土岐麻子の「大人の沼」 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.10(後編) [バックナンバー]

韓国ドラマと音楽の密な関係

韓国通ライター・K-POPゆりこと韓国ドラマを語り尽くす

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シンガー土岐麻子が中心となり、毎回さまざまな角度からK-POPの魅力を掘り下げている本連載。第10回では韓国カルチャーに明るいライターのK-POPゆりこをゲストに迎え、韓国ドラマをテーマとしたトークを展開している。韓国ドラマならではの特徴や、名バイプレイヤーについて語ってもらった前編に続く後編では韓ドラにおける音楽の話題をメインに、2人に読者におすすめしたい作品を挙げてもらった。

取材・/ 岸野恵加 撮影 / 曽我美芽

韓国ドラマにおける音楽は、添え物ではない

土岐麻子 日本だと、アーティストがドラマに出演する場合、所属するグループが主題歌を担当するということもよくありますよね。そういうことは韓国でもありますか?

K-POPゆりこ SM ENTERTAINMENTのアーティストはそうした傾向が若干あるかも。でも仮にSMのアーティストが役者として出ていたとしても、そのアーティストの楽曲は一部だけで、他社アーティストの曲も一緒にOSTとして使われます。

土岐 OSTという言葉が出ましたが、日本ではOST(オリジナルサウンドトラック)というと、歌のないBGM、いわゆる劇伴を集めたものを指すことが一般的で。韓国だとアーティストが歌唱する劇中歌が何曲も入っていたりしますよね。

K-POPゆりこ はい。2010年代以前は特定のテーマ曲がいいシーンでお決まりのように流れることが多かったんですけど、だんだん変わってきた気がします。私の記憶では、「花より男子~Boys Over Flowers」(2009年)でSHINeeの「Stand by me」が使われたあたりから、アイドルがOSTで歌うことが増えたなと。そのあと、韓国ドラマの制作費が潤沢になってきちんと構成を決めて動かせるようになってから、OSTも3部構成になったり、どんどん多種多様になってきた気がします。

土岐麻子

土岐 私は登場人物に感情移入してストーリーにどっぷり浸かるので、音楽が流れてきたときに「誰が歌ってるんだろう」とかは実はそんなに気にしないんです。でも、自分の中にはちゃんと残っていて、気付いたらその曲を口ずさんでいて「この曲なんだっけ? あ、さっきのドラマでかかった曲か」と気付いて、巻き戻して聴き直すことは多いですね(笑)。

K-POPゆりこ へええ、面白いです。どんな曲だと印象に残りやすいですか?

土岐 私は普段はバラードを好んで聴くほうではないんですけど、ドラマに関しては音楽と映像が相まって、バラード曲がすごくよく聞こえてくるなと思いますね。あと、これは単純に気になっていることなんですが、韓国ドラマってOSTの歌の音量がちょっと大きいときがないですか? たまにセリフが聞き取れないことがあって(笑)。

K-POPゆりこ あはは、ありますあります(笑)。

土岐 女性がとうとうと語っているシーンなのに女性シンガーのボーカルが重なるように大きい音量でかかったりすると、どっちを聴いていいのかわからないなって(笑)。でも曲自体はカッコいいので、音楽を好きなスタッフさんがプロデュースしているのかなと思っていました。

K-POPゆりこ 韓国ドラマの音響監督は、「このシーンにはこの曲」ってすごく細かく決めていることが多いみたいです。すでにある曲がハマらなければ新しい曲を作るし。大きい音量で被せるのもOST自体が「第2のセリフ」だという感覚なのかもしれないですね。

土岐 日本のドラマはあくまでもシーンがメインとしてあって、それを引き立てるために音楽が鳴っているというパターンが多いと思うんですけど、韓国ドラマは「このシーンは音楽をちゃんと聴かせたい」って作り手が思っていそうだなと感じる瞬間が多いですね。制作している人が「この曲最高だからもっとボリューム上げようぜ」って純粋に盛り上がっている雰囲気を感じるというか(笑)。会話が多いシーンに歌モノをがっつり乗せるのは最初は驚いたんですけど、韓国の人が音楽や歌を愛しているからなのかなと。音楽をやっている身としては羨ましく思いました。

K-POPゆりこ 音楽が添え物ではなく、メイン要素の1つという感じがしますよね。

ストーリーに説得力を与えるOST

土岐 この連載のVol.9で、2021年によく聴いていた10曲を挙げた中に、「わかっていても」(2021年)のOST、サム・キム「Love Me Like That」を入れたんです。あのドラマの雰囲気は、この1曲が決定付けていた気がして、すごく印象的でした。

K-POPゆりこ うんうん、わかります。すごく合っていましたね。

「わかっていても」より。(Netflixシリーズ『わかっていても』独占配信中)

土岐 ドラマでは若者のじれったい恋愛が描かれていて、我々大人からすると「もう別れればいいじゃん!」って思っちゃうんですけど(笑)、あの曲が流れることで、心が若返るスイッチが入るような感覚があったんですよね。サム・キムの声がとにかく切なくて、自分が若かったときの切ない気持ち、もどかしい気持ちがよみがえってくる。OSTでストーリーに説得力が付与されているように感じました。

K-POPゆりこ あの曲が、観る人に作品の世界を浸透させるような役割を果たしていましたよね。あとドラマと音楽というテーマで挙げるなら、「賢い医師生活」シリーズ(2020、2021年)はやっぱり外せないですね。劇中とOSTがリンクしているという。

土岐 お医者さんの話で、大学の同期が定期的に集まって課題曲を練習するから、毎回バンドで演奏するシーンが入るんですよね。出てくる曲がその回の話と連動するような歌詞だったりもして。医療界の第一線でがんばってるお医者さんたちが、患者との難しい局面を乗り越えながら、バンドで音を合わせると純粋な青春時代に帰れる。病院が舞台ならではの悲しいお話の回もあるけど、全部さわやかさに収斂されていく感じがあります。

K-POPゆりこ ヒューマンドラマですよね。もちろん生死を扱ってもいるんですが、医療ドラマとして観ると、意外に感じる部分が多い作品だと思います。キャストに、もともとミュージカルに出ていた人とか、しっかり歌える俳優さんをそろえているのもポイントですね。ミュージカル界の実力派女優であるチョン・ミドさんが音痴な役をやっているんですけど、OSTではちゃんとしたキーで歌っていて、めちゃくちゃ上手という(笑)。そんなところも面白いです。

「賢い医師生活」より。右がチョン・ミド演じるチェ・ソンファ。(Netflixシリーズ『賢い医師生活』シーズン1~2独占配信中)

土岐 実際に役者さんがちゃんと楽器を練習しているんですよね。劇中で昔の韓国の歌謡曲をコピーすることが多いので、私は知らない曲も多いけど、知らないなりに懐かしい気持ちになります。きっと韓国の30、40代の人はよりグッとくるんだろうなと。

K-POPゆりこ 私たちにとってのGLAYやドリカムという感じなんでしょうね。ドラマのOSTは、アイドルのK-POP以外の韓国音楽にも出会える機会になってるなって。ドラマを観ていて気になった歌手を検索して新たに知ることができるのも面白いなあと思っています。

土岐 「その年、私たちは」(2022年)、「梨泰院クラス」(2020年)のBTSのVのように、グループのアーティストがOSTでソロで歌うことも多いですよね。

K-POPゆりこ アーティスト側には、グループ活動とは違う魅力を見せられる場として大きなメリットがありそうですよね。K-POPに興味のない視聴者にも「VってBTSのどの子だろう?」と、新しくアーティストと出会える場になるでしょうし。

土岐 私の推しのMONSTA Xも、「ショッピング王ルイ」(2016年)っていうドラマのOSTに参加していて。知らずに観ていたんですけど、「これは私の推しの声ではないか?」と気付いて、慌てて調べるということがありました。

K-POPゆりこ 声だけで気付くのはさすがですね(笑)。

土岐 逆に、日本と同じく、アーティストが役者としてドラマに出ることもありますよね。

K-POPゆりこ 出演することでグループの名前を広めたいという気持ちももちろんあるでしょうけど、グループ活動後の自分の進路の選択肢の1つとして、演技の道を考えている人もいると思いますね。これは私の感覚なんですけど、演技に挑戦するアイドルが増えたあたりから、アイドルがOSTに参加することも増えたように思うんです。どちらが先かは定かではないですが、影響しあっているのかなと思います。

土岐麻子

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もし土岐麻子が韓国ドラマのOSTに参加するなら?

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土岐麻子とスタッフ @tokiasako_staff

ドラマ対談の後編、更新しました!今回は久しぶりの新沼のコーナーもあります〜! https://t.co/eZ6bW2S4No

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