映画と働く 第3回 [バックナンバー]

録音部:反町憲人「視点は監督やプロデューサーに近い」

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芝居を録るだけが録音じゃない

──今後やってみたい、挑戦してみたいと思うお仕事はありますか?

去年、あるフィクションではない作品の仕事をやったんですけど、映画やドラマではないのでテストがなくていきなり本番で。一度カメラが回ると3時間回りっぱなしなんです。でもブーム(※先端にマイクを付ける竿状の道具)やマイクを画面に入れてはいけないし、ワイヤレスは見えないところに着けないといけない。部署が細分化されていて自分はワイヤレス班に入ったんですけど、1人で20人にワイヤレスを着けたときはしびれました。映画でも20人にワイヤレスを着けるということはなかなかない。それに位置を修正する機会もないから、かなり緊張しました。結果的にミスはなかったんですけど、あの経験は今後の映画の仕事にも役立つなと思っています。

撮影現場での反町憲人。

──録音部として関わる作品のジャンルは問わないですか?

芝居を録るだけが録音じゃないじゃんと思ってますから。音楽を録っても録音だし、環境音を録っても録音。いろんなものを録音したほうが勉強になると考えています。

──これまでの反町さんのキャリアは劇映画中心ですが、「マイク・ミルズのうつの話」というドキュメンタリーにも参加されていますね。

そうですね。もし今またドキュメンタリーの仕事が来たら喜んで受けたいです。それから履歴書の「尊敬する映画人」に今敏監督のお名前を書きましたけど、僕はアニメ映画もやってみたい。まだ一度も経験がないんです。だから、今後挑戦してみたいのはどちらかというと、これまでとは全然違うカテゴリーの仕事ですね。もちろん実写映画の仕事もやっていきますが。

イタリアで「サムライ」と言われた

──「マイク・ミルズのうつの話」はアメリカの作品ですが、日本の作品との制作環境の違いは感じましたか?

あの作品は小ぢんまりとした体制だったしドキュメンタリーなので比較はできないですけど、日本の劇映画で海外のスタッフと一緒に仕事をしたときに感じた違いはあります。海外のスタッフは基本的に、録音時に入ってしまった余計な音とかは全部ポスプロで処理すればいいと思っている。そういえばイタリアで撮影をしたとき「サムライ」だと言われたことがあって。

──というと?

照明用のゼネレーター(発電機)を、現地のスタッフがマイクのすぐ近くに置くので「余計な音が入るからどけてくれ」とジェスチャーして移動させたり、そのほかにも連日、あれをどけてくれ、これを動かしてくれ、と僕が細かく指示していたんです。イタリアのスタッフは最初は戸惑っていたようだけど、だんだん慣れてきて、最終的には現場に入るなり「今日は何を動かせばいい? 教えてくれ」と言ってきて、なぜか「お前はサムライだ」と(笑)。

──(笑)

イタリアのスタッフはハリウッドのスタッフよりは現場の音を優先していた気がしますけど、そういうやり取りはありました。海外に行くと現地のスタッフから「日本人はストイックだ」と言われますね。でもNetflixとかAmazon Prime Videoとか海外の会社はスタッフへの待遇がしっかりしているなと思います。Netflixが映画やドラマの制作従事者に支援金を出した(参照:Netflixが映画・ドラマ制作者の支援基金設立、2週間程度で10万円支給)ことがありますよね。僕もその支援金をもらったんですけど、こういうことは本来、日本の映画会社にやっていただきたかったですよね。

──確かに……。ちなみに今ギャラの話が出ましたが、どのような仕組みになっているんでしょう。映画1本単位でいくら、というシステムなんでしょうか。

フリーランスのスタッフは、1作品でいくらという作品契約をされる方もいますが、僕の場合、1カ月あたりいくらというふうにギャラをもらっています。もちろん1カ月ですべての作業が終わらないことのほうが多いので、1カ月以上拘束されたらその分を日割りでもらうことになります。額でいうと、技師になれば世間の人が想像しているよりはもらえますね。でもすごく稼いでいるのは1割ぐらいの人で、ほとんどの人はそんなに儲けていません。それに、サウンドカートに積む機材は自分でそろえなければいけない。僕の場合で総額ウン百万円ぐらいかかりましたが、そういう出費を覚悟する必要があります。

反町憲人のサウンドカート。一部のパーツは反町自身がはんだごてなどを使用して自作した。

録音部の視点は監督やプロデューサーに近い

──最後の質問ですが、録音部を目指す人へのアドバイスというか、伝えたいことがあれば。

録音部はあまり人気がないから人手が足りないんです。だから後輩の若手には「人材不足だから、仕事を覚えたらたくさん働けるよ」と言ってます(笑)。つまり需要は大いにある。それから自分が録音部に入ってよかったと思うのは、全体像が見えすぎるぐらい見えるということ。ほとんどの人は撮影に没頭してるけど、音を録る立場の僕らは現場をかなり引いた目で冷静に見ることができる。それはもう清々しいくらいです。

──正直なところ、そういうイメージは持っていなかったので少し意外です。

これは僕個人の意見ですけど、録音部の視点は監督とかプロデューサーに近いと思うんです。撮影から、ダビングと言われる一番最後の工程まで全部面倒を見なくてはいけない。その分、作品への愛情は強くなる……と僕は思っています。

反町憲人(ソリマチノリヒト)

1978年6月26日生まれ、兵庫県出身。大学卒業後、日活芸術学院に入学し録音を学ぶ。2003年に録音助手として「座頭市」に携わり、商業映画初参加。その後「世界の中心で、愛をさけぶ」「電車男」「恋空」「ハゲタカ」「シン・ゴジラ」「無限の住人」「ビジランテ」など数多くの映画で録音助手を務め、「男子高校生の日常」で録音技師デビューを果たす。そのほか技師として参加した作品に「人魚の眠る家」「チワワちゃん」「ザ・ファブル」「一度死んでみた」「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」などがある。

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兼重 淳 @seagull429

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