映画と働く 第12回 [バックナンバー]

予告編ディレクター:今井あき(前編)「映画を観るきっかけになる映像を作りたい」

映画館やテレビなどで私たちが目にする予告編はどのように制作されているのか

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いい曲って使いたくなるんですよね

──大変な苦労があるんですね……! 大きく「予告編の制作」についてお話を伺ってきましたが、普段予告編を観ていて気付いたことがいくつかあります。まずは主題歌やBGMといった音楽について。稀に劇中では使用されていない楽曲が使われていることがありますよね?

ありますね。それを私たちは“選曲”と呼んでいます。予告編用に曲を作っている海外のレーベルさんがあって、いくつかアルバムを出していて、私たちは日本の代理店と契約して曲を使っています。たくさんある曲リストの中からひたすら聴いて「これ!」と思ったものを予告編で使う。本編ができていれば“劇伴”という劇中で流れる曲を使ったりするのですが、劇伴がまだ完成していないときや、盛り上がりのある曲とかドラマチックな曲とか、劇伴とは違う雰囲気の曲がいいなというときは選曲を使っています。劇伴や主題歌が出せない場合も選曲リストから使っているので被ったりしますね。たまに「この曲どっかで聴いたことあるな」という経験をされたことがあるかと思います。いい曲って使いたくなるんですよね。

今井あき

──映画好きな方は選曲被りに気付くことが多いのかもしれないですね。

そうですね。予告編を作っている人はみんな気付くと思います(笑)。予告編が解禁されたら担当外の作品も観るので、「聴いたことある」とか「昔使ったことがある」と思うこともたまにありますね。極力、新曲から選ぶようにしていて、被らないように日々いい曲を探しています(笑)。

予告編用に収録したカットが本編で使われる逆パターンも

──選曲のほかにも、稀に本編には登場しないシーンが予告編に含まれていることがあります。

1つ目の理由は、本編が完成していない素材から予告編を作ると本編では最終的にカットされちゃった、みたいなことがシンプルでわかりやすいかなと。2つ目は本編とは別で予告編用に撮影するパターンがあります。

──予告編のために撮影・収録したカットがある?

はい。クランクイン前や、まだ撮影が始まったばかりのときは予告編用に撮影・収録することが稀にあります。「ブラック校則」を担当させていただいたとき、撮影と同時に特報を作ることになり、数日分の撮影した素材がガーッと来て、そこから30秒の特報を作ったのですが、佐藤勝利(Sexy Zone)くんが光に向けてずっと目を開けているカットがあって。すごく眩しいから「カット!」って言われた瞬間に目をぎゅっと閉じるんです。その顔がすごくよくて、カットがかかったあとの表情だったので本編では使われない素材だったのですが、思い切って特報で使ってみました。それがプロデューサー陣にも評判がよく、最終的に本編でその表情が使われる逆パターンもありました。めったにない経験だったのでうれしかったです!

今井あきの仕事部屋。ディレクター1人ひとりに設けられている。

──予告編用に収録したカットが本編に使われる逆パターンもあるんですね! あと洋画の場合、字幕の内容が本編とは異なるケースがありますが、どういった意図があるのでしょうか。

特報や予告編は尺が短いので、字幕を読み切れるように、視認しやすいようにキュッとすることは多いです。あとはシーンを切り取ってつないでいるので、意味が大きくかけ離れない程度にアレンジを加えています。最終的な本編の字幕は翻訳家さんが付けてくださるのですが、本編が完成していない場合は宣伝部さんが当てた字幕をベースにすることも。宣伝部さんと「もうちょっと短くしますか」とか、「こっちの言い方がわかりやすいんじゃないか」という話し合いをして予告編用の字幕を作っています。字幕の内容が本編とは異なるのは、翻訳している人が違うのが大きいと思います。

効果的なセリフを目立たせることを意識

──字幕のお話を伺っていて気付いたのですが、そのシーンには登場しないセリフが当てはめられていることもありますよね。

ありますね。洋画に限らず邦画やアニメにもあります。効果的なセリフを効果的な画に当てはめる。この表情にこのセリフを、このシーンにこのセリフを当てたほうが、予告編の尺の中で面白いんじゃないか、伝わりやすいんじゃないかと思うことがあり、セリフに口パクが合っていないときもありますが、うまく合うように編集して、あたかもそのシーンで言っているかのように工夫しています。詐欺っぽいと言われることもありますが(笑)、予告編制作の手法の1つとして用いることがあります。

──いい予告編を作るためのテクニックなんですね。

例えば、「ハニーレモンソーダ」の予告編の真ん中あたりに「変わりたい……」「俺も」というセリフが登場します。それは本編では序盤に登場するセリフなんです。原作でもすごく印象的なシーンで、作品のテーマとして肝になるセリフだったので、それを予告編の頭で登場させるよりも、もっと有効的に立たせたいなと思って。シーンは違うのですが、予告編の真ん中、音楽が切れたところで登場させて、そのセリフを目立たせることを意識して作りましたね。

──なるほど! 貴重なお話ありがとうございます。

今井あき(イマイアキ)

今井あき

予告編ディレクター。ガル・エンタープライズ所属。テロップワークを得意としている。これまで制作した主な作品は「鳩の撃退法」「あなたの番です 劇場版」「エル プラネタ」、2022年9月9日公開の「グッバイ・クルエル・ワールド」など。

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