コミックナタリー記者が選ぶ「この15年に完結したマンガ」

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コミックナタリーでは15周年記念企画「この15年に完結したマンガ総選挙」を開催している。同企画は【2008年7月1日~2023年6月30日の期間内に連載が完結したマンガ作品】を対象にしたユーザー参加型のマンガ賞。ユーザーからエントリー作品を受け付け、投票数の多かった15作品をノミネート作品として選定し、本投票としてユーザー投票を行い大賞を決定する。現在はエントリー作品を集計中だ。

そこで「この15年に完結したマンガ総選挙」と同じレギュレーションで、コミックナタリーの記者が作品を1作選ぶ企画を実施。この15年間、毎日マンガのニュースを執筆し続けてきたコミックナタリーの記者は、いったいどんな作品をピックアップするのか……? 現在コミックナタリーに所属する14人が真剣(?)に選んだ14作品を紹介する。

海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」全11巻(講談社)

「逃げるは恥だが役に立つ」11巻

思春期に「彼はカリスマ」を読んで海野つなみ作品のファンになり、ナタリーの採用面接でも海野つなみ作品の話をしてから15年弱。連載が始まった2012年には、「海野先生の現代ものが始まった!」と興奮しながら記事を書いたのを覚えています。第39回講談社漫画賞の取材時に、壇上でのスピーチで「39(サンキュー)!」と明るく言い放った先生のチャーミングな笑顔も印象的で元気をもらいました。海野先生の言わずと知れた代表作となったこの作品を、連載開始からメディア化、そして完結まで、コミックナタリー編集部に在籍しながら追いかけることができ、この仕事をしていてよかったと心から思います。

(文 / 坂本恵)

海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ(11)」
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窪中章乃・須賀しのぶ「流血女神伝 ~帝国の娘~」全5巻(小学館)

「流血女神伝 ~帝国の娘~」5巻

「流血女神伝 ~帝国の娘~」は、1999年から2007年まで集英社コバルト文庫から刊行されていた少女向け小説のコミカライズです。小説の完結から14年経った2021年に突如コミカライズの連載が始まり、小中高時代に“コバルト少女”だった私は「なぜ今!?」と本当に驚愕したのでした。

「流血女神伝」シリーズの主人公は、猟師の娘として育ったカリエ。彼女は皇子の影武者に仕立て上げられ、用済みとなって奴隷となり、後宮に入って正妃に成り上がり、身ごもり、正妃の座を捨て……と、激動の人生を歩みます。かわいらしい恋物語を好んで読んでいたコバルト少女時代の私にとって、カリエの理不尽に対する怒り、身を切られるような悲しみ、どんなにつらいことがあっても生き抜こうとするたくましさはあまりに衝撃でした。

窪中章乃さんのコミカライズは、そんな当時の衝撃を鮮やかに思い出させてくれました。「帝国の娘」時代のカリエが元気に動き回っている姿を見ると、昔一緒に遊んだ友人に会ったような懐かしさ、カリエの喜怒哀楽の豊かな表情を追えるマンガならではの楽しさを感じます。また、年を重ねた私は学生時代とは違った見方をするようになっていました。「ムカつくおばさん」でしかなかった皇妃フリアナは、子供を失う寸前の狂気に蝕まれた女性だったし、弱くてずるいという印象だったシオン兄上は自分が為すべきだと思ったことを為した人でした。新しい魅力に気づけたのも、14年経って「帝国の娘」をコミカライズしてくれた窪中章乃さんのおかげです。

祖父母の家に下宿していた高校時代、本棚の一番手に取りやすい場所に「流血女神伝」を置いていました。須賀しのぶ作品特有の明るいブルーの背表紙(当時のコバルト文庫は、作家ごとに背表紙のカラーが異なりました)を見るたびに、自分の人生にもいろいろな出来事が起こるんじゃないかとなんとなくワクワク、そわそわ、戦々恐々としていたことを思い出します。昨年から誰も住まなくなった祖父母の家の、私の部屋だった場所には、今も「流血女神伝」が入った本棚があります。今度帰省したときに、忘れずに持ってこないとと思いながらコミカライズを読み返しています。

(文 / 三木美波)

窪中章乃「流血女神伝 ~帝国の娘~(5)」
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ヤマシタトモコ「違国日記」全11巻(祥伝社)

「違国日記」11巻

ヤマシタトモコさんのマンガを読み始めたのがちょうど15年ほど前で、それから新刊が出るたびに読んできたヤマシタ作品の魅力が、「違国日記」にはぎゅっと凝縮されていたと思います。私にとってのこの15年の1作を選ぶならこれしかなかったです。最終話は信じられないくらい泣きました。

次点に吟鳥子「アンの世界地図~It's a small world~」(秋田書店)を。吟鳥子さんのお名前はそれまで存じ上げていなかったのですが、たまたま有隣堂ヨドバシAKIBA店で1巻が面陳されていたのを見てジャケ買いし、読んで「なんて私好みのマンガなんだ……!」と自分の直感とお店に感謝したことをよく覚えています。同店をはじめ思い入れのある書店が多く閉店してしまった15年でもありますが、こうした出会いがいつまでもなくならないことを願います。

(文 / 柳川春香)

ヤマシタトモコ「違国日記(11)」
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得能正太郎「NEW GAME!」全13巻(芳文社)

「NEW GAME!」13巻

短く上手にまとまったマンガにも魅力的なものはたくさんありますが、連載が長期にわたるということはそれだけ作品の中で描けるものが増えるということで、作品に奥行きが出るのを読みながら実感できるのはマンガを連載で追いかけるなによりの楽しみです。「NEW GAME!」で自分が一番好きなのは、単行本7~10巻にかけて展開される「デストラクションドッジボール(通称デスボール)」開発のエピソードなのですが、このゲームのディレクターを務めたはじめは物語序盤だけの印象で語れば、脇役と言っても過言ではないキャラクターでした。それが何度も企画を上に持ち込み、ついに自分の考えたゲームを発売までこぎつけるという見せ場を与えられたのは、連載8年半──全13巻というボリュームがあったからこそではないでしょうか。
そもそも「NEW GAME!」というマンガ自体が、ここまでのクリエイターど根性物語になると1巻時点で誰が想像できたか。「NEW GAME!」を読んだことがない、きららマンガとは縁遠い人にこのマンガをおすすめするとき、僕は土田世紀の「編集王」(小学館)のゲーム会社版という説明をしています。デスクの前で握りこぶしをして「今日も一日がんばるぞい!」をするカンパチが目に浮かぶようです。仕事に疲れて手を抜きたくなったとき、何かを諦めそうになったとき、読み返したくなるマスターピース。やる気と勇気をマンガにもらって、次の15年もがんばるぞい!

(文 / 淵上龍一)

得能正太郎「NEW GAME!(13)」
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秋本治「こちら葛飾区亀有公園前派出所」全201巻(集英社)

「こちら葛飾区亀有公園前派出所」201巻 (c)秋本治・アトリエびーだま/集英社

この15年で完結した作品を1作品だけ挙げる。歴史に刻まれる大傑作の「大奥」、別冊少年マガジンの創刊号で第1話を読んで震えた「進撃の巨人」、敬愛するあだち充先生の「クロスゲーム」など……。考えればキリがなく、“面白かった”や“好き”だけではとても1作に絞れそうにないので、ちょっとずるいかもしれませんが、“完結したこと自体、とてもインパクトがある”というテーマで「こちら葛飾区亀有公園前派出所」をピックアップします。

「こち亀」が完結することが発表されたのは2016年9月3日。同日、「こち亀」の連載40周年を記念した巨大絵巻物の奉納式が行われるということで、私は取材のために東京の神田明神を訪れていました。奉納式後には秋本治先生の取材会が行われたのですが、その中で「今後どれくらい連載を続けたいか」という、作品が終わるとは微塵も思っていないであろう記者からの質問に、秋本先生が少し戸惑ったように「その辺のことはあとでゆっくり話したいと思います」と回答したのにどこか違和感を感じたのを今でも思い出します。

その後「こち亀」の連載が終了することが突如として発表され、会場は騒然。いち早く記事を出さねばと、会社のチャットツールで社内のスタッフと忙しなくやり取りしていました。すべての記事を書き終えたとき、長年慣れ親しんできた作品が終わってしまうのかと何か寂しくなって、iPhoneに入っていた「こち亀百歌選」というアニメの主題歌集を聞きながら家に帰ったのをよく覚えています。マンガの最終話を読んで「名作だった」と再認識することは多々ありますが、“作品が終わる”と聞いてここまで心にポッカリと穴が開いたのは、私にとって「こち亀」が唯一かもしれません。当日の取材の様子はこちらで確認できますので、もしよければ読んでみてください。

もちろん“終わること”のインパクトだけでなく、「こち亀」という作品が大名作であるのは言うまでもありません。内容面で語りたいこともたくさんあるのですが、すでにだいぶ長くなってしまったので、最後にアンケートを書くにあたり「こち亀」のことを思い返す中で気づいたことを1つだけ。

とんでもなく自分語りになってしまうのですが、私はガジェットが大好きで、スマホを無駄に何台も契約して持ち歩いたり(Z FOLD5はマンガを読むのに最高です。ちなみにこのアンケートはiPhone15の予約開始日に書いていて、予約争奪戦に負けて発売日に手に入らないのでゲンナリしています)、PCやタブレット、ゲーム機器、オーディオ機器にカメラ、白物家電も次から次へと新しいものを買ったりしています。そういったガジェット好きの素養は新しい物好きの秋本先生、ひいては作中の両さんによって子供の頃に養われていたんだろうなと感じました。最先端の機械や新しい情報を、当時子供だった私にわかりやすく教えてくれていた「こち亀」にとても感謝しています。

(文 / 宮津友徳)

秋本治「こちら葛飾区亀有公園前派出所(201)」
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いくえみ綾「潔く柔く」全13巻(集英社)

「潔く柔く」13巻 (c)いくえみ綾/集英社

幼少期の私は、自分のせいで大事な人を失ったのだと、後悔しながら生きてきました。
「私のせいで」「あなたのせいじゃない」。そんなやりとりを母と交わしたことも記憶に残っています。
そんな私が、思春期に出会ったのがこの作品でした。
「あのとき私がもっと早く行動していれば」。一度生まれた後悔は一生拭い切れることはありません。
けれど、この作品が寄り添っていてくれたおかげで、10代の私は自分の歩幅で歩いていくことができたと思っています。

作中で特に好きなシーンがあります。「百加編」で百加とカンナがお互いの感情を爆発させ、言い合いになる場面です。何度読んでもあの一連のシーンは涙があふれてきます。あんなふうに本音を言い合える友人ができたことは、当時のカンナにとってこれ以上ない幸せなことだったのではないでしょうか。
私にもこの作品を語るときに「このシーンが大好きだ」と共有し、共感し合える親友がいます。そんな友人と出会えたことは、今の私にとって幸せの1つです。

ただ、私にはまだ“絶対ひとり”の存在がいません。作中でこの言葉に触れたときから、私にとっての“絶対ひとり”の存在について、ずっと考えを巡らせてきました。
何年後、何十年後かの未来に、禄とカンナのような“絶対ひとり”の誰かに巡り会えることを、私は今もどこかで夢見ているのかもしれません。

(文 / 熊瀬哲子)

いくえみ綾「潔く柔く(13)」
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末次由紀「ちはやふる」全50巻(講談社)

「ちはやふる」50巻

「ちはやふる」と出会った当時、私は千早たちと同じように部活に全力を注ぐ高校生でした。私が3年生のとき、部活設立以来初めて全国大会に出ることになるのですが、ちょうどその頃、千早たちの瑞沢高校かるた部も全国大会に初出場していて、ゲンを担ぎたいというような思いで「どうか勝ってほしい」と祈りながらマンガを読んだ記憶があります。

一番好きな登場人物は、千早と太一の師匠・原田先生かもしれません。かるたをやってもどうせ新には勝てないから意味がないと言う太一に対しての「“青春ぜんぶ懸けたって強くなれない”? まつげくん 懸けてから言いなさい」というセリフは印象深いです。長年かるたに本気で取り組んできたからこそ、発される言葉に重みを感じます。

2007年から2022年までの15年間、「ちはやふる」には大変楽しませてもらいました。末次先生の次回作を心待ちにしています。

(文 / 西村萌)

末次由紀「ちはやふる(50)」
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「アイシールド21」「STEEL BALL RUN」「スクールランブル」…

読者の反応

坂本眞一 Shin-ichi Sakamoto @14MOUNTAIN

ありがとうございます!
記者の方の素敵なコメントに感激です!
刈り上げ次は是非^ ^ https://t.co/dVewZidc0o

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