音楽ナタリー編集部が振り返る、2022年のライブ

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細部に宿る“神”を感じさせたKing Gnu&ラルクのドーム公演、剥き出しの姿を見せたGLAYと鬼龍院翔のリアル

文 / 中野明子

King Gnu「King Gnu Live at TOKYO DOME」2022年11月19日・20日 東京ドーム

神は細部に宿る。

King Gnu初の東京ドーム公演を観終わった瞬間、漏らしたひと言はこれに尽きる。巨大かつ美麗なスクリーンに映し出される新旧のミュージックビデオをオマージュしたオープニングムービーに始まり、メンバーが奏でる卓越したアンサンブル、5万人のオーディエンスを前にしながらも以前と変わらないフランクで等身大のMC……すべてが有機的に絡み合っていたのだ。ひときわ脳裏に残っているのは8階建てビルの高さもあろうかという廃墟を想起させるセット。それはただ建っているだけではない、照明の色や細かなニュアンスによって紡がれる空気、呼び起こされる感情が変わっていく。軸にあるのはあくまでもKing Gnuの音楽だが、そこから派生して生み出される景色はめくるめくものだった。徹頭徹尾こだわりが詰まったライブの中で、もっとも鳥肌が立ったのはメンバーがステージ上に残っているシチュエーションでスクリーンに映し出されたスタッフロール。観客の前に立っているのは4人だが、多くのクリエイターやスタッフがKing Gnuを成している証拠だった。そんな演出は映画のクライマックスのようで、いつまでも深い余韻を残し続けた。

L'Arc-en-Ciel「30th L'Anniversary LIVE」2022年5月21日・22日 東京ドーム

King Gnuが初の東京ドーム公演を完遂した半年前、同地でL'Arc-en-Cielが行った結成30周年公演「30th L'Anniversary LIVE」でも「神は細部に宿る」という言葉が頭に浮かんだ。ラルクが初めて東京ドームに立ったのが1997年なので、今から25年前。以降、節目節目で大規模なライブを行なっている彼らは、その都度最先端の技術を駆使した演出とともに極上のパフォーマンスを見せてくれるが、このときも期待を上回るステージで“非日常”の世界へと誘ってくれた。衰えを知らぬ4人のストイックなプレイ、もはや時が止まっているのではないかと錯覚するほどの4人の麗しいビジュアル、楽曲の世界を細やかに具現化した映像にダイナミックな特効の数々。目にするもの、耳に飛び込んでくる音、その1つひとつに魂が宿る。バンド名のように色とりどりの楽曲で彩られたライブの中で、印象深かったのはラストナンバーの「虹」。オーディエンスがグッズのバットマラカスライトの光で作った虹と、7色の照明からなる虹がドーム内で交差し“ダブルレインボー”がかかる。ちなみに“ダブルレインボー”は「新しいスタートを切る」「祝福」といった幸運をもたらすサインとも言われており、バンドとファンが作り出した光景を前に妙に納得してしまった。なお、このライブ映像は、生々しすぎる舞台裏に迫ったドキュメンタリーとともにPrime Videoで配信されている。結成30周年バンドの裏側はいったいどんなものなのか。そこはあなた自身の目で確かめてほしい。

GLAY「GLAY Anthology presents -UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY 2022-」2022年10月24日 アクトシティ浜松 中ホール

ドーム会場でのエンタテインメント性の高いライブ体験も最高だが、コンパクトな会場ではアーティストの剥き出しの一面が楽しめるのもライブの醍醐味だろう。例えば、GLAYが今年10月に開催した7thアルバム「UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY」の再現ツアーはホール会場が舞台となり、照明演出こそあれど映像も特効も一切なしという、ドームクラスのバンドには異例とも言える潔さだった。さすれば観客の視線はメンバーの一挙手一投足に注がれるわけだが、そこは流石の百戦錬磨のライブバンド。アルバムリリース当時の“若者”では奏でられなかったというアンサンブルを、学生によるコーラス隊の生命力あふれる歌声を交えながら説得力を持って響かせる。そんな心を震わせるような2時間に、涙腺は緩みっぱなし、ペンを持つ手は震えっぱなしであった。

鬼龍院翔「もう誕生日に24時間ソロキャンプ配信なんてしない こんにちは大阪・こんばんは東京バースデーライブ」2022年6月20日 チームスマイル・豊洲PIT

と、ここまで書いたところで、「剥き出し」という点でGLAYと共通点のある1つのライブがふと頭をよぎる。それはゴールデンボンバー鬼龍院翔(Vo)が自身の誕生日に行ったバースデーライブだ。1日で東阪2都市開催、入場時にファンからリクエストを受け付け人気曲でセットリストを決め、ライブ冒頭で牛すじ煮込みを仕込み、アンコールでスタッフに振る舞う。さらにセットリストから漏れたランク外の楽曲もアカペラで全曲ワンフレーズずつお届け……文字にするだけでカオス! しかも、ステージに立っているのは鬼龍院1人というワンオペ状態なのだ。全身全霊、満身創痍、抱腹絶倒、サービス過剰etc……そんな言葉が次々と浮かぶ中、“素”を丸出しにした捨て身の鬼龍院の姿に不思議な感動を覚えたのも事実。同時に次々と画面に映し出される予測不可能な出来事に笑いを禁じ得ず、PCのキーボードが打てないという事態に見舞われた。ひと口にライブとは言っても千差万別だなと改めて感じ入った公演でもある。

“おくりびと”としての卒コン悲喜こもごも

文 / 臼杵成晃

解散、脱退、引退、卒業……音楽の情報を取り扱う身として、お別れの記事を書くことはいつだってさびしいものです。「ラストライブ」という形で、ファンの前できっちり最後のお別れを告げられる場合はまだ幸せで、たった1つの「大切なお知らせ」のみで終止符が打たれる場合もある。前者の場合、我々には「ラストシーンを記録に残す」という使命めいた気持ちが生まれます。ライブレポートですね。そういったラストライブ、卒コンにおける「最後のライブレポ」を、我々(というか主に私個人ですが)は“おくりびと業務”と呼んでいます。

音楽ナタリーのレポート記事は基本的に「その場で起きたことを淡々と書く」というスタイルで、主観や個人的な感想を差し込むことはありません。たまに「熱いレポート」という感想をいただくことがありますが、実際には熱い描写は基本ないはずで、それを読んでいるあなたの記憶が熱くたぎっているだけですよ、という。もちろん、その場の熱気を呼び覚ますような描写や構成は心がけていますが。とはいえやはり、ラストライブや卒コンの類だと、どうしたって漏れ出てしまう「エモみ」のようなものがあるかもしれません。また、“おくりびと”レポは「この記事を出してしまったら、本当にこれで終わりだ」という事実を突き付けることになってしまう側面がある。逆に言えば「このレポを出すまでは完全に終わりではない」という思いから、通常のレポよりもったいぶって出すことも多いです(笑)。「“ニュース”の一種として出す以上、できれば翌日、なんなら即日。1週間過ぎたものは掲載しない」と鮮度を重んじているメディアなのですが……。

2022年もたくさんの“おくりびと業務”がありました。特に今年は、個人的に長く接してきたアイドルグループの卒コンが非常に多かった。残念ながら自分で立ち会えなかったものもありますが、執筆もしくは撮影で入った“おくりびとモノ”を数えてみたら8本ありました。その中で特に印象的だったものをいくつか。

虹のコンキスタドール「Over the RAINBOW~なんたってアイドルなんですっ!!~ in 日本武道館」2022年4月16日・17日 日本武道館

根本凪「月と、真っ赤な目をした兎の夢」2022年4月30日 東京キネマ倶楽部

虹コンはグループの念願であった日本武道館でのワンマン2DAYSライブが、メンバー2名の卒業ライブに。この武道館に向けての虹コンの一連の動きに、初めて全国大会の決勝戦に進んだ体育会系部活動のような爽快感があり、部外者ながら大きく感情移入してしまいました。ことさらドラマチックな演出をしない、2時間超フィールドを走り回るスポーツのような2日間でしたが、体育会系(全員オタクなのに)な虹コンならではのさわやかなステージでした。まさかその2カ月後に卒業した的場華鈴さんの復活劇があるとは想像もしていませんでしたが……。武道館のあとに行われた根本凪さんのソロ公演「月と、真っ赤な目をした兎の夢」は彼女のアイドル人生をSF的ストーリーに落とし込んだ半ドキュメントで見事すぎる幕引き。舞台演出の中で二次元化し、これからVtuberとして活動することを示すという見せ方もお見事。音楽レポートでは通常使うことのないワードや文法、筆運びが必要な、書き手として非常に試される刺激のある内容でした。

lyrical school「lyrical school tour 2022 “L.S.” FINAL」2022年7月24日 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)

lyrical schoolもまた、目標としていた“野音ワンマン”で前体制の有終の美を飾りました。ヘッズ(ファン)との距離感が近いこともリリスクの大きな魅力のひとつですが、あのフレンドリーさは僕らのような“仕事相手”に対しても同様で、がゆえに5人中4人がグループを離れるという決断には一抹のさびしさを覚えました。最後のステージがあまりにいつも通り、否、いつも以上に「楽しいリリスクのライブ」だっただけに、これ本当に最後なのか? 週明けまたどこかでリリイベでもやってるのでは?という気持ちになりましたが、それはもしかしたら本人たちも感じていたのではないかと。今ではそれぞれの道を進み、リリスクはminanさんを中心に新たな形での準備を進めているようなので、2023年の動きに期待しています。

フィロソフィーのダンス「フィロソフィーのダンス 十束おとは卒業コンサート~ベスト・フォー・フォーエバー~」2022年11月19日 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)

虹コンやリリスクと違い、フィロソフィーのダンスは「この“ベスト・フォー”での最後のライブ」をしっかりと印象付けよう、メンバーにとっても思い出に残るステージにしようという思いが伝わる内容でした。十束おとはさんはこの8カ月前に卒業を発表。じっくり時間をかけて4人+ファンとの時間を育んでいき、いざ迎えた卒業公演のラストでは新メンバー2名を迎えた次の一歩を早くもお披露目するという、フィロのスの「これまでとこれから」を凝縮したステージになっていました。ひとつ新鮮で「これはいいな」と思ったのは、卒業スピーチをライブ中盤に差し込んだこと。卒コンの多くはライブの終盤もしくはアンコールで最後のスピーチを行うことがフォーマット化していますが、中盤にドラマチックな山場を置き、後半もうひと暴れしてカラッと明るく終わろう!というやり方はあまりにフィロのスらしく、ほかのグループにも真似してほしいとすら思いました。

私立恵比寿中学「私立恵比寿中学 柏木ひなた卒業式『smile for you』」2022年12月16日 幕張メッセ 幕張イベントホール

そして年末のエビ中。柏木ひなたさんは“転入”(加入)間もない頃から観ているので、メジャーデビュー前のイベントで地団駄を踏んでいたあのチビっ子が……と感慨もひとしお。柏木さんも4月には“転校”(脱退)を発表して、そこからはエビ中としての“終活”を行うかのように1つひとつの活動を噛み締めていた印象です。実際の卒コンは12月16日の「私立恵比寿中学 柏木ひなた卒業式『smile for you』」ですが、今年の(なんなら転校発表前のライブから)すべての公演を含めて卒コンだったような。「卒業式」は選曲も演出もその総決算とばかりに高濃度で、正直公演中は感傷に浸る間もなくあっという間に終わってしまった。その夜、写真を選定しているときに初めて「ああ、これで最後なんだ」としんみりしてしまいました。翌日すぐに新体制ライブ、というのは2018年1月の6人体制初公演「ebichu pride」をなぞる手法で、この余韻にひたる間もなく走り出すやり方はファンにとってもメンバーにとっても酷かもしれない。が、前回同様「これは面白いことになりそうだぞ」と非常にポジティブな印象を与え、期待感をより高める結果になっているのでは。どうしてもアイドルの卒業を「ドラえもん」第6巻になぞらえてしまう藤子信者目線で言うと、「ウソ800」のない第7巻もよいものですね。柏木さんのソロ活動にも大いに期待します。

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吉田山田の山田義孝 @yamadayositaka

来年も沢山ライブします✨ https://t.co/EfcxLgzHPM

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