開場25周年の新国立劇場「2022 / 2023シーズン」、演劇の新シリーズは“未来につなぐもの”

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「新国立劇場 2022 / 2023シーズン ラインアップ説明会」が本日3月1日に東京・新国立劇場で行われ、オペラ芸術監督の大野和士、舞踊芸術監督の吉田都、演劇芸術監督の小川絵梨子が登壇した。

「新国立劇場 2022 / 2023シーズン ラインアップ説明会」より。左から小川絵梨子、大野和士、吉田都。

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吉田都

「2022 / 2023シーズン」は、新国立劇場にとって開場25周年というアニバーサリーイヤーとなり、オペラ・舞踊・演劇それぞれで、「開場25周年記念公演」と銘打った公演が実施される。

まずは吉田が舞踊のラインナップについて説明した。舞踊の「開場25周年記念公演」となるのは、吉田が演出を手がける新制作の「ジゼル」。作品について吉田は「『ジゼル』には本当にいろいろな解釈があると思いますが、今回はオーソドックスなものになると思います」と紹介。そのほか、今シーズンで好評だったホリデーシーズンの「くるみ割り人形」上演や、「ニューイヤー・バレエ」、さらに「コッペリア」「シェイクスピア・ダブルビル」や、今シーズンで話題を呼んだピーター・ライト版「白鳥の湖」再演などが並んだ。

小川絵梨子

続いて小川がラインナップを紹介。「2020 / 2021シーズン」で上演予定だった「ガラスの動物園」について小川は「3年越しになんとかこの作品をお届けできれば思っております」と思いを込める。また演劇の「開場25周年記念公演」には、小川演出の「レオポルトシュタット」が選出された。作品について小川は「トム・ストッパードの最新作です。ストッパードはユダヤの方なのですが、彼自身の出自をたどっていくような作品になります。ただ、迫害や悲劇の中でも命をつないでいった一家の歴史をひも解く家族の話になっていますので、今の人たちにも通じるものがあるのでは」と話す。なお本作は小川にとって初の中劇場での演出作品となる。

また来シーズンは【未来につなぐもの】というタイトルで、三十代から四十代の日本の現代劇作家3人の新作をシリーズ上演。小川は「過去から何を引き継ぎ、未来に何を残していけるかを考えながら、未来に少しでも貢献できるようにという思いを込めた3作になります」と語った。今回が5回目となるフルオーディション企画には上村聡史演出の「エンジェルス・イン・アメリカ」が登場。小川は「1980年代のニューヨークを舞台にした20世紀の重要な戯曲の1つと言われている作品ですが、当時の事象を描きつつも人種やマイノリティ、エイズのことなど普遍的な問題が描かれています」と作品の見どころを語った。さらに長塚圭史の新作は、「音のいない世界で」「かがみのかなたはたなかのなかに」などの作品につながる“こどもも大人も楽しめるシリーズ”最新作であることを明かしたほか、今シーズンに続き「こつこつプロジェクト─ディベロップメント─」や「ギャラリープロジェクト」を継続すると語った。

大野和士

大野はまず今シーズンを振り返り、コロナにより海外のアーティストの来日が難しくなり日本人のアーティストに助けられたこと、そしてそこに大きな発見があったことを語る。そのうえで、「2022 / 2023シーズン」は、中止・延期になった公演と「開場25周年記念公演」3作を盛り込んだラインナップになっていると話す。また、「芸術監督就任以来、毎シーズン新制作4演目に取り組んできましたが、コロナ禍での経済的な面を含めたさまざまな負担を考えて、来シーズンは新制作は3演目とさせていただきます。その1つがバロック・オペラシリーズ第1弾として上演された『ジュリオ・チェーザレ』、もう1つが注目を集めるポーランドの演出家マリウシュ・トレリンスキによる『ボリス・ゴドゥノフ』、そしてイタリアの大家マウリツィオ・ベニーニが指揮する『リゴレット』です」と言い、それぞれの作品の見どころを語った。さらに1998年に開場記念公演として上演された「アイーダ」やレパートリー演目の「ドン・ジョヴァンニ」「タンホイザー」「ファルスタッフ」「ホフマン物語」についても言及した。

「新国立劇場 2022 / 2023シーズン ラインアップ説明会」より。大野が「右肩上がりにしよう」と提案して急遽パネルを“右肩上がり”に。

会見後半の質疑応答では、コロナへの対応や情報発信の在り方についてなど、さまざまな質問が記者から寄せられた。さらにウクライナの状況を踏まえて、芸術と社会との関係性について問われると、大野は自身が昨晩の演奏会で感じた思いを例に挙げながら、「芸術家の使命は心の自由を人々に与えること。芸術家の世界では言葉を介さずともコミュニケーションが行われたり、現実の葛藤が音楽の中に昇華されるということがあり、現実的な枠組みの中で(現実の葛藤が)論じられるべきではないというのが私の考えです」と答えた。小川は「ロシアの国内でもTwitterなどで戦争反対の声を上げていらっしゃる人がいると聞きます。そういった1つひとつの声は小さいかもしれませんが、私もその中の1人ではないかと思っています。直接的に政治的な発言ではないですが、芸術やエンタテインメントという形で、作品を介して思いを共有していくのが私たちの仕事ではないかと思います」と語った。吉田は「今までもずっと戦争や内紛はあって、その中でも人は進み続け、生きてきました。私たちは前に進むしかないと思っています」と言葉に力を込めた。

また舞台作品の配信についての考えを問われると、新国立劇場の村田理事は「ジャンルや新制作か否かによっても状況がかなり違います」としながら、「さまざまな状況を踏まえつつ、昨年末に新国デジタルシアターを立ち上げましたので、これから映像配信についてもしっかりと考えていきたいと思います」と話した。

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新国立劇場 2022 / 2023シーズン 演劇ラインアップ

海外招聘公演「ガラスの動物園」

2022年9・10月
東京都 新国立劇場 中劇場

作:テネシー・ウィリアムズ
演出:イヴォ・ヴァン・ホーヴェ
出演:イザベル・ユペール、ジャスティーン・バチェレ、シリル・グエイ、アントワン・レナーツ

新国立劇場 開場25周年記念公演「レオポルトシュタット」

2022年10月
東京都 新国立劇場 中劇場

作:トム・ストッパード
翻訳:広田敦郎
演出:小川絵梨子
出演:浜中文一音月桂 / 村川絵梨木村了土屋佑壱岡本玲那須佐代子 ほか

【未来につなぐもの】I「私の一ヶ月」

2022年11月
東京都 新国立劇場 小劇場

作:須貝英
演出:稲葉賀恵

【未来につなぐもの】II「夜明けの寄り鯨」

2022年12月
東京都 新国立劇場 小劇場

作:横山拓也
演出:大澤遊

フルオーディション Vol.5「『エンジェルス・イン・アメリカ』第一部『ミレニアム迫る』 / 第二部『ペレストロイカ』」

2023年4・5月
東京都 新国立劇場 小劇場

作:トニー・クシュナー
翻訳:小田島創志
演出:上村聡史
出演:浅野雅博、岩永達也、長村航希坂本慶介鈴木杏、那須佐代子、水夏希山西惇

【未来につなぐもの】III「山田佳奈新作」

2023年6月
東京都 新国立劇場 小劇場

作:山田佳奈
演出:眞鍋卓嗣

長塚圭史新作

2023年7月
東京都 新国立劇場 小劇場

作・演出:長塚圭史

「こつこつプロジェクト-ディベロップメント-」
「ギャラリープロジェクト」

新国立劇場 2022 / 2023シーズン バレエラインアップ

新国立劇場 開場25周年記念公演「ジゼル」

2022年10月21日(金)~30日(日)
新国立劇場 オペラパレス

振付:ジャン・コラリ、ジュール・ペロー、マリウス・プティパ
演出:吉田都
改訂振付:アラスター・マリオット
音楽:アドルフ・アダン

「くるみ割り人形」

2022年12月23日(金)~2023年1月3日(火)
新国立劇場 オペラパレス

振付:ウエイン・イーグリング
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

「ニューイヤー・バレエ『A Million Kisses to my Skin』『シンフォニー・イン・C』ほか」

2023年1月13日(金)~15日(日)
新国立劇場 オペラパレス

振付:「A Million Kisses to my Skin」デヴィッド・ドウソン / 「シンフォニー・イン・C」ジョージ・バランシン
音楽:「A Million Kisses to my Skin」ヨハン・ゼバスティアン・バッハ / 「シンフォニー・イン・C」ジョルジュ・ビゼー

「コッペリア」

2023年2月23日(木・祝)~26日(日)
新国立劇場 オペラパレス

振付:ローラン・プティ
芸術アドバイザー・ステージング:ルイジ・ボニーノ
音楽:レオ・ドリーブ

「シェイクスピア・ダブルビル『夏の夜の夢』『マクベス』」

2023年4月29日(土・祝)~5月6日(土)
新国立劇場 オペラパレス

振付:「夏の夜の夢」フレデリック・アシュトン / 「マクベス」ウィル・タケット
音楽:「夏の夜の夢」フェリックス・メンデルスゾーン / 「マクベス」ジェラルディン・ミュッシャ

「白鳥の湖」

2023年6月10日(土)~18日(日)
新国立劇場 オペラパレス

振付:マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ、ピーター・ライト
演出:ピーター・ライト、ガリーナ・サムソワ
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

こどものためのバレエ劇場2022「ペンギン・カフェ」

2022年7月27日(水)~31日(日)
新国立劇場 オペラパレス

振付:デヴイッド・ビントレー
音楽:サイモン・ジェフス

新国立劇場 2022 / 2023シーズン ダンスラインアップ

新国立劇場バレエ団「春の祭典」

2022年11月25日(金)~27日(日)
新国立劇場 中劇場

演目

「春の祭典 The Rite of Spring」
演出・美術原案:平山素子
振付:平山素子、柳本雅寛
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー

「半獣身の午後」
振付:平山素子
音楽:クロード・ドビュッシー、笠松泰洋

新国立劇場バレエ団「DANCE to the Future2023」

2023年3月24日(金)~26日(日)
新国立劇場 小劇場

振付・出演:新国立劇場バレエ団

日本の洋舞 100年・第4弾「ダンス・アーカイヴ in JAPAN 2023」

2023年6月24日(土)・25日(日)
新国立劇場 中劇場

演目

「土面」
振付:芙二三枝子
音楽:三木稔、松村禎三 ほか
出演:高瀬譜希子、高比良洋 ほか

「夏畑」
振付:折田克子
音楽:マラン・ゴゾフ
出演:平山素子、島地保武

「マーサへ より 三章『運命の道』」
振付:アキコ・カンダ
音楽:フレデリック・ショパン
出演:折原美樹 ほか

「バルバラを踊る より」
振付:アキコ・カンダ
音楽:バルバラ
出演:中村恩恵

新国立劇場 2022 / 2023シーズン オペララインアップ

「ジュリオ・チェーザレ」

2022年10月2日(日)~10日(月・祝)
新国立劇場 オペラパレス

作曲:ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル
指揮:リナルド・アレッサンドリーニ
演出・衣裳:ロラン・ペリー
出演:マリアンネ・ベアーテ・キーランド、駒田敏章、加納悦子、金子美香、森谷真理、藤木大地、ヴィタリ・ユシュマノフ、村松稔之

新国立劇場 開場25周年記念公演「ボリス・ゴドゥノフ」

2022年11月15日(火)~26日(土)
新国立劇場 オペラパレス

原作:プーシキン「ボリス・ゴドゥノフ」およびカラムジン「ロシア国史」に基づく
台本・作曲:モデスト・ムソルグスキー
指揮:大野和士
演出:マリウシュ・トレリンスキ
出演:エフゲニー・ニキティン、小泉詠子、九嶋香奈枝、金子美香、マクシム・パステル、秋谷直之、アレクセイ・ティホミーロフ、工藤和真、河野鉄平、清水華澄、パーヴェル・コルガーティン、駒田敏章、大塚博章、濱松孝行 ほか

「ドン・ジョヴァンニ」

2022年12月6日(火)~13日(火)
新国立劇場 オペラパレス

作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ
指揮:パオロ・オルミ
演出:グリシャ・アサガロフ
出演:シモーネ・アルベルギーニ、河野鉄平、レナート・ドルチーニ、エレオノーラ・ブラット、ジョヴァンニ・サラ、セレーナ・マルフィ、近藤圭、石橋栄実

「タンホイザー」

2023年1月28日(土)~2月11日(土・祝)
新国立劇場 オペラパレス

作曲・台本:リファルト・ワーグナー
指揮:アレホ・ペレス
演出:ハンス=ペーター・レーマン
出演:妻屋秀和、ステファン・グールド、ダニエル・オクリッチ、鈴木准、青山貴、今尾滋、後藤春馬、サビーナ・ツヴィラク、エグレ・シドラウスカイテ ほか

「ファルスタッフ」

2023年2月10日(金)~18日(土)
新国立劇場 オペラパレス

原作:ウィリアム・シェイクスピア
作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
台本:アッリーゴ・ボーイト
指揮:コッラード・ロヴァーリス
演出:ジョナサン・ミラー
出演:ニコラ・アライモ、ホルヘ・エスピーノ、村上公太、青地英幸、糸賀修平、久保田真澄、ロベルタ・マンテンーニャ、三宅理恵、マリアンナ・ピッツォラート ほか

「ホフマン物語」

2023年3月15日(水)~21日(火)
新国立劇場 オペラパレス

作曲:ジャック・オッフェンバック
原作:E.T.A.ホフマン
台本:ジュール・バルビエ、ミッシェル・カレ
指揮:マルコ・トレーニャ
演出・美術・照明:フィリップ・アルロー
出演:レオナルド・カパルボ、小林由佳、安井陽子、木下美穂子、大隅智香子、エギルス・シリンス、青地英幸、伊藤貴之、安東玄人、村上敏明、晴雅彦、須藤慎吾、谷口睦美

新国立劇場 開場25周年記念公演「アイーダ」

2023年4月5日(水)~21日(金)
新国立劇場 オペラパレス

作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
台本:アントーニオ・ギスランツォーニ
指揮:カルロ・リッツィ
演出・美術・衣裳:フランコ・ゼフィレッリ
出演:セレーナ・ファルノッキア、ロベルト・アロニカ、ユディット・クタージ、フランコ・ヴァッサーロ、妻屋秀和、伊藤貴之、村上敏明、十合翔子

「リゴレット」

2023年5月18日(木)~6月3日(土)
新国立劇場 オペラパレス

作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
原作:ヴィクトル・ユーゴー
台本:フランチェスコ・マリア・ビアーヴェ
指揮:マウリツィオ・ベニーニ
演出:エミリオ・サージ
出演:ジョルジュ・ペテアン、ハスミック・トロシャン、イヴァン・アヨン・リヴァス、妻屋秀和、清水華澄、須藤慎吾、森山京子、友清崇、升島唯博、吉川健一、佐藤路子 ほか

「サロメ」

2023年5月27日(土)~6月4日(日)
新国立劇場 オペラパレス

原作:オスカー・ワイルド
台本:ヘドヴィッヒ・ラッハマン
作曲:リヒャルト・シュトラウス
指揮:コンスタンティン・トリンクス
演出:アウグスト・エファーディング
出演:アレックス・ペンダ、イアン・ストーレイ、ジェニファー・ラーモア、トマス・トマソン、鈴木准、加納悦子、与儀巧、青地英幸、加茂下稔、糸賀修平、畠山茂、北川辰彦、秋谷直之、金子慧一、大塚博章、大久保光哉、花房英里子

新国立劇場 開場25周年記念公演「ラ・ボエーム」

2023年6月28日(水)~7月8日(金)
新国立劇場 オペラパレス

作曲:ジャコモ・プッチーニ
原作:アンリ・ミュルジェ
台本:ジュゼッペ・ジャコーザ、ルイージ・イッリカ
指揮:大野和士
演出:粟國淳
出演:アレッサンドラ・マリアネッリ、スティーヴン・コステロ、須藤慎吾、ヴァレンティーナ・マストランジェロ、駒田敏章、フランチェスコ・レオーネ、鹿野由之、晴雅彦 ほか

新国立劇場 高校生のためのオペラ鑑賞教室 2022「蝶々夫人」

2022年7月8日(金)~16日(土)
新国立劇場 オペラパレス

原作:デーヴィッド:ベラスコ
台本:ルイージ・イッリカ、ジュゼッペ・ジャコーザ
作曲:ジャコモ・プッチーニ
指揮:阪哲朗
演出:栗山民也
出演:木下美穂子 / 森谷真理、村上公太 / 城宏憲、成田博之 / 近藤圭、小林由佳 / 但馬由香、糸賀修平 / 升島唯博、伊藤貴之 / 畠山茂、上野裕之 / 千葉裕一、高橋正尚 / 吉川健一、佐藤路子 / 十合翔子

※2022年10月に京都・ロームシアター京都でも公演あり。

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