映像で音楽を奏でる人々 第22回 [バックナンバー]

「主役は絶対に音楽」仲原達彦がA&R視点で映し出す3分間のストーリー

イベンター、レコード会社勤務、映像作家……特殊な経歴を歩むからこそ見えるもの

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ミュージックビデオは自分だけのものじゃない

映像作家としての転機になった作品を挙げるとすれば、最初に思い浮かぶのがceroの「ロープウェー」。それまでとは違うアプローチとしてモノクロのフィルムで撮影したり、劇作家の飴屋法水さんに出演していただいていたり……実はこのMV、カクバリズムに相談しないまま勝手に撮ったんですよ。僕が「ロープウェー」を聴いたときにパッと思いついたイメージを高城くんに伝えたら「いいじゃん」と言ってもらえて、角張さん(カクバリズム代表・角張渉)になんの連絡もしないまま撮影してしまって。だから最初は高城くんと飴屋さんだけのストーリーだったんです。完成した映像を角張さんに見せたら「勝手にそんなことをやるんじゃない」と注意されて。最初は「こんなにいい作品なのになんで!」と思ったんですが、冷静に考えたらそれはそうだなと反省しました(笑)。それに荒内(佑)くんと橋本(翼)くんがいないとceroとして成立しないということで、改めて2人のシーンも撮影したんです。その出来事で「ミュージックビデオは自分だけのものじゃないんだ」と気付いたというか。当たり前のことではあるけど、「ミュージシャンがいて、曲があって、レーベルがあって、いろいろな人が関わっている」ということに改めて気付かされました。そういう意味でも転機だったと思います。

もう1つ転機を挙げるとすると、コロナ禍が始まった頃にたくさんの公演が中止になって、いろんなアーティストが試行錯誤しながらライブ映像を無料で配信する中で、ceroがいち早く有料制での配信ライブを開催したことです(参照:cero、明日21時より有料制のライブ配信)。その際に企画と監督を担当して、MV制作だけじゃない方法でミュージシャンやレーベルに貢献できた感覚があった。あの日を境に映像に対してより真剣に向き合うようになったし、機材を買ったり勉強したりして、外部の仕事やライブ配信、収録の現場を積極的に受けるようになりました。

仲原達彦

映画のワンシーンをそのまま切り出したい

ミツメの「霧の中」は井手健介くんと一緒に作りました。井手くんはその頃、まだ映像監督ではなかったけど、バウスシアター(※東京・吉祥寺にあった映画館・吉祥寺バウスシアター。2014年に閉館)で働いていたこともあって、「彼の作る映像が見てみたい」とずっと思っていたので一緒にやろうと声をかけました。彼が今映像作家として活躍していることを考えると、一緒にやってみたいと思ったのはA&R的な感覚が働いたのかもしれないです。「霧の中」のMVは、好きな映画の話をしながら「こういうシーンがあったら面白いよね」みたいにアイデアを出し合って進めていきました。

僕の作品は「撮ってみないとわからない」という作品も多いかもしれません。イメージは自分の頭の中にしかなくて、それを説明しないままにしているというか。「ロープウェー」のMVで言うと、高城くんと飴屋さんに「それぞれの思い出の場所に連れて行ってください」とだけお伝えして撮影したんです。お二人の昔住んでいた家とかが映っているんですけど、それを表立って言いたいわけではなくて、僕だけがわかっていればいい。観る人に「ここが飴屋さんの思い出の場所なんだな」と思われなくてもいいというか、僕と飴屋さんだけが共通の認識を持っていれば物語として伝わるものがある気がするんです。

仲原達彦

MVは3分くらいの作品が多いけど、映画で考えると3分ってワンシーンじゃないですか。MVで表現したいストーリーがあるとして、僕は2時間の映画を3分のダイジェストにするのでなく、その映画のワンシーン3分をそのまま切り出すようなイメージで作っています。ミツメの「エスパー」も自分の中で前後にストーリーがあるんですが、そのうちの出会いのシーンだけを切り出したイメージで撮っていて。ミツメの4人は同じ方向に進んでいるんだけど、中島セナちゃん演じる主人公だけは逆の方向に向って歩いている。「自分たちの人生は戻れないところまで来ちゃってる感じがあるけど、本当は立ち止まったりしていいし、道を変えても大丈夫」というのを表現したくて。主人公がミツメのメンバーと出会うことで別の道に進んでいける、みたいな大枠の設定があるんです。でもそれは具体的には伝わらなくてもいいと思って作っていて。やっぱりMVなので、曲を聴いてほしいので、何度も観ていくうちに気が付く、くらいがいいかなと思っています。

若い世代のミュージシャンとの出会い

仲原達彦

僕がこれまでMVを撮ったミュージシャンは、A&Rとして自分が関わっていたり、もともと友達だったりというケースが多かったんですね。でも最近はChilli Beans.リュックと添い寝ごはんのような若い世代のバンドのMVも担当させてもらっていて、彼らとはまた違う出会い方をしているんですよ。それはカクバリズムに所属しているVIDEOTAPEMUSICの存在が大きくて。ビデオくんは、それこそ僕がRojiで働いている頃にceroのつながりで出会った人で、いろんなイベントに出てもらったし、一緒に「ライヴ・イン・ハトヤ」(※静岡・伊東温泉ハトヤホテルを会場に行われた宿泊付きディナーショー形式のライブイベント)というイベントを企画したりしていたんですが、今ではマネージャーとアーティストの関係で。主に僕はビデオくんの映像周りの担当をしているんです。Chilli Beans.は最初、ビデオくんが監督で僕が編集と撮影で参加して、リュックと添い寝ごはんも3作くらいビデオくんが撮っていて、僕は制作で入るみたいなことが多かった。でもどちらもその後、僕のことを監督としても呼んでいただけるようになって。2組ともひと回りくらい年下のバンドなんですが、僕とU-zhaanもひと回り離れていて、出会ったのも僕が二十歳くらいの頃だったので、その当時を思い出したというか。僕は若い頃に年上の友達にすごくお世話になって、いろんなところに連れて行ってもらって、いろんな経験をさせてもらったので、自分もそうしたいなと思っていたんです。結果的にChilli Beans.やリュックと添い寝ごはんには、いろんな景色を見させてもらえていて、本当にありがたいです(笑)。

リュックと添い寝ごはんの「home」は、バンドのイメージをそのまま形にできた手応えがあって、彼らとしても納得のいく作品になったみたいでうれしかったです。やっぱり若い子と仕事をするとめちゃくちゃ刺激があります。僕が年上のミュージシャンと一緒にいて居心地がよかったのは、上下関係とか気にせずフラットに接してくれたことなんですよ。若いからってバカにしないというか、「若いね」とは言われるけどやることをやれば認めてもらえている感じがして。僕も相手が若いからという接し方はしていなくて、同世代の友達と一緒にいる感覚とあまり変わらないし、向こうもそう思ってくれていたらいいなと思います。

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