ネット発の新ムーブメント・Vtuberの音楽シーンを探る 第4回 [バックナンバー]

アンジョー/un:cはバーチャルとリアルを行き来する

タブー視される“中の人”を公表し、さらにどちらの活動も同時並行で続ける理由とは?

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アンジョーとun:cは“大人と子供”

MZMはアンジョーのボーカルとコーサカのラップで構成された楽曲を武器にした音楽ユニットであり、un:cとしてのソロ活動とは異なる音楽性を持った楽曲が多い。Vtuberとしてデビューしたことにより、アンジョー/un:cはアーティストとして新しい一面を持つことになった。

「アンジョーの楽曲は明らかにun:cではやらないサウンドのものが多いですね。『Bite me.』は特に顕著で、当時のプロデューサーさんに持ちかけられたときは『たぶん合わないかもしれません……』と自分で言ってしまったくらい。でもそれはun:cとしての視点が当時抜けきれていなかっただけで、アンジョーの歌唱曲としては全然アリだった。むしろ『アンジョーというのはこういう人』という一面を見せられた楽曲だったと思います」

MZMとして歌った「Bite me.」の経験がun:cの楽曲に生きたというのは、アーティストとして二足の草鞋を履く中で最大のメリットだろう。アンジョーとun:c、2つのアーティストの顔を彼自身はどう捉えているのか?

「“大人と子供”かな。アンジョーは大人で、un:cはどんどん若返っているような。un:cはいつまで経っても少年なスタンスですね(笑)。もっと言えば、un:cは僕にとってアイドルな存在なんですよ」

多くのVtuberは、アバターに身を包んだ“バーチャル世界に存在する自分”にアイドル性を帯びさせているだろう。しかしアンジョー/un:cはその逆で、生身で活動するun:cにアイドル性を帯びさせ、アンジョーに自身のパーソナルな部分を重ねている。ほかのVtuberとの考え方の違いに彼自身も戸惑いながら、un:cが帯びているアイドル性について、こう語ってくれた。

「かわいい系の曲をやる傾向にあるのはun:cだし、実際ステージに立つ割合が多いので、よりアイドルやアーティストとして表現することを担っているのがun:cなのかもしれないですね。MZMのアンジョーはun:cとしてやってこなかったこと、お芝居の世界でもやってこなかったことをコーサカと一緒にやっているから、よりパーソナルなものに近いのかも」

Vtuber界隈にはクリエイターが多い

Vtuberの動画を観るために多くの人がYouTubeを使用しているが、Vtuberとニコニコ動画の結び付きは強い。まだVtuberの動画がYouTubeに投稿されることが主流になる前にVtuberというコンテンツをいち早くフックアップし、まとめ動画などをもとに新しいネットミームとしてVtuberの動画が多数投稿されたのはニコニコ動画だった。ニコニコ動画の全盛期からYouTubeが主流となった現在まで長く活動してきたun:cは、ニコニコ動画発祥のカルチャーである“歌ってみた”界隈とYouTubeが主流となりつつあるVtuber界隈の違いをどう捉えているのか。

「厳密に言うとそこまで違いはなくなってきたように感じますが、印象としてはクリエイター気質な人が多いと感じるのはVtuberかも。僕もそういうタイプなので、Vの人たちが『朝から晩までBlender(動画編集ソフトウェア)いじってたよ』みたいな話をしているのを聞くと、『わかるわかる!』って共感する。歌い手が集まって歌で力を合わせるとすごいものができるし、Vtuberが集まるとそれぞれみんな違うスキルを持ち寄って新しいものを生み出せる。どちらも似ているのかな。僕にとってはどちらも好きで刺激的で、体が足りないくらいですね(笑)」

インタビューに応じるアンジョー。

un:cはボーカリストであり、作詞作曲家でもあり、イラストレーターでもあり、動画クリエイターでもある。MZMのアンジョーが行ってきた挑戦は、言ってしまえばun:cが持っていたポテンシャルの露呈だ。きっかけはあれど、今までやってこなかっただけで、アバターを使わなくても実現できるほどの実力は兼ね備えていただろう。それらを実現させるうえで、そもそもアバターを使う必要はあったのか。un:cとして新たな扉を開くという選択肢はなかったのか。

「MZMを始めるときにコーサカと盛り上がった『面白いことをやりたいよね』ということに尽きると思います。僕もコーサカもさまざまな話題で盛り上がるけど、新しいことが大好きなんですよ。Vtuberという可能性を感じる新しいカルチャーに当時僕らは興味津々だったから、MZMという表現の形ができた。2人が共通して面白がれるものがそのときVtuberだったのと、僕がやってみたかったことがVtuberという表現方法に合っていたんですよね」

Vtuberになってun:cが手にしたもの

Vtuberという文化が生まれて5年。誕生日を迎えるたびに年齢を重ねるVtuberもいれば、誕生日を迎えても「永遠の◯歳」として年齢が変わらないVtuberもいる。アバターは何年経っても見た目が変わらないのだから、歳を取らないという解釈もある程度の納得感はある。だがアンジョーの場合はどうだろうか。アンジョーの見た目は変わらないが、un:cとしては確実に年齢を重ねていく。彼はアンジョー/un:cとして歳を重ねることをどう捉えているのだろうか。

「歳を取ることに対してはめちゃくちゃ肯定的に見ています。人間は絶対に歳を取るし、歳を取ったらそのときのun:cを楽しんでもらいたいですね。アンジョーの見た目は変わらないけど。MZMでは体力測定などをするので、その数字が伸びなくなるのも僕は面白いと思う(笑)。バーチャルな存在で見た目は変わらないけど、『もうおじさんになったなー!』って笑い合ったり。昔は歳を取るのがすごく怖かったけど、今は歳を取った分だけ新たな発見があるから、人生面白いなと思えるようになりました」

近年ではメタバースが注目され、VRデバイスを用いた仮想空間の可能性を論ずることが活発になってきている。それに並行して、バーチャルの表現も技術的に年々加速しているように感じる。毎年のようにバーチャルライブを開催し、自分たち以外のライブも俯瞰的に見てきたアンジョーは、バーチャルの可能性をどう見ているのか。

「Vtuberのライブってもっと伸びしろがあると思っています。ライブは生で体感してこそ、みたいな部分があって。演者がいかにお客さんの熱を受け取って、パフォーマンスに即反映できるか。そういった根本がさらに身近になればいいなと思っています。バーチャルとリアルの垣根を越える技術やアイデアで、これからもっと素敵なライブエンタテインメントが生まれると思います」

12月3日に配信されたソロライブ「アンジョー生誕ライブ2022 -Sweetest-」の様子。

アンジョーとして活動を始めて4年。歌い手としてキャリアを重ねてきたun:cは、バーチャルという表現の場を得て何を手にしたのか。その質問に対しては、意外な答えが返ってきた。

「いろいろありますけど、仲間ですね。場所が変われば出会いも変わるし、現実にしろバーチャルにしろ、誰かと会うとアイデアがバンバン浮かぶし、目標ができる。1人でやりながらそれができる人ももちろんいると思いますけど、僕は人に会ったほうがモチベーションを維持できるタイプだから。Vtuberというこれだけすごい表現をするためにはたくさんの人の力が必要で、動画1本作るためにもいろんな人の力があって実現できている。だから人と人との結び付きがすごく大事。僕は1人のクリエイターとしてVtuberの世界に飛び込んで、いろんな刺激をもらって新しい視点や表現のレンジが広がった感覚があります。知らなかっただけで、足を踏み入れてみれば世界はめちゃくちゃ広いんだということに気付きました。望遠レンズと地図を手に入れた感覚に近いかな。アンジョーとしてun:cとして見たい景色が明確に見えるようにり、人生の目標が増えましたね」

12月3日に配信されたソロライブ「アンジョー生誕ライブ2022 -Sweetest-」の様子。

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un:c(あんく) @ANKUosu

表現家として、ひとりの人間として答えさせて頂きました。ありがとうございます! https://t.co/t4j0u37lV4

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