていない。楽しんでやっています。

神宿のストーリーを愛してもらいたい

南波 「グループとして変わっていこう」というスイッチが入ったのは、塩見さんが加入したことと関係していますか?

羽島 めっちゃありますね。ずっと「神宿は最初の5人じゃなくなったら解散」という感じだったので、(関口)なほが辞めるとなったときは、ここで終わりなのかなと思ったりしたんですけど、どうしてもあきらめきれなくて。それで残った4人で話し合って、新メンバーを迎え入れようということになったんです。やっぱり5人で神宿だったので、なほがやっていた緑担当はいてほしいなと思って。

一ノ瀬 私はなほの勇退が決まってから、なぜ自分はアイドル活動に青春を捧げているのか、改めて考えていました。正直、一緒にやってきたメンバーがいなくなったのはつらかった。このまま続けていけたら一緒にどんな景色を見られていたかなと思うときもありました。でも人生で初めてというくらいに頭を働かせて考えて、やっぱり自分はみんなとアイドルを続けたいという答えにたどり着いたんです。そのためにも、なほの勇退をもっとポジティブに捉えたほうがいいし、ファンの方々にも、神宿の未来につながるストーリーを愛してもらえたらいいなと思って。だから緑担当はなかったことにするんじゃなくて、それを継承する形でオーディションをしようという話になったんです。

佐々木 そして塩見さんが現れたという。

羽島 そうなんです。実は私、塩見がすごくタイプで……特に顔が大好きなんですけど(笑)。オーディションで見たときから、直感的に「塩見は影響力のある人だ!」と思って惹かれていたんです。

南波 へえー。でも、それがいいですよね。みんなで「なんで私たちはアイドルやっているんだろう」というところまで考えて、そのうえで塩見さんが選ばれて、今一緒にここにいるわけですから。

佐々木 アイドルも人間だから、みんな普通に悩んだりもするし、どんどん変化していきますよね。そういう人間的な部分が垣間見えるのはすごく興味深いし、その人の人生における、ある重要なパートとしてアイドル活動をしているんだと思うと、そのストーリーに感動してしまう。ちなみに僕は関口さんの勇退後に神宿を知ったわけですが、「春風Ambitious」のMVの最後に関口さんが映るところですごく感動しちゃって。

羽島一ノ瀬塩見 ありがとうございます!

佐々木 ……なんか僕、感動おじさんみたいになってますけど(笑)、リアルタイムで知らなかったのにこんな気持ちになれるなんて、YouTube万歳と言いたい。

一同 あははは!(笑)

左から佐々木敦、塩見きら、一ノ瀬みか、羽島みき、南波一海。

<次回に続く>

神宿

一ノ瀬みか、羽島めい、羽島みき、塩見きら、小山ひなの5名からなる東京・原宿発のアイドルユニット。グループ名は「神宮前」と「原宿」を組み合わせて付けられた。2014年にデビューし、2015年12月に1stアルバム「原宿発!神宿です。」を発表。2017年11月に「原宿発!神宿です。」再録版と2ndアルバム「原宿着!神宿です。」を同時リリースした。2019年1月の東京・渋谷ストリームホール公演をもって、オリジナルメンバーである関口なほがグループを“勇退”。その後、関口の担当カラーである緑を引き継ぐ新メンバーのオーディションが行われ、2019年4月の東京・チームスマイル・豊洲PIT公演にて塩見が加入した。2020年9月に最新アルバム「THE LIFE OF IDOL」をリリース。同年11月に塩見のソロ曲「Twenty」、羽島みきのソロ曲「トキメキ☆チュウ」がデジタルリリースされた。

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベル・HEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」の編集長を務める。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。8月に78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)、11月に文芸誌「群像」での連載を書籍化した「それを小説と呼ぶ」(講談社)が刊行された。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル・PENGUIN DISC主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行い、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。

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【連載】佐々木敦と南波一海の「聴くなら聞かねば!」第3回:神宿と新しいアイドルの在り方を考える(前編)|“THE LIFE OF IDOL” これが私たちの生きる道!
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