佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 13回目 前編 [バックナンバー]

もふくちゃんとアイドルグループの持続可能性を考える

ジョージ・クリントンから学んだ“スメルフィンガー”の感覚

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メンバー探しの基準は「藝大にはいない人たち」

佐々木 でんぱ組.incのメンバーを集めるにあたって、もふくちゃんの中ではどういう基準があったんですか?

もふくちゃん 基準としては、まず藝大にはいない人たちですね(笑)。藝大の中でも音校は特にエリート社会だったし、クラシック業界は閉塞感があって、自分はその中では落ちこぼれだったんで、そういう人たちとうまく馴染めなかった。音大や藝大はやっぱりどこまでいってもエリート集団ではあるんですよね。

佐々木 いや本当に。間違いなくエリートだよね。

もふくちゃん 3歳からピアノを習って、国立音大付属高校から東京藝術大学に進学して。周りもお嬢様ばかりだったからずっと無菌状態だったんです。そこで初めて秋葉原の人たちに出会ったとき、「これはヤバい」と思っちゃって。リストカットの痕とか初めて見て意味わかんなくて。いわゆるメンヘラにも秋葉原界隈で初めて会ったんです。メンヘラが本当にいなかったんですよ、大学に至るまで。

もふくちゃん

南波 メンヘラ的な要素とは無縁な環境ですよね。みんなスクスク健やかに育って。

もふくちゃん 初めて会う人種ばかりだったから単純に面白くて新鮮だったんですよね。そもそも(古川)未鈴ちゃんが中学も半分行ってなくて「中学中退だー」って言っているのを聞いてビックリして。「中学中退って何? そんなことできるの⁉」みたいな(笑)。

佐々木 「義務教育じゃないんだ!」って(笑)。

もふくちゃん みんな本当に今まで出会った人たちと違うのでビックリしました。普通に生きてたら身に付くであろう常識がスコーンと抜け落ちてる人たちばかりだったので。ただ何かが抜け落ちてる人って、違う強烈な何かを持ってるんですよね。とにかく会う人、会う人、みんな個性的で面白かった。ただ、そういう子たちを集めてグループを立ち上げるとなると、やっぱり大変で。

佐々木 それはそうだよね。

もふくちゃん 決められたことを普通にはやれない人たちばかりなんで(笑)。「がんばれない」ということをこっちは全然理解できなくて。クラシック業界なんて超マッチョですよ。努力することがデフォルトにある状態の中で、いかにして、ほかの人たちを出し抜いていくかという世界なので。

佐々木 高級官僚みたいな世界ですよね。

もふくちゃん ホントそうです。「●●先生と●●先生に付いて個人レッスンも週何回通って」みたいな熾烈な争いを日々行っていて。それに比べて、秋葉原のやつらは何事もがんばれないんですよ。「歌を練習しよう、踊りを練習しよう」とか呼びかけても「眠くて起きれません」「モンハンで忙しいです」みたいな(笑)。そのくせ深夜のアニメは欠かさず観てるんですよ。「えっ! 本当のクズだ!」と思って。最初は苦労しました。でもいざっていうときにすごい謎のパワーを発揮するんですよね。もしかして天才なのかな?って思い始めて。

佐々木 それがいつの間にか徐々に人気が出てきて。世の中に、でんぱ組.incという名前が轟いていくわけじゃないですか。本人たちにも手応えはあったんですか?

佐々木敦

もふくちゃん あったと思います。ただ本人たちの中ではワケのわからないことも多かったんじゃないかな。今でも思い出すんですけど、Chim↑Pomの展覧会にでんぱ組.incが出演させてもらったとき、「やっちまった!」ってことがあったんですよ。「現代アートの展覧会でライブができる!」と思って喜び勇んで会場に行ったら、女体盛りをやってて。

佐々木 芸術活動の一環として(笑)。

もふくちゃん 女体盛りをしてる前でライブをしてくださいって突然言われたんですよ。そしたらメンバーが「怖い怖い、どうしよう……」って泣き出しちゃって。そのときは夢眠ねむちゃんが、ほかのメンバーに説明してくれたんです。「大丈夫だよ。これはあくまでアートだからね」って。

南波 さすがです。

南波一海

もふくちゃん ねむちゃんみたいな翻訳者がグループにいてくれたことは本当に助かりましたね。小沢健二さんの「強い気持ち・強い愛」をカバーさせてもらったときも、みんな「小沢健二って誰? 聴いたことない」みたいな感じだったんですけど、ねむちゃんが一生懸命説明してくれて。そういうことの繰り返しでした。

南波 それぞれがキャラ立ちしてたこともあってか、でんぱ組.incはある時期からどんどん各メンバーのキャラクターにフォーカスしていきましたよね。秋葉原という“街”から、“人”にフォーカスしていったというか。

もふくちゃん そうですね。秋葉原から生まれたグループが、地方の人だったり、多くの人たちに認知してもらうためには、キャラクターをより明確に打ち出したほうがいいかなと思ったんです。「ハルヒ」や「らき☆すた」のキャラクター性って三次元でも使えるなって。なので一時期は、メンバーのキャラ作りをかなり徹底しましたね。「あなたはこれを好きって言っちゃいけない」とか。キャラがブレないように。

佐々木 めちゃくちゃコンセプチュアル(笑)。

もふくちゃん メンバー自身も「二次元になりたい!」って言ってたので(笑)。みんなアニメが好きだったから話が早かったんですよ。二次元のキャラを演じることに躊躇がないし、むしろ本名の自分は本当の自分じゃない、みたいな感じだったんで。そう考えると今は時代が変わって、みんな「自分をいかに盛っていくか」みたいな感じですよね。キャラを演じてほしい、と思っても全然言うことを聞いてくれない(笑)。

佐々木 はははは。

もふくちゃん 髪の色も勝手に変えちゃうし、「なんで私が、それを好きって言わないといけないんですか?」とか「前は好きだったけど、もう好きじゃなくなりました」とか平気で言いますから(笑)。でんぱ組.incがスタートした頃は、自分じゃない誰かを憑依させて、どこか遠いところに行くみたいなところがメンバーの共通意識としてあったんですけど、今の子たちは全然違いますよね。自分を1.5倍に盛るとかそういう感じで。

佐々木 別人になるというよりも、自分を増幅させる感覚というか。

もふくちゃん 整形したり髪の色を変えたり、パーツを替えて、自分を盛っていく感じなんでしょうね。でも当時の秋葉原の奴らは別の人間になるのが生き甲斐だったので。なんならアニメの絵になるくらいの勢いで(笑)。「一生、ツインテールで生きていきます!」みたいな。でも、毎日髪色を変えて生きていきたいっていう今の子たちのマインドもとてもいいなと思って、今ではちょっと考え方も変わりましたね。

ファンク=スメルフィンガーの感覚

佐々木 秋葉原という街に注目が集まっていく中で、AKB48というグループも誕生したわけじゃないですか。同じ秋葉原という街から生まれたのに、2つのグループは、まったくカラーが違いますよね(笑)。

もふくちゃん 見事に違いますね。何から何まで。

佐々木 やっぱり、でんぱ組.incのほうが強烈な土着性を感じるというか。そもそも住むところから始まってるわけだし(笑)。

もふくちゃん 秋葉原に住んで、秋葉原の飯を食うところから始まっているので。私はP-FUNKが好きなんですけど、P-FUNKファミリー総帥のジョージ・クリントンが、あるインタビューで「ファンクとはなんですか?」って聞かれたときに、「スメルフィンガーだ」って答えていたんですよ。ダラダラアイスを垂らしながら(笑)。要するに、「この世の中の汚いものを指でグルグルかき混ぜてその匂いを嗅ぐこと、それがファンクだ!」って。10代のときにそのインタビューを読んで「キャー! カッコいい!」って思ったんですよ。「わかる、わかる!」ってめちゃくちゃ感銘を受けて。ファンクかどうかっていう違いはすごくあると思うんですよね。

佐々木 ファンク=スメルフィンガーの感覚があるかどうか。

もふくちゃん 私の中ではそれがすごく重要で。当時の秋葉原では楽しいことだけじゃなくて、それこそ通り魔事件だったり、本当に日々いろんなことが起こっていて。でんぱ組.incというのは、秋葉原という街に漂っていた空気をグルグルかき混ぜる中で生まれたグループだと思うんですよね。かたやAKB48は、みんなかわいくて、清潔で、何よりも臭くない(笑)。基本的にみんな臭いものって嫌いじゃないですか。そりゃ向こうのほうが一般受けしますよ。最初から別モノだなと思ってました。

<後編に続く>

もふくちゃん

東京都出身の音楽プロデューサー、クリエイティブディレクター。東京藝術大学音楽学部卒業後、ライブ&バー・秋葉原ディアステージやアニソンDJバー・秋葉原MOGRAの立ち上げに携わり、でんぱ組.inc虹のコンキスタドール、ミームトーキョー、ARCANA PROJECT、わーすたなどのアイドルに加えて、PUFFYをはじめとする多くのアーティストのクリエイティブおよび楽曲プロデュースを手がけている。6月21日には、Tahiti 80、ギターウルフ、桃井はるこ、ヤマモトショウら豪華な作家陣を迎えた、でんぱ組.incの新作EP「ONE NATION UNDER THE DEMPA」がリリースされる。

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベル・HEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」の編集長を務める。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。同年8月に78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)、11月に文芸誌「群像」での連載を書籍化した「それを小説と呼ぶ」(講談社)が刊行された。近著に「映画よさようなら」(フィルムアート社)、「増補・決定版 ニッポンの音楽」(扶桑社文庫)がある。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル・PENGUIN DISC主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行い、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。

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読者の反応

夢眠ねむ @yumeminemu

もふくちゃんの面白さをもっとみんなわかって欲しいんだけど……とこの前もふく本人に溢してたんですが、ちゃんと話が合う人とお話しできてて本当に良かった😂🙏
後編も読みました。 https://t.co/CDGiPquQg9

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