「チ。」魚豊が「僕のマンガが僕に勇気を与える」と語る、手塚治虫文化賞の贈呈式

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朝日新聞社が主催する第26回手塚治虫文化賞の贈呈式が、本日6月2日に東京・浜離宮朝日ホールで開催された。

第26回手塚治虫文化賞の受賞者によるイラストとサイン。

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今回はマンガ大賞を魚豊「チ。―地球の運動について―」が受賞。“斬新な表現、画期的なテーマなど清新な才能の作者”に贈られる新生賞は「教室の片隅で青春がはじまる」「今夜すきやきだよ」の谷口菜津子が選ばれ、短編賞はオカヤイヅミ「白木蓮はきれいに散らない」「いいとしを」が選出された。

選考委員の南信長氏。

手塚治虫文化賞において史上最年少での大賞受賞者となった魚豊。選考委員の南信長氏は「選考委員の中でも満場一致で(大賞には)『チ。―地球の運動について―』がふさわしいと決まった」とコメントする。「テーマ、ストーリー、構成力、セリフが高く評価され、このマンガで描かれていることは、今の日本の社会状況やウクライナで起こっていることともつながる現代的な物語だと思う」と説明し、選考委員の中では「今このタイミングでこの作品に賞をあげなければどうするんだ」という熱い声が飛び交うこともあったと話す。また選考委員の里中満智子からは「昔だったらボツになってしまうかもしれないテーマ」と言及があったことにも触れ、「こうやって連載化した(掲載誌の週刊ビッグコミックスピリッツ)編集部にも敬意を評したい」と述べた。

「チ。―地球の運動について―」1巻

魚豊は「僕は特殊な人生を送ったわけでもなく、マジョリティ側でのほほんとやってきたから、何かの問題に直面して悩んでいる人に届ける言葉を持っていない。面白いものが読みたかったら、過去の偉人の名作が膨大にあるからそれを読めばいいと思っている。となると僕が描く意味はないと不安になることがないわけでもないんですが」と前置きしながら、「そんな不安を凌駕するくらい、僕は自分のマンガに自信がある。それは僕のマンガは誰でもない僕にとって必要だから。僕のマンガが僕に勇気を与えたり挑戦させたりする。自分のマンガは自分しか描いてくれない」「(マンガを描く)初期衝動は自分に届く言葉や刺さる場面を探してみたい、描いてみたいということから始めたので、こういう機会をいただいたことでもう一度初心に戻って、その根底からは退却せずに、ここから積み上げていって、将来的に副次的に誰かの何かにつながればいいなと思っております」と語り、受賞の感謝を伝えた。

谷口菜津子

谷口の作品は多様性やジェンダーといった社会性の高いテーマに向き合い、若い登場人物たちと揺れ動く心理を柔らかなタッチで描いた技量などが評価された。緊張した面持ちで壇上に上がった谷口は「スピーチ自体が恐ろしい」と告白。「小学校の頃に『小さな親切作文コンクール』みたいなものを書かなければいけなくて、でも家に帰って早くゲームがしたいから嘘の作文を書いたんです。そうしたらそれがすごくいい賞を獲ってしまって、市のえらいの人の前で読まなければいけないことになってしまって。罪悪感とその後も継続して嘘をつき続けなきゃいけない苦痛で頭が真っ白になった」と続け、場内に笑いが溢れる中、その経験が自身の“スピーチ嫌い”の原点であることを明かした。「今回もよく考えれば架空の話を描いてマンガの賞をいただいたわけなので、(小学生の頃と)ちょっと似ているなと思ったんですが、そのときと違うのは、このスピーチで感謝を伝えたい人がいっぱいいること」と続け、読者やこれまで関わった人々、担当編集などにお礼を述べた。

左から朝日新聞社代表取締役社長の中村史郎、オカヤイヅミ。

短編賞を受賞したのはオカヤが発表した「白木蓮はきれいに散らない」「いいとしを」。ウイルス感染症や東京オリンピック、孤独死などの要素を盛り込み、高度な構成力や純文学のような読後感が光ったことから受賞に至った。オカヤは「まさか自分が手塚治虫先生の名前がついた賞をもらえるとは思っていなかったので、報せを聞いてから未だに動揺しています」と述懐。「報せをいただいたときに思ったのは『あ、私マンガ家だった』っていうことで。私は『マンガ家になろう』と決意した覚えがありません。興味があることやできることを仕事にして暮らしてきたものですから、今回賞をいただいたことではっきり『お前はマンガ家だ』と言っていただけたことがとてもうれしいです」と喜びを口にした。「マンガのコマは窓のようだと思っていて。窓の中でそれぞれ別の時間が流れているなと思っています。賞をいただいたことで今のこの感じを覚えておいて、マンガに描こうかなと思っております」と締め、受賞を感謝した。

左から講談社コミックDAYSの井上威朗編集長、手塚治虫文化賞選考委員の高橋みなみ。

贈呈式後は、講談社コミックDAYSの井上威朗編集長が登壇し、手塚治虫文化賞選考委員の高橋みなみが聞き手となるトークイベント「マンガ媒体の変遷」を開催。デジタルならではの表現方法についてや、Webで自由に作品が発表できる今、出版社だからこそできることを語り合った。また最後に井上編集長は「(スマートフォンやタブレットなどの)ハードに依存した作り方ではなく、面白い見せ方はまだいろいろあると思っている。マンガアプリだけ、という視野の狭窄にならずにいろんな出会い方、作り方ができるんじゃないかと思っています」と展望を述べた。

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