宇多丸が特集上映で森田芳光の“音”に対する感性に言及「感覚がヒップホップ」

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特集上映「森田芳光70祭」の初日トークイベントが9月4日に東京・ユーロスペースで行われ、宇多丸(RHYMESTER)と森田芳光の妻で映画プロデューサーの三沢和子が登壇した。

特集上映「森田芳光70祭」初日トークイベントの様子。左から宇多丸、三沢和子。

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森田の生誕70周年および没後10年を機に始動した森田芳光70祭プロジェクト。その一環である本特集上映初日には、初期の自主製作映画映画」と「工場地帯」が上映された。

9月16日に出版される「森田芳光全映画」の編著を担当した宇多丸。彼は森田の商業映画デビュー作「の・ようなもの」から遺作「僕達急行 A列車で行こう」までの描写や技法に、「映画」や「工場地帯」などデビュー前の実験的映画の影響が見られると指摘する。「『工場地帯』のヘリコプターのぼやけた画の気持ち悪さは『39-刑法第三十九条-』のカモメの画の気持ち悪さに通じるし、『映画』のエンディングで2人が消えたような感じで去っていくところは『未来の想い出・Last Christmas』のエンドカットですよね。(初期の自主映画)『遠近術』の花に着色している描写は、完全に『黒い家』のヒマワリです。『椿三十郎』でさえ、初期の実験映画に由来することをやっている。意見が分かれますが、決闘のシーンで敵である室戸の主観ショットを入れていて、あれで『俺の映画にした』という感じがある。自主映画、事件映画出身なんだと強く感じた熱いカットだと思います」と力説した。

また、宇多丸は、森田の“音”に対する感性について「橋の上を走る電車をスローで撮ったり、『黒い家』のクライマックスのお祭りのシーンでも、回転を遅くするという、ヒップホップで言う“チョップド&スクリュード”をやっている。感覚がヒップホップなんです。もし、ご存命だったら『森田さんはもっとヒップホップを聴くべきです』と説得したかった」と述べ、「純音楽的というか、生理的な気持ちよさ・気持ち悪さで編集していて、ミュージックビデオ的なセンスだと思う」と言及する。三沢も同意し「『天気予報』はバンドのウェザー・リポートに触発された作品ですけど、音楽に合わせる速い編集をしています。編集も好きでしたし、当時大事にしていたのは、物語よりも、タイム感覚と音なんだと思います」と振り返った。

料亭だった森田の実家があったのはユーロスペースの付近。三沢は「帳場には芸者衆がいて、あれこれ悪口を言ってる。子供なのに大人の裏側を見ていたんです。近くの百軒店には映画館もジャズ喫茶もあった」と言い、「森田の部屋と庭を挟んで隣がソープランドで、そこの白い壁に映して8mmを観てました(笑)」と明かす。これを受けた宇多丸は森田作品における水商売で働く人々の描かれ方に触れつつ、「こんなに情報が圧縮されたところに住んでた人はなかなかいない。単なる“東京っ子”ではなく、“渋谷・円山町っ子”ですよ。“東京”と一般化できないすごみがある」と述懐する。

最後に三沢は初期の森田作品を「映画館でかかっている映画のマネはしていない」と評し、「今の若い監督は洗練されていて、当時とは違って学生でもスタジオを使って音入れをしたり、デジタルのいい機材を使えるかもしれないけど、若いときは個性を持って撮られたらいいかなと思います。それが今回、これらの作品を観ていただきたい一番の理由です」と思いを口にした。

「森田芳光70祭」ビジュアル

特集上映「森田芳光70祭」はユーロスペースで9月10日まで開催。そのほかの劇場でも順次実施される。なお森田のほぼすべての作品をBlu-ray BOX化した「生誕70周年記念 森田芳光 全監督作品コンプリート(の・ようなもの)Blu-ray BOX」が12月20日に発売。現在予約受付中だ。

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