長塚圭史が生を鮮やかに照らし出す、田中哲司・松田龍平らの「近松心中物語」開幕

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KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「近松心中物語」が、本日9月4日に神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 ホールで開幕。これに先駆け昨日3日、公開ゲネプロが行われた。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「近松心中物語」ゲネプロより。

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「近松心中物語」は、秋元松代が近松門左衛門の「冥土の飛脚」をベースに書いた戯曲。1979年、蜷川幸雄の演出により東京・帝国劇場で初演された。今回はKAAT神奈川芸術劇場の新芸術監督・長塚圭史が演出を担い、“冒”をテーマに掲げた同劇場の2021年メインシーズンの開幕作品として上演される。音楽を手がけるのは、ラップグループのスチャダラパーだ。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「近松心中物語」ゲネプロより。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「近松心中物語」ゲネプロより。

劇中では元禄時代の大阪・新町を舞台に、飛脚屋亀屋の養子・忠兵衛(田中哲司)と新町の遊女・梅川(笹本玲奈)、忠兵衛の幼なじみで古道具商傘屋の婿養子・与兵衛(松田龍平)と、その女房・お亀(石橋静河)の男女2組を中心としたストーリーが展開する。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「近松心中物語」ゲネプロより。

冒頭、ちりん、という鈴の音と共に舞台奥の街灯に明かりが点くと、着物を着た人々のシルエットがいくつも現れる。やがてステージが明るくなると、出演者たちは太鼓やチャンチキなどを打ち鳴らしながらにぎやかに歌い、観客を一気に元禄時代の大阪へといざなった。

舞台は八百屋舞台になっており、上下の袖に設置された数枚のパネルによって、客席から舞台奥に向かうにつれてだんだんと間口が狭くなっている。シンプルな舞台には場面ごとに張見世の格子や屏風、帳場机などが登場し、そのたびにステージは遊郭の街や飛脚宿、古道具屋などへと様相を変えた。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「近松心中物語」ゲネプロより。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「近松心中物語」ゲネプロより。

忠兵衛は真面目な人物でありながら、梅川のことになると思い切った行動に出てしまう。田中は素朴な語り口で忠兵衛の実直さを表現しつつ、彼が梅川を身請けしようとする場面では声を荒げ、燃え上がる恋心を具現化した。笹本は憂いを帯びたまなざしと美しい所作で、何か放っておけない雰囲気を持つ梅川像を立ち上げる。また美声で忠兵衛への思いや死の覚悟を力強く語ることで、彼女の芯の強さをのぞかせた。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「近松心中物語」ゲネプロより。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「近松心中物語」ゲネプロより。

忠兵衛と梅川、与兵衛とお亀はいずれも心中の道を選ぶ。しかし生真面目な忠兵衛と影のある梅川の逢瀬には常に悲壮感が漂う一方、気弱な与兵衛とおきゃんなお亀がコミカルなかけ合いを繰り広げることで、物語に緩急が生まれた。共演者たちが歯切れの良い関西弁でエネルギッシュな大阪の人々に扮する中、松田は与兵衛の流されやすさを、声の抑揚や表情を抑えた演技で体現。石橋は幼さが残るお亀をまっすぐに演じ、遊郭に行った夫への怒りを地団駄を踏みながら爆発させる姿で観客を和ませた。

劇中では19名のキャスト1人ひとりが、生き生きとした演技を見せる。遊女たちが店先で暇を潰しながら食べたいものを挙げる様子や、お亀の育ての親であるお今(朝海ひかる)が、お亀に反物を見せるときの慈愛に満ちた表情からは、それぞれが歩んできた人生がにじんでいた。またラストに流れるスチャダラパーのラップにも、ぜひ期待しよう。

長塚は「例えどんな地位であれ境遇であれ、私たちは人間であることを求める。心中とありますが、死は生を鮮やかに照らします。このエネルギーが現在の皆様に届けばと思います」とコメント。田中は本作について「シンプルな装置の上で、個々の役者がさらけ出される舞台です。誰一人として気を抜けない舞台で、それに負けないよう皆頑張っています。今回の舞台、僕は好きです」と語り、松田は「現代から江戸時代へ、心を重ねて観てもらえる作品だと思います。その時代を生きる人々と、その中で、心中することでしか結ばれることができなかった男女の物語をぜひ劇場でご覧ください」と呼びかけた。

さらに笹本は「現代では日常で使われない美しい日本語と、梅川の芯にある強さと愛情深さを大切に、心を込めて演じたいと思います」、石橋は「廊の街の華やかさ、儚さを目で耳で、楽しんでいただきたいです。また、お亀・与兵衛の可笑しくも切ない恋のゆくえを見守っていただけたら嬉しいです!」とメッセージを送った。

上演時間は休憩なしの約2時間30分を予定。神奈川公演は9月20日まで。その後本作は10月17日まで、福岡、愛知、兵庫、大阪、長野を巡演する。

長塚圭史 コメント

肉体が純粋渇望するもの。

「近松心中物語」は大阪新町の見世女郎梅川と飛脚宿の養子忠兵衛の叶わぬ恋を発端に描くドラマです。ふたりは出会い、恋の炎が燃え上がりますが、金に行き詰まり、とうとう身分を捨て、社会の枠組みから飛び出します。

秋元さんは身分制度のあった江戸時代の社会を、味わい深い台詞で紡ぎます。見世女郎よりも更に身分の低い、河原で客を取る辻君にも今夜帰る家があること。丁稚の長松や久作は幼いながらも親元を離れ、仕事をして、ご飯を食べていること。不機嫌な小役人にも女房が待っていること。皆、生きる為に、働いて、眠り、暮らしています。そんな当たり前の日常からはみ出していく忠兵衛と梅川。例えどんな地位であれ境遇であれ、私たちは人間であることを求める。心中とありますが、死は生を鮮やかに照らします。

このエネルギーが現在の皆様に届けばと思います。KAAT神奈川芸術劇場でお待ちしております。

スチャダラパー コメント

最初に長塚圭史氏から聞いた構想(近松心中物語を、セットも極力シンプルに、少ない役者達で最後はスチャダラのラップがかかって終わる)が、本当に言った通りの形になったのだから感無量です。

田中哲司 コメント

もう少しで舞台初日です。

でも、いつ中止になっても悔いの無いよう、舞台稽古の一回一回を本番のつもりでやっています。なので、これまでの舞台とは恐らく本番の重みが違います。

今回、完成しつつある長塚圭史君の作り上げた「近松心中物語」はシンプルな装置の上で、個々の役者がさらけ出される舞台です。誰一人として気を抜けない舞台で、それに負けないよう皆頑張っています。

今回の舞台、僕は好きです。

こういう状況なので、大手を振って観に来てくださいとは言えませんが……大変な中、観に来てくださった方の心を少しでも揺さぶる事が出来るよう頑張ります。

松田龍平 コメント

明日から近松心中物語を公演します。現代から江戸時代へ、心を重ねて観てもらえる作品だと思います。その時代を生きる人々と、その中で、心中することでしか結ばれることができなかった男女の物語をぜひ劇場でご覧ください。

長塚さんをはじめスタッフ、役者一同、力を合わせて舞台を盛り上げていきますので、お楽しみに。

笹本玲奈 コメント

稽古では、忠兵衛、与兵衛、梅川、お亀をはじめとする登場人物たちが、いまよりも自由が制限されている時代背景、生活環境、身分制度の中で、それぞれが一生懸命に生き抜く姿に心動かされ、愛おしさが増す毎日です。

時代が違えば良かった事、時代が違っても変わらない事、シンプルなストーリーですが、さまざまな視点から見て楽しむことができる作品です。

現代では日常で使われない美しい日本語と、梅川の芯にある強さと愛情深さを大切に、心を込めて演じたいと思います。

石橋静河 コメント

日々の稽古でお亀という女性に向き合いながら、何か果てしない可能性のようなものを感じています。毎日新しい発見があり、幕が開いてからもきっとたくさんの気づきがあるだろうと思います。改めて、素敵な役と出会えたことを有り難く感じています。

廊の街の華やかさ、儚さを目で耳で、楽しんでいただきたいです。また、お亀・与兵衛の可笑しくも切ない恋のゆくえを見守っていただけたら嬉しいです!

朝海ひかる コメント

長塚さんの演出による新しい「近松心中物語」が、皆様にどの様に届くのか、とてもワクワクしております。

現代から元禄へのタイムトリップをどうぞお楽しみください。

石倉三郎 コメント

ホントにこの忌ま忌ましいコロナのせいで、徹底的に検査、予防、何を触るにもアルコール消毒! マスク絶対着用、不安感だらけの稽古がやっと明けて、扨漸く無事初日を迎えられる運びと相成りました。この文化の殿堂、横浜のKAATで、嬉しい限りであります。

秋元松代作・長塚圭史演出「近松心中物語」。

演劇に余り関心のない方でも、充分に楽しめること請け合いです! スタッフ・キャスト、皆懸命に頑張りました。何卒御高覧の程、伏して宜しくお願いお願い申し上げます。

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KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「近松心中物語」

2021年9月4日(土)~20日(月・祝)
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 ホール

2021年9月25日(土)・26日(日)
福岡県 北九州芸術劇場 中劇場

2021年10月1日(金)~3日(日)
愛知県 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール

2021年10月8日(金)~10日(日)
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

2021年10月13日(水)
大阪府 枚方市総合文化芸術センター 関西医大 大ホール

2021年10月16日(土)
長野県 まつもと市民芸術館 主ホール

作:秋元松代
演出:長塚圭史
音楽:スチャダラパー
出演:田中哲司 / 松田龍平笹本玲奈 / 石橋静河 / 綾田俊樹石橋亜希子、山口雅義、清水葉月章平青山美郷 / 辻本耕志益山寛司延増静美松田洋治蔵下穂波 / 藤戸野絵、福長里恩、藤野蒼生 / 朝海ひかる石倉三郎

※福長里恩と藤野蒼生はWキャスト。

※2021年9月30日追記:本公演は新型コロナウイルスの影響により豊橋公演が中止になりました。

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【公演レポート】長塚圭史が生を鮮やかに照らし出す、田中哲司・松田龍平らの「近松心中物語」開幕(コメントあり)
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