3月末のサービス終了を前に、GYAO!配信担当者が観てほしい作品とは?

大作・名作から、個人的な趣味のホラーまで

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動画配信サービス・GYAO!が、3月31日にサービスを終了することが発表された。これまでのノウハウやリソースは、今後はLINE内の動画プラットフォーム・LINE VOOMに生かしていくという。

今では当たり前となった動画配信サービスの先駆けとして2005年にスタートし、映画だけでなくドラマ、音楽、アニメなどさまざまなエンタテインメントを無料で、そして会員登録なしで気軽に観ることができるGYAO!。SNSではサービス終了を惜しむ声や、GYAO!で視聴した作品に関する思い出の投稿が多く見られた。映画ナタリーではGYAO!の映画配信担当・鈴木氏にインタビューを実施。そもそも配信される映画はどのようにして選ばれるのか、GYAO!でよく観られる作品の傾向といった裏話や、サービス終了にあたっての、個人的なおすすめ作品などを聞いている。また記事末には、サービス終了までに観られる作品の中から一部を抜粋したリストも掲載しているので、参考にしてほしい。

取材・/ 松本真一

「自分が好きなジャンルはたくさん観られるのでは?」という幻想

──鈴木さんがGYAO!でどういったお仕事をされているのかを教えてください。

2009年にヤフーのサービスになる前からGyaO(※当時の表記)に関わっており、映画カテゴリの編集者としてトップページに表示する要素や訴求テキストなどを考えていました。2009年に運営がヤフーとなってからも少しの間は同じ役割でしたが、2011年から編成担当です。最初はアニメ担当でしたが、2017年頃から映画の担当となりました。お客様に何が観られるのかを分析して、「この作品をこの期間に配信しよう」と決めるのが私の仕事です。選んだ作品について権利元と交渉する人間は別にいますが、作品を選ぶのは基本的には自分1人がやっています。

──数ある作品の中から配信作を選ぶのは知識が必要だと思うんですが、鈴木さんはやはり「映画に詳しかったよね」みたいな感じで選ばれたのでしょうか?

なぜ私がこの仕事なのか聞いたことはないのですが(笑)、昔から映画や海外ドラマはたくさん観ていますね。もちろん調べないとわからない作品も多いですけど、今まで生きていた中で培ったものを生かせているかなとは思います。

──とはいえ、作品を選ぶのにプレッシャーはありそうですね。

もちろんあります。観られると思って配信作に入れた作品があまり観られなかったときの悲しさといったら……。ヒット作と同じジャンルだし、キャストがいいので観られると思ったのに観られなかったということもありますし、逆に「いけるかいけないかわからないけど……」という気持ちで配信したら数字がよかった、みたいなこともありますし。そこがやりがいですね。

──配信作を決めるのはお一人で担当されているということですが、具体的にどうやって作品を選ぶのでしょうか。

基本的には、ビジネスなのでやはりまずはビッグタイトルを入れますね。それ以外にはよくGYAO!を利用してくださるお客様向けに、過去の視聴実績を踏まえ、好調なジャンルの作品を選定しています。そのほかは時期に合わせ、劇場公開される作品の関連作、アカデミー賞を始めとした映画賞の関連作ですとか、夏にサメ映画などを特集した「パニック映画祭」のような特集をすることもあります。ほかの配信サイトでの傾向や、新しく配信解禁になった作品もチェックしますし、ネット上での話題などで当たりをつけることももちろんあります。また権利元様がご提案くださる場合もあるので、実績と照らし合わせながら調整して決めることもありますね。作品やキャストの知名度が低い作品でも、レンタル屋さんと同じで、ビジュアルがいいものはけっこう観られるんですよ。だから知名度の低い作品を選ぶときは、ビジュアルのよさも気にして選んでいて、それが観られたときは「ああ、よかった」と思います。つい自分の好きなジャンルの映画に対して「すごく観られるのでは」という幻想にとらわれることもありますが、そういったときも視聴数などのデータをもとにいったん冷静になるということも多いです。

「パニック映画祭2022・夏」ビジュアル

──好きなジャンルへの幻想にとらわれる……(笑)。ちょっと詳しく聞かせてもらっていいですか?

タイトルは出せないんですが……(笑)。私はホラーが好きなので、「これは一般的に有名だろう」と思っているホラーのシリーズに私はすぐ飛びついてしまうんですが、それで意気揚々と配信したらあまり観られなかったことがあって。ポップカルチャーだと思っていたけど違った、みたいな。「あの有名なシリーズですよ!? 皆さん!」と思いつつ(笑)、GYAO!ではホラーの需要がそんなに高くないのかなと。今では「このシリーズでこの数字だったから、これもきっとあまり観られないな」と考えることができるようになりました。

──データは大事だけど、個人の趣味を入れることもあるんですね。

投資効率は常に頭に入れながらやっていますが、たまに「これはよい作品だから全体に影響がない範囲で試しに配信してみよう」ということもあります。それに例えば先ほど申し上げたようにホラーはそんなに数字が取れない。もちろんホラーだけじゃなく、例えば良質な人間ドラマでアカデミー賞にもノミネートされて知名度もある、といった作品はすごく観られるかというとそうでもないんです。そういった作品にあまりお金をかけられないことはありますが、それでも権利元様と交渉する担当に「どうしても配信したいからどうにかこの作品を取ってきてほしい」とお願いすることも多いです。

──わかりやすいエンタメ作品のほうが人気がある?

そうですね、人間ドラマジャンルの有名作より、ジャケ写でアクションだとわかりやすい作品のほうが人気です。そういう有名ドラマ作品は、一度観てしまっているお客様が多いのかなとも思いますけどね。また、お客様の傾向を分析すると、アクションばかり観る方もいれば、逆にアクションはまったく観なくてドラマ作品が好きという方ももちろんいます。人気作ばかり配信するとお客様全体を満足させることはできないので、そのあたりはバランスを考えています。投資効率は悪いかもしれないですが、さまざまなジャンルをそろえるというのは意識していますね。

──映画が好きな人じゃないとできないでしょうし、1人だと大変そうです。

でも私1人が好き勝手にやってるわけではないので(笑)。例えば「カメラを止めるな!」をソフトバンクユーザー向けに24時間限定無料配信したことがあるのですが、そのような新しい施策に挑戦する際や、GYAO!として出資している映画の企画などは、社内の会議に上げて承認を得ることや、ほかのチームが担当することもあります。

GYAO!愛用者に観られる2つの傾向

──先ほど「ビッグタイトルのほかにも、GYAO!を利用してくださるお客様に向けての選定がある」というお話がありましたが、GYAO!ユーザーに人気がある作品の傾向としてはどういったものになるんでしょう。

基本的には最近の邦画、洋画のアクション、SF映画が多く観られています。またお客様の属性として、年齢層が高い男性の割合が多めだからなのか、キャストでいうとジェイソン・ステイサムニコラス・ケイジブルース・ウィリススティーヴン・セガールなどの作品が多く視聴されるほか、軍隊アクション系も人気です。

──なるほど、キャリアのあるアクション俳優が人気。

あとは「ミスト」「ダンサー・イン・ザ・ダーク」といった後味の悪い映画として知られる作品も好調でした。そのほかSNSで反応いただけたなと思うのは、サメ映画、「デビルマン」「デンデラ」や「ヘル・レイザー」シリーズ、「ガメラ」シリーズ、「ファンタスティック・プラネット」「ユーリー・ノルシュテイン傑作選」「ロンドンゾンビ紀行」「君の名前で僕を呼んで」「アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲」あたりでしょうか。

「ファンタスティック・プラネット」ビジュアル (c)1973 Les Films Armorial - Argos Films

──サメ映画や「デビルマン」をGYAO!で視聴したという話は自分の周りでもよく聞きました。そういったややマニアックな作品と、「ファンタスティック・プラネット」「ユーリー・ノルシュテイン傑作選」などは違うベクトルですよね。アートっぽいというか。

そうですね、「マニアックなものをやってるな」と思ってくださる利用者の方と、「少し古いけどいい作品あるかも」と認識してくださるという、2つの層があるのかなとは推測しています。

──「古いけどいい作品」みたいなものは、利用者はどうやって見つけてるんでしょう。

おそらくなんですけど、すごくヘビーなお客様は、毎日サイトを見る習慣があって、新着の映画一覧などで「何がアップされてるのかな」とチェックしてくださってるのかなと。初配信の作品も視聴数が伸びるんですけど、そういうタイプの方がくまなくチェックしているのではないかと思います。

──初配信の作品もやはり伸びるんですね。

そうですね。「有名タイトルの再配信」と「GYAO!で強いジャンルだけど知名度は低い作品の初配信」で、どちらの数字がいいかと言われたら同じぐらいです。そのほか想定よりお客様の反応がよかったのは「ゴルゴ13」の実写版、「北斗の拳」の実写版などで、びっくりするぐらい観られました。そこは無料だから気軽に観られるというのもあるのだと思います。

──無料だと「タイトルを聞いたことはあるけど観たことない」という作品は相性がいいんでしょうね。 あとは個人的な趣味としてホラーを配信したいというお話がありましたけど、個人としてはほかにどのような作品がお好きなんでしょうか。

普段は暴力的な映画、アクション映画も好んで鑑賞していますが、予告編だけで物語のオチが読めないような映画も好きです。仕事として観たのにガツンと心に残ってしまって、権利元様に何度か再配信の依頼をしている作品は「黒い十人の女」「バージンブルース」などですね。ほかには大作以外でいうと、「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」「男たちの挽歌」「アデル、ブルーは熱い色」「マジカル・ガール」「シング・ストリート 未来へのうた」「オオカミは嘘をつく」や「バスケットケース」シリーズ、サメ映画などでしょうか。あとは「ヘル・レイザー」シリーズの新作が発表されたので、私もキャッキャして過去作を配信したんですが、新作はまだ日本に来てないという(笑)。それも半分趣味かもしれませんね。

──趣味で好きな作品を配信すると数字的にはハズれることもあると。

そうですね……(笑)。皆さんに観てほしいと思って配信したんですけど、知名度などの理由なのか思ったより視聴されないこともあります。

「黒い十人の女」ビジュアル (c)KADOKAWA 1961

──逆に「そんなに有名な作品じゃないけど、個人的な趣味で配信したら反応が多くてうれしかった」という場合もあるんですか?

いや、本当に趣味が入るとあんまりなんだなと思うことが多いです(笑)。私が好きな暴力的な作品より、もう少しマイルドなものがウケやすいのかなとは思ってます。あんまり趣味を出すといけないんだなと。「T-34」は暴力というよりは派手な戦車アクションなこともあって視聴数があってうれしかったですけど。

「すごいものを観てしまった……」と感じたロマンポルノ

──GYAO!は、ほかの配信サイトではあまり観ることができないピンク映画が多いのも特徴です。これまでに反響の大きかった作品はどのようなものでしょうか。

日活の作品の中では藤田敏八監督の「危険な関係」、近年のロマンポルノのリブートの元ネタでもある「牝猫たち」、キネマ旬報ベスト・テンにも選出された「四畳半襖の裏張り」、初期の作品の「(秘)色情めす市場」などははとても視聴されました。GYAO!では露出の多い画像は使えないのですが、それでもビジュアルの引きが強い作品は多く観られますね。

「牝猫たち」ビジュアル (c)2016日活

──ピンク映画は観る人が限られていると思うのですが、GYAO!で配信されていることによってハードルが下がり、新たなファン層も広がったのではないかと思います。普段ロマンポルノ・ピンク映画を観ない人にもおすすめの作品があれば教えてください。

仕事で観ることも多いのですが、その中で印象に残った作品もたくさんあります。ロマンポルノの作品では、田中登監督の「夜汽車の女」は映像がねっとりしてるというか、色彩が印象的で、何かすごいものを観てしまった……と強烈な印象に残っています。監督がすごい方だというのはあとから知ったんですけど。同じ田中監督なのですが、性的な暴力シーンが多いので薦めづらい部分もあるのですが、「天使のはらわた 名美」。こちらは鹿沼えりさんが同じ女性から見てもきれいすぎて拝みたくなる作品でした。ピンク映画はホラーからサスペンス、純愛ものまでストーリーのバリエーションもいろいろありますし、一般映画ではあまり見ない設定も見どころの1つかなと思います。「クレーン宙吊り 緊縛」は最後のクレーンのシーンがあっけに取られて印象に残っていますね。

──検索してみるとサムネイルのビジュアルがまさに「クレーン宙吊り」で、一般映画で観られないインパクトかもしれません。

あとは「ブラインド・ラブ ~言い出しかねて~」は腹話術と盲目の女性の恋愛ものなんですけど、設定を生かした面白い物語だったと思います。盲目だから違う男性と勘違いして一夜をともにしてしまうという。

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「GYAO!がなくなったらどこでサメ映画観るんだよ」

読者の反応

映画会社日活 @nikkatsu100

サービス終了までに観てほしい作品として #日活ロマンポルノ もご紹介くださってます😆

これまで『危険な関係』『四畳半襖の裏張り』『(秘)色情めす市場』などが多く視聴されたそうです。3月末のサービス終了までご覧になれる作品は #GYAO!さんのサイトでご確認ください🔍
https://t.co/PwF6IJG9ey https://t.co/791ru3w0gH

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