「“感無量”という言葉を使いたい」井上道義が現役最後の新制作オペラ 歌劇「ラ・ボエーム」へ思い語る

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9月から11月にかけて全国7都市で上演される「2024年度 全国共同制作オペラ 歌劇『ラ・ボエーム』」の記者発表会が、本日4月11日に川崎・ミューザ川崎シンフォニーホールで開催された。

左から工藤和真、高橋絵理、井上道義、森山開次、中川郁文、池内響。

左から工藤和真、高橋絵理、井上道義、森山開次、中川郁文、池内響。

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全国共同制作オペラは、2009年度にスタートしたプロジェクト。全国の劇場・音楽堂、芸術団体等が連携し、単館では成しえない、独創的かつ高いレベルのオペラを新演出で制作する。2024年度は、井上道義の指揮による新制作の「ラ・ボエーム」を、森山開次の演出・振付・美術・衣裳で上演。記者発表会には井上、森山、ミミ役(後期)の高橋絵理、ルドロフォ役の工藤和真、ムゼッタ役(前期)の中川郁文、マルチェッロ役の池内響が登壇し、意気込みを語った。

まずは、制作統括を務める兵庫県立芸術文化センター事業部の古屋靖人チーフプロデューサーがあいさつした。本公演の特徴として、200人以上の応募者の中からオーディションが実施され、出演者のほか、各地域で合唱団が編成されること、コンサートホール、プロセニアムアーチの劇場といった、規模や形態が異なる会場で実施されることを説明。7館が共同制作することにより「幅広い地域にオペラ公演が届けられ、地域の人材の活性化にもつながる」と意義を述べる。

井上道義

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年末で引退を宣言している井上にとって、本作は現役最後に取り組むプロダクションとなる。井上は「“感無量”という言葉を使いたい」と口火を切り、「僕は音楽家になりたかったわけじゃなく、舞台がやりたかった。なぜなら世の中は虚偽に満ちているから。ならば思いっきりうそをついて死んでやろうと(笑)。今回、素晴らしいうそを舞台で作れたら」と胸を張る。さらに、全国共同制作オペラの展望を述べ、後進に希望を託しつつ、「人は自分で辞めることを決めて良い。皆さんも“どうやって辞めようか”と考えることはあると思います。その良い例にしたいと、強く思っています」と言葉に力を込めた。また、現役最後に「ラ・ボエーム」を選んだ理由を問われると、いろいろな条件に鑑みた「消去法」と言いながらも、「音楽は青春の息吹。生きている喜びの発露。なぜ選んだかと言えば、“青春に戻りたい”という憧れからです」と応えた。

森山開次

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森山は井上総監督・指揮による「ドン・ジョヴァンニ」(2019年上演)で自身のオペラ初演出を果たした。約2年前、森山いわく「オペラの魅力に取り憑かれていた」頃に今回のオファーをもらったことを明かし、「自分の中でこのプロダクションを育て、少しでも血肉にできるよう、チラシの絵などを創作してきました」と記者発表会の日を迎えた喜びをあらわにする。「井上さんは大きな扉を開けてくれました。今回も必ず良いものにしたい」と気合いを見せる。演出については、アーティストとしての自身や多くの人に重なる“共通性”と音楽の美しさ、身体性を取り入れる表現を目指しているとし、特色として「マルチェッロ役に画家・藤田嗣治の視点を重ねようと考えています。夢や憧れを抱いてフランスに渡ったアーティストが多くいる中、日本人の視点でフランスを見る、私たちの視点を入れると、どういったことが可能になるのか。皆さんと話し合いながら作り、井上さんが振るタクトに合わせて、各地で“初演”と言えるような作品を届けられたら」と構想を明かした。

高橋絵理

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工藤和真

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ミミ役の高橋は手編みのショールで本作への意気込みを表明しつつ、「ミミはもしかしたら一番多く歌ってきたかもしれない、大事な役。道義さんの引退を聞いたときは、個人的にすごくショックでしたが、最後にこの作品を選ばれたことに感動して、ときめきました。出演するチャンスが巡ってきて心からうれしく思います」と笑顔を見せた。ロドルフォ役の工藤は、自身が出演した、井上の自伝的作品であるミュージカルオペラ「A Way from Surrender ~降福からの道~」でのエピソードを披露し、「井上さんは、今後の音楽界や若手のことを愛情深く考えてくださっている。その気持ちに応えたいと思っていたので、本作では僕も人生を賭けて、今後のオペラ人生の宝物となるような作品にしたい」と熱を伝える。

中川郁文

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池内響

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ムゼッタ役(前期)の中川は「普段は死ぬ役を演じることが多いのですが、今回は最後まで生き残ります(笑)。物語の最後の悲しさを表現できるのは、残り、生きている人間だと思いますので、自分としては挑戦的な役です。死と向き合いながら死を見つめる、そんな表現をしていけたら。歌を始めて10年の節目で、音楽家人生のリスタートとなるタイミングに道義さんのソウルが継げる喜びを感じています」と語った。記者発表会で出演者は役をイメージした衣裳で現れたが、カツラに丸メガネ、上髭と、藤田を完璧に模した姿で現れたのは、マルチェッロ役の池内。池内はオーディションで森山にツーステップを踏まされた思い出を振り返り、「楽しいオーディションでした(笑)。『ラ・ボエーム』は、マルチェッロのために書かれたテキストと音楽の流れがあります。僕自身が藤田のコピーとして存在するのではなく、マルチェッロの中にどう藤田を溶け込ませていけるか。そこががんばりどころです」と意欲を見せた。

会場には森山が手がける舞台装置の模型やキャラクター画などが飾られ、公演への期待をあおった。公演は9月21、23日に東京・東京芸術劇場 コンサートホール、29日に宮城・名取市文化会館 大ホール、10月6日に京都・ロームシアター京都 メインホール、12日に兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール、19日に熊本・熊本県立劇場 演劇ホール、26日に石川・金沢歌劇座、11月2日に神奈川・ミューザ川崎 シンフォニーホールで行われる。チケットの一般前売りは京都・兵庫公演が4月21日、宮城公演が5月18日、東京公演が25日、熊本・石川公演は6月(予定)、神奈川公演は6月19日に販売スタート。

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2024年度 全国共同制作オペラ 歌劇「ラ・ボエーム」

2024年9月21日(土)、23日(月・振休)
東京都 東京芸術劇場コンサートホール

2024年9月29日(日)
宮城県 名取市文化会館大ホール

2024年10月6日(日)
京都府 ロームシアター京都メインホール

2024年10月12日(土)
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール

2024年10月19日(土)
熊本県 熊本県立劇場 演劇ホール

2024年10月26日(土)
石川県 金沢歌劇座

2024年11月2日(土)
神奈川県 ミューザ川崎シンフォニーホール

スタッフ

指揮:井上道義
演出・振付・美術・衣裳:森山開次

出演

ミミ:ルザン・マンタシャン(東京・宮城・京都公演) / 高橋絵理(兵庫・熊本・石川・神奈川公演)
ロドルフォ:工藤和真
ムゼッタ:中川郁文(東京・宮城・京都公演) / イローナ・レヴォルスカヤ(兵庫・熊本・石川・神奈川公演)
マルチェッロ:池内響
コッリーネ:スタニスラフ・ヴォロビョフ(東京・宮城・京都公演) / 杉尾真吾(兵庫・熊本・石川・神奈川公演)
ショナール:高橋洋介(東京・宮城・京都公演) / ヴィタリ・ユシュマノフ(兵庫・熊本・石川・神奈川公演)
ベノア:晴雅彦
アルチンドロ:仲田尋一
パルピニョール:谷口耕平
ダンサー:梶田留以 / 水島晃太郎 / 南帆乃佳 / 小川莉伯

※高橋絵理の「高」ははしご高が正式表記。

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石川県立音楽堂 @IshikawaONGAKU

井上道義、森山開次、両氏共に縁が深い金沢公演は、10月26日(土)14:00開演 金沢歌劇座にて。
金沢公演はもちろん! @oekjp と共に。渾身の舞台にご期待ください!

「“感無量”という言葉を使いたい」井上道義が現役最後の新制作オペラ 歌劇「ラ・ボエーム」へ思い語る https://t.co/bpjDGvcaCc https://t.co/CxYfSQ44BR

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