レジェンドの横顔 第4回 [バックナンバー]

森田芳光が愛したもの 三沢和子×宇多丸 対談 後編

2021年の森田芳光

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やっぱり映画本もこっそり読んでるなあ(宇多丸)

──三沢さんには森田監督の本棚の写真も撮っていただきました。東京のご自宅と伊豆の別荘のものです。

宇多丸 (プリントアウトされた写真をじっくり見つめる)

森田芳光の本棚の写真に見入る宇多丸。

三沢 (大友克洋のマンガ短編集「ショートピース」の背表紙を指差し)森田は「『模倣犯』の次回作はピース(中居正広)の息子の話にしてタイトルは『ショートピース』にしよう」とか言っていました(笑)。マンガもいろいろあるし美術の本や写真集が多いですね。展覧会にもよく行っていました。

宇多丸 赤塚不二夫さんも好きなんですね。

三沢 赤塚さんのほうから送っていただきました。一度お会いしたときに面白いと思っていただけたようで。

──村上春樹さんの小説もありますが、「(ハル)」で深津絵里さん演じるヒロインの本棚に何冊も置かれていたのが印象的でした。

「(ハル)」 (c) 光和インターナショナル

三沢 森田は自分でオリジナルのシナリオを書いたとき、登場人物の背景や趣味など、脚本にはないディテールを俳優さんに伝えていました。この人はこういう人です、と説明するために。つまり深津さんが演じた「ほし」には、村上春樹さんの小説を好んで読むような女の子という背景がある。劇中で本が画面に大写しになるのは、たまたまなのですが。

──「間宮兄弟」にも大きな本棚が出てきました。

宇多丸 「間宮兄弟」の本棚はもうちょっと小学校の図書館っぽい感じですよね。

──宇多丸さんとしてはどの本が気になりますか?

宇多丸 たまに映画の本が出てくると「あっ」て感じがありますね。読むんだ、みたいな。あと、「失楽園」が意外なほど律儀に置いてあったり(笑)。「ガロ」コーナーもすごいですね。小説も評論もすごい数を読んでますね。

三沢 森田と現場で知り合ったスタッフは冗談ばかり言っているところしか知らないから、来て本棚を見ると「えーっ!」ってなります(笑)。

宇多丸 僕が読んでるようなものもいっぱいありますよ。

──例えば?

宇多丸 植草甚一さんの本も読んでるし、村上春樹さん、安部公房さん。安部公房さんの本、多いですね。

三沢 あとはハヤカワ・ミステリもすごく読んでました。火事で焼けてしまいましたけど。

宇多丸 海外文学もめちゃくちゃ読んでますね。そこが面白い。これはもう「なんでも読む」っていう部類に入ると思うな。

──と、ここまでいろいろなアイテムを見てきましたが、宇多丸さんとしてはどの品が一番印象的だったでしょうか。

宇多丸 サングラスの実物は衝撃でしたね。時代からいってレイバンのものだと思っていたんですけど、白山だったという。あと本も、読まれているとは思っていましたけど海外文学がこんなに多いとは。感心してしまいました。

三沢和子に勧められ、遠慮しながらも森田芳光のサングラスを掛けた宇多丸。取材現場にいた誰もが「ぴったり」と驚いていた。

──ゆかりの品を見て森田監督への印象が変わったところはありますか?

宇多丸 変わった部分……やっぱり映画本もこっそり読んでるなあ、と。

三沢 わかる(笑)。こっそりとね。「読んでる」と自分からは絶対言わないんですよね。絶対目立たないように本棚に置いてる感じ。

宇多丸 それはもう絶対そうです。もし読んでても、即処分する勢いかもしれない(笑)。

三沢 読んでないことにする。よくわかってらっしゃる(笑)。

森田芳光(モリタヨシミツ)略歴

1950年1月25日生まれ、神奈川県出身。東京・渋谷区円山町で育つ。日本大学芸術学部放送学科に進学すると自主映画の制作を開始。1981年に「の・ようなもの」で商業映画デビューを果たした。松田優作を主演に迎えた「家族ゲーム」で一躍有名になり、沢田研二の主演作「ときめきに死す」、薬師丸ひろ子主演の「メイン・テーマ」、夏目漱石の小説を映画化した「それから」などを発表してスター監督としての地位を不動のものに。吉本ばなな原作の「キッチン」やパソコン通信を題材にしたラブストーリー「(ハル)」などを手がけ、1997年には「失楽園」を大ヒットさせた。その後も「39-刑法第三十九条-」「黒い家」「模倣犯」「間宮兄弟」「サウスバウンド」「武士の家計簿」などを発表。精力的に活動を続けていたが、2011年12月20日、急性肝不全によって死去。翌年に公開された「僕達急行 A列車で行こう」が遺作となった。

三沢和子(ミサワカズコ)

1951年生まれ、東京都出身。大学在学中よりジャズピアニストとして活動する傍ら、のちに夫となる映画監督・森田芳光と出会い、宣伝や製作補佐、キャスティングという形で帯同する。その後、森田の監督作「キッチン」「未来の想い出・Last Christmas」「(ハル)」「39-刑法第三十九条-」「黒い家」「海猫」「間宮兄弟」「サウスバウンド」「椿三十郎」「わたし出すわ」「僕達急行 A列車で行こう」などにプロデューサーとして携わった。

宇多丸(ウタマル)

1969年生まれ、東京都出身。1989年にヒップホップグループ・RHYMESTER(ライムスター)を結成し、1993年にインディーズデビューを果たす。2001年から活動の場をメジャーへ移し、2007年には日本武道館公演を大成功させた。同年に放送が始まったTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」でパーソナリティを務め、映画批評コーナーで映画ファンにも広くその名を知られるようになる。2018年4月からは、TBSラジオの「アフター6ジャンクション」でメインパーソナリティを担当。映画関連の書籍にも携わっており、映画プロデューサーの三沢和子と共同で編著した「森田芳光全映画」が2021年9月に刊行された。

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