細野ゼミ 9コマ目(前編) [バックナンバー]

細野晴臣とシンガーソングライター

シンガーソングライターはいつ生まれたのか? その歴史とともに定義を考える

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シンガーソングライターのイメージって?

──ハマさんと安部さんは、“シンガーソングライター”というと、どういうイメージを思い浮かべますか?

ハマ 月並みになっちゃいますけど、ジェイムス・テイラーとかキャロル・キングとか、そういうイメージがあります。僕の場合バンド音楽から聴き始めているので、シンガーソングライターと呼ばれる人たちの作品をちゃんと聴けるようになるまで、かなり時間がかかってしまって。Creamとかで音楽に目覚めた14、15歳くらいの自分にとって、ジェイムス・テイラーとかって、すごく地味な印象があって全然刺さらなかったんです(笑)。当時は名盤の廉価版がたくさん出ていたので、みんなで片っ端から聴いていたんですけど。本当にいいなと思えるようになったのは、ごく最近ですよね。純粋に曲がよかったり、あとは名うてのミュージシャンがクレジットに入ったりしているから、ミュージシャン的な感覚でいいなと思えるようになって。まだまだ全然掘れてない感じがしますけど。

安部 僕も同じように若い頃にチャレンジしたけど「なんだこれは?」みたいな感じでした。当時はギターのリフとか、わかりやすいフレーズみたいなところに興味が向いていたので、シンガーソングライターと呼ばれる人たちには、すごく地味な印象がありましたね。でも年を追うごとに、作品全体に漂う空気感みたいなものも含めて気持ちいいなと思えるようになったり。

──確かにシンガーソングライターの音楽って、若い頃に聴くと地味だと思ってしまう部分はあるのかもしれないですね。

ハマ バンドミュージックから音楽に興味を持った僕らみたいなタイプだと特にそうかもしれません。

細野 ちょっと待った。

ハマ 「意義あり」ですか?(笑)

細野 いや、50年前の話だけどね(笑)。ニール・ヤングがBuffalo Springfieldというバンドを辞めて、ソロで「The Loner」という曲を出したのは僕が21歳くらいのときだったんだけど、ニール・ヤングは当時24歳。若かったんだよ、みんな。

──当時、若者の音楽だったんですか?

細野 そうそう。聴いてるほうもみんな興奮してた。だから地味じゃないんだよ。

安部 そこが逆なんですよね。僕らは音量とかに負けたのかな(笑)。

細野 いやいや、そういう時代だったんだよ。今みたいにいろんな音楽があったわけじゃないし。みんな限られた音楽しか聴いていないから、比べられるものがないんだよね。今は簡単に比べられちゃうでしょ。

ハマ 今日のテーマでいうと、シンガーソングライターとフォークシンガーのイメージが、どこかごっちゃになってる感じがありますよね。僕と勇磨が考えるシンガーソングライターのイメージって、どこかフォーキーなニュアンスがあるというか。

──そうしたら、シンガーソングライター感を3人ですり合わせるというか、この連載なりの“何をもってシンガーソングライターとするか”という定義付けが必要ですね。

細野 一番大事なのは時代背景だよ。60年代の後期から70年代にかけての流行なんだよね。 そうなんだよ。なんでかっていうと50年代から60年代の初期までは、さっき話したキャロル・キングのように、出版社に所属するプロの作詞作曲家が曲を作って、それをシンガーが歌うというのがポピュラーソングの一般的な作り方だったから。ヒットソングの張本人たちは歌うだけだしね。

安部 その後、自分で曲を作って歌う人が出てきて。

細野 自分で曲を作ることはもちろん、それがヒットすることがすごかったんだね。

ハマ 「あいつ自分で作ったらしいぜ……」っていうことだもんね(笑)。

安部 「俺たち歌ってるだけなのに……」みたいな。

細野 それ以前の40年代にシンガーソングライター的な人がいたとすると、“自分で作って歌う”という意味での元祖としては、ホーギー・カーマイケルがそうだった。自分で書いた曲を演奏しながら歌って。

ハマ 当時は異端だったんですか?

細野 異端だったね。

Hoagy Carmichael「Hong Kong Blues」の再生はこちら

──“シンガーソングライター”というジャンルの、サウンド的な特徴ってあったりするものですかね。

細野 やっぱり歌詞を聴かせる、生の声を聴かせる。だから音のエコーが少なくて、近くなってきた。声と空気感をを大事にしているというか。サウンド的にはそういう印象が強いね。

──確かにシンガーソングライターの大事なところとして詞はありますよね。

ハマ 「バンドサウンドが~」とかではないですからね。

細野 その前のポップミュージックはいわゆる“松本隆スタイル”で職人的に作っていたものだったから、フックがあったりとかリフレインがあったりして、キャッチーだった。シンガーソングライター系にはそういう要素が少ない気もするね。もちろん、あることもあるけど。

ハマ 聴き手との距離感はガラっと変わったんでしょうねリスナーからすると。

──もうちょっと1対1な感じがしますよね。そういうシンガーソングライターの台頭によって、ヒット曲の生まれ方みたいなものも変わってきたんでしょうか?

細野 60年代は自然発生的に、いい曲や素晴らしい才能が出てきて、それがヒットにつながるという時代だった。まず曲ありきで、ビジネスはあとから付いてくる。70年代に入るとミュージックビジネスがだんだん大きくなってきて、そこからヒット曲がたくさん生まれるようになった。当時はレーベルカラーがしっかりしていたから、レーベルが変わると音が変わっちゃったりね。そのくらいレコード会社に力があった。

ハマ あとは、共感性みたいな幅がより広がったところはあるでしょうね。専業の作詞作曲家が考えたものより個人が発信する表現にみんなが共感するようになったというか。

細野 その人そのまんまのメッセージだからね。

ハマ より愛せるというか、「自分のことを歌ってくれてる」ってよく言うけど、ああいう意識が強まりますよね。

細野 ポップミュージックの受け入れられ方が変わってきたよね。どこか“私小説”みたいな。そういう背景もあってか、女性のシンガーソングライターも増えてきた。ローラ・ニーロとか。

安部 シンガーソングライターブームって、バンドで集まるのが面倒くさいみたいなところも関係してたんですかね。「1人のほうが気が楽だわ」みたいな(笑)。

細野 そういう人はレコーディングも1人でやってたよね。

ハマ 俺らと同世代にもいるじゃん。「1人でやったほうが楽で、全部自分でやっちゃう」みたいな人。でも当時のシンガーソングライターは、ミュージシャンの力は借りるわけですもんね。そこが今との大きな違いというか。

細野 特に当時はレーベルとかプロデューサーの意見が強いから、ちょっとやそっとじゃ曲にOKを出さないんだよね。サウンドを固めていくことが大事だった。だから1人で作ったものがつまらないっていうことになると、バンドを集めてセッションするっていう。

安部 はっぴいえんどのときも、そういう意見のぶつかり合いとかあったんですか? 「もっとこういう音にしたほうがいい」とか。

細野 音に関しては誰も理想形を知らないわけだから、自分たちで手探りで作っていかないといけなかった。まだ国内にお手本がなかったし。

ハマ 確かにはっぴいえんどの作品って、みんなで作っていったんだろうなという印象が強いですね。

安部 そっか、当時は比べるものがなかったのか。

細野 しいて言えば、アメリカの音楽シーンの中にいるバンドやシンガーソングライターのサウンドと聴き比べてた。

安部 それで、「自分たちももっといろんなことができるんじゃないか?」と思ったりして。

細野 いや、そんな余裕はないね。聴いてびっくりしてるだけで。

安部 細野さんにもそういう時代があったんですね。ちょっと安心した(笑)。

細野 だって、21歳の若造だからね。

はっぴいえんどに影響を与えたアーティストたち

ハマ 細野さんは、はっぴいえんどの解散と前後して、ご自身でメンバーを集めて1stアルバムの「HOSONO HOUSE」を制作されていますが、当時はシンガーソングライターとして活動していこうみたいな気持ちはあったんですか?

細野 シンガーソングライター云々というよりも、“ソロで作品を作る”っていう意識のほうが強かったかな。周りから「ソロで1枚作ってみたら?」という話もされていたし。

ハマ そうだったんですね。で、やるんだったら、このメンバーと一緒に作ろうということで、ティン・パン・アレーの方々に声をかけていったと。

細野 その当時は周りにティンパンのメンバーしかいなかったから自然とそうなったんだよ。

ハマ こういう作品にしようみたいな、メンバー間での共通するイメージはあったんですか? 例えば当時聴いていたシンガーソングライターの作品だとか。

細野 当時はみんな日常的にいろんな音楽を聴いていたから。

ハマ “この1枚”とかではなく。

細野 どれもこれもよかったから。特にはっぴいえんどを聴くと、当時の洋楽にもろに影響されてるのがわかっちゃう。大瀧(詠一)くんが作った「颱風」っていう曲はトニー・ジョー・ホワイトだったり。

Tony Joe White「Stud Spider」の再生はこちら

ハマ 大瀧さんはオマージュもふんだんに入れますもんね。

細野 僕が作った「しんしんしん」はトム・ラッシュの「Wild Child(World of Trouble)」だし。すごく恥ずかしいんだけど。

安部 元ネタを聴きました(笑)。

Tom Rush「Wild Child(World of Trouble)」の再生はこちら

ハマ でも、うれしくなるよね。

安部 うん。今につながるものがあるというか。代々“秘伝のタレ”みたいなものがあるんだなって(笑)。

ハマ 音楽って、そうやって次の世代に受け継がれていくんだと思う。

<中編に続く>

細野晴臣

1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2021年7月に、高橋幸宏とのエレクトロニカユニット・SKETCH SHOWのアルバム「audio sponge」「tronika」「LOOPHOLE」の12inchアナログをリリース。9月にオリジナルアルバム全3作品をまとめたコンプリートパッケージ「"audio sponge" "tronika" "LOOPHOLE"」を発表した。

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安部勇磨

1990年東京生まれ。2014年に結成されたnever young beachのボーカル&ギター。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演。2016年に2ndアルバム「fam fam」をリリースし、各地のフェスやライブイベントに参加した。2017年にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表。日本のみならず、上海、北京、成都、深セン、杭州、台北、ソウル、バンコクなどアジア圏内でライブ活動も行い、海外での活動の場を広げている。2021年6月に自身初となるソロアルバム「Fantasia」を自主レーベル・Thaian Recordsよりリリースした。

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ハマ・オカモト

1991年東京生まれ。ロックバンドOKAMOTO'Sのベーシスト。中学生の頃にバンド活動を開始し、同級生とともにOKAMOTO'Sを結成。2010年5月に1stアルバム「10'S」を発表する。デビュー当時より国内外で精力的にライブ活動を展開しており、2021年9月29日にニューアルバム「KNO WHERE」をリリース。またベーシストとしてさまざまなミュージシャンのサポートをすることも多く、2020年5月にはムック本「BASS MAGAZINE SPECIAL FEATURE SERIES『2009-2019“ハマ・オカモト”とはなんだったのか?』」を上梓した。

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