鈴木杏樹が語るKAKKOのすべて

藤井隆が熱望した、吉田豪によるKAKKOインタビューが実現

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1年のお茶くみを経てデビュー、「やっと来たー!」

──デビューまでの期間がけっこうあったと思いますが、ずっとそういう感じで過ごしていたんですか?

最初はレッスンを受ける日々だったんですけど、途中からEPICソニーの方たちと、PWL(Pete Waterman Limited:マイク・ストック 、マット・エイトキン、ピート・ウォーターマンによるプロデューサーチーム“ストック・エイトキン・ウォーターマン”のレーベル。代表はピート・ウォーターマン)の方たちで、日本人アーティストをデビューさせるというプロジェクトが具体的に進んで、PWLに入りました。その当時、リック・アストリーがティーオペレーターからデビューしたというサクセスストーリーがあって。

──要はお茶くみというか。

そうです。彼がスタジオで下働きをしながらデビューしたという1つの成功例があったので、「あなたもいきなりデビューではなくて、ティーガールとしてスタジオで働きなさい。そのうち機が熟したらデビューしましょう」とピートに言われました。その次の日から毎日スタジオに出勤して、まずスタッフ全員の名前と、好みの紅茶の入れ方を覚えて。それとテープオペレーターのアシスタントに付きながらスタジオの中で24チャンネルのトラックの勉強をしたり、お客様のアテンドなどを主にやっていました。

鈴木杏樹

──音楽制作の現場も学びながら。

そうですね。皆さんが忙しくて手が回らないようなことをお手伝いしていました。ファックスを送れない人がいれば代わりに送ってあげたり。グチャグチャで探しづらい資料があれば、全部アルファベティカルオーダーに並べ替えてあげたり。そんなことをしていたら「ジャパニーズテクノロジーだ!」と喜ばれました(笑)。和気あいあいとした現場で、仕事が終わるとみんなと一緒にパブに行ってジュースを飲んだり、ディナーに連れていってもらったりしましたね。

──お茶くみ期間はどれくらいだったんですか?

1年以上いたんじゃないかな。そのあいだにカイリー(・ミノーグ)は何曲かリリースしているし、ソニアも先にデビューしていて、私はけっこう最後のほうかな。

──不安になったりはしなかったんですか?

しなかったですね。PWLに行く前はダンススクールとボーカルトレーニングに通う毎日で、デビューが決まるわけでもなく、どうなるんだろうと不安に思うこともありました。でもPWLに行ってからはリックが遊びに来るたびに“僕の2代目”みたいな感じで「がんばってる?」「君も必ずデビューできるから安心して前に進みなさい」と声をかけてくれたので、心配はしていなかったです。

──リック・アストリー、いい人なんですね。

リックはすごくいい人です。スノッブにならない、とても温かい人。もう何十年も前のことですけど、今会っても覚えていてくれそうな気がします。

──そしてなんとかデビューが決まって。

そうなんです。ある日スタジオに呼ばれて、ある曲を聴かされたんです。「この曲どう思う?」と聞かれたので、「いい曲ですね。誰の曲ですか?」と尋ねたら、「君の曲だよ。レコーディングするか?」と言われて。「やっと来たー!」って。

鈴木杏樹

──芸名はその時点で決まっていたんですか?

何も考えていなかったんですけど、小さい頃からみんな私のことをニックネームで“カッコ”と呼んでいたので、「“KAKKO”でいいんじゃない?」と。

──そして90年にデビューシングル「We Should Be Dancing」がリリースされます。今でも大量に映像が残ってるぐらい、現地のテレビにも出ていたみたいですね。

ラジオにもテレビにもたくさん出ました。あとはピートが手がけたアーティスト全員バスに乗せて各地を回る「Hitman Roadshow」というツアーにも参加しました。1カ月以上かけてアイルランドまで旅をしたんです。

──それがカイリー・ミノーグとのツアーなんですね。

そうです。カイリーもヘイゼル・ディーンもいました。

──いきなりテレビに出て、大物たちとツアーするという世界に行ったわけですね。

行きましたね。右も左もわからないまま本当によくがんばったと自分を褒めてあげたい(笑)。

──そのときにはもうダンスもできるようになっていたんですか?

それなりに。振付のレッスンもして、ダンサーと一緒に3人でテレビにも出ていました。「Top of the Pops」(イギリスBBCで放送されていた生放送音楽番組)にも出してもらったんですよ。

──え! 出てたんですか!?

すごいでしょ? 私もビックリして。街を歩いていても「あ、KAKKOだ」と気付いてもらえるようになったんですけど、声をかけてくれた外国の人が友達なのか知らない方なのかわからなくて(笑)。

がむしゃらに音楽を染み込ませる日々

──歌手になるという夢がロンドンで叶って、どういう心境でした?

私はこのままずっとイギリスで音楽活動をやっていくのか、それとも帰国して日本デビューをするのか、おぼろげに迷っていました。一緒にツアーを回って仲よくなったアーティストからは「ずっとイギリスにいなよ」と言われたりして。そんな中で2枚のシングルを出したあと、アルバムを出すために10曲ぐらいレコーディングをしたんです。

──え! アルバムを出すはずだったんですか!?

実はそうなんです。アルバムを出す前に湾岸戦争が起きたので、リリースはストップしてしまったんですけど、楽曲は残ってます。

──当時の日本では日本人がロンドンでデビューしたというニュースはあまり報道されていなかったんですよね。

EPICソニーはKAKKOを逆輸入したいと言ってたので、もしロンドンでヒットしたら、「あれはなんと日本人だったんです」と日本でドーンと発表する予定だったんじゃないかなと思います。

──僕は当時、KAKKOのデビュー曲「We Should be Dancing」を東京パフォーマンスドールの穴井夕子さんのソロ曲として聴いていたんですよ。穴井さんのカバーは91年3月リリースだから、デビューの翌年でしたね。

湾岸戦争で帰国したときにソニーから東京パフォーマンスドールに提供する日本語の歌詞を書いてほしいと頼まれて、大阪の実家で書いたんですよ。穴井さんが歌っている楽曲の歌詞も私が和訳して書いたんです。

──ソニーからすれば、レーベルも同じだし、東京パフォーマンスドールはユーロビート中心にやっていたからちょうどいいぞ、みたいなことだったんだろうなと思ってました。

流行っていましたしね。小室(哲哉)さんもよくロンドンに遊びに来ていましたし、情報としてPWLのやってることを勉強されていました。なので小室さんとも会食でお会いしたんですよ。

鈴木杏樹

──単純にあの時代のロンドンでいろんな音楽を聴いて体験していたというだけでうらやましい思いがあります。

私も当時はがむしゃらで、とにかく音楽を体に染み込ませなきゃと思っていたから、「TIMES」という日本の「ぴあ」みたいな雑誌に掲載されている音楽ライブをAからZまで全部1枚ずつチケットを買っていたんです。知らないアーティストも含め、ありとあらゆるコンサートを観に行ったので、中にはビックリしちゃうヘヴィメタルとかもあったりして(笑)。でもそのおかげで今、「あのときのあのコンサート観たことありますよ」というお話ができたりしますし、火薬をたくさん使えたり、スピーカーがいつもより多かったりする、日本では観られないステージも勉強になりましたね。

──どんなミュージシャンを観たか覚えていますか?

私が忘れられないのはPink Floydのウェンブリー・スタジアム。それと、Aerosmithをアリーナで観たことがあったんですけど、福山(雅治)さんのコンサートに行ったときに照明が似てると思ったんですよ。その話を福山さんにしたら、実はAerosmithのコンサートを観て照明が素晴しいと思った福山さんが、同じ照明チームにお願いしていたんです!「やっぱり!」と驚いて。そういうのもいい経験ですよね。

──スタジアム規模からクラブまでいろいろ行っていたんですね。

アニタ・ベイカーのコンサートに行った翌日には、ちょうど私がアテンドしていた大野真澄(GARO)さんの宿泊ホテルでアニタ本人に会っちゃったんですよ。思わず「昨日、あなたのコンサートに行きました」と話しかけたら喜んでくれて。歌手になるための勉強中だと伝えると、「KAKKOへ がんばりなさい」と書いた写真パネルをくれて、「またどこかで会いましょう」と言ってくださいました。

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読者の反応

藤井隆 @left_fujii

KAKOOさんの声が聞こえてくるインタビュー、さすが吉田豪さん。
ありがとうございました!KAKKO!GO! https://t.co/NgDhTRr1a4

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