細野ゼミ 9コマ目(中編) [バックナンバー]

細野晴臣とシンガーソングライター

ジェイムス・テイラー、ニール・ヤング、高田渡、小坂忠、西岡恭蔵……細野晴臣が出会ってきたミュージシャンたち

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活動50周年を経た今なお、日本のみならず海外でも熱烈な支持を集め、改めてその音楽が注目されている細野晴臣。音楽ナタリーでは、彼が生み出してきた作品やリスナー遍歴を通じてそのキャリアを改めて掘り下げるべく、さまざまなジャンルについて探求する連載企画「細野ゼミ」を展開中だ。

ゼミ生として参加しているのは、氏を敬愛してやまない安部勇磨(never young beach)とハマ・オカモト(OKAMOTO'S)という同世代アーティスト2人。さまざまなジャンルについてそれぞれの見解を交えながら語っている。昨年秋よりコロナ禍で休講していた本ゼミだが、半年ぶりに復活。第9回では“シンガーソングライター”について考えていく。全3回にわたる記事の中編では、細野が影響を受けたシンガーソングライターや、出会ってきた同世代の邦楽アーティストたちについて触れる。

取材 / 加藤一陽 / 望月哲 題字 / 細野晴臣 イラスト / 死後くん

ジェイムス・テイラーが細野晴臣に与えた影響

──前回話に出てきたボブ・ディラン、ジェイムス・テイラー、ニール・ヤング、キャロル・キングといったシンガーソングライターについて、細野さんはそれぞれどんな印象を持っていますか?

細野晴臣 ボブ・ディランは前回話したように、最初は作曲家というイメージだった。友達がアメリカに行ってレコードを買ってきたんだよね。「The Times They Are a-Changin'」っていうアルバム。そこにいろんな人が歌ったヒット曲がたくさん入っていて、「なんだこれは!」と思ってびっくりしたね。しかもあの歌声だし、ぶっきらぼうな歌い方で。アレンジを変えるだけで、あんなにいい曲になるんだって驚いた。

ハマ・オカモト オリジナルを聴くことで、カバー曲のアレンジのすごさも体感されたんですね。

──そこがカバーの面白さでもありますよね。

ハマ ボブ・ディランのファンに怒られちゃいますけど、僕も最初に聴いたときはあまり心象がいい感じではなかったです(笑)。「え!?」みたいな(笑)。

細野 でも、みんなディランのぶっきらぼうな歌い方を真似しだしたんだよ(笑)。そのうちディランはエレキギターを持ち出して。僕は「Subterranean Homesick Blues」っていう曲が大好きで、コピーしていたね。別格だよ、ディランは。“ボブ・ディランっていうブランド”になっちゃった。神格化されすぎてるところもあるけど。

──ジェイムス・テイラーはいかがですか?

細野 ジェイムス・テイラーは「Fire and Rain」っていう曲が大ヒットして、よくラジオで流れてた。それを聴いてすごく新鮮だなと思った。ロック色が薄いし。はっぴいえんどの1枚目を作るか作らないかの頃だったんだけど、彼の低い歌声にはすごく影響を受けたよ。当時はロックバンドのボーカリストってみんな高い声を張り上げて歌っていたから。僕にはあんな高い声は出ないし。もしも高い声が出てたら、今頃The Beach Boysや山下達郎みたいに歌ってる(笑)。

ハマ すごい世界線(笑)。

細野 要するに、僕のような低い声の人にとってのお手本になったわけだ。そういうシンガーソングライターがいっぱい出てきた。ゴードン・ライトフットも声が低いし、トム・ラッシュも低い。逆に1人で歌うのに高い声だと情けないっていうか(笑)。

安部勇磨 ああ!

ハマ なるほど!

安部 僕は20代の半ばくらいに細野さんのインタビューを読んで、ジェイムス・テイラーを聴いてました。確かに声低いなって。

──ちなみに、安部さんの声も低いほうだと思うんですけど、ご自身ではどう自認していますか?

安部 僕は中途半端な声だなと思ってすごい落ち込むんですよ。細野さんの歌を聴くと低くてふくよかで太い。僕は高くもないけど低くもないみたいな(笑)。

細野 ちょうどいいじゃん(笑)。

安部 どっちにもつかないという悩みがありました。細野さんとかテイラーさんとかいろんな人の歌を聴きながら。

ハマ 「テイラーさん」(笑)。ちなみにジェイムス・テイラーからの影響が「風をあつめて」とかに表れているんですか?

細野 もちろん。

ハマ ですよね。「高く歌わないといけない」みたいな意識があったら、ああいう歌い方になりませんよね。

細野 はっぴいえんどの1枚目はロックバンドっぽくやろうとして無理してたんだよね。2枚目はシンガーソングライターからの影響がすごく強かったから、1人ひとり曲を作るようになった。

安部 ほかのメンバーに「もうちょっと声高く張り上げてみたら?」とか言われなかったんですか?

細野 全然ない(笑)。勝手に自由にやってたよ。

安部 お互いの作品に立ち入ることってあんまりなかったんですか? それぞれの作風を尊重するというか。

細野 もっと共有感があったね。例えば大瀧(詠一)くんが「颱風」を作ってきたら、「この曲はトニー・ジョー・ホワイトでいくんだ」みたいな。

ハマ バンドっぽいですね。

安部 なんとなくみんなでイメージを共有できているんですね。

細野 そう。

ハマ でも高い声、低い声の話はすごく重要ですよね。ジェイムス・テイラーの歌声に細野さんが背中を押されたのと、藤原さくらさんが「低い声がコンプレックスだったけどノラ・ジョーンズを初めて聴いて『これでいいんだ!』と思った」というエピソードは同じことだと思うんです。ノラ・ジョーンズは「全世界の低い声の女子! 私がいるから大丈夫よ」とは思ってないと思うけど(笑)。

安部 本人がそう思っていなくても、結果誰かの背中を押してるというのは、すごく素敵なことだよね。自分がやりたいことをやってるだけだったのにさ。

ハマ うん。そういう気付きが、はっぴいえんどの2枚目を作っていた時期の細野さんにもあったわけで。ジェイムス・テイラーがヒットしていなかったら、ロックバンドのボーカリストは高い声のままだったのかな(笑)。

細野 もう1つ、ジェイムス・テイラーで言いたいのは、1枚目のアルバム「James Taylor」をThe Beatlesが設立したアップルレコードからリリースしているということ。あの作品にはポール・マッカートニーとジョージ・ハリスンが参加してるんだよね。

安部 ええ、そうなんですか?

ハマ 知らなかった。

細野 1曲くらいね。そのアルバムは、ピーター・アッシャーっていう有名なプロデューサーが付いてイギリスでレコーディングされたんだけど、ジェイムス・テイラーがアメリカでやっていたバンドのデモテープに入っていた曲が中心で、いい曲がいっぱいあるわけ。ソングライターとしては、すごくポップなセンスの持ち主なんだよ。あと、ギターがすごくうまい。ジェイムス・テイラーがギブソンのJ-50を弾いてたから、僕も同じギターが欲しいと思って買ったんだけど、間違ってJ-45を買っちゃった。ジェイムス・テイラーにはそれくらい影響を受けてるよ。

──ニール・ヤングは音楽的にどういうところが好きですか?

細野 Buffalo Springfield在籍時、ニール・ヤングの曲はだいたいシングルのB面だったんだけど、僕は彼の曲が大好きで、自分でもコピーしてよく歌ってたよ。

──ニール・ヤングは声が高いですよね。

細野 特徴あるね。そういえば、ニール・ヤングがソロデビューした頃、「歌わないほうがいい」って言われていたこともあった。実際、バンド時代は自分の声にコンプレックスがあったみたい。でも、ソロでは思いっきり歌ってるじゃん。名盤がたくさんある人だけど、僕は1枚目のアルバムが一番好き。

ハマ 根っからのファンなんですね。

細野 どうなんだろうな(笑)。でもBuffalo Springfieldはニール・ヤングがいなかったら、ちょっと寂しいバンドだよね。ニール・ヤングはシンガーソングライター的な資質が根っこにある人で、もう1人の中心メンバーだったスティーヴン・スティルスはもうちょっとポップソング寄りの人。それぞれタイプが違うんだよ。

ハマ それがいい効果を?

細野 そうそう。バンドとしてのバラエティが生まれて。スティーヴン・スティルスの近況はあまり聞かなくなっちゃったけど、ニール・ヤングは今も現役でやってるからすごいよね。

──ローラ・ニーロに関してはいかがでしょうか?

細野 最初に知ったのはThe Fifth Dimensionの「Stoned Soul Picnic」というヒット曲。その曲をローラ・ニーロが書いていて、すごくいいなと思った。その後、彼女がソロアルバムを出したら、その曲が入っていて、オリジナルのほうが全然よくてびっくりした。

The Fifth Dimension「Stoned Soul Picnic」の再生はこちら

Laura Nyro「Stoned Soul Picnic」の再生はこちら

──ローラ・ニーロもカバーを先に聴くパターンだったんですね。

細野 うん。だいたいヒットチャートに入ってくるような曲しか聴いてなかったんだよね、僕は。ただ、当時のヒットチャートは本当にいい曲ばっかりなんだよ。つまらない曲が入ってこない。正直な世界だったから、それを聴いているだけでいろんなことがわかった。

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細野晴臣にとって大切な存在だった西岡恭蔵

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🟢ハマ・オカモト🟢

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シンガーソングライター編 中編公開❕

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