佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 10回目 後編 [バックナンバー]

作家魂を支える“北海道のヤンキーの血”とは?

シンガーソングライター山崎あおいとアイドルソングの作家仕事を考える

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私には北海道のヤンキーの血が流れているんだろうなって

南波 歌詞に関して言うと、フィロソフィーのダンスの「誓い合ったんだってね、LOVE」は、それこそ女性の率直な気持ちが歌われている曲ですよね。

山崎 そうですね。あの曲は作詞だけ担当したんですけど、詞先で書いたんです。(奥津)マリリさんが「結婚したい」っていうのが口癖で(笑)、「結婚したいソングを作ろう!」みたいなところから始まったので。

南波 パッと歌詞を見たときに、Juice=Juiceが歌うようなものとは全然違うなと思って。こういうタイプの明るい結婚ソングも書かれるんだと思ってびっくりしたんですよね。奥津さんの陽なキャラに合わせたらああなったという。

山崎 マリリさんが、すごい妄想していて(笑)。

佐々木 詞先ってそんなにあるわけじゃないと思うんですけど、山崎さんは自分で曲を書いて歌う人でもあるから、歌詞を書きながら頭の中でメロディが鳴り出したりすることもあるんじゃないですか?

山崎 鳴っちゃいます。なんなら自分なりのメロディを書いちゃいますね。詞先ではあるんですけど「メロディはこういう感じ?」みたいな。

佐々木 例えば「誓い合ったんだってね、LOVE」の歌詞を提出するときとか、そのメロディは付けたんですか?

山崎 いえ、そこはオーダーが別だったので(笑)。

南波 実際どうだったんですか、違いは?

山崎 サビが一番大事なんですけど、ここで上がってほしいってところでバチッとメロディと歌詞がハマっていたのでうれしかったです。

佐々木 逆に、頭の中で鳴っていたメロディと全然違うメロディが付く場合もあるわけですよね?

山崎 はい。でも、それはそれで面白いなって。

南波 変化や違いも楽しめるという。自分で曲を全部コントロールしたいなら、それは作家ではなくアーティストとしての仕事になるから。

山崎 1人で全部完パケるよりも、なるべく多くの人たちと1つの仕事を完成させるほうが気分が上がるんですよね。「仲間」とか「俺ら」みたいな感じが好きなんです。最近すごく思うんですけど、私には田舎のヤンキーの血が流れているんだろうなって。北海道のヤンキーっていうか。

南波 北海道のヤンキー!

山崎 北海道の友達って地元愛とか仲間意識が強いんですよ。私もそうなんですけど。北海道出身の人って、すぐ「仲間だね」みたいな感じになるので。その血が自分にも流れている気がします(笑)。

南波 確かにアイドル楽曲の制作って、基本的には分業ですもんね。

佐々木 意外なところまで細かく分かれていたり。

山崎 ラップだけ違う人が書いていたりしますし。

ミュージカルっぽい曲をいつか書いてみたい

南波 先ほど歌のうまさみたいな話になりましたけど、アイドルの歌唱スキルに関してはどう考えているんですか? それこそいろんなタイプがいるじゃないですか。

山崎 歌はうまいほうがいいですよね(笑)。今はメロダイン(※ドイツのCelemony社が開発 / 販売を行っているピッチ補正ソフト)とか使って、いくらでも音程の修正はできますけど、息を吐くニュアンスとか、歌の切り際のグルーヴ感までは修正できないので。

佐々木 ライブで「アレ?」みたいなことありますよね。

山崎 そうですね(笑)。細かいニュアンスの部分まで歌で表現できているアイドルさんを観ると安心します。

佐々木 自分が曲を書いたアイドルのライブにはよく行くんですか?

山崎 行きますね。単純に元気をもらいに行ってる感じです。曲を書くモチベーションにつながるので。

佐々木 そうやってグループやメンバーについて深く知ることで、新たな曲のイメージが浮かぶこともあるでしょうし。

山崎 何度か曲を書いていく段階で、間違いなくファンにはなります。「ここでこういう表情しちゃう子なのね、好き!」みたいな(笑)。ライブも全然ファンの気持ちで観ていますね。で、さらに、いい曲を書きたいと思って。

南波 でも、ここまでハイペースで曲を書いてる人が、さらにコンペにも積極的に参加しているっていうのは、あまり聞かないですよね。コンペってピックアップされるのが大変じゃないですか。それよりも勝手知ったる人たちと仕事をするほうが効率的にもいいと思うんですけど。

山崎 ドM気質もありますし、1つのところでずっとやり続けるのもよくないなと思っていて。作風が偏ってしまうような気もしますし。いろんな音楽を聴いて、いろんな曲を作れるようにしておきたいなと思うんです。

南波 何を聞いても職業作家の人という(笑)。

佐々木 しかも職業作家然とした雰囲気じゃないので余計ギャップがあるというか(笑)。職人肌なことをニコニコ穏やかにしゃべり続ける感じだから。

山崎 あははは。

左より山崎あおい、南波一海、佐々木敦。

佐々木 今後チャレンジしてみたい仕事はありますか? こういうテイストの曲を書いてみたいとか。

山崎 男性アーティストの曲をもっと書いてみたいですし、あとはミュージカルっぽい曲をいつか書いてみたいですね。この間BEYOOOOONDSのライブを観に行かせてもらったんですけど、1本のショーとしてすごく面白くて。ライブで歌われることを前提として、どの箇所にどういう曲を書いたら面白くなるかな?みたいなことを想像しちゃいました(笑)。脳内でコンセプトライブみたいなものをイメージして、10曲ぐらい書けたらいいなって。

南波 山崎さんがご覧になったのはBEYOOOOONDSの武道館公演ですよね? 最後に「伸びしろ~Beyond the World~」を歌ってハッピーエンドで終わって。ああいうゴスペル的な曲ってやっぱり舞台映えするなと思いましたし、BEYOOOOONDSのようなミュージカルっぽい展開のライブって1人で歌うのは絶対不可能だし、次々と登場人物が出てくるのが楽しいんですよね。

佐々木 ミュージカルっぽいライブをやってる人たちって今はBEYOOOOONDSくらいしかいないけどね(笑)。

南波 同じハロプロでいえば、モーニング娘。の「Mr.Moonlight ~愛のビッグバンド~」なんかはミュージカルですよね。確かにああいう曲って、グループじゃないと書けないなと思います。

山崎 いつか書いてみたいです、ああいう曲。

山崎あおい

「想像していたのと違うけど、楽しいから、まあいっか」みたいな

佐々木 グループ単位でも、今まで山崎さんが曲を書いていない違う個性を持ったグループもいっぱいいますよね。違うタイプの曲を書ける機会も、まだまだいろいろありそうですね。

山崎 楽しみがいっぱい残っている感じですね。

佐々木 それを苦行だと思わないところが作家に向いてるところなんですかね。

山崎 普通に曲を作ることが好きなんだと思います。

南波 他人に書くからこそ、いろんな世界が書けるっていう。

山崎 シンガーソングライター1本だと、自分のキャラに合わないことができなくなっちゃうので限定されちゃうなと。

佐々木 先ほど今後は作家としての活動を増やしていきたいとおっしゃっていたじゃないですか。そういう将来計画はけっこう考えてきたんですか?

山崎 めちゃくちゃ考えるタイプなんですけど、考えていることとやってることがいつも違うんですよ(笑)。大事なところで違う判断をノリで下してしまって。「想像していたのと違うけど、楽しいから、まあいっか」みたいな(笑)。

南波 実際、シンガーソングライターとしてデビューした頃は、今みたいになっているとは思わなかったでしょうし。

山崎 思わなかったですね。でも、今ではよかったなって思います。

南波 そしてアレンジの仕事も視野に入ってきているという。

山崎 でも細かい作業が本当に苦手で。アレンジャーの先輩に「アウトロで急に手を抜くよね」とか言われてしまって(笑)。アウトロまで集中力が持たないんですよね。

佐々木 集中型なんですかね?

山崎 ノリで全部やっちゃうので。じゃあノリでできたものをどう詰めていくかみたいな段階で「わかりません……」ってなっちゃうんです。

南波 いつか山崎さんがアレンジした曲も聴いてみたいです。

山崎 がんばります(笑)。

左より佐々木敦、山崎あおい、南波一海。

山崎あおい

1993年生まれ、北海道出身のシンガーソングライター。「YAMAHA Music Revolution」でグランプリを受賞したことをきっかけに、地元を中心に音楽活動を展開。透明感のある歌声と、等身大の歌詞が同性を中心に支持を集める。2012年8月にビクターエンタテインメントよりインディーズ時代に発表した楽曲をまとめたアルバム「ツナガル」をリリース。2014年1月に1stアルバム「アオイロ」を発表した。以降もコンスタントに作品をリリースしている。最新作は2021年12月リリースのアルバム「√S」。シンガーソングライターとしての活動と並行して他アーティストへの楽曲提供も積極的に行っている。

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベル・HEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」の編集長を務める。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。同年8月に78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)、11月に文芸誌「群像」での連載を書籍化した「それを小説と呼ぶ」(講談社)が刊行された。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル・PENGUIN DISC主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行い、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。

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山崎あおい/Aoi Yamazaki @aoi_punclo

佐々木さん・南波さんとの対談、後半も公開されました! https://t.co/olOC5KV7aS

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