ヒット作はこうして生まれた! [バックナンバー]

「ONE PIECE FILM RED」プロデューサー・梶本圭インタビュー

Adoという存在、原作の展開、時代背景…すべてのピースがハマった

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土日の興行収入を聞いて「これはちょっととんでもないぞ」

──「今回の作品はいつもの映画よりヒットしそうだぞ」というのは、どの時点で感じていましたか。

6月8日の配信特番を皮切りに、ですかね。そこで一気にいろんなことを発表したんですよ。ナタリーさんで取り上げてくれるような情報が10個ぐらいあったのかな。

2022年6月8日の配信特番で発表された、「ONE PIECE FILM RED」楽曲提供アーティスト。

──大きいニュースだけでも「ウタ役がAdo名塚佳織」「楽曲は中田ヤスタカら7組のアーティストが提供」「予告で主題歌『新時代』解禁」「ゴードン役は津田健次郎」「ポスターは尾田栄一郎描き下ろし」「特典は巻四十億“RED”」「『ONE PIECE STAMPEDE』地上波初放送」「原作は4週休載後に最終章突入」「原作の92巻までを無料公開」などありまして、編集部としても記事を何個出して、どれを見出しにすればいいんだ?と混乱しました(笑)。

普通はバラバラで、何週間にも分けて出すことですよね。映画の宣伝のセオリーとは違うと思うんですが、宣伝プロデューサーの三橋(剛)さんが1回でまとめて出しましょうと。やったことないけど、情報の塊にしたらどうなんだろうと。僕はニュースを出すまではどっちに転ぶかなっていうのは半信半疑のままでした。ワクワクはしてましたけど。

──映画ナタリーでは5本の記事を出したんですが、1回の配信番組で出た情報ではあるので、ほかのニュースサイトでは1記事にまとめられる可能性もありますよね。でも小出しじゃなくて一気に出すことで、「なんかすごいことが起きてるぞ」という空気にするのが狙いだったと。

結果としては、いろんな情報が含まれていただけに、いろんな人が「ONE PIECE」についてコミュニケーションを取り出すという現象が発生したわけです。通常、「ONE PIECE」の情報を発信したら興味ある人だけが反応して終わるんですよ。でもこのときは例えばAdoさんや各アーティストのファンだったり、声優のファンだったり、今まで「ONE PIECE」に興味なかった人も反応してくれて。いろんな場所からいろんな角度で話が生まれていくのは感じましたね。実際、僕は番組のタイミングでは会食してたんです。配信は生じゃなくて収録だったから。そしたら会食中にお店の何箇所かで「ONE PIECE」の話をし出したのが聞こえてきたんですよ。

──すごい(笑)。「もしかしたら100億いけるかも」とは感じました?

さすがに公開前は、100億の手応えはなかったです。100億って、経験したことある人が世の中に何人いるんだっていうぐらいのものなので。でも僕が過去にやった2作の52億、55億のときとはまったく違う風が吹いているとは感じてましたね。そこから2カ月ぐらいの間、ウタのMVが続々と公開されたときの世間の反応を見ると、今までの「ONE PIECE」よりも多くの人が気にしてるなとも感じました。もちろん100億の安心感はまったくなかったですけど。

──8月6日に公開を迎えてからの手応えは。

劇場にも多く座席を用意していただいてたんですが、最初の土曜日に劇場は満席で入れなかったんです。その時点で過去2作とは比較にならない。

──最初の土日での興行収入が22.5億円という数字でした。

それを聞いた瞬間に「さすがに100億は到達するだろう」と感じました。これはちょっととんでもないぞと。土日だけだと日本での公開映画史上2位なんですよね。

──いろいろ新しいことをやったかいがありましたね。

そうですね、積み上げてよかったなと。でも宣伝に関しても10月の下旬ぐらいまでやることをみっちり決めてたんですよ。だから100億は通過点になるんじゃないかと。材料はまだまだあるから、どこまでいけるんだろうなと楽しみになりました。

──ある程度ヒットすると「流行ったから観に行ってみるか」という人も出てきますしね。自分の周りでも「最近『ONE PIECE』追えてないけど観に行って大丈夫かな」という人がすごく多くて、「原作1話のルフィとシャンクスの関係を知ってれば大丈夫」と伝えたことが何回かありました。原作92巻までの無料公開もあり、「ONE PIECE」を途中までしか読んでなかった人も「RED」を観に行ったり、原作を読むことを再開したという人が多かった印象です。

途中でやめてた人も映画に来たし、1話も読んだことないお客さんにもかなり来ていただいたと思います。原作も1巻から重版がかかっているそうです。僕は映画を作ることが担当ですけど、原作ファンでもあるので、この素晴らしい物語をよりたくさんの人に読んでもらいたいと常に思っていて、これはうれしいことですよね。

──宣伝施策としては、多くの特典が用意されていたことやテレビアニメとの連動などいろいろあったと思います。新しい試みとしてはウタが音楽番組に出演していましたね。

最初はうち(フジテレビ)の「FNS歌謡祭 夏」ですね。キャラクターが音楽番組に出るのは考えられないことだったと思うんです。しかも最初は7月だったんですよ。ウタがもっと認知されてたり、楽曲が音楽番組を席巻したりしたあとならわかるんですけど、まだ映画は公開されてなかったのに、「FNS歌謡祭」側が「面白そうだ」って乗っかってくれました。

──ウタがフジテレビの歌番組や「ジャンプフェスタ」に出演するのはわかるんですけど、年末年始は「紅白歌合戦」をはじめとした各局の番組にも出てましたよね。あれは映画側から持ちかけたものなんですか?

いえ、年末の歌番組に関しては、全部ウタが各局から「出てください」とオファーを受けた形です。不思議な現象でしたね。

関わったみんなが「挑戦しなくてはいけない」と気付いた

──映画の中で、梶本さんが個人的に好きなシーンはありますか?

観るたびに、そして観るときの精神状態で変わってくるんですよね(笑)。でも1つ挙げるなら、最後にシャンクスがウタに「こいつは俺の娘だ」と言うところはグッと来ました。

──「ONE PIECE」のテーマ的にも「家族」という部分は大きいでしょうし、観る人にも普遍的なテーマだと思います。

そうですね。「FILM RED」も誰でも共感できるポイントは作らないといけないし、家族はみんなの原点もあるわけだから、出発点に「家族」っていうテーマはありましたね。あとは最後のルフィの表情も好きですね。なかなか見れない表情だなと。

──これだけヒットすると「次の映画はどうするんだ」ということになってきますよね。数字もプレッシャーでしょうし、内容的にも「強いおっさんに飽きたから女の子、しかもシャンクスの娘」というのをやってしまい。現段階からもう何か動いてるんでしょうか。

そろそろ次の話をしたいなあと思ってる段階ですね。今回は公開のタイミングだったり時代背景とのマッチだったり、いろんなことがプラスに働いて、一種の奇跡が起きた結果なので、なかなか同じ数字は難しいと思いますし。でも「新しいことに挑戦しなくてはいけない」というのは間違いなく、関わったみんなが気付いたというか肝に銘じたということだと思うんで、その「新しいこと」がなんだったのかっていうのを改めて話すところから始まるのかなと。

──次回作で、いろんな事情を考えない場合、梶本さんが個人的に映画で見てみたいなというお話はありますか?

あるけど言えないです(笑)。

「ONE PIECE FILM RED」デラックス・リミテッド・エディション

──そうですよね(笑)。最後になるんですが、「FILM RED」は劇場では終映したもののPrime Videoの独占配信が始まっていまして、6月14日には4K ULTRA HD Blu-ray / Blu-ray / DVDも販売されます。これから観る人に何か伝えるなら。

初めて観る人は、イヤフォンをして、耳が痛くならない程度に大きい音で観ることをお勧めします。映画の世界に没入できるかなと。そして1回観終わったら、もう1回観ると新たな気付きがあると思いますね。

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東郷 秀國 @dde105hide

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