異質なものが同居する場・文化庁メディア芸術祭

「令和4年度の作品の募集は行わない」で話題になったメ芸、これまでの歩みを振り返る

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文化庁メディア芸術祭はアート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において、優れた作品を顕彰するフェスティバル。受賞作品を鑑賞する機会として「受賞作品展」も設けられる。と、ここまでサラッと書いたが、いろいろ疑問に思うことはなかっただろうか? 例えば「アニメーション部門とマンガ部門はわかる。でもアート部門とエンターテインメント部門ってどう分けられるの? どういう作品が選ばれるの?」だったり、「そもそも“メディア芸術”って何?」だったり。このコラムではそういった基本的な疑問への答えから、メディア芸術祭の成り立ちやその歴史までを、2018年から2021年にかけてメディア芸術祭のマンガ部門選考委員を務めた小田切博氏に執筆してもらった。

/ 小田切博

ひとつの区切りがつけられたメディア芸術祭

去る2022年8月24日、文化庁が本年度はメディア芸術祭の公募を行わないことを発表し、このニュースがネットを中心にちょっとした話題となった。8月31日には文化庁芸術祭賞と映画賞の終了も告知され、この動きがより広い範囲における国の文化政策見直しの一環であることがわかってきたが、いずれにせよメディア芸術祭公募作品展というイベントは第25回を以ってひとつの区切りがつけられることとなる。

本稿では、9月16日から26日にかけて東京・お台場にある日本科学未来館で行われる「第25回文化庁メディア芸術祭受賞作品展」を前に、そもそも「メディア芸術」とはなんなのか、といった基本的な問題からその四半世紀にわたる歩みを振り返り、改めてその意義を考えることで今回の展示を楽しむための一助としたい。

第25回文化庁メディア芸術祭の受賞作品一覧。(文化庁メディア芸術祭実行委員会の資料より)

「メディア芸術」とは何か

メディア芸術祭は1997年度から行われているアート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門の作品を年度ごとに公募し、その受賞作品を展示するイベントだ。(※1)

1997年の第1回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の大賞には「マンガ日本の古典」(全32巻)が選ばれた。同年のアニメーション部門大賞作品は「もののけ姫」。(画像:『マンガ日本の古典14 吾妻鏡 上』竹宮惠子/中央公論社)

ここでいう「メディア芸術」とは2001年に文化芸術振興基本法(2017年「文化芸術基本法」に改正)第九条に「映画、漫画、アニメーション及びコンピュータその他の電子機器等を利用した芸術」として定義される概念で、90年代半ば以降コンピュータテクノロジーの進歩に応じて出てきたCG等のデジタルアートを振興する中で提唱されたものである。

初期にメディア芸術祭の運営を担当した財団法人CG-ARTS協会が設立されたのが1991年(※2)。そして大友克洋、里中満智子両氏といったマンガ、アニメーションのようなポピュラーカルチャーのつくり手も含む有識者たちによる文化政策推進会議「マルチメディア映像・音響芸術懇談会」によって報告書「21世紀に向けた新しいメディア芸術の振興について」が提出されたのが1997年7月(※3)。これが公式に「メディア芸術」という概念が使用された初めての例になる。

つまり、マルチメディア環境を利用した表現の将来性について検討する会議からのこの提案が「メディア芸術」概念のスタートだった。また、「21世紀に向けた新しいメディア芸術の振興について」が提出された1997年まで開かれていた国際通商条約GATTのウルグアイラウンド協議で、知的財産権保護が国際貿易上の重用課題として浮上したこともあって、当時海外での人気が注目されはじめたアニメ、マンガの顕彰がそこに合流したかたちになっている。(※4)

このためメディア芸術祭の第1回(1997年)から第6回(2002年)までは、現在よりデジタルアートの振興という色が強く、公募部門自体がデジタルアート(インタラクティブ)、デジタルアート(ノンインタラクティブ)、アニメーション、マンガの4部門だった。

続く第7回(2003年)で「メディア芸術」そのもののきっかけとなったデジタルアート2部門を撤廃し、デジタルに限定されないより幅広いコンテンポラリーアートを対象とした「アート」、「ゲーム、Web、VFX(映像)、キャラクター、遊具その他、という多彩なジャンルからなる」(※5)とされる「エンターテインメント」の現在に続く2部門の公募へと部門編成が改変されている。

※1…第1回の芸術祭開催は1998年になる。2016年度は作品の公募を一度休止し、以降は公募年度と芸術祭開催が同一年度として行われている。

※2…「財団法人CG-ARTS協会」の沿革より。

※3…メディア芸術祭に関する「15周年特別コラム」より。

※4…「(文化庁30年史)新しい文化立国の創造をめざして」(1999年、ぎょうせい)221ページには「また,映画,アニメーション及びマンガは,これらの新しいメディア芸術の基盤となるものである。」との記述があり、この時期にはまだ「映画,アニメーション及びマンガ」を新しいデジタルアートとしての「メディア芸術」と区別しようという認識が見られる。

※5…中島信也「審査講評」より引用。

異質なものが同居する場

先に述べたように、「メディア芸術」という概念自体はソフト、ハード両面におけるコンピュータテクノロジーの発達により可能になった新しい表現、コンテンツを「文化」として評価しようという流れから出てきたものだ。

しかし、2003年の公募分野の改変に見られるように、設立の経緯からアニメーション、マンガが公募対象となっていたことで、結果的にメディア芸術祭というイベントは芸術選奨(※6)や文化庁芸術祭(※7)、文化庁映画祭(※8)といった当時すでに存在していた国による芸術、文化振興のための制度が対象にしていなかった分野の作品を広く顕彰する役割を担うことになった。(※9)

イラン生まれのMahboobeh KALAEE(マブべ・カライー)による短編アニメーション「The Fourth Wall」が、第25回文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門の大賞を受賞した。「第25回文化庁メディア芸術祭受賞作品展」ではメイキング映像を見ることができる。

こうした性格は「デジタル」という共通項によってビデオゲームから現代美術までが受賞作品に混在する第6回までのデジタルアート2部門、玩具やミュージックビデオ、配信コンテンツなど極めて雑多なジャンルの受賞作が並ぶ第7回以降のエンターテインメント部門に顕著だが、それらのみに限定されるものではない。短編や自主制作、海外作品も含めた受賞作が並ぶアニメーション部門、回を重ねるごとに同人誌で発表された作品や海外作品なども受賞作に名を連ねるようになっていったマンガ部門も単純にその年のヒット作、人気作を評価するのではない、オルタナティブな評価軸を各部門で提示し続けてきたといえるだろう。(※10)

例えばマンガ部門ではベルギーのブノワ・ペータース脚本、フランソワ・スクイテン作画による「闇の国々」が大賞、同人誌として発表されたおざわゆき「凍りの掌 シベリア抑留記」が新人賞を受賞するなど、国内のほかのマンガ賞とは一線を画す受賞作品を輩出した第16回(2012年度)がその意味で象徴的だ。

※6…1950年に文化庁芸術祭から独立するかたちで設立された国による芸術家の顕彰制度。2008年以降、「メディア芸術」も対象とされるようになった。

※7…1946年にはじまった文化庁主催の芸術祭。現在は主に舞台芸術を対象にしているが、1948年から1989年までは映画、1948年から1995年まではラジオ、テレビとマスメディア作品も参加、贈賞作品に含まれていた。

※8…文化庁芸術祭で映画が対象から外れたことから1990年に設けられた国内映画の顕彰制度。

※9…この点に関してはアニメーション研究者として「マルチメディア映像・音響芸術懇談会」に参加していた東京大学教授・浜野保樹氏が2009年5月に行われた当時の文化庁長官・青木保氏とのトークイベントで「これを芸術選奨の1分野にもしたいと発言したら、高名な方から『アニメやマンガが芸術なのか』と怒られました」と1996年当時の芸術文化状況について語っている。(「メディア芸術総合センターについて、青木保文化庁長官と浜野保樹東京大学教授が語る。(5/14))」、「文化庁メディア芸術プラザ(MAP)ブログ」(Internet Archieveに残されたログ))

※10…過去の受賞作に関しては文化庁メディア芸術祭公式サイトで確認できる。

揺らぐ文化状況

このようにイベントとしてのメディア芸術祭は、現代美術の先端をいくアート作品から、オルタナティブな半商業作品、社会的にブームを巻き起こしたヒット作品までが同一の展示会場にメディア、ジャンルを問わず並べられているという、ほかにはないちょっと不思議な鑑賞体験を提供する場になっている。

第25回文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門では、 ソーシャル・インパクト賞として「新宿東口の猫」が選出された。新宿アルタ前広場、クロス新宿ビジョンの錯視3Dを利用した映像コンテンツだ。

第21回(2018年度)では各分野における貢献を讃えて贈られる功労賞が田宮模型会長・田宮俊作(エンターテインメント部門)、マンガ研究者・竹内オサム(マンガ部門)の二氏に贈られているが、実業家と研究者が並んで功績を讃えられる賞というのも珍しいだろう。

一方で、「マルチメディア映像・音響芸術懇談会」にも参加していた東京藝術大学教授でアーティストの藤幡正樹氏が2010年のイベント「メディア芸術オープントーク」において「そもそもメディア芸術って一体何なんだということを考えるっていうことをやるべきだ」と問題提起し「子どものときから親しんできたマンガとかアニメ」と「芸術」の差異や同質性を議論すべきことを示唆していた(※11)ように、このメディア芸術祭のジャンル横断的な性格は、アートとエンタテインメントの境界を問い直すような性格も持っていた。

芸術、文化の研究者を中心にしたこのような問題意識は、2010年から2011年まで行われた「メディア芸術オープントーク」(※12)、2011年、2012年に2回開かれた「メディア芸術部門会議」、2011年から2014年まで4回開かれた「世界メディア芸術コンベンション」(※13)といった「メディア芸術」概念そのものを問い直すような議論も生んでいる。(※14)

しかも、こうした制度としての芸術、文化のあり方の見直しが議論の俎上に上がったここ10年ほどは、同時に2011年の東日本大震災と福島原子力発電所の事故、2019年以降の新型コロナウイルス感染症の世界的な流行といった大きな事件によって、日本社会全体が大きく揺さぶられた時期でもあり、その間の極めて多様な表現が寄せられたメディア芸術祭はそうした社会的な事件が芸術、文化的な表現に与える影響を直接反映する場にもなってきた。

第15回(2011年度)のマンガ部門優秀賞を受賞したしりあがり寿「あの日からのマンガ」(マンガ部門)(※15)、第24回(2021年度)エンターテインメント部門優秀賞を受賞した劇団ノーミーツ(※16)など社会状況の変化を直接反映した作品や試みから、事件を反映した作品のテーマや作家の社会的な意識の変化など、こうした点からもメディア芸術祭だから見えてくる点、考えさせられる点は多くあるだろう。

※11…「映画上映活動年鑑2010」(一般社団法人コミュニティシネマセンター)213~214ページより。

※12…このイベントには象徴的に「『メディア芸術』ってよくわからないぞ」というサブタイトルがつけられている。

※13…メディア芸術祭の公式サイトには、「世界メディア芸術コンベンション」「メディア芸術部門会議」の各回テーマも掲載されている。

※14…この点に関しては、2009年に「国立メディア芸術総合センター」の設立が国会で予算承認されながら批判的なマスメディア報道をきっかけに世論の反発を受けて白紙撤回された経緯が直接的なきっかけとなっている。

※15…東日本大震災後の作者の実感、生活感覚が色濃く反映された作品。

※16…コロナ禍の中で生まれた、企画、脚本、キャスティング、稽古から公演まですべてオンラインで行う新しいタイプの演劇を打ち出した劇団。

第25回メディア芸術祭

イランの短編アニメーション、Mahboobeh KALAEE「The Fourth Wall」が大賞を受賞したアニメーション部門、芸能界を舞台にした現代的な女性マンガ、持田あき「ゴールデンラズベリー」が大賞を受賞したマンガ部門と25回目となる今回のメディア芸術祭も極めて独自色の強いセレクションになっている。

第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の大賞は持田あき「ゴールデンラズベリー」。

また、これまで述べてきたように、多くのアニメやマンガのファンにとってはあまり触れる機会のないアート部門、エンターテインメント部門の作品群とアニメーションやマンガをあわせて鑑賞できる点がほかにはないこのイベント最大の魅力である。

「文化芸術基本法」で「メディア芸術の振興」が定められ、芸術選奨にもメディア芸術部門が設けられている現在、今回でメディア芸術祭が終了したとしても、「メディア芸術」という概念を軸にした展示やイベントは今後も行われていくのだろうが、せっかく話題になった今回、メディア芸術祭をご存じなかった方も、この特異な公募展の会場に足を運んでみてはいかがだろうか。

第25回文化庁メディア芸術祭受賞作品展

期間:2022年9月16日(金)~9月26日(月) ※9月20日(火)は休館。
会場:東京都 日本科学未来館
サテライト会場:東京都 CINEMA Chupki TABATA、東京都 池袋HUMAXシネマズ、東京都 クロス新宿ビジョン、大分県 不均質な自然と人の美術館
入場料:無料

小田切博

フリーライター、アメリカンコミックス研究家。著書に「誰もが表現できる時代のクリエイターたち」「戦争はいかに『マンガ』を変えるか アメリカンコミックスの変貌」(ともにNTT出版)、「キャラクターとは何か」(筑摩書房)など。

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