パンチライン・オブ・ザ・イヤー2021 (前編) [バックナンバー]

“パンチライン”とは何か?LEXら新世代の台頭とともに変化する定義

言葉という観点からシーンを振り返る日本語ラップ座談会

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ラッパーたちがマイクを通して日々放ち続ける、リスナーの心をわしづかみする言葉の数々。その中でも特に強烈な印象を残すリリックは、一般的に“パンチライン”と呼ばれている。

日本語ラップシーンの変容に迫るべく、音楽ナタリーでは「昨年もっともパンチラインだったリリックは何か?」を語り合う企画「パンチライン・オブ・ザ・イヤー」を実施。2021年に音源やミュージックビデオが発表された日本語ラップを対象に、有識者たちがそれぞれの見地からあらかじめ選んできたパンチラインについて語り合う座談会を今年1月末に行った。

今回選者を務めたのは、過去の企画にも参加した音楽ライターの二木信氏、国内外のヒップホップシーンに精通している渡辺志保氏、インターネット上でヒップホップやファッションについて発信しているYYK氏、若手ライターのMINORI氏の4名。2022年も後半に差しかかるタイミングでの公開となったが、LEXAwich¥ellow BucksC.O.S.A.といったシーンの最前線で活躍するラッパーたちの魅力を“パンチライン”という観点から、前後編に分けて分析する。

取材・/ 三浦良純 題字 / SITE(Ghetto Hollywood)

トレンドはTikTokと相性がいい“ダンス系

二木信 2021年の顔と言えばLEXですよね。

渡辺志保 ですね。私は去年LEX、Only U、Yung sticky womの3人が出したアルバム「COSMO WORLD」を聴いて、自分たちの世代からは理解できないような子たちが出てきたなと思ったんです。去年大ヒットしたLEX「なんでも言っちゃって feat. JP THE WAVY」の「俺の名前も使っちゃって」というラインも初めて聴いたときは意味がわからなかったし(笑)。LEXたちの曲はことごとくTikTokとかInstagramで流行ってるんですけど、これまで日本語のラップがトレンドになるケースを振り返ると、マスに寄せていった部分があったと思うんです。でも、LEXの場合はマスに寄せずに、ただ本人がカッコいいと思うことをやって、それが同世代の子たちの中でトレンドになっている。Tohjiらに牽引された流れなのかもしれないですけど、これはここ数十年の日本のヒップホップのトレンドの中でもあんまりなかったタイプですよね。

二木 “身内ネタ”がバズる感じですかね。

YYK そういう流れになったのはJP THE WAVYの「Cho Wavy De Gomenne」が最初だと思うんですよね。これまであったようなストリートのラップと文学系のラップじゃなくて“ダンス系”というか。Elle Teresaもそうだし、ダンスをやっている人たちがシーンの中心になっている気がします。だからTikTokとも相性がいい。

渡辺 そのJP THE WAVYとLEXが「なんでも言っちゃって」でコラボしているのは、すごくいいケミストリーですよね。2人とも小さい頃からダンスをやってたから、ダンスの曲として消費されることにも抵抗がないのかなと思うんです。硬派なラッパーだと「俺の曲がTikTokに使われるのはないわ」みたいに言う人もいると思うんです(笑)。

YYK TikTokがいいか悪いかはリスナーの間でも意見が割れてますよね。

渡辺 アメリカではTikTokで自曲がバズってしまったマイク・ダイムズというラッパーが、「俺はトレンドのためにラップしているわけじゃない」と主張していたのですが、日本でもTikTokでヒットした曲のYouTubeを見ると「TikTokから来ました」ってコメントと「2年前から聴いててよかった」みたいなTikTok勢をバカにするような古参のコメントで二分されていて。

YYK LEXの「なんでも言っちゃって」は曲自体が2021年のアンセムですけど、僕は「箱根にも旅をして熱いお湯にも浸かる 誰が一番最下位か争い合うゲーム」っていう、よく意味がわからないところが好きで。急に温泉に行った話をしてるのが面白いし、かわいいなって(笑)。これって熱湯風呂に誰が一番長く入れるかみたいなことなんですかね?

二木 いや、LEXの世代は熱湯風呂を普通は知らないんじゃないですか(笑)。

渡辺 本人の話によると、「争い合うのは底辺の奴らで、本当に才能あるやつはゲームには参加せずに上にいる」みたいなことらしいです。

YYK そういうことなんですね(笑)。

イケてる感を重視する若手と、韻にこだわるベテラン

渡辺 若いラッパーは「仲間と楽しく遊んで稼ぐ」という内容のラップがすごく多い印象なんですけど、それってなんでなんだろうと思っていて。

YYK 友達と遊ぶだけでちょっとカッコいいし、フレックス(“見せびらかす”“自慢する”という意味のスラング)になるみたいな感覚があるんじゃないですかね。例えばバーベキューするだけで、ちょっとリア充というか。アメリカだと“イケてる感”のハードルがもっと高いんですけど、日本のイケてる感のハードルは低くて、友達と自由に遊んでいることがイケてることの証明になる。

二木 単に仲間と徒党を組むのがカッコいいという感じに加えて、最近は集まることに切実さのようなものが増してきている気もします。

渡辺 コミュニケーションが希薄になったり、孤立化が進んだりしているからこそ友達にこだわるのかなという気もしますね。あとは今の若い子たちの親がロスジェネ世代であるということも関係あるのかなと思います。会社員として定年まで勤め上げても安泰というわけではない親の世代を見ているからこそ、「友達と遊んでいるだけでお金になる」みたいなことを歌っているのかなと。考えすぎですかね? みんな、あまり本当のストラグルはラップしないのかなと感じています。

二木 本当のストラグルってやっぱりダサいところもあるじゃないですか。それをオリジナルな表現にしてカッコよく飛躍させるのは難しくて勇気がいりますよね。だから型どおりのやり方でイケてる自分をアピールするのもあると思います。

YYK 若いラッパーはイケてる感を一番重視していますよね。今流行ってる言葉をドリルとかカッコいいビートに乗せることだけ考えていて、上手に韻を踏もうとはしていない。

渡辺 アメリカでも“ミーマブル”と言って、ミームになるようなラインが求められるらしいんですよね。今って見どころだけを短く抜粋した動画を楽しむような“切り抜き文化”がすごいじゃないですか。そういう中で「なんでも言っちゃって」みたいな短くてインパクトのある言葉がガツンとくる。

二木 2019年の「パンチライン・オブ・ザ・イヤー」が「たかだか大麻 ガタガタぬかすな」、2020年が「バカばっかだまったく」でしたけど、やっぱりミーム的なものにはかなわないのがここ最近の流れですね。

YYK 日本で言えば、2020年のこの企画でも話題になったZORNみたいに、とにかく上手なことを言うのがパンチラインの王道だと思うんですよ。だから僕は今回そういうラインを多く選んだんですけど、やっぱりSHINGO★西成とかベテランのほうが若いラッパーよりも王道のパンチラインが多い。地域社会とヤクザの距離の近さを表したSHINGOの曲「893」から選んだのが「冷めたコロッケとこんぶとたくわん… コレのりこえたらサクラは咲くさ! ガキのためにパンケーキも焼くさ! うたがうな! コレはベーキングパウダー」というライン。SHINGOは苦しい生活、ストラグルを歌いつつも、しっかりギャグを入れてくるのが大阪っぽさもあっていいんですよね。

YYK 若手だったらCandeeは今一番カッコいいラッパーだと思っています。彼は全部そろってるんですよね。フロウも面白いし、フックも作れるし、常にうまいことも言おうとしていて。エモ系の曲も作れる人だし、客演も全部面白い。2020年の年末に出たOGF & ZOT on the WAVEの「MELROSE」という曲には「ホテル戻りparty yeah 巻いたマリファナにアルコールそれとSubway 他は口に合わねえ 誰も口挟めねえ 俺らだけのholiday 戻る元の場所へ 時差と草でボケ」というパンチラインがあって。「Subway」のあとに「口に合わねぇ」「口挟めねぇ」って2つの意味で口を使っているんですけど、「挟む」はおそらくサブウェイのサンドウィッチとかけているんですよね。

MELROSEの再生はこちら

YYK SELF MADEというレーベルのサイファー企画「SELF MADE CYPHER」では「歌詞を書き成功 CASIO, SEIKOからROLEXにする為に24 止まる事ないからWatch me」とラップしていて、これも上手なんですけど、このサイファーからはKOWICHIの「会社名義の口座なら三井住友 しがらみよりダイヤモンドできつい首元」というラインを選びました。KOWICHIは30代でベテランに近いので、やっぱり韻を踏んだ王道のパンチラインが多いですね。

渡辺 KOWICHIはもともとウエストコースト系のハードコアなノリでデビューしましたが、「BOYFRIEND #2」でブレイクしてからはチャラい部分を保ちつつキャリアを重ねているのがすごいなと思いますね。

二木 客演で参加したDJ TY-KOH & YOUNG HASTLEの「バイトしない」で見せたようなユーモアのセンスもありますし、KOWICHIはウィットのあるラッパーですよね。

YYK 女性受けするラブソングもあるんですよね。

渡辺 そうですね。KOWICHIはそのバランス感が取れている。

「俺はこんなに金を稼ぐ」と「金より大事なものがある」の繰り返し

二木 僕がKOWICHIの曲で選んだのは、Elle Teresaとのコラボ曲で、その名も「Rich」。どうフレックスしているか、どうリッチでお金を持っているかを歌うかはラッパーの腕の見せどころのひとつでもあると思うんですけど、この曲で2人は「俺達いつでもrich その紙切れじゃ買えない あたしたちいつでも超リッチ 数える1,2,3」と歌っているんです。一見普通のお金持ち自慢のようだけど「紙切れじゃ買えない」という言葉が表すように、ここでの「rich」は仲間とかマインド面のことでもあるんじゃないかなと思わせる。「まず金で買えないものをゲット」ともラップしていて。

MINORI あとから付いてくるのが金ということですね。

二木 そうそう。こういうことをKOWICHIと Elle Teresaが歌っているのが熱いなって。

渡辺 HideyoshiとYZERRも「Rich」という曲を去年発表しているんですが、それもやっぱり「金を稼いでも自分が欲しいものは買えない、資本主義に抗っていきたい」というような内容でした。お金とは違う豊かさを求めているという点で共通している。

YYK でも、ラッパーって両方やるんですよね。「俺はこんなに金を稼ぐ」って歌っていたかと思ったら、今度は「金より大事なものがある」と歌って。それを繰り返していく(笑)。

二木 2MarleyとPlayssonも一緒に「No Flex」という曲を出しましたよね。

コミュニティとヒップホップの共生

渡辺 ここでPlayssonと同世代で同じく名古屋を拠点とする¥ellow Bucksの話をさせてください。¥ellow BucksはKOHHからBAD HOP、そしてLEXへと連なるシーンの流れの中で、BAD HOPとLEXの間を埋めるような存在だと思っていて。私は彼が客演したDJ RYOW「Money Dance feat. ¥ellow Bucks」から「思い出話も悪くはねえでも まあ気になるのはこの先がどうか 時代は変わってる目を覚そうじゃねえか もう誰もいねえよあのコーナー」というラインを選びました。

渡辺 これは「みんながいた溜まり場はもうないんだから、昔のことなんか忘れて前を向け」っていうメッセージで、彼が未来を見ているラッパーだということが顕著に表れているラインだなと。私がそういうノスタルジーを大事にしがちな人間なので沁みました(笑)。ただ、¥ellow Bucksは今年発表した「I’m Back」という曲で「貧乏ゆすりじゃねぇこいつはB-Boyゆすり」というパンチラインを出していて、そちらのほうが強烈なんですが(笑)。

渡辺 ¥ellow BucksとPlayssonは大麻所持で逮捕された際に「NAMIMONOGATARI」の出演者ということで報道されましたが、コミュニティとヒップホップの文化をどう共生させていくかは大きな課題だと思いました。「NAMIMONOGATARI」はTOKONA-Xの地元でもある愛知県常滑市で開催されたフェスですが、感染症対策が不十分な“密フェス”として連日報道される中で、コミュニティから邪魔者として扱われてしまった。アメリカではラッパーが地元を盛り上げるためにフェスを開催するという仕組みがうまく回っていますし、「FUJI ROCK FESTIVAL」は運営会社のSMASHが地元の方と話し合いつつ開催に至ったという記事を読んで、それと同じことが「NAMIMONOGATARI」でも行われていれば、あそこまでの騒ぎにはならなかったんじゃないかって。そんなふうにコミュニティとヒップホップのあり方を考える中で、地方で生活しながら、どうやって活動を続けているかということを愚直にラップする人たちに、さらに惹かれつつあります。その1人がC.O.S.A.。彼が去年リリースしたEP「FRIENDS & ME」は全曲パンチラインの宝庫なんですが、その中から「Motown Man」の「渋谷と同じ眠らない 俺のパンチライン ベルトコンベア ライン 止まらない 音楽 労働 快楽 堕落 ここはmotown」を選びました。こんなの誰も言えないなって(笑)。

二木 パンチラインが眠らないってことですよね。

渡辺 そうですね、ずっと出てくるぞっていう(笑)。ハードボイルドなヒップホップのカッコよさがありつつ、工場で働く生活を歌っている曲で、「音楽 労働 快楽 堕落」という対になる言葉を並べた最後のラインも実際に働きながらラップしている人じゃないと書けないリリックだなと思いました。C.O.S.A.の地元の愛知県はトヨタの資本が強くて、自動車工業が盛んというところから「Motown Man」ってタイトルを思い付いたらしいです。

二木 C.O.S.Aって昔はヒップホップ特有の“悪い雰囲気”を極力抑えていたと思うんですけど、WELL-DONEと一緒にやってる曲「Twinz」をはじめとして、前よりも“イカツさ”は出すようになりましたよね。それがナチュラルにカッコいい。

渡辺 「Twinz」のリリックはビッグ・パンやファット・ジョーの名前が出てくるのも面白いし、「おまえ先輩の飯食えねえのかって話」というラインもローカルの上下関係がすごく滲み出ていて聴き込みましたね。この曲を出した直後にWELL-DONEが逮捕されて収監されてるのもドラマだなって思いました。C.O.S.A.と同じような観点で去年聴き込んだのが、長野県松本市を拠点とするMASS-HOLEのアルバム「ze belle」。MASS-HOLE はC.O.S.A.と同じようにフッドについてラップしているラッパーで、どうクールに生きるかということを精神論的なところまで踏み込んでラップしている人です。選んだのはフッドについてのラップではないんですけど、「vandana」という曲の「野郎はvandana ladyはskimask 汚い言葉を吐き出す 理性をはみ出す」というライン。まず汚い言葉を吐き出していいんだということがありつつ、女性もスキーマスクをかぶって戦っていいんだよと言ってもらえるのがうれしくて。ANARCHYも「Awakening」という曲で「女の子もよじ登れ」とラップしていて、それも当時すごくうれしかったんですよね。女の子も登っていいんだって(笑)。でも、それ以降、男も女も一緒に戦おうって言ってくれるラッパーってあんまりいなかった気がして。最近だとPublic EnemyのチャックDがリリースした「Fight The Power: Remix 2020」というリミックスに女性ラッパーのラプソディが参加していて感動したんですけど、それと同じものをMASS-HOLEに感じましたね。今の日本のヒップホップにはない視点だと思います。

vandanaの再生はこちら

Awakeningの再生はこちら

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