「Test&Tinyは実験の場」設立21周年のカクバリズムが仕掛ける“雑多雑食”なセレクトショップ

なぜ今、リアル店舗を構えるのか? 角張渉に聞く“場所”の必要性

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Test&Tinyは実験の場

Test&Tinyの7畳ほどのコンパクトな空間に並ぶ“雑多雑食”なアイテムの数々に囲まれていると、カルチャー好きな友人の部屋に遊びに来たような不思議な気分になってくる。それはカクバリズムというレーベルが持つ親しみやすさであったり、スタイリストの伊賀大介がセレクトした古本、KASHIFが手がけたカセットテープ「Test&Tiny Tape」など、レーベルとその友人たちの関係性があってこその商品ラインナップから筆者が自然と感じ取ったことかもしれない。

Test&Tiny 店内の様子。

「家庭を持つと当然だけど家の中から自分の趣味の要素が少しずつ減っていくんですよ。『子供が大きくなって親のレコードやCDを聴く』みたいな素敵な話も聞くけど、そこに至るまでけっこうな時間があるじゃないですか(笑)。だからこの5、6年は『いつか店を持つなら自分の部屋っぽい雰囲気にしたい』と考えていたんです。それにTest&Tinyの内装や商品のラインナップを通して、カクバリズム全体のセンスみたいなものが伝わってくれればいいなって。置けるレコードも350枚くらいだから、自分の好きなものだけ置けるんですよ。これが10000枚置けるとなると僕の守備範囲をある程度超えていかないと店としては成立しないし、レコ屋と謳うならお客さんのニーズにある程度応えなきゃいけない。だからTest&Tinyはレコ屋でもなければ服屋でもなくて、『こういうのいいと思うんですけど、どうですかね?』と提案する実験の場なんです」

角張の言う実験の1つとして、前述のようなカクバリズムがこれまで築いてきた関係値があってこそのコラボレーションがあるのだろう。レコード目当てで入った店で人生を通して読み返す本に出会えたり、贔屓にしているレーベルのフィルターを通してそれまで知らなかったアーティストの音楽に触れる機会があったとしたらそれは素敵なことだ。

KASHIFが手がけたカセットテープ「Test&Tiny Tape Vol.1 - Kashif」。

「伊賀くんはいい大人になった今でも遊ぶ数少ない友達なんだけど、彼と飲むと本の話をよくするんですよ。例えば野球の話をしていたら『バリ(角張)、落合の[戦士の食卓]は最高だよ』とか言って本を後日持って来てくれる。だからTest&Tinyでは、僕と伊賀くんが飲んでるときに話題に挙がった本を置いてる感じですね。あと面白いのが伊賀くんは『この本の横にはこの本』みたいに本棚のレイアウトまでこだわるんですよ。そういう姿を見ると、伊賀大介が伊賀大介たる所以がわかりますね(笑)。オープン記念のカセットテープ『Test&Tiny Tape』はKASHIFくんに作ってもらいました。カクバリズムのアーティストでもよかったんだけど、この20年の間にたくさんの出会いがあったので、お世話になっている大好きな人たちに声かけていきたいなと思って。それで仲がよくて我々がリスペクトしてるKASHIFくんにお願いしたんです。カセットテープは第2弾、第3弾と仕込んでいるところなのでリリースを楽しみにしていてください」

角張渉にとっての“場所”とは

カクバリズムは自社の作品をDJがクラブでプレイし、口伝てに広がっていくことを想定してレコードを作ったり、昨年全国各地で開催された設立20周年企画「20years Anniversary Special」など数多くのイベントを企画したりと、その場所で生まれる出会いを大切にしてきたように感じる。

「diskunionでバイトをしてたときに、店の先輩もお客さんもみんな優しかったんですよ。店頭BGMはその店が押してるアーティストの作品や、ベテラン店員が好きな音楽をかけるんだけど、僕がまだ若手のペーペーだった頃に『自分でレーベルをやってます』と言ったらYOUR SONG IS GOODの7inchのサンプル盤を流してくれたことがあって。それでたまたまレコードをディグりに来た小西(康陽)さんが『今かかってる曲は何?』と声をかけてくださったり、MUROさんが来たときはリリース済みだったから2枚買いしてくれたりもして、それが本当にうれしかったんですよね」

角張渉

diskunion時代のエピソードを楽しそうに振り返る角張。彼は店頭に立ってお客さんと触れ合う実店舗ならではの醍醐味を次のように語ってくれた。

「作品を聴いてもらうきっかけとしてサブスクも大事だけど、場所があるとお客さんの反応を直接生で見ることができる。店で流してる音楽がきっかけで会話が盛り上がったり、お客さんに『この曲カッコいいですね』と言われるだけでうれしくなっちゃうんですよ。『ハイ・フィデリティ』という映画でレコ屋を営む主人公がスタッフに『The Beta Bandの[The Three E.P.'s]を5枚売る』と宣言してCDをかけて、それを聴いたお客さんが『これは誰? いいね』みたいなことを言うシーンがあるんだけど、それが超カッコいい。結局、僕はそれがやりたいんだと思います(笑)。古い感覚かもしれないけど、そういう意味では場所というものを大事にしているのかも」

この場所から生まれる何かに期待してる

こうしてTest&Tinyは2月25日にオープンした。現在は公式のInstagramアカウントで開店日を告知しながらマイペースに営業を続けている。角張自身も余裕がある日は店頭に立っており、お客さんとコミュニケーションを取る中で実店舗の強みも徐々に見えてきたそうだ。

角張渉

「やっぱりオープン日は緊張しましたね。『初日はたくさん来てくれるでしょ!』と思いつつ、当日を迎えたらやっぱり誰も来ないんじゃないかと不安になってきて。スタッフに『大丈夫ですよ。お客さん来てくれますよ』と言ってもらいたいがために、『やっぱり遠いから全然お客さん来ないんじゃないかな』とか弱音を吐いてました(笑)。結果的にはお客さんがひっきりなしに来てくれて本当にうれしかったですね。お客さんのほうから『レコードを買うのは初めてなんですけど、オススメはありますか?』みたいに話しかけてくれることもあって。それはカクバリズムというレーベルを信頼してくれているってことだと思うんです。それに伊賀くんがこの間遊びに来て「こういう品揃えはほかになくない? 面白いじゃん」と言ってくれたりもして。確かにインディーズレーベルが運営する店で、ここまで雑多なラインナップはあまりないのかなと。レーベルの新しい側面を知ってもらえたらいいし、『こういうお店って今までありそうでなかったかも』みたいな感覚がうちのカラーになっていけばいいなと思います」

コロナ禍の閉鎖的な日々を経て、実際にさまざまな人が集まれる場所を作った角張。彼は今後、Test&Tinyを使ってどんなことにトライしていくのだろうか。

「何か実験的なことをやっていけたらいいですね。カクバリズムから新人をデビューさせる場合、普通はきちんとプロモーションを打って利益を上げましょうとなるんだけど、Test&Tinyではもう少しライトな施策もできるんじゃないかって。まあ、それがなんなのかは模索中ではあるんですけどね(笑)。それとは別にスカートの澤部(渡)くんにアルバイトとして1日店に立ってもらうとかも面白いじゃないですか。例えば澤部くんセレクトの中古レコードをたくさん並べるとか、そういう企画もいいんじゃないかって。さっきも話したけどTest&Tinyは楽しい実験の場にしたいんですよ。僕はこの場所から生まれる何かに期待していて、例えばうちのスタッフが近所の人と仲よくなって松陰神社のカフェでイベントを始めるとか、そういうアクションが起こっていくと面白い。気付いたら店内が知らないアーティストの作品でいっぱいになるとかね(笑)、まったく僕が知らないところでそういうふうになっていくといいなと思います」

Test&Tiny ロゴ

店舗情報

Test&Tiny

住所:東京都世田谷区上馬5-38-10 2階
※営業日はInstagram公式アカウントにて確認を。
<リンク>
Test&Tiny - Instagram
Test&Tiny - ONLINE STORE

角張渉(カクバリワタル)

音楽レーベル・カクバリズム代表。1978年、宮城県出身。2002年3月にカクバリズムを設立し、YOUR SONG IS GOOD、SAKEROCK、キセル、二階堂和美、MU-STARS、cero、(((さらうんど)))、VIDEOTAPEMUSIC、片想い、スカート、思い出野郎Aチーム、在日ファンク、mei eharaなど多彩なアーティストの作品を次々と世に送り出す。2018年7月に初の著書「衣・食・住・音 音楽仕事を続けて生きるには」を発表した。
カクバリズム | KAKUBARHYTHM
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Keisuke Odagiri @harasu_onigiri

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