2010年代の東京インディーズシーン 第6回 [バックナンバー]

2012年の「下北沢インディーファンクラブ」

“東京インディー”が顕在化した1日──そこにあったのは未成熟さが作り出す熱と混沌

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“東京インディー”は“東京ローカル”でもあった

ここで貴重な証言者をもう1人。ソロやGellersのメンバーとして「インディーファンクラブ」にも出演経験のあるトクマルシューゴ。彼もまた00年代からインディーシーンの変遷に立ち会い、人と場所をつないできた人物だ。八丁堀のライブスペース・七針に出演していた王舟を、自ら主催する野外イベント「Tonofon Festival 2011」(2011年6月12日、所沢航空公園)にいち早くブッキングし、ライブ後に王舟が持参した200枚のCD-Rが完売するほどの衝撃を与えたことは、強く記憶に残っている。

「00年代のインディーシーンは、異様な空気やグツグツした“煮込み感”のあるディープなイベントが中心でしたが、2010年から始まった『インディーファンクラブ』は、そういうイベントに出ていたバンドたちが、名前は知ってるけどあまり関わりのなかったバンドとも集まってワイワイできる機会だったと思います。メジャー経験者もいましたが、そういうバンドも普段とは違う生々しい一面を見せたり、その言葉通り“インディー”なバンドはそのカッコよさを多くのお客さんたちの前で証明できる場になっていた。あとミュージシャン自身も普段は観ないようなバンドも観ることができて、お互いにとって刺激的な場でもあったと思います」(トクマル)

2012年当時のトクマルシューゴ。

2012年の「インディーファンクラブ」を巡って、大きく浮上したワードに“東京インディー”がある。前出の僕と九龍ジョーの対談でも、冒頭に「いま東京インディというくくりで注目されている」と九龍が触れている。角張は、“東京インディー”とは、地方に呼ばれないから東京でのライブを中心に活動していた“東京ローカル”という意味でもあったと前置きしてこう語る。

「今って、ホームタウンみたいなライブハウスを持ってるバンドがあんまりいないと思うんです。当時は『あのバンドはネスト(現:Spotify O-nest)によく出てるよね』みたいな印象がけっこうあって。O-nestやWWWが起点になっていましたね。下北でもSHELTER、FEVER、CLUB Queも老舗だけど磁場みたいなものを感じていた。そういう意味での拠点が、当時の東京にはあったかな」(角張)

角張渉

カオスになるのを望む熱量

また、2020年にこの連載「2010年代の東京インディーズシーン」の第2回として公開されたスカート澤部渡、ミツメ川辺素、トリプルファイヤー吉田靖直による鼎談(「3組が振り返る“東京インディー”の10年間」 / 構成:松永良平)では、澤部がこんな証言をしていた。

昆虫キッズシャムキャッツが、僕のイメージする“東京インディーシーンで最初に出てきた人たち”でした」(澤部)

その発言は、曽我部のこの証言とも呼応するものだ。

「“東京インディー”というシーンがあったとすれば、それはシャムキャッツが象徴していた気がする。あの純な感じ、アマチュアイズムというか。未完成でやるんだ、というところも含めて、本人たちがどのくらい意識的だったのかわからないけど、彼らが象徴していたんじゃないかな。昆虫キッズしかり、国民的なバンドになる必要はないし、構造としてそこを拒否していたところがある。刹那的な貴重さというか。スカートはそれを今打破しようとしているんじゃないかな」(曽我部)

2012年当時の昆虫キッズ。

2012年当時のシャムキャッツ。

そして、曽我部が語る「未完成」という言葉は、「インディーファンクラブ」主催サイドの角張も重々承知で実感していたことだった。

「2010年代はインディーの音楽が成熟していってた時期だという実感があったし、その点で1つの役割を果たせたとは思ってます。ああいうイベントが2010年代前半にあったのは面白かったなと思いますね。世代感もしっかり出ていた。いいバンドいっぱい出てますよね。今ではZeppクラスの大きな会場に出てるバンドもいる。自分では意識してなかったけど、このときのメンツは独特なものでしたね。でも、『予告なくタイムテーブルが変わることがあります』とも書いてありますね(笑)。1バンドの持ち時間30分で、転換も30分。そのタイトさも含めて、破綻してるところから始まってる。そもそもダムが崩壊してるというか。でも、『ダムが崩壊するくらい、いいバンドが出ている』という表明でもあった。みんなに元気がなかったらああいうことはできなかったし、未成熟さや不安定な部分も含めて楽しめた。言ってみれば、ハードな現場になるのがわかってるのにそれを望む熱量が主催側やスタッフにもあったということですから」(角張)

角張渉

現場至上主義が足枷になっていたのかもしれない

昆虫キッズが解散した2015年が「インディーファンクラブ」が最後に開催された年だという事実は、偶然のようでいて、次の季節への変化を示していた巡り合わせだったのかもしれない。最後に、4人の証言者たちが感じる、かつてと今のインディーシーンの違いについて聞いた。

「自分の状況や感覚が当時とは違いすぎて、今と比較することが難しいです。当時のように小さいライブハウスに入り浸っていないのであまり知らない状況になってしまっている。身内以外の20代のバンドなどに出会うことも少なくなっている。もしかしたらクローズドな雰囲気を作ってしまっているのかもしれない。非常に残念だ。そんな風潮が嫌で自分も当時サーキットフェスの一部の主催をやったりしたのに」(あだち)

「いろんなシーンに片足を突っ込んできた自分としては、集客力はないけど水面下でモヤモヤと面白いことをやってるインディーなミュージシャンたちがたまたま集まると、なんだこりゃー!と盛り上がる瞬間があって、あとあとになってから『あ、あれってシーンだったんだ……』と思うことが多いので、本当のインディーシーンは今も目に見えないところにあるということは変わってない。違いとしては、デジタルネイティブな人が増え、ファンやミュージシャンのコミュニケーションの場がライブハウス中心ではなくなったことで、よりインディーシーンが見えづらくなってしまった、というのはあるかもと思います」(トクマル)

「当時も今も変らないと思うんだけどね。でもあの当時は、みんながこれから盛り上がっていくんじゃないか?っていう期待感があった気がする。今はもうちょっとみんな勝手にやってるのかな。昔はCDをどうやって出せるのかもわからなかったけど、今ってすぐに配信できちゃうしね。でも僕は、それでいいじゃんって思ってる。僕らの頃は、ライブをやらないと話にならなかった。今は、ライブは苦手だけどYouTubeで歌ったり、音源をアップしたりできる。現場主義ってことに意味がなくなっているわけでしょ? それはすごくいいと思うけどな」(曽我部)

「今はサブスクの再生数とかSNSの瞬間風速みたいなものに評価の基準がいっちゃってる。だけど、インディペンデントな人たちは今でもライブをやってるし、今もすぐ観に行ける。いい音楽を作り続けてる人たちはずっといるんですよ。スポットライトが当たる人は限られてるけど、振り返るとそうではない人たちがいたシーンとか土壌がちゃんとあって、今売れてる人たちにもつながってる。2010年代前半、『インディーファンクラブ』でそういう注目は集まったんじゃないかな。みんながライブハウスを継続して、つないでるという“見えない駅伝”みたいな感じ? ちょっとよく言いすぎですけど(笑)。ただ、以前はYouTubeでバンドを選んだりするのは申し訳ないなと思ってたんです。でも、若いバンドの人と話したら『それで選んでもらえるんだったら全然いいですよ!』と言う子たちもいる。磯部くんにも『若い子たちにとってはYouTubeもSNSもライブハウスも同じ現場だと思った方がいいよ』と言われました。実際、Local Visionsみたいにネットが拠点の魅力的なレーベルもあるし。ライブハウスで観てカッコいいと思わないとダメだっていう現場至上主義が足枷になっていたのかもしれない、とここ数年は僕も感じてます。だからもし今『インディーファンクラブ』をやるとしたら、またちょっと違う感じになるのかな」(角張)

あれから10年経って変わってしまったものは大きい。この3年はコロナ禍もあり、人の集まり方も変化した。かつてのようにフェスは再開しているようにも見えるが、すべてが元通りには戻れない。「インディーファンクラブ」をまたやってみては?と角張が聞かれる機会も少なくないそうだ。ただ単に、いいバンド、新しいアクトがそろっていればいいというだけではなく、未成熟ゆえの熱量が伴っていた2012年の幸福な混沌をもう一度作り出せるか。それはわからない。無理かもしれない。現代には現代の、もっとオーガナイズされ、リモートも含めた集い方があるだろう。だが、それを作るうえでのヒントになる奇跡的な(綱渡り的な)ビジョンは、2012年のあの時間と場所に確かにあった気がする。

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ヘッダー画像:「下北沢インディーファンクラブ」2012年のフライヤー。

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トクマルシューゴ @shugotokumaru

インタビュー答えました。
2010年代以前も(URC以前から)やってくれることお待ちしております! https://t.co/xiXCN7JOQW

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