イオンシネマの上映作品はどのように決まるのか?コンテンツ編成部部長に聞いてみた

「ハースメル」「幸せへのまわり道」配給の経緯とは、Netflix作品「ROMA/ローマ」上映の背景も明らかに

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「ROMA/ローマ」のような作品は状況が許す限りTHXの劇場で

──ここ数年、イオンエンターテイメントさんがNetflix作品を上映されるケースが定番化しています。シネコン系ではほぼイオンシネマの独占状態だと思うのですが、どういう経緯でNetflix作品を上映するようになったのでしょう?

Netflix作品の中には、お客様がスクリーンで観たいと望まれているものがあると判断し、弊社では上映を決めました。決してイオンシネマでNetflixの作品を囲ってるわけではないです。

──Netflix作品でいえば、2018年末に配信されたアルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA/ローマ」を、2019年3月にイオンシネマで劇場公開されましたよね。その際に、(神奈川・)海老名の7番スクリーンという非常に音響がいいスクリーンで上映されていた。僕はそこで観た「ROMA/ローマ」の音があまりにも素晴らしかったので、ほかとも比べたくなって結局3カ所くらい観に行ってしまいました。

「ROMA/ローマ」 (c)Carlos Somonte

ああ、最初に海老名で観ちゃったんですね(笑)。

──そうなんです(笑)。結論として、やはりあの映画の音響には海老名の7番スクリーンがピッタリだったと思いました。ただ7番スクリーンってイオンシネマ海老名では一番客席数が多い。「ROMA/ローマ」も劇場公開が広く周知されていたわけではなかったですし、決して動員も多いわけではなかったと思うんです。それでもメインのスクリーンで上映するという判断は、どこで誰がされたのでしょうか?

海老名の7番スクリーンは、現在は525席あります。そこで500人も入らないであろう作品をやるかどうかを決めるのは、私が所属しているコンテンツ編成部なんです。

──じゃあ小川さんのおかげですか! ありがとうございます!(笑)

いや、そういうことではないですけど(笑)。どのスクリーンでどの作品をかけるかは、前週の動員を見ながら毎週決めています。今だったら「花束みたいな恋をした」がヒットしてるから来週は海老名の7番スクリーンでもやろうとか、いまいち数字がよくない作品は回数を減らそうとか、そういう判断はどこの興行会社もしていると思うんです。

ただ弊社の劇場は今92館(※編集部注:2021年3月5日に宮城・イオンシネマ新利府がオープンし現在は93館)ありまして、それぞれ特性もありますので、全部が同じラインナップにはなりません。例えばこの作品は関西では人気だけど、関東ではいまいち人気が弱いということは普通にありますし、同じ県でも隣の劇場のほうが若者が多いという特性があったりもします。海老名の7番に関しては、THX認定のスクリーンで、音響面で非常に好評をいただいておりますので、音響を感じ取れる映画を極力置くようにしています。その中で「ROMA/ローマ」もかけることになりました。

例えば「スター・ウォーズ」や「エヴァンゲリオン」みたいな作品を海老名の7番で観たいという声は多数いただきますし、もともとヒットが見込めるタイトルですので合理性もあるんですが、何十億もの興行収入が見込めない作品でも、いい音響で観るニーズがあるのであれば、状況が許す限りTHXのスクリーンでやりたいんです。朝から夜までずっとかけることはできませんが、1日1回だけでも「ROMA/ローマ」みたいな作品を大きいスクリーンでかけることは心がけています。結果的に自社競合になってしまうこともあるのですが、海老名の7番でやるなら海老名に行こうと思っていただけるような差別化につながるのかなという意識でも編成しております。

神奈川・イオンシネマ海老名の7番スクリーン。

──海老名の7番スクリーンのナチュラルなサラウンド感っていうのは、やはりイオンシネマさんの全785スクリーン(※編集部注:現在は796スクリーン)ある中でも特別なんでしょうか?

やはり音響でいい評判をいただいているのは海老名の7番スクリーンと、あと(千葉・)幕張新都心の8番スクリーン。幕張はULTIRAというシステムが入っていますし、Dolby Atmosも有しています。例えばアニメ作品の「ガールズ&パンツァー」みたいな作品をやると幕張は非常によく入る。劇場の支配人やスタッフがうまく宣伝をしてくれていて、劇場自体をブランド化させる取り組みも行っています。

──「スパイダーマン:スパイダーバース」の吹替版の音響を「ガールズ&パンツァー」の岩浪美和さんが監督されていて、イオンシネマ幕張新都心のAtmosを調整されたことも宣伝されていましたよね。そういう部分に反応する映画ファンが増えていけば、イオンシネマさんにもいろんな冒険をしていただけそうですね。

そうですね。ただ、編成する側としては意識をしていますけれど、一朝一夕には伝わりませんし、そこは劇場支配人、スタッフの熱量のおかげだと思います。例えば海老名の7番スクリーンでの鑑賞をすごく特別感のあることにまで高められたのは、長年の積み重ねがあったからで、「じゃあ明日から隣の劇場でも同じことをしましょう」と言っても、お客様の支持はすぐには広がらないだろうなとは思いますね。

──2016年に「この世界の片隅に」が公開されたときも、のちにロングランになりましたが、公開当初は館数も少なく知名度も低くて、同時期に「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」も上映されていたのに、なぜか滋賀県のイオンシネマ近江八幡がTHX認定の大きなスクリーンで上映していて驚きました。実際スゴい音でブッ飛びましたが、普通なら「ローグ・ワン」に充てるスクリーンじゃないかとも思ったんです。ああいう編成は、各劇場からの声も反映されているんでしょうか?

先ほど、私が所属するコンテンツ編成部が決めると申し上げましたけれども、あくまでも劇場と協議をしながら進めています。こちらから「来週はこれが一番入るだろうから、一番大きいところでやりましょう」と言っても、劇場から「いや、このエリアだったらこっちのほうが入る」と言われたりもして、議論を重ねながらやっていますね。劇場側が独自に創意工夫を重ねて宣伝をしていて、「この映画に手応えがある」と言ってくることもあります。

作品のスケジュールを決めるコンテンツ編成部の人間にも、劇場の支配人やスタッフにも映画に対する思いは強くあります。劇場の売店ではポップコーンなども売っていますけれど、あくまでも一番の売り物は映画ですから。映画を介してお客様にいい体験をしてもらうことが映画館を運営する意味でもありますので、映画という商品をとても大事に扱っているつもりです。

上映作品に自主規制を働かせると楽しみを半減させてしまう

──別のケースとして、「新聞記者」のように社会的に物議を醸した作品がありますよね。「新聞記者」の場合は、結果的にインディペンデント系の日本映画の中で非常に成功した作品になりましたけど、編成する際の決断が世相や社会的な騒動に影響されることはありますか?

弊社は映画館、興行会社ですので多くの映画を取り扱うのがスタンスです。もちろん公序良俗に反するようなものをかけることはないのですが、大前提として劇場公開できるものから選んでいるわけですから、主義主張を絡めて勝手に自主規制を働かせると映画の楽しみを半減させてしまうと思っています。

「これは政治のなんとか党寄りだ」とか「これはなんとか教だ」とか言い出すと、突き詰めれば映画なんて全部上映できないことになると思うんです。「新聞記者」に関してもあくまでもフィクションですし、そこで線を引く、蓋をするっていうのは弊社では基本的に考えないようにしていますが、1作品1作品を会議にかけてよく吟味して最終決定しています。

──最後になりますが、これから公開される配給作品の中から、小川さんが個人的に推している作品を教えていただけますか?

フランスの女子サッカー選手の話で「クイーンズ・オブ・フィールド」(3月19日公開)を推したいです。フランス語の映画という時点で敬遠される方もいるかもしれませんが、軽いタッチの映画で、非常に今の時代にも合っていて、ワンオペ育児や男女間の問題も多分に含まれている話です。これは観る人を選ばない作品だと思います!

「クイーンズ・オブ・フィールド」 (c)2019 ADNP - KISSFILMS - GAUMONT - TF1 FILMS PRODUCTION - 14EME ART PRODUCTION - PANACHE PRODUCTIONS - LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE

※取材元の要望により、記事初出時から一部表現を変更しました

イオンエンターテイメント 主な配給作品

2019年

4月5日公開「4月の君、スピカ。
6月28日公開「新聞記者」
10月25日公開「ロイヤルコーギー レックスの大冒険

2020年

1月10日公開「明日、キミのいない世界で
2月7日公開「ザ・ピーナッツバター・ファルコン
3月6日公開「劇場版 おいしい給食 Final Battle
7月10日公開「インビジブル・シングス 未知なる能力
7月17日公開「ライド・ライク・ア・ガール
7月31日公開「ブレスレット 鏡の中の私
8月28日公開「幸せへのまわり道
9月11日公開「マイ・バッハ 不屈のピアニスト
9月25日公開「ハースメル
11月6日公開「モンスターストライク THE MOVIE ルシファー 絶望の夜明け
11月6日公開「感謝離 ずっと一緒に
11月13日公開「パウ・パトロール カーレース大作戦 GO! GO!
11月20日公開「ばるぼら
11月27日公開「真・鮫島事件

2021年

1月8日公開「スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち
1月8日公開「エマの秘密に恋したら
1月29日公開「おもいで写眞
4月2日公開「ゾッキ
4月9日公開「砕け散るところを見せてあげる
5月7日公開「未来へのかたち
秋公開「マイ・ダディ
年内公開「都会のトム&ソーヤ
年内公開「太陽の子」
年内公開「神在月のこども

小川進(オガワススム)

1974年3月17日生まれ。好きな映画は「殺しの分け前/ポイント・ブランク」。好きな俳優は「JUNO/ジュノ」「レゴバットマン ザ・ムービー」などで知られるマイケル・セラ。

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요시다유키히로 ЁсидаЮкихиро @yshdykhr

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