ホラーを語るリレー連載「今宵も悪夢を」 第20夜 [バックナンバー]

選者 / 磯村勇斗「ミスト」

この2年間僕たちの世界でも同じようなことが起きていたのでは

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ホラーやゾンビをこよなく愛する著名人らにお薦め作品を紹介してもらうリレー連載「今宵も悪夢を」。集まった案内人たちは身の毛もよだつ恐怖、忍び寄るスリル、しびれるほどの刺激がちりばめられたホラー世界へ読者を誘っていく。

第20夜は磯村勇斗スティーヴン・キング原作、フランク・ダラボン監督の「ミスト」を紹介。「あえてこの時代に選んだ」という本作から磯村が読み取った、生きていくうえで大切なメッセージとは。

/ 磯村勇斗(コラム)、田尻和花(作品紹介)

一番の敵はミストであって、人ではない

「ミスト」

「ミスト」は2007年に制作されたSFホラー映画。原作は数々のヒット作を世に出す、スティーヴン・キング。監督はフランク・ダラボン。この2人は過去にタッグを組み「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」も手掛けている。2人の名前を聞いただけでも観たくなる映画である。既に「ミスト」自体有名な映画だけあって鑑賞している人も多いと思うが、あえてこの時代に僕は選ばせて貰った。それは、当時中学生の頃観た感覚と大人になって観た感覚が変わっていたからだ。
簡単なあらすじはこうだ。田舎町で妻子と暮らす主人公デヴィッドは、ある嵐の翌日に息子と食糧を買い出しに行く。スーパーマーケットには嵐の影響で人だかりが出来ていた。主人公がレジに並ぶと、突如町にサイレンが鳴り響き外はたちまちミストに包まれた。不安に襲われる主人公たち。缶詰状態の中、1人のおじさんが「人が拐われた」と外から血相を変えてスーパーに入ってくる。ミストの中には得体の知れない影が動いている。主人公たちは恐怖に駆られ次第に追い詰められていく。スーパーから脱出しようとする者、留まろうとする者、神の審判と言う者。謎のミストによって始まった人間同士の醜い争い。デヴィッドが迎えるラストとは。

この作品は公開当初、「胸糞悪い映画」と呼ばれていた。それは映画自体の評価ではなく、物語の、もっと言えばラスト15分がとても胸糞悪いのだ。これはオチにも繋がることなので、詳しくは書かないが、ラスト15分の衝撃があるからこそ、この映画は今でも評価されているのだと思う。フランク・ダラボン監督恐るべしである。
冒頭の話に戻るが、僕がこの映画を最初に観た時はラストの展開に胸糞悪くなった記憶がある。でも(なんだか面白い映画を観たな)というざっくりとした印象しかなく深く考察をしなかった。けれど大人になって改めて観ると、生きていく上で大切なメッセージが込められているのではないか?と感じた。
一つ目は「人間は極限状態になると正常な判断ができなくなる、その結果最悪の事態を生む」ということだ。人は不安な状態になると、自分の中で最悪の状況をシミュレーションする。そして、そうならないように解決策を考え実行する。しかしあくまでも自分の頭の中での出来事なので、必ずしもそれが正義とは限らない。この行為が危険な扉を開いてしまう。
二つ目は「人間同士分かち合えなければ、犠牲者が出る」ということだ。この物語には1人ではなく、何人もの個性を持った人物たちが登場する。デヴィッドのように目の前の事実を受け入れ、正義を持って打開策を考える者。起きていることを受け入れず茶番だと言ってデヴィッド達に歯向かう者。そして、起きていることを受け入れるのだが、黙示録に沿って妄想が激しくなってしまう宗教信者。皆意見が違うのは構わないが、それが絶対的に正しいと思い込んでしまい、お互いの話を聞かず敵対し、終いには「人の手によって」犠牲者が出るシーンも。彼らの一番の敵はミストであって、人ではない。

ここで一つ目の「人間は極限状態になると正常な判断ができなくなる」に戻る。自分がこのような状態になった場合、どのように対処し、違う意見の人と理解し合えるのか。同じ状況にならないと答えが出ない部分はあるが、一つ言えるのは、「相手を一度受け入れる」「冷静な判断をする」という心が必要な気がするということ。この手のメッセージは、パニックホラーやゾンビ映画でよく出てくるものだが、「ミスト」は顕著にそれが見られる作品である。
最後に。冒頭で「あえてこの時代に」と言ったが、まさにこの2年間僕たちの世界でも同じようなことが起きていたのではないかと感じる。それは「見えないミストに侵略された」とでも言おうか。結びつけるのは強引と思われるかも知れないが、近年世界で起きている出来事はむしろ映画のフィクションを超えたものとなってきている。だからこそ「ミスト」の放つメッセージはより僕らの胸に響く。そしてラスト15分の胸糞悪いシーンこそ、現代の人に警笛を鳴らすメッセージが詰まっていた。

「ミスト」

「ミスト」

磯村勇斗(イソムラハヤト)

磯村勇斗

1992年9月11日生まれ、静岡県出身。特撮ドラマ「仮面ライダーゴースト」のアラン / 仮面ライダーネクロム役、連続ドラマ小説「ひよっこ」でヒロインの夫となる役を演じ脚光を浴びる。近年の主な出演作に映画「今日から俺は!!劇場版」「ヤクザと家族 The Family」「東京リベンジャーズ」「劇場版 きのう何食べた?」、大河ドラマ「青天を衝け」などがある。映画初主演作「ビリーバーズ」が7月8日、「異動辞令は音楽隊!」が8月26日、「さかなのこ」が9月1日、劇場アニメ「カメの甲羅はあばら骨」が10月に公開。Netflixシリーズ「今際の国のアリス」シーズン2は、12月よりNetflixで全世界独占配信される。

「ミスト」(2007年製作)

「ミスト」Blu-rayジャケット

とある町を突如襲った謎の霧。スーパーマーケットの店内に取り残された主人公デヴィッドと息子ビリーは、霧の中の“謎の生物の群れ”におびえながらも、生き残ろうと奮闘する。しかしデヴィッドたちの前には、彼らと考え方を異とする狂言的なミセス・カーモディら一派が立ちはだかるのだった。
監督を務めたのは、「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」に続き原作者スティーヴン・キングと組んだフランク・ダラボン。トーマス・ジェーンマーシャ・ゲイ・ハーデンローリー・ホールデンアンドレ・ブラウアートビー・ジョーンズが出演した。

「ミスト」Blu-ray / DVD販売中

税込価格:Blu-ray廉価版 2750円 / DVD廉価版 1980円
発売元:ブロードメディア・スタジオ
販売元:ポニー・キャニオン

ミスト(Blu-ray)
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ミスト(DVD)
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※「ミスト」はR15+指定作品

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. @jyd2j

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