天上天下唯我独尊 鶴ぼ~ちゃんのアニメPへの道 第4回 [バックナンバー]

俺と澤野弘之さんで劇伴作り、神曲ができあがらないわけがないっ!

DTMに初挑戦、曲のテーマはサスペンス調!? 意外とシンプルなスタジオ内も大公開

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アニメ好きを公言するJO1鶴房汐恩さんが、夢のアニメプロデューサーを目指し、アニメ作りをイチから学んでいく連載「天上天下唯我独尊 鶴ぼ~ちゃんのアニメPへの道」。今回は数々のアニメ音楽を手がける作曲家・澤野弘之さんのプライベートスタジオを訪問し、DTM(デスクトップミュージック)での劇伴作りに挑戦してきました。これまでアニメーターや声優のお仕事体験は器用にこなしてきた鶴房さんですが、作曲家としての才能はいかに……? インタビューでは澤野さんが劇伴作曲家を目指したきっかけや曲げられない信念、鶴房さんがずっと気になっていた「七つの大罪」のサントラタイトルが少し変わっている理由などを聞いてきました。

取材・/ 西村萌 撮影 / 曽我美芽 ヘアメイク(鶴房汐恩)/ 佐々木美香 スタイリスト(鶴房汐恩) / 増田翔子 ヘアメイク(澤野弘之) / 澤田史 題字 / 鶴房汐恩

澤野弘之さんってこんな人!

澤野さんは1980年生まれ、東京都出身の作曲家。「機動戦士ガンダムNT」「プロメア」「進撃の巨人」「機動戦士ガンダムUC」「キルラキル」「ギルティクラウン」「青の祓魔師」「アルドノア・ゼロ」「七つの大罪」「甲鉄城のカバネリ」「Re:CREATORS」「機神大戦ギガンティック・フォーミュラ」など多くのアニメ作品で劇伴(映像に合わせて流れる音楽のこと)を手がけており、多くのアニメ好きに支持されています。

また今年4月から6月にかけて放送されたTVアニメ「群青のファンファーレ」では、澤野さんとJO1の深い関わりがありました。澤野さんが音楽を担当する同作において、オープニングテーマはJO1の「Move The Soul」に。エンディングテーマには澤野さんが率いるボーカルプロジェクト・SawanoHiroyuki[nZk]の「OUTSIDERS」が起用され、ゲストボーカルとしてJO1から河野純喜さんと與那城奨さんが参加しました。

いざ、澤野さんのプライベートスタジオへ

メンバーたちに代わって今日は僕が……

「失礼します」

いつもの観察用ボードと取材ノートを携え、準備万端な鶴房さん。事前にスタッフが渡した紙資料にも、澤野さんへの質問を自分だけにわかる字でこっそりメモしてきました。さて、澤野さんに初めましてのご挨拶です。

鶴房汐恩 この間はうちの河野と與那城がお世話になりました。

澤野弘之 あはは! こちらこそ大変お世話になりました。

鶴房 メンバーの木全(翔也)が、澤野さんが作られた「ガンダムUC」の「ダラララーラー」という曲(「UNICORN」)をすごい好きって言っていて。

澤野 ほんとですか! ありがとうございます。

鶴房 今日はみんなの代わりに僕が来てしまってすみません(笑)。曲作りさせてもらえると聞いてちょっと心配なんですけど、よろしくお願いします。

澤野 僕もできる限りサポートできればと思うので、よろしくお願いします!

スタジオの中ってどうなってるの?

劇伴作りの前に、まずはスタジオ内を見学させてもらうことに。部屋の奥側はDTM機材やピアノなどが設置された作業スペースです。ピアノ周りの壁は音の響きなども考慮し、このスタジオを使い始めるタイミングで木を使ったデザインに改装してもらったそう。また防音のため二重窓にもなっています。

鶴房 すご! 機材いっぱいありますね。

澤野 作曲家としてはこれでもシンプルなほうだと思います。基本的にはパソコンに入っている音源やエフェクトがあれば作業できちゃうので。ここはスタジオという形なので多少機材を揃えてはいるんですけど、自宅とかではノートパソコンと鍵盤(MIDIキーボード)だけでやってたりもして。なので、あくまでもここは大きい音で曲を作れる場所という感じですかね。

鶴房 マイクがあるってことは、レコーディングもできるんですか?

澤野 一応できるって感じです。マイクの隣にあるのはPro Toolsっていう外部のスタジオでもよく使われているレコーディング機材で、これがあったらサウンドエンジニアに来てもらってミックス作業とかもできるかなと思って少し前に入れてみました。でも本格的なレコーディングは外部のスタジオでやっちゃうので、デモ音源の仮歌とかを簡易的に録るぐらいになってますね。

3段になっている機材の真ん中がPro Tools。

グランドピアノはYAMAHAのS6。このスタジオを作った2011年頃から使ってるものだそうです。

鶴房 きれいにされてますね。

澤野 そんなに弾いてないからかもしれない(笑)。練習用と、曲を作るときにボイスレコーダーを置いてなんとなくメモを取る用に使ってます。

鶴房 このピアノはやっぱりいい物なんですか?

澤野 いい物ではあるんですけど、スタインウェイ(スタインウェイ・アンド・サンズ。世界三大ピアノブランドに数えられ、高級なピアノの代名詞的存在)とかそこまでは高くないです。というのも生々しい話、スタジオを作るってやっぱりお金かかるんですよ!(笑) だから比較的手が出しやすくて、個人的にも好きだったYAMAHAの中からオススメしてもらったものを購入したという感じですね。

予算の都合もあって選ばれたというS6ですが、実はYAMAHAの中でも特に品質にこだわった高級モデル。鶴房さんも慎重に触らせてもらいました。

部屋の手前側はテレビやソファ、趣味のフィギュアなどがずらりと置かれたリラックススペースです。椅子には海外アニメ「アドベンチャータイム」に登場するジェイクのぬいぐるみがどっしり座っていました。

劇伴作り本番

いよいよ本日のメインイベント、劇伴作りです。鶴房さんがDTMを使って作曲をするのは今日が初めて。一方の澤野さんも、人に曲作りをレクチャーするのはほぼ初めてだそうです。

使用ソフトは、澤野さんがいつも使っている「Logic Pro」。画面の青枠はピアノやギター、ベース、ドラムなどのトラックが並ぶセクションで、赤枠はトラックの打ち込んだ音が表示される作業スペースになっています。

1)テーマ決め

鶴房 うわっ、難しそう。メンバーが使ってるのは見たことありますけど、こんなにいっぱい線(トラック)はなかったです。

澤野 今日はサスペンス調の曲を作ってもらいたいと思います。なんでサスペンス調かっていうと、シンセサイザーとかのトリッキーな音を使えばメロディが多少不協和音になっても曲として成立しやすいんですよ。だから初心者の鶴房さんでも作りやすいかなと。

鶴房 なるほど。

澤野 鶴房さん、ほかにこういうふうにしたいっていう希望はありますか?

鶴房 僕、けっこう落ち着いた感じの曲が好きで。ピアノとか使ってみたいんですけどどうですか?

澤野 あ、いいですね。サスペンスの薄暗い中に、ピアノのきれいな要素が入っていると。それでやってみましょう。

2)ベース作り

澤野 曲作りにおいて本来はアレンジやメロディも重要なんですけど、僕的には音色(おんしょく)が肝だと思ってて。自分で作るときも音色選びはけっこう時間がかかる部分なんですよ。今回は時間を短縮するためにある程度こちらで選んでおいたので、鶴房さんには鍵盤を叩いてもらうとこからスタートしてもらえればと思います。

鶴房 はい。

澤野 じゃあまずはベースの音から。低めの音で、基本的に白い鍵盤をメインで叩いてもらうのがいいかな。ちなみにテンポはどれくらいがいいですか?

鶴房 テンテンテンテン……。

澤野 BPM80ぐらいですね。サスペンスってそれほどテンポが早くない曲が多いのでちょうどいいと思います。最初にクリック音が1、2、3、4と流れるので、その次の小節から弾いてみてください。

鶴房 えっ、もう? 怖すぎる!(笑)

澤野 では!

澤野 いい感じです! ちょっとだけリズムが不揃いになってしまったので、小節の始まりにタイミングを合わせるクオンタイズっていう機能で調整しますね。さらにベースらしく厚みを持たせるために、今弾いてもらった音をコピーして別の楽器に置き換えます。そして2つの音を同時に鳴らすと……。

鶴房 うわ、カッコよ!

澤野 すみません、1つだけ言い忘れてました。暗い調の曲を白い鍵盤だけで弾くときは、キーがAマイナーなのでラの音から始まることが多いんです。だから1音目だけラに変えさせてもらっていいですか? それ以外はバッチリなので、次は“上もの”と呼ばれるメロディやアレンジの部分に移りましょう。

3)上もの作り

澤野 先ほどのベースと違って、ここからは鍵盤の高いところを弾いてもらって大丈夫です。ちょっと怪しい雰囲気の音を効果音的に入れていきましょう。

鶴房 これってさっき弾いたベースに合わせたほうがいいんですか? 最初の音がラでしたけど、同じタイミングでラを弾くというか。

澤野 あえて合わせるときもありますけど、基本的には自由に弾いてもらっていいですよ。

鶴房 ずっと鳴らしてるんじゃなくて、間を空けても?

澤野 うん、全然アリです! じゃあ一度やってみましょうか。

澤野 いい感じだったので、次はまた雰囲気が違う音を。こういうフワーっとしたきれいな音は、暗いベースの中にあると不思議な要素として映えるんです。単音でも和音にしてもらってもいいですよ。

鶴房 3つとか弾いても大丈夫ですか?

澤野 なんでも大丈夫です。音を重ねれば重ねるほど不穏な空気になっていくので。鶴房さんにさっき弾いてもらったベースが流れ続けるので、お好きなタイミングで叩いてみてください。

「すっごい変な汗!(笑)」

鶴房 ……難しい!

澤野 今度はより効果音的というか、音階がそこまでないリズム要素にいきましょう。低い音はホラー映画とかに出てきそうな音色ですよね。クリック音とズレてしまっても構わないので、これも好きなタイミングで入れてみてください。

鶴房 うわーっ、これも難しい!

澤野 さらに曲後半にかけて盛り上げるため、パーカッションを足していきます。8小節分ぐらい入れたらちょうどいいかな。鍵盤を叩く強さによって音の大きさも変わってくるので、変化を加えながらやってみてください。

首を傾げながら鍵盤を叩く鶴房さん。

鶴房 ……できてましたか? 弾きながら自分がどんな音出しているのかわかんなくなっちゃって(笑)。これ、どの鍵盤からどういう音が出るかちゃんと知っておかないとダメですね。

澤野 確かに、鍵盤ごとに出る音の種類も違いますからね。でもいい感じでしたよ! あとはアクセントとしてキックの「ドンッ」という音もあるといいと思うので、4つ打ちを入れてみましょうか。1小節分だけ叩いてもらえたら、あとは繰り返しで貼り付けていきます。

4)メロディ作り

澤野 もう終盤なので、鶴房さんが最初に言っていたピアノを入れていきましょうか。きれいなピアノの音が入ってくることで、一般的なサスペンス調の曲とはいい意味で少し変わってくると思います。せっかくなので全編に入れていいと思うんですが、後半にかけて主張が強くなっていったほうが変化があっていいと思うので、さっき打ち込んだリズムが聴こえたら音数を増やしていきましょう。

鶴房 わかりました。やってみます。

またまた首を傾げながら鍵盤を叩く鶴房さん。

鶴房 これが一番難しい!(笑) 出だしミスってすみません!

澤野 いやいや、全然ミスってなかったですよ! もし気になるんだったら、リバーブ(音に残響音や反射音を加え、深みや広がり感を出すエフェクト)とかを付けるとよりきれいになるかもしれない。DTMなので間違った音だけ修正するのも簡単なんですけど、音的には今のままで十分きれいですよ。

鶴房 ほんとですか?

澤野 本当です。それに音楽に基本決まりごとなんてないから大丈夫!

鶴房 カッコいい!(笑) じゃあこれで完成ってことでお願いします。

劇伴制作の模様を動画でもどうぞ!

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完成した曲を聴いてみましょう

読者の反応

澤野弘之 [nZk] @sawano_nZk

ナタリーさんの企画で、JO1 鶴房さんとこんな企画をやりました!
河野さん與那城さんとご一緒出来た上、鶴房さんとも楽しい企画ができて嬉しかったです。
ありがとうございました! https://t.co/nFfWzniN5R https://t.co/2ETBaW7bIl

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