海賊版サイトの現在地 Vol.4 [バックナンバー]

3つの超巨大サイトが閉鎖された2022年以降、海賊版サイトはどうなってる?

ABJ広報部会長・伊東敦氏と、海賊版サイト問題に詳しい丸田憲和弁護士に聞く

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Google、Yahoo!など検索エンジンとの取り組み

そんな中、検索エンジン対策は近年取り組みが進んでいる課題の1つだ。例えば、海賊版サイトを利用する人は「『X』 無料」というような文言で検索することも多いだろう。検索すれば海賊版サイトが表示されてしまうようでは、さらに利用者が増加しかねない。この問題に対して、出版社などの権利者は違法アップロード作品を見つけると、検索エンジン側に検索結果から削除するよう申請している。ある出版社1社だけでも、月間でGoogleに対して5万件、Bingに対して5万件に上る膨大な量の削除申請をしているという。しかし、削除の対象となるのはサイト全体ではなく個々のページであるなど課題も多い。そこで近年では、もう一歩踏み込んだ対策がなされている。

「Yahoo!Japanは、出版社との協議の結果、一部の悪質な海賊版サイトについて、ドメイン単位で検索結果に表示されないようにする対策を講じています。またGoogleは、出版4社と『実証的な対応を行う』と合意しており(※1)、その取り組みが両者の協力および裁判所の関与によって実行されていまして、これまでにアクセス数の多い23の海賊版サイトに対してドメイン単位での検索からの削除が行われています」(丸田氏)

検索エンジンからマンガの海賊版サイトへの流入を抑制する対策は、アクセス数が上位のサイトから順に行っている。

「ただ、先ほど申し上げたようにドメインが変わってしまうと対策が無効化されてしまうわけです。なので、ドメインホッピングは我々にとって大問題なんです」(伊東氏)

※1…インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会(第8回)配布資料より。

海賊版サイトの閲覧は「道端に置かれた誰が作ったかもわからないケーキを食べる」ようなもの

では、海賊版サイトの運営者ではなく利用者側にはどういった働きかけを行っているのだろうか。漫画村騒動の後、少なからず著作権に対する意識も利用者へ芽生えたように思えたが、新型コロナウイルス感染症による巣ごもり需要で海賊版サイトのアクセス数はうなぎ登りとなってしまった。

「2018年から『STOP! 海賊版』というキャンペーンを行っています。直近ではVaundyさんとコラボした動画を配信し、非常に多くの方にご覧いただけました。『#今日も海賊版を読みませんでした』でいろんなツイートをしてくださっているんですが、その拡散を見た海賊版サイトの利用者が、利用を止めようかなと思ってくれればうれしいなと」(伊東氏)

また、現在は各出版社がマンガサイトやアプリを開設・運営するのが一般的となっている。正規のサイト・アプリで、人気タイトルから読み切りまで無料で作品を読むことができるのも、海賊版サイト撲滅への一手だという。

「例えば、ジャンプ+をインストールすれば数多くの作品を無料で読むことができるんですが、このように今は無料でマンガを読める施策をいろんなプラットフォームでやっていますよね。ユーザーに正規のサイトやアプリを使ってもらえたら、無料公開範囲や期間なども出版社側でコントロールでき、ひいては作家さんへ利益の還元ができるんです」(伊東氏)

「海賊版サイトを利用する人って、そもそもマンガを読むのが好きな方だと思うんですよ。でも、マンガにお金が払えない、払う気がないという状況にあるから海賊版サイトを使っているんだと思うんです。そういう方にこそ正規のサイトで、期間限定キャンペーンや動画や広告を見たら1話読めるという形式で作品に触れてほしいと思います。そうすることで、作者には何かしらの形で還元されますからね」(丸田氏)

期間限定で人気タイトルが無料配信されると、SNSを中心に「このエピソードを読んでほしい!」などと話題となる。そして話題になることで改めて読みたいと単行本を買う人もいるだろう。また広告によって出版社や作者にも収益が還元される。

「海賊版に対する特効薬は残念ながらないので、やれることを積み重ねていくしか手はありません。とはいえ、2023年度は学校での海賊版啓発をより強化していきたいと考えています。この前も文化庁さんと協力して、高校の授業で流すビデオの収録をしたんですよ。海賊版を利用するのがなぜダメなのか知らない人でも、自分で書いた文章や絵が転載されていたら嫌な気持ちになるはずです。そういった方々にそもそも著作権とはなんなのか、海賊版を読むのはなぜダメなのかから改めて伝えていきたいと思います」(伊東氏)

伊東敦氏

冒頭でも述べたようにそもそも海賊版サイトで作品を読んでしまうと、作者や出版社には何も還元されず、続巻や次回作につながることはない。何気ない気持ちで海賊版サイトに触れていたとしても、それが作者にとって筆を折る要因の1つになっているのかもしれないのだ。

「仕事柄、海賊版サイトに十分な対策を講じたうえで仮想マシンでアクセスをしていますが、対策のレベルを下げるとブラウザが落ちたり最終的にはOSごと起動しなくなるなど、仮想マシンの挙動がおかしくなるんですよ。よく考えれば海賊版サイトを見るのって『道端に置かれた誰が作ったかもわからないケーキを食べる』ようなものなんですよね。見た目はいいけれど、中に何が入っているか分からない。そもそも腐ってるかもしれない。それはダウンロード形式(画像データをダウンロードしてから見る形式)でもオンラインリーディング形式(サイトで直接マンガを見る形式)でも同じです。海賊版サイトの運営者の目的は、あくまで自分が利益を上げることだということを忘れないほうがいいと思います」(丸田氏)

もしマンガを読みたいという気持ちがあるのなら、道端に置かれたものではなく、お店で買ったもの……書店やWebサイトを通じた正規版をぜひ手に取ってほしい。それが回りまわって、海賊版サイトの撲滅や新たな面白いマンガの創造にも繋がっていくに違いない。

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太田祥暉

編集者・ライター。編集プロダクション・TARKUSに所属。学生時代より同人活動としてエンタメ系ZINE・PRANK!を編集し、2018年より商業媒体でライター活動を始める。アニメやライトノベル、特撮を中心に、書籍や記事の編集・執筆を行う。主な著書に「ライトノベルの新潮流」(共著)。

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小太刀右京/Ukyou Kodachi @u_kodachi

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