日本映画の未来のために、是枝裕和らが映画界の共助システム構築目指す新団体を発足

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「映画監督有志の会」が共助システムの構築を業界内により強く継続的に求めるべく「日本版CNC(セーエヌセー)設立を求める会」(通称:action4cinema)を6月1日に立ち上げ。本日6月14日に東京・日本外国特派員協会で記者会見が行われ、映画監督の是枝裕和諏訪敦彦内山拓也岨手由貴子西川美和深田晃司舩橋淳が出席した。

「日本版CNC設立を求める会」発足記者会見の様子。左から内山拓也、岨手由貴子、諏訪敦彦、是枝裕和、舩橋淳、西川美和、深田晃司。

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是枝裕和

映画業界の性加害やハラスメントに関する問題に対して声明を発表し、日本映画製作者連盟(映連)や文化庁に対しても劣悪な労働環境への対策を求め働きかけを行ってきた「映画監督有志の会」。コロナ禍に入ったおよそ2年前から、監督同士でリモートを中心に日本映画をめぐる状況に関する継続的な話し合いを進めており、映連とも映画業界の改革のためにフランスのCNC(国立映画映像センター)に相当する統括機関の設立を求め、1年以上にわたって協議してきた。このたび諏訪と是枝を共同代表に据え、権利能力なき社団として非営利団体の「日本版CNC設立を求める会」を発足。業界の実態の調査・研究や提言などを通じて業界団体および関係省庁に対する働きかけを行い、その設立の実現を図ることを目的としている。是枝は「今までやってきたことを具体的に推し進めていく。将来的に映画界が働く環境として改善されていくといいと思っています」と発足の趣旨を話す。

諏訪敦彦

内山拓也

1946年に設立されたCNCは、文化省の管轄下で映画分野への継続的な支援を行う機関。劇場チケットの販売やテレビ放送・ビデオ販売からの自動徴収を主な財源とし、その資金を映画製作をはじめ、業界全体への支援として再分配する共助のシステムを構築している。諏訪は設立に至る背景として、コロナ禍で苦境に立ったミニシアターの支援活動をする中で抱いた危機感を説明。「この時期の映画館を救ったのは、ミニシアター・エイド基金のクラウドファンディングに参加した映画ファンや国による支援。このとき日本の映画界には互いを支え合うシステムがないことがはっきりとわかった。持続的、恒常的に映画界が支え合うシステムの必要性を強く感じました」と明かす。また内山は若手監督の立場から、現在の制作現場について「20代の仲間や後輩が減っていき、どんどん若手が消えていくのが当たり前にある状況」と述べつつ、「予算不足やそれに伴う無理な制作スケジュール、その状況で作品のクオリティを担保しようとして、作り手が潰されていく。(2019年度に)689本も公開されている日本映画の多様性は、多くのスタッフの犠牲によって成り立っている。持続的に映画を作れる業界にしたい」と率直な思いを吐露した。

「日本版CNC設立を求める会」に賛同した役所広司によるビデオメッセージ。

3月には是枝や諏訪らを発起人として、松竹、東宝、東映、KADOKAWAという映画製作・配給の大手4社が作る映連に対し、「日本版CNC(仮称)発足に向けて ~映画界の共助システム構築~」と題した提言書を提出。映画、テレビ、配信業界が1つの映像文化として連携し、映画を守るための支援基金となる日本版CNCの発足を提案した。是枝は「まず公助に向かうのではなく業界が一枚岩になって、この先の10年、20年にわたって“発展していく”と言うと前向き過ぎますが、どう衰退していかないか。何が業界に欠けているのか。業界に強固な共助のシステムを作るために活発的に動いてきます」と説明。この提言書の賛同人には俳優の井浦新小泉今日子斎藤工役所広司吉永小百合渡辺真起子、映画監督の犬童一心片渕須直黒沢清、西川、濱口竜介山田洋次行定勲らが名を連ねた。

西川美和

フランスにおけるチケット販売額の約10%を財源のために税収として徴収しているCNC。観客が劇場に払った鑑賞料金の一部が、次なる映画の製作資金などに循環する仕組みが成り立っている。2019年度のデータでは、CNCによる支援の総予算は913億円。この金額を業界内の循環システムだけでまかなっている一方で、日本における支援は国家予算100%の80億円という数字だ。西川は「フランスのチケット代は日本円で約960円。1人が映画館で1本映画を観ると、100円弱が自動的に映画に関わる人や、将来作られる映画のために役立っています」とフランスの状況を説きつつ、CNCの役割を「潤沢な資金力で映画業界全般をサポートする。映画制作の資金援助だけでなく、企画開発、脚本執筆段階でのサポート、撮影が終わったあとの配給・宣伝の支援。映画館や海外展開に対しても、広くくまなく支援している」と話す。

「日本版CNCの目指すもの 支援項目」

フランスのほか、韓国にはCNCを手本に作られた韓国映画振興委員会(KOFIC)が存在。アメリカでは各州による支援があり、イタリアやドイツ、イギリス、カナダといった各国にも映画専門の支援団体が存在している。深田は「CNCやKOFICのような組織は大いに参考にするべきですが、日本とは映画の歴史も産業構造も文化の状況も違う。そこは日本の状況に即した制度を既存の団体と話し合いながら作っていかなければならない」と補足。「日本版CNC設立を求める会」は映画を持続可能な産業として、また多様性を尊重する文化芸術として支援するために、「教育支援」「労働環境保全」「製作支援」「流通支援」という4つの柱を目指すべき支援項目として掲げた。これらの中には、映画教育・観客育成、制作現場におけるハラスメント対策やジェンダー平等の促進、企画開発段階での作り手の支援、映画館や配給会社への支援など、日本の映画界においてほぼ手付かずのままとなっている課題への支援も明記されている。

「日本版CNCのイメージ(財源と支援の循環)」

是枝は「映画には芸術文化と産業の両面がある。そこを分けて考えずに、視野を広く持たないとうまくいかない。次の世代の可能性を狭めずに、映画界をどうつなげていくか。誤解されがちですが、エンタメ映画が稼いだお金でインディペンデントの作り手が『作りたいものを作る』わけではない。芸術とエンタメを分けるのではなく、映像産業に関わる人たちがちゃんと生活できる仕組みがどうやったらできるのか?を考えていきたい」と明言。会見では、日本版CNCの財源と支援の循環を示したイメージ図も発表された。日本版CNCが目指す4つの支援の柱を軸にしながら、芸術文化振興基金、 ユニジャパン、国立映画アーカイブ、映像産業振興機構VIPOなど、既存の組織との連携が記されている。

財源として想定されているのは、劇場における興行収入の一部と、映画を配信・放送する事業者からの徴収。そのため日本版CNCの実現は業界団体や企業との協力が不可欠だが、映連と協議の機会を設けたものの「動かない」という感触を持ったという。業界関係者と話す中でも「絶対に変わらない」と言われることが多いという是枝は「業界側が主体的に、能動的に動くべき。この1年、映連への働きかけを率先してやってきましたが、やはり動かない。そこをどうするか。今までのやり方だと難しい。それは今後の課題」と現状を明かす。一方で、初期段階ではあるもののNetflixやU-NEXTといった配信業者との協議の場も設けられているという。

「日本版CNC設立を求める会」が作成・公開した「ハラスメント防止措置ガイドライン草案」表紙。

今後の活動としては、日本版CNC実現のために文化庁や全興連など各団体や企業、官庁と継続的に協議を進め、業界全体でコンセンサスを取るための検討会を実施していく。舩橋は「イメージ図はあくまでたたき台。具体的にどう進められるかは我々だけでは及びつかないところがある。映画業界のステークホルダーの方々と一緒になって話していきたい。僕らができるのは、その旗振り役」と会の立場を説明。そのほか経産省主導で進められている労働環境改善のための映像制作適正化機関(仮称)との連携、ジェンダー平等などのすべてのスタッフが働きやすい環境作りのための研究と提案、映画業界にカスタマイズされたハラスメント講習の研究と共有などが挙げられた。さらに「日本版CNC設立を求める会」が「ハラスメント防止措置ガイドライン草案」を作成・公開したことが明らかに。映画業界においてプロデューサーや監督といった現場責任者がハラスメントを防止するために講じるべき措置の指針を示したガイドラインの草案で、公式サイトからダウンロード可能だ。この草案は各職能団体、および団体未所属のスタッフ・俳優部と連携して、継続的に更新を行っていくという。

左から横浜聡子、白石和彌。

会見では役所によるビデオメッセージも上映。助監督の石井千晴、俳優の仲野太賀水原希子からのメッセージも代読された。4人による賛同コメントは下記に掲載している。会見の途中からは映画監督の白石和彌横浜聡子も登壇。白石が監督陣に感謝を述べつつ「本来であれば映連や監督協会といった団体が提言しないといけないと思います。それを有志の方たちが声を上げなけれればいけない状況が、日本映画界の困窮した現状を表していると思う」「業界全体として豊かになっていかないと豊かな映画を作れるはずがない。各映画会社や映連の方たちとも一枚岩になって、映画の未来を考えていかないといけない」と話す場面もあった。

会見の最後に是枝は「日本映画の未来について語り合う相手がいるのは、とても重要なこと。1人で悶々としていたときより、この1年は非常に前向きな気持ちで日本映画というものを考えることができた。なかなか動かない強い大きな相手に向かって、働きかけをしていく。でも基本的には明るく前向き。なので一緒に動かしてください」と呼びかけ、会見を締めくくった。

※記事初出時、一部事実と異なる記述がありました。お詫びして訂正します。

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石井千晴(助監督)賛同コメント

団体設立おめでとうございます。心より賛同し協力させていただきます。
映画業界・映像業界のハラスメントや労働環境問題はとても闇と根が深いと思います。
ですが、業界全体の意識とお金が変われば必ず解決する問題だと思っております。
私も3人の子育てをしながら働いているので労働時間の問題は切実です。
制作者の情熱を時間とお金に替えるやり方には限界があります。
持続不可能です。
是非、この団体の発足をきっかけに映画業界の止まった時間が動き出す事を
願っております。

仲野太賀 賛同コメント

僕は「日本版CNC設立を求める会」の活動に賛同します。
日本映画の未来にとって、新しい扉が開かれる大きなチャンスだと思っています。
僕自身、日本映画に憧れてこの世界に入ってきました。
しかし昨今、撮影現場では今の業界に対して、なんだか寂しい意見をよく耳にします。
日本映画の未来を、そして自分たちが働いている環境を憂う声は少なくありません。
しかしその声は、何かを変えるには余りにも小さく、頼りないものでした。
このままでは新しい人材が働きたいと思える業界でいられないのではないか。
不安は募りながらも、素晴らしい映画を作りたいという素朴な思いが、何かを支えている気がします。
しかし、この先何年、何十年と映画に携わっていきたい。世界に誇れる日本映画を作りたい。
その為にはやはり、働きやすい環境があってこそ、人材育成の仕組みがあってこそ、歴史ある日本映画の未来を繋いでいけるように思います。
一人一人のスタッフ、そして新しい才能、その人たちを支えることが、これからの映画業界全体の役割なのではないでしょうか。
業界全体が助け合いながら未来を紡いでいけたら、どんなに素敵な事なんだろうと思います。
日本版CNCの設立にあたって、まだまだ課題はたくさんあります。
何が最善なのかを、ぼく自身も勉強していきたいと思います。
少しでも日本映画界が良くなることを願っています。

水原希子 賛同コメント

映画界には、長い歴史があるがゆえに縦社会の様なものが存在しており、目上の方に対して言いたい事が言えなかったり、過去のしきたりに縛られて、ディスカッションがしづらい状況になっている事も多いかと思います。
意見が相違した時や言いづらい事がある時こそ、お互いの立場に関係なく話し合いができる環境があれば、より連帯して健康的な作品作りが出来るのではないかと考えます。
出来る限り先輩の方々から若い子達へ歩み寄って頂き、話しやすい環境作りを目指していく事が大切なのではないでしょうか。
尊重を得られない環境の中で作品を作るという事は、例え作品が公開され、世の中で評価されたとしても、当事者の心の中ではずっとその傷を負ったまま存在し続けることになります。
現場にいる誰かが傷ついたり、苦しい思いをするという事がないようにするためにも、日本にもCNCの様な機関ができるという事は大変素晴らしい事だと思います。
良い作品を生み出していけるような機会が増えたり、また、様々なサポートをして頂ける機会が増えるという事は日本の映画界をもっと盛り上げていくことができるのではないでしょうか。
まずは映画に関わる全ての人々が連帯して日本版CNCの設立を目指し、業界全体で映画界の未来について話し合う機会が増えることだけでも、心強いと感じる方はきっと沢山いらっしゃると思います。私もその一人です。とても楽しみにしてます。

役所広司 賛同メッセージ

映画雑誌のキネマ旬報で、この度の「日本版CNC設立を求める会」の皆さんの座談会の記事を読ませていただき、日本映画の改革を目指す皆さんの思いにとても感動いたしました。
この日本版CNCを実現するためには、大変な労力が必要だと思います。ご自身の作品作りも大変な中、このような活動に時間を割いておられる監督の皆さんに心から感謝したいと思います。
日本映画界は、世界中の映画ファンに尊敬される素晴らしい作品をたくさん生みだしてきました。その日本映画界を誇らしく思い、これまで映画づくりに参加してきましたが、労働環境や映画製作への支援、人材育成などを考えると、確かに海外の映画界に比べると遅れをとっているように感じます。
日本でも才能ある映画作家がどんどん誕生しています。しかし、その才能ある映画作家たちが、それぞれ素晴らしい企画を持ちながらも、単に映画界の経済的な事情などで実現しないという現状は、やはり寂しいものがあります。将来、日本映画界を目指す若者たちに、のびのびとその才能を発揮できるような環境を用意してあげることが、世界に誇れる日本映画を満たす大きな力になると信じています。
「日本版CNC設立」に向かって、まずは現場で働く我々俳優・スタッフ一人一人が賛同し、この活動の内容をよく理解することが必要だと思います。
日本映画界がより良い方向へ進みますように、メディアの皆様どうぞお力を貸してください。
どうぞよろしくお願いいたします。

読者の反応

井浦 新 | ARATA iura @el_arata_nest

日本映画界の今の状況を、衰退しないために良い方向へ向かうために、監督方が声を上げ伝えてくれました。これからも素晴らしい日本映画が生まれ楽しめるように、一緒に考え行動するきっかけになっていただければ幸いです。是非ご一読ください。 https://t.co/pA3sV0X4N0

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