細野ゼミ 補講1コマ目(前編) [バックナンバー]

ソウルミュージック補講

細野晴臣が愛聴していたソウル作品、驚かせた手練れのアーティストは?

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ベーシストは皆チャック・レイニーの影響下にあった

ハマ ほかにも、「細野さんをあっと言わせた」じゃないですけど、聴いたときに驚きがあった人は?

細野 僕が20代の頃はスタジオミュージシャンとしての生活が長く続いたんだけど、やっぱりベーシストだから、ベースがいいものを聴くようにしていたんだよ。そうすると、当時はチャック・レイニーになっちゃう。ラリー・グラハムもいたけど、彼の場合はスタジオワークの参考としては向いていないっていうかね(笑)。岡沢章くんとかもそうだったけど、同業者たちはみんなチャック・レイニーに影響を受けてた。

安部 やっぱりベーシストはチャック・レイニーを聴いたほうがいい?

ハマ バンドマンというよりはスタジオワークをたくさんこなしている人。いろんなジャンルのレコードのクレジットに出てくるから。

細野 あとはベースだけではなくて、ドラムとのコンビネーションだよね。だから、ドラマーもチェックしないといけないわけだ。

安部 ああ……ベースの話題になっているので関連して話すと、実はベースとドラムについては本当に悩んでて。

ハマ ネバヤンにおける?

安部 ネバヤンでも、自分のソロの作品でも。細野さんもハマくんもそうだけど、「なんでそこに音を置けるの?」「なんでそこに動けるの?」って自分ではわからないんですよね。そんなわけで、最近みんなで「リズム隊の絡みも自分たちでできないかな」「リズムのことを勉強しなければいけないな」と話していて、それもあってバンドではっぴいえんどの「はいからはくち」をコピーして練習しているんです。

──ちなみに安部さんは、バンドのボーカリストとして、あるいはバンドの曲を作る人として、「ベースはこうあってほしい」のような考えがあるんですか?

安部 んん……。

ハマ 頭抱えちゃったよ(笑)。

安部 ははは。ベーシストじゃない僕の頭で考えると、普通に白玉で“ドゥッ ドゥッ”っていっちゃうんですけど、細野さんとかハマくんとかのベースを聴くと、動くのに歌とぶつかってなくて、かつウネってて、ドラムとも絡んでて、曲全体をすごく豊かにしてくれている。すごく大事なんだよなって改めて思って、「あー!」って……。

ハマ 「あー!」ってなってるの(笑)。

安部 自分の中に引き出しがないので、勉強が必要なんだよね。今日話に出てくる人たちは、まさにそういうことの参考になる人たちなんだろうなって思ってる。

ハマ 確かにソウルやファンクって、ジャンル的には“印象的で動くベースライン”が多用されてはいますよね。さっき細野さんが言っていたスライだと、「Fresh」ってアルバムに入ってる「If You Want Me to Stay」とかはいいかも。勇磨が言うように“ドゥッ ドゥッ”なんだけど、ベースラインがメインで、ルートだけ弾くのも実はめちゃくちゃ難しくて……その塩梅がすっげえ!っていう。僕はその曲を聴いて「真似できねえな」と思った。

If You Want Me to Stayの再生はこちら

安部 とにかくチャック・レイニーさんも含めてだけど、そういう人たちの音楽をちゃんと聴いてみようと思う。

ベースを家に持ち帰ったことがない細野晴臣が1日だけ……

ハマ 話を戻すと、ブラックミュージックのドラマーという点で、細野さんが特に注目していた人はいたんですか?

細野 チャック・レイニーとのコンビで、やっぱりバーナード・パーディは外せない。その後はスティーヴ・ガッドが出てくるね。スティーヴ・ガッドは、“プロのスタジオミュージシャン”だなと思うね。そういえば、ついこの前ブルーノート東京の前を通ったらスティーヴ・ガッドが公演をやっていたんだよ。ひっそりと来るんだよね(笑)。

ハマ “プロ”というのは、いろいろなジャンルに対応できるから、っていうことですかね。

細野 そうだね。全部は知らないけど。彼のバンド、なんだっけ……Stuff(※ニューヨークの手練れのスタジオミュージシャンたちで結成されたバンド)だ。Stuffのメンバーは全員好き。リチャード・ティーがキーボードでね。

ハマ プロ集団って感じですよね。

細野 そう。もう、ミュージシャンとしての憧れですね。彼らのことは、ポール・サイモンのアルバムで勉強させられたよ。

安部 あー。

ハマ 「恋人と別れる50の方法(原題:50 Ways to Leave Your Lover)」のドラムとか、すごいですよね。

50 Ways to Leave Your Loverの再生はこちら

細野 すごい。アイデアがすごい。

──ちなみに本編のときも、細野さんが「バーナード・パーディとチャック・レイニーにすごく教育された」とおっしゃっていましたね。

ハマ うわ、我々、同じことを話してまた盛り上がってるんですね(笑)。

細野 ベースの話をすると、僕は大学生の頃はピックで弾いていたの。The Beatlesみたいにね。それでThe Impressionsとかを聴くようになったり、白人のサイケ系バンドだけどR&Bをやってる連中とかの写真を見ると、みんな2本指で弾いているわけだ。そういうのを見て「カッコいいな」って思って指弾きを始めたの。でもチャック・レイニーを聴いていると「2本指だけじゃ足りないな」って。親指を使わないとできない。ハーモニクスを使ったり、いろんな技があるんだなってことを勉強したよ。ベースってE弦やA弦しか使わないものだと思っているけれど、やっぱり最高部の音をうまく使う、ハーモニーを使うっていうね。そういう影響があったな。

ハマ ハイフレットを。細野さん、かなりプレイにも影響が出てらっしゃいますよね。ユーミンさんの楽曲に携わられていた頃の演奏とかを聴くと、ハーモニクスを使っていて。でも、そこには“細野さん印”もある。

細野 僕、ベースを家に持ち帰ったことがないんだけどさ……。

安部 えええ!?

細野 でも1日だけ持ち帰って、親指を使った奏法を一晩中練習したの。「The Chuck Rainey Coalition」っていう、チャック・レイニーのソロアルバムの曲をコピーした。それで親指と人差し指で弾くようになって。

The Chuck Rainey Coalitionの再生はこちら

──習得されたんですね。

細野 習得っていうか、自分なりのスタイルでできるかなと。

安部 なんでほかの日はベースを持ち帰らなかったんだろう(笑)。

ハマ もう完全に、その日の練習がそこから先の細野さんのスタイルにつながっている(笑)。

細野 まあそうだね。で、そのうちにチョッパー奏法が流行って、当時ミカ・バンド(サディスティック・ミカ・バンド)にいた後藤次利がものすごいチョッパーを弾くようになっててね、びっくりしちゃった。「どうやってやんの?」って教えてもらったんだけけど、「僕には向いていないな」と(笑)。味付けで使うこともあるけどね。

ハマ そこに関連した質問をしたいんですけど、YMOの「テクノポリス」なんかのベースを聴いていると、フレーズを弾くというよりは、けっこう“プル”(※人差し指や中指で弦を引っ張って音を出す奏法)を入れているじゃないですか。“んぺっ“とか(笑)。僕は細野さんのああいうパーカッシブにベースを使う感じがすごく好きなんです。モロに影響を受けているので、自分のバンドの曲でも使っているくらいで。ああいう発想って、何かの影響があってのことなんですか?

細野 そういうわけじゃないんだよね。YMOの頃は基本は打ち込みだから、MOOGのシンセベースを使っていたしね。それに付け加える形だった。ああいうの、スライのベースに近いかもね。ラリー・グラハムとか、そのあとに入ったラスティ・アレンとか。ムッシュに「アルバムを一緒に作ろう」って言われて、曲を提供したらスライみたいになっちゃったりしたこともあったくらいだから(笑)。

ハマ その当時、スライにハマって聴きまくっていた時期だったんでしょうね。

細野 そうそう。チャック・レイニーは“業務用”で(笑)。

<近日公開の後編に続く>

細野晴臣

1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2021年7月に、高橋幸宏とのエレクトロニカユニット・SKETCH SHOWのアルバム「audio sponge」「tronika」「LOOPHOLE」の12inchアナログをリリース。9月にオリジナルアルバム全3作品をまとめたコンプリートパッケージ「"audio sponge" "tronika" "LOOPHOLE"」を発表した。

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安部勇磨

1990年東京生まれ。2014年に結成されたnever young beachのボーカル&ギター。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演。2016年に2ndアルバム「fam fam」をリリースし、各地のフェスやライブイベントに参加した。2017年にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表。日本のみならず、上海、北京、成都、深セン、杭州、台北、ソウル、バンコクなどアジア圏内でライブ活動も行い、海外での活動の場を広げている。2021年6月に自身初となるソロアルバム「Fantasia」を自主レーベル・Thaian Recordsより発表。2023年5月17日に新作EP「Surprisingly Alright」を配信と12inchアナログでリリースする。

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ハマ・オカモト

1991年東京生まれ。ロックバンドOKAMOTO'Sのベーシスト。中学生の頃にバンド活動を開始し、同級生とともにOKAMOTO'Sを結成。2010年5月に1stアルバム「10'S」を発表する。デビュー当時より国内外で精力的にライブ活動を展開しており、2023年1月にメンバーコラボレーションをテーマにしたアルバム「Flowers」を発表。またベーシストとしてさまざまなミュージシャンのサポートをすることも多く、2020年5月にはムック本「BASS MAGAZINE SPECIAL FEATURE SERIES『2009-2019“ハマ・オカモト”とはなんだったのか?』」を上梓した。

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