映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めて | 山内マリコ×柚木麻子インタビュー

原作者としてステートメントを発表した理由とは

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当事者でなくても声を上げていい

柚木 ステートメントを出したあと、今日のように取材を受けることがあったんですが、女性記者の方々が「映画界や出版界は大変ですね」ではなく「うちの業界にも問題があります」とおっしゃるんです。報道側の人たちも、自分事として何かを変えていきたいという気持ちが強いなと感じました。

山内 アメリカや韓国が#MeTooでいい方向に舵を切ったのに、日本は旧弊なまま停滞している、そのフラストレーションは5年分たまっていますからね。そもそもワインスタインの件は、新聞や雑誌といった活字メディアのお手柄。SNSの力は大きいけれど、ジャーナリズムの力が起こしたムーブメントなんですよね。今回のステートメントを取材してくださった記者の方も女性が多くて、みんなそれぞれの持ち場でがんばっているんだなと感激しました。

──ステートメントには「映画界が抱える問題は、出版界とも地続きです」という一文がありますね。

柚木 私自身はああまで支配的で異常な状況を経験したことはないですが、映画業界の記事を読むと“知ってるな”とすごく思うんです。みんなで面白いものを作るためには我慢が必要で、嫌と言えない感じというか。たぶん出版業界以外にも、同じように感じる人は多いと思います。社会通念として弱者を犠牲にしないといいものが作れないという考え方があって、そういう根底から変えないといけないときが来ている。

──柚木さんは去年、以下のようなツイートをされていました。

山内 こういう構造はどの業界にもありますよね……。

柚木 そう思います。例えばライターさんも取材の現場で1対1になりやすいからハラスメントに遭いやすくて、実際に被害の声が数多く寄せられている。私も昔は「どこそこに嫌われたら終わり」とよく言われましたし、当時はそれを信じていました。今でも若い方が同じようなことを言われているのが出版界の現状です。

山内 映画界も出版界も、憧れて入ってくる人の多い業界。夢を持っている女性の弱みに権力のある男性が、餌をちらつかせて付け込む構図は、「そういうもの」として看過されてきました。けど、世界的にそれが完全NGになっているんだと、周知されていい時期です。性暴力に対する嫌悪感も、この数年で格段に上がっていますから。

柚木 SNSで声を上げやすくなっていることはいいことですが、次のステップとして第三者による機関が必要だとも思います。メールなどで誰かの声を受け止める場所が用意されていて、映画会社・出版社と一切のしがらみがない国から派遣された人が運営しているような。

山内 女性が性的な被害を受けたとき、味方としてケアできる機関があるのは、先進国であれば当たり前だと思います。国がそういった機関を設置してもいいはず。

柚木 あって当然ですよね。この流れはもう止まらないのでそこまでたどり着けると私は信じているし、今回のステートメントで連帯を表明したように、できることがあればなんでもやるつもりです。部外者の口出しはよくないという風潮もありますが、もしかしたら今後私はまったく関係ない業界のおかしいと感じた点を指摘するかもしれないし、外野がどんどん言うことにより女性が搾取されない社会になっていくかもしれない。援護射撃が大事で、当事者でなくても声を上げていいんです。

女体として認識され、表象的に消費されてしまう

──この記事のメイン画像には、山内さんと柚木さんの著書の書影を使用させていただく予定です。正直最初はご本人の写真を使わせていただこうと思っていたのですが、先ほどお二方から助言をいただいて。

柚木 この取材に限らず、書影やステートメントのトップ画像を使用していただきたいとお願いしているんです。動画であれば、映画化・ドラマ化している作品の映像を使っていただきたいと話しています。

山内 女性が声を上げるときに顔を出すと、ネガティブな反応が起こりやすい。特に性加害・性暴力がテーマだと、直接関係がない我々であっても顔を出して発信するのは危険だと考えました。女性であるというだけでアイキャッチャーになって悪目立ちしてしまうし、伝えたいこととずれた形で広まってしまう可能性もあって。

柚木 ステートメントも、私たちの写真を全面に出していたら、今と異なる広がり方になったかもしれません。

山内 女体として認識され、表象的に消費されてしまう懸念がありました。何を訴えたところで「女性が何か言ってるぞ」という絵になって、矮小化されてしまう。女性が声を上げることの難しさを感じます。

「言ってることとやってることが全然違うじゃん」と言われないように

──最後に、作品と作り手の関係について意見を伺いたいです。映画ナタリーでは過去に「『作品に罪はあるのか』を考える」という記事を出したことがあって、ワインスタインや性的虐待疑惑があるウディ・アレンを取り上げました。お二方はそういった人たちの作品とどう向き合ってますか?

山内 心情的には切り分けられないですね。例えば(スティーヴン・)スピルバーグ版の「ウエスト・サイド・ストーリー」は、主演のアンセル・エルゴートに過去の性的暴行疑惑が浮上していたせいか、映画が本来狙っていた素敵な男性キャラクターとしては、受け取れなかった。「ラストタンゴ・イン・パリ」も、純粋に映画として観ようとはもう思えないです。作品を世に発表する側としては気を付けていることがあって、「言ってることとやってることが全然違うじゃん」とは言われないようにしています。「あのこは貴族」という小説で、田舎出身と都会出身という立場の違う女性が対立ではなく和解する話を書いたのですが、そんな私が「都会の私立女子校出身の柚木っていういけ好かねえ小説家がいてさあ」とか言ってたらおかしいじゃないですか。

柚木 私も「ランチのアッコちゃん」という物語を書いた手前、若い子にはおいしいものを奢るようにしてますよ。

山内 あははは。

柚木 「あいつ奢らなかったよ」「柚木と一緒に行った店はまずかった」とか言われたくないし。

──(笑)。確かに、言ってることとやってることが乖離している人は信頼できない気がします。

山内 この話をしていて1つ思い出したことがあって、勝新太郎さんが大麻やコカインで逮捕されたとき、筑紫哲也さんがニュースで「いつから俳優さんのプライベートと仕事のキャリアが重ねられるようになったんだろう」みたいなことをおっしゃっていたんです。一理あるとは思うのですが、ドラッグと性暴力は全然違う。

柚木 不倫と性暴力も違いますよね。

山内 ダーティなこととして一緒くたに見られがちですが、今の一般的な価値観の中では、性暴力をしたら完全にアウト。だから映画業界もアウトとはっきり言わないと、お客さんも付いてこないと思います。

──今回、加害者として報道された人の作品を好きだった方もいると思います。そういった人々は今後その作品とどう向き合っていけばいいとお考えですか?

柚木 以前のように観ることはできないし、観なくていいと思うのですが、もしどうしても好きな場合は1人で何度も観返して、新たな美点や醜悪な面を発見するのがいいと感じます。なぜ感動したのか、何が見えて何が見えていなかったのかを意識して、当時の自分のバイアスに気付くことが大事な気がします。今回加害者として報道された人の過去作には今も第一線で活躍する女性の俳優さんが出演していますが、彼女たちが監督のカラーを脱して今も活躍できる強さの源はなんなのか、また監督の抑圧のせいで世に出られなかったたくさんの俳優さんたちが今何を思うのかを考えてみるとか。絶対に加害者を擁護しないで、静かに観返してみることをお勧めしたいです。

山内マリコ(ヤマウチマリコ)

1980年生まれ、富山県出身。2008年に「16歳はセックスの齢」でR-18文学賞の読者賞を受賞し、2012年に初の単行本「ここは退屈迎えに来て」を刊行。そのほか著作に「アズミ・ハルコは行方不明」「あのこは貴族」「メガネと放蕩娘」「選んだ孤独はよい孤独」「あたしたちよくやってる」などがある。2022年5月25日に4年ぶりの新刊小説「一心同体だった」が発売された。

柚木麻子(ユズキアサコ)

1981年生まれ、東京都出身。2008年に「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞。2010年に同作を含む初の単行本「終点のあの子」を発表した。著書として「ランチのアッコちゃん」「伊藤くん A to E」「ナイルパーチの女子会」「BUTTER」「らんたん」などがあり、2022年4月に独立短編集「ついでにジェントルメン」が刊行された。

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読者の反応

白央篤司 @hakuo416

あとでじっくり読む。結局大手映画会社はハラスメントを許さないなどの声明は出したんだっけ?

【映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めて | 山内マリコ×柚木麻子インタビュー 】https://t.co/aJLAK1AqOI

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