ニコラ・フィリベールが語る、ドキュメンタリーを作るのは「他者と世界に出会うこと」

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第73回ベルリン国際映画祭で金熊賞を獲得した「アダマン号に乗って」の初日舞台挨拶が本日4月28日に東京・ヒューマントラストシネマ有楽町で行われ、来日中の監督ニコラ・フィリベール、特別ゲストとしてエッセイストの内田也哉子が登壇した。

ニコラ・フィリベール

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「アダマン号に乗って」場面写真

本作はパリ・セーヌ川に浮かぶデイケアセンターの船・アダマン号に集う人々を追ったドキュメンタリー。「音のない世界で」「ぼくの好きな先生」などで知られるフィリベールは、共感的なメンタルケアを貫くアダマン号で、精神疾患者が社会とのつながりを目指し創造的な活動をするさまを捉えていく。

フィリベールと20年来の交流を持つ配給会社ロングライドが「人生、ただいま修行中」に続いて日仏共同製作として参加。フィリベールはまず「こうして来れたことをとてもうれしく、誇りに思います。ロングライドの波多野(文郎)さんをはじめ、スタッフの皆さんが公開のために努力してくださったおかげです」と感謝を伝える。また「アダマン号は船でありながら、セーヌ川を航行するわけではなく、川に浮いている建造物です。だから旅はしない。でも『アダマン号に乗って』という作品は、ここ日本まで旅をしてきました」と話す場面もあった。

「アダマン号に乗って」初日舞台挨拶の様子。左からニコラ・フィリベール、内田也哉子。

フィリベールに花束を贈呈した内田は流暢なフランス語で挨拶。日本公開と金熊賞受賞を祝福しつつ「カメラを向けられた人は、どうしても自然さが失われてしまうんですけど、本当に自然に溶け込んでいて。まるで(撮影者が)誰もいないかのように撮られている。しかしながら、フィリベール監督の作家性もきちっとある。とても稀有な作品」とたたえる。「ドキュメンタリーとして現実を切り取ってますが、おとぎ話のような本当の話。まるで監督が禅のお坊さんのように、ずっと禅問答をされている。それに私たち観客も一緒にたゆたう作品。会場を出たあとも、波が打ち寄せるように思いを巡らす映画だと思います」と感想を吐露した。

「アダマン号に乗って」撮影現場のニコラ・フィリベール(奥)。 (c)Jean-Michel Sicot

内田がドキュメンタリーを作る情熱の源泉や醍醐味を尋ねると、フィリベールは「僕にとっては他者と出会うことであり、世界に出会うことでもあります。また、他人について学ぶことであり、自分を知ることでもあるんです」と回答。さらにドキュメンタリーが過小評価されているというフランスについて「本当の意味での“映画”ではなく、報道やジャーナリスティックな意味合いのものだと思われている。もちろん、そういった作品もありますが、僕自身はドキュメンタリーも映画そのものだと思っています。その考え方が少しずつ変わっていけばいいと思っています」と話した。

ニコラ・フィリベール

4月19日に封切られたばかりの本国フランスでは、公開初日に4万2000人を動員するほどのヒットを記録。一方でフィリベールはアダマン号について「精神科医療における代表的な施設ではなく、政府から見捨てられてしまっている」と、その現状を説く。「フランスの精神科医療の現場は、決していい状況にあるとは言えません。それでも、そのことに抵抗する人たちがいます。なんとか人間としての威厳を失わない精神科医療の現場を作ろうとしている人たちがいます。それがアダマン号の乗船者なのです」と語った。

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(c)TS Productions, France 3 Cinéma, Longride – 2022

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