段田安則が現実と幻想の間をさまよう、“渾身の”「セールスマンの死」開幕

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パルコ・プロデュース2022「セールスマンの死」が、本日4月4日に東京・PARCO劇場で開幕。これに先駆けて同日、フォトコールと初日会見が行われた。

パルコ・プロデュース2022「セールスマンの死」フォトコールより。

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アーサー・ミラーの代表作の1つである「セールスマンの死」は、主人公のウィリー・ローマンが帰宅し、自ら命を絶つまでを描く作品。今回の上演版では段田安則が主演を務め、イギリスの演出家ショーン・ホームズが演出を担当する。舞台は1950年代前後のアメリカ・ニューヨーク。かつて敏腕セールスマンとして鳴らしたウィリー(段田)は63歳となり、今や社長から厄介者として扱われている。「セールスマンこそが夢をかなえるにふさわしい仕事だ」と信じてきたウィリーだったが、一度は手にしたと思った夢が崩れ始め……。

パルコ・プロデュース2022「セールスマンの死」フォトコールより。

フォトコールで公開されたのは、第1幕の中盤から後半にかけてのシーン。ウィリーは友人のチャーリー(鶴見辰吾)とカードゲームをするが、死んだ兄ベン(高橋克実)のことを回想するうちに、現実と過去の区別がつかなくなり、ゲームを投げ出す。妻リンダ(鈴木保奈美)はウィリーの精神が不安定なことを心配して声をかけるが、長男ビフ(福士誠治)と次男ハッピー(林遣都)は、ウィリーとうまくコミュニケーションが取れず、結局言い争いになってしまうのだった。

パルコ・プロデュース2022「セールスマンの死」フォトコールより。

袖幕が取り払われた舞台の中央には黄色い冷蔵庫が置かれ、舞台の上手と下手には、電柱と電線を模した美術が吊るされた。ウィリー宅のキッチンの一角や庭のセットは可動式で、そのゆっくりと動くセットから降り立ったウィリーは、1人でとりとめもなく話し続ける。そんな彼の様子から、現在と思い出の間をさまよい、やがて幻想の中に取り残されていくウィリーの状況が浮き彫りになった。

パルコ・プロデュース2022「セールスマンの死」フォトコールより。

段田は、ウィリーが老いや衰えに直面し、理想と現実がかけ離れていることに失望するさまを、フラフラと舞台を歩く足取りや家族につらく当たる姿で表現。福士、林はそれぞれに、息子たちと父ウィリーの微妙な距離感を表情や態度の変化で表す。また鈴木は、夫に邪険に扱われながらも彼に寄り添い、一家の不穏な空気を明るくしようとするリンダの健気さを丁寧に演じた。

左から鶴見辰吾、林遣都、鈴木保奈美、段田安則、福士誠治、高橋克実。

会見には段田、鈴木、福士、林、鶴見、高橋が登壇。現在65歳の段田はウィリーを「理想と現実のギャップで苦しむ人。理想を息子たちにも託したことでそこでも挫折しているし、生き方の下手なおっさんだなと」と分析し、「今バラ色の人生を歩んでいる方にも、『人生つらいな』と思っている方にも、楽しんでいただけると思う」とメッセージを送る。演じながら自身の亡き父を思い出したという鈴木は「私は生前の父とあまりコミュニケーションが取れなかったので、ローマン一家がいろいろさらけ出して言い合いをしていることをうらやましく思うことがあります」と胸の内を明かした。

パルコ・プロデュース2022「セールスマンの死」フォトコールより。

パルコ・プロデュース2022「セールスマンの死」フォトコールより。

福士は「何度も直しが入り、1回も頭が休まらない状態で劇場に来た。それだけ深い戯曲なんだなと」と稽古の充実ぶりをのぞかせ、「ビフはキャスト内の“やりたかった役ランキング”上位らしいです。共演者からダメ出しをもらわないよう、千秋楽まで精進します!」と意気込む。林は「部活みたいに毎日みっちり稽古しました。演出のショーンさんがみんなを集めてお話をしているのも、部活の監督のようで(笑)。今日から試合に臨む気持ちです」と心情を述べた。

パルコ・プロデュース2022「セールスマンの死」フォトコールより。

鶴見は「息子への愛の深さゆえに空回ったり、理想を追い続けたりするウィリーを見ていると、亡くなった父を思い出す」と明かし、「ウィリーがベンに『父さんはどこ』と聞くシーンで涙が出る。段田さんは素晴らしいウィリーです」と段田を称賛した。高橋は「セットが斬新。ベンがどこから出てくるかご期待ください」と呼びかける。さらに高橋はウィリーに共感を寄せながら「(ローマン一家を見て)『自分も子供のとき、親にこんな態度をとっていたな』と。演じてみると余計にそういう描写が心に触れてきました」と語った。

段田安則

会見では出演者が、「家族との生活で大切にしていることは?」という質問に答える場面も。段田は「いろいろな家族がいるし、円満の秘訣はそれぞれ違いますからね。どんどんけんかして、だめならそれはそれで仕方ない!ということで良いんじゃないでしょうか。……誰か、もっと良い答えを言ってください!(笑)」と共演者に水を向ける。高橋は家庭円満のポイントを「何かが起きたら自分が引く。自分が引けば、収まります」と簡潔に答え、共演者を笑いで包んだ。

最後に段田が「阪神が負けていることもどこかに行ってしまうくらい(笑)、この作品に一生懸命取り組んでいます。我々の渾身の『セールスマンの死』をよろしくお願いします!」とあいさつし、取材は終了した。

上演時間は休憩20分を含む約2時間40分を予定。東京公演は4月29日まで。5月には、長野・まつもと市民芸術館 主ホール、京都・ロームシアター京都 メインホール、愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール、兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール、福岡・北九州芸術劇場 大ホールでも上演される。

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パルコ・プロデュース2022「セールスマンの死」

2022年4月4日(月)~29日(金・祝)
東京都 PARCO劇場

2022年5月3日(火・祝)
長野県 まつもと市民芸術館 主ホール

2022年5月7日(土)・8日(日)
京都府 ロームシアター京都 メインホール

2022年5月13日(金)~15日(日)
愛知県 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール

2022年5月19日(木)~22日(日)
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

2022年5月28日(土)・29日(日)
福岡県 北九州芸術劇場 大ホール

作:アーサー・ミラー
翻訳:広田敦郎
演出:ショーン・ホームズ
出演:段田安則鈴木保奈美福士誠治林遣都 / 前原滉山岸門人町田マリー皆本麻帆、安宅陽子 / 鶴見辰吾高橋克実

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年次三智男 @BcuJgODhTCQPZjK

【公演 / 会見レポート】段田安則が現実と幻想の間をさまよう、“渾身の”「セールスマンの死」開幕(舞台写真あり) https://t.co/EnnPQTTuU4

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