海賊版サイトの現在地 Vol.3 [バックナンバー]

「マンガ イズ ビッグビジネス!」国際化する海賊版サイト問題、対策チームに半年密着したNHK記者が語る3つのキーワード

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“海賊版サイトの跋扈”を招いたとされる漫画村が2018年に閉鎖してから、4年が経過した。2020年には改正著作権法が施行されるなど、ここ数年で海賊版サイトへの規制が強化されてきた。しかし現在、マンガ作品を違法に配信する海賊版サイトの数は約1000(ABJ調べ)。海賊版サイトへのアクセス数、被害額も2018年から拡大している。海賊版サイトは、対策と追及を逃れるために巧妙に進化しているのだ。

コミックナタリーでは本コラム「海賊版サイトの現在地」や日々のニュース記事で、海賊版サイト問題の状況を伝えてきた。「海賊版サイトの現在地」第3回では、NHKの番組「クローズアップ現代」で「『違法漫画サイト』を摘発せよ!密着“デジタルGメン”」を担当したNHK社会部の記者・田畑佑典氏を取材。2021年11月からの半年間、海賊版対策のスペシャリストたちに密着した田畑氏の視点で見た、“今の海賊版サイトを語るうえで欠かせない、3つのキーワード”を語ってもらった。

取材・/ 三木美波

海賊版サイトの問題が新たなフェーズに

7月19日、NHKの番組「クローズアップ現代」で「『違法漫画サイト』を摘発せよ!密着“デジタルGメン”」が放送された。海賊版対策を目的とした団体・コンテンツ海外流通促進機構(CODA)、そして知的財産法を専門とする中島博之弁護士を軸とした“デジタルGメン”の調査に、番組スタッフは2021年11月から半年間密着。累計10億アクセスと言われる巨大海賊版サイト・漫画BANKの運営者が中国で摘発されるまでの、“デジタルGメン”たちの知られざる戦いを記録していた。

海賊版サイトの問題について「今取り上げるべきだと思った」と語るのは、NHK社会部の記者・田畑佑典氏。「『違法漫画サイト』を摘発せよ!密着“デジタルGメン”」の取材を行なった人物だ。

「『違法漫画サイト』を摘発せよ!密着“デジタルGメン”」より。(提供:NHK)

「2021年、海賊版サイトでマンガがタダ読みされたとされる金額が1兆円を超えました。対して、正規のマンガの販売額は約6700億円。タダ読みした人全員がそのマンガを購入する予定だったとは思いませんが、それでも被害額は甚大です。それに、去年の秋に漫画BANKの運営者を明らかにするよう、アメリカの裁判所が情報開示命令を出した。運営者がわかればきっと事態が動くので、経緯を記録させてほしいと関連する出版社に取材許可を取り、密着させてもらったんです」(田畑氏)

漫画村事件のときから、海賊版サイト問題に関心を持っていた田畑氏。密着取材を進めていくうちに、海賊版サイトが新たなフェーズに入ったことを知った。

田畑氏は海賊版サイトの変貌を、「ウチ→ウチの時代」「ソト→ウチの時代」「ソト→ソトの時代」と3つのフェーズに分けて分析。「ウチ→ウチの時代」では、日本国内を拠点とする運営者が、日本の利用者向けにサイトを運営していたのが特徴だ。代表的な海賊版サイトは、2018年に閉鎖した漫画村。続く「ソト→ウチの時代」では、海外を拠点にした運営者が日本の利用者向けにサイトを運営していくタイプへと変化していった。その代表的な海賊版サイトは2021年に閉鎖した漫画BANKだ。漫画BANKの運営者として摘発されたのは中国・重慶市に住む男性で、中国から日本の利用者向けにサイト運営を行なっていた。なお近年はベトナム発の海賊版サイトが急増。日本国内からアクセスされている海賊版サイト上位10サイトのうち、7つはベトナム発だと推測されている(2022年6月現在)。

そして今は「ソト→ソトの時代」に突入した。海外に拠点を置き、海外の利用者向けに日本のコンテンツを違法に配信する海賊版サイトが生まれているのだ。ABJが把握している海賊版サイトの総数は、現在国内外で約1000サイト。そのうち、日本人向けのサイトは約170サイトと言われている。残りの約830サイトが英語翻訳、もしくは各国語に翻訳された海外向けの海賊版サイト。国際化が顕著なのだ。

今、海賊版サイト問題で注目してほしい3つのキーワード

このようにスピーディに事態が変わっていく海賊版サイト問題。田畑氏に“今、海賊版サイト問題で注目してほしいキーワード”を挙げてもらったところ、「文化危機」「広告収入」「国際連携」という言葉が出てきた。「文化危機」から説明していく。

「海賊版サイトがあることによって、マンガ家にとっての正当な収益が掠め取られている。人気作品を中心に海賊版サイトの被害が出ていますが、マンガ家はもちろん出版社にもお金が入らず、経営が立ち行かなくなります。取材では特に中小規模の出版社からそういう声が挙がりました。出版社に体力がないと、『作品の売り上げが少し鈍くても我慢する』ということができない。海賊版サイトの被害は直接的には見えなくても、回り回ってマンガ家の芽を潰します。まさに『文化危機』、マンガ文化の危機です」(田畑氏)

これは“今”に限らない、海賊版サイトの大きな問題だ。だが、コロナ禍での巣ごもり需要やオンライン環境の進化、そして何より「日本のコンテンツは儲かる」と海賊版サイト業者に認識が広まってしまったことにより、被害額は年々拡大。2020年は約2100億円、2021年は約1兆19億円がタダ読みされたという計算もあり(ABJ調べ)、「文化危機」は深刻化している。

続く「広告収入」に関して、田畑氏は「番組でも少し触れましたが、やっぱり広告収入は海賊版サイトを語るうえで欠かせない」と言う。それは広告収入が、海賊版サイトを運営するための大きな資金源になっているからだ。番組では漫画BANKに広告を配信していた、ヨーロッパのIT企業が取り上げられた。その企業の公式サイトには、「ONE PIECE」のナミのイラストとともに「THE MANGA AND ANIME MARKET IS BIG BUSINESS」という言葉を掲載。当然、ナミのイラストの掲載許可も取っていないだろう。そして同サイトには英語で「さまざまな作品を取りそろえるマンガサイト、広告を掲載すれば “巨額の収益を生む”」と記載が。番組に出演した“デジタルGメン”は「海賊版サイトの運用を推奨しているようにみえる」と語っていた。

「『違法漫画サイト』を摘発せよ!密着“デジタルGメン”」より。(提供:NHK)

「海賊版サイトの報道や訴訟もあり、国内の広告代理店には海賊版サイトへ広告を出すことの問題意識が共有されてきていると思います。ですがやはり海外の広告代理店にまでその意識は届いていない。番組でも紹介したヨーロッパのIT企業の『THE MANGA AND ANIME MARKET IS BIG BUSINESS』という言葉はすごく象徴的だと思います。国際的な問題意識の共有は必要です」(田畑氏)

3つ目は「国際連携」。ここまで書いてきた通り、海賊版サイトの問題は国際化が進んでいる。

「漫画村事件のときと比べると、国際連携の重要度がかなり増しています。日本の代表的なコンテンツであるマンガが、国内だけではなく海外でどんどん侵害されている。国境を越える犯罪であるからこそ、1つの国の捜査機関では限界があり、国際連携が不可欠です。番組で取材したCODAが国際連携を取ろうと動いていますが、国によって温度差があるのが現状。『ソト→ウチの時代』『ソト→ソトの時代』ならではの難しさがあります」(田畑氏)

「『違法漫画サイト』を摘発せよ!密着“デジタルGメン”」より。(提供:NHK)

最後に、取材を重ねてきた記者から見た“海賊版サイトを撲滅できていない要因”を聞いた。

「海外の広告会社の存在、国際連携が必要不可欠になってきた捜査のハードルの高さなど要因はいろいろあるんですが、無料でマンガを読みたいという一般の人の気軽な気持ちがあるからこそ成り立っている違法ビジネスだと思います。それを『リテラシーがない』とかただ非難しても響かない。どうやって解決していくかは考え続けなきゃいけないテーマですが、利用者は気軽な気持ちが悪質な業者の『MANGA IS BIG BUSINESS』という言葉につながっている、という事実に目を向けてほしいですね」(田畑氏)

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