「おもしれー女」について考える

あなたの「おもしれー女」はどこから?

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ゲーム用語やアニメのキャラクター名を広く網羅している「ニコニコ大百科」に、2020年、ある単語が登録されました。それが「おもしれー女」。

あらゆる女にモテている俺様系イケメンになびかないがゆえに面白がられて恋される女の子を指すこの言葉。イケメンが彼女に、「おもしれー女じゃん」と言うイメージとともに広まってきました。少女マンガや乙女ゲームなどに確かにあるなと思う展開ですが、具体的にあの作品が発祥、とはなかなか思いつきません。

昨今の「おもしれー女」ブームを紹介しつつ、これは「おもしれー女」なのでは?と思われるヒロインが登場する作品をまとめてみました。

/ ひらりさ

「女子無駄」と「はめふら」ブーム

近年、「おもしれー女」という概念がネットで盛り上がっています。大きな役割を果たしたのは、マンガ「女子高生の無駄づかい」(通常「女子無駄」)。2015年から連載されている本作では、さいのたま女子高等学校に通う女子高生たちが、どうでもいい話やどうでもいい思いつきを毎回披露し、青春を「無駄づかい」する様が描かれています。

この「女子無駄」が2019年にアニメ化したとき、第1話で放映されたエピソードが、原作3巻に収録されている「かれし」。主人公である、偏差値低めの女・田中(通称:バカ)が突然「運命的な出会いをして彼氏が作りたい」と話し出します。最初こそ「引っ越してきた幼なじみと偶然の再会したい!」と語るバカですが、いつの間にか「有名売れっ子アイドルと偶然出会ったものの自分はそのアイドルを知らなくてぞんざいな口を利く」「スランプのミュージシャンに偶然出会ってアドバイスをする」「プライドの高いシェフの料理を少し残す」などと発展していき、次第に“おもしれー女コレクション”に……というエピソードです。

「女子高生の無駄づかい」3巻収録の「かれし」より。

2010年半ばには、「おもしれー女」史(?)に貢献するもう一つの作品が生まれていました。それが、「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」(通称「はめふら」)。交通事故で死んでしまった現実の女子高生が、自分が生前プレイしていた乙女ゲームの“悪役令嬢”カタリナ・クラエスとして転生し、ゲーム内に用意されている破滅エンドを回避するために奮闘するというストーリーです。破滅エンド回避に夢中で体裁を取り繕わない彼女は、作中のキャラクターに「おもしれー女」と認知され、恋されていきます。「ピクシブ百科事典」の「おもしれー女」の項目でもカタリナのイラストがサムネイルとして使われており、本作の影響力がうかがえます。

これ以外にも、最近ではVTuberの月ノ美兎、「ウマ娘」シリーズのゴールドシップなど、破天荒でゴーイングマイウェイな言動をとるタレントやキャラクターのことを「おもしれー女」と称する風潮が出てきました。

「おもしれー女」、一体どこから?

ここまで直近の「おもしれー女」ブームを紹介しました。しかしそもそも発祥はどの作品……?と考えると、途端にわからなくなってしまいます。

まず思い浮かぶのが、1992年に連載開始した大ヒットマンガ「花より男子」。富裕層だらけの学園に紛れ込んでしまった超庶民・つくしが、学園を牛耳るイケメン4人組・F4のせいでいじめの標的になりますが、さまざまな事件を経て、そのリーダー・道明寺司と恋仲になるというラブコメです。Google検索で「おもしれー女」を調べると「道明寺」がサジェストされるほどに、「おもしれー女」概念の代表格とされている、つくしと道明寺。しかし、原作で実際に道明寺が「おもしれー女」と発話しているシーンはありません。ただ、つくしが「おもしれー女」としてF4に好かれているのは間違いなく、ほかのキャラクターからは「おもしれー」「変な女」「おもしろい人」とたびたび言われています。

一方で、主人公が明確に「おもしれー女」と評されている作品がありました。それは1995年からMonthly Kiss(講談社)で掲載されていた鈴木由美子「おそるべしっっ!!!音無可憐さん」。行き過ぎたぶりっこやストーカー紛いの追っかけで恋愛を成就させる可憐さんの姿を描いた作品ですが、可憐の片思い相手である軍司が1話の時点で可憐に対し、「おもしれー女」と評しているのです。モノローグでありセリフではありませんが、今回確認できた、最古の「おもしれー女」でした。

「おそるべしっっ!!!音無可憐さん」1巻より。

しかし……筆者は平成生まれのオタク女子なのですが、周りに聞くと、声を揃えてこう言います。

「え、跡部様が言ってるんじゃなかったっけ?」

そう、かなり多くのオタク女子が「テニスの王子様」の跡部様が女子に発したセリフとして、このネットミームを認識していたのです。

週刊少年ジャンプ(集英社)の大ヒットマンガである「テニスの王子様」は、女子キャラクターも出てきますがラブコメではありません。女性読者からの圧倒的支持を得ている氷帝学園部長・跡部景吾は、確かに作中でも女性にモテモテのようですが、特定の女キャラクターと関係を深めるということはないのです。

ではなぜ、「おもしれー女」をCV:跡部景吾で再生してしまうのか? 

紐解いていくと、「公式で言っているかわからないけど、そういう夢小説をたくさん読んだ」と言う人が多数でした。

夢小説は二次創作のジャンルの1つで、主に「キャラクター×オリジナルの主人公」で描かれる作品群。同人ジャンルとして「テニプリ」が盛り上がっている時代、跡部になびかない女主人公に対し、作中の跡部が興味を持ち「おもしれー女じゃねーの」と発する……という展開が数多く描かれ、それが自分たちの心に刷り込まれたのではないか?というのが、オタク女子たちの持つ見解でした。実際、「おもしれー」という言葉遣いにも跡部の言い回しのニュアンスが感じられる……? 残念ながら2000年代の夢小説サイトはネットの奥底に消え去っており、実際のソースまでは検証できませんでした。もしこの記事を読んだ方の中で「書いてた!」という方がいたら、ぜひ教えてください。

まだまだあります、「おもしれー女」マンガ

というわけで「跡部様夢小説」発祥説もありつつ、「おもしれー女」として人々が想像するシチュエーションには、さまざまな少女マンガが影響しているようでした。

こうして考えていくと、「一見普通の女主人公が、イケメンに見初められる」展開自体はかなり多くの少女マンガに出てくることにも気付きました。少女マンガの主人公というのはだいたいが、明言されずとも「おもしれー女」なのかもしれません。

見た目やステータスではなく、中身の部分で愛されるヒロインであり、多くの読者たちに励ましを与えてくれた「おもしれー女」。ネタとしての「おもしれー女」が面白いのも確かですが、そうした「おもしれー女」本来の意義が今後も大切にされていってほしいものです。

最後に、筆者が読んで「このヒロイン、最高のおもしれー女じゃん!」と思った近作を紹介します。

日向夏原作、ねこクラゲ作画、七緒一綺構成「薬屋のひとりごと」

「薬屋のひとりごと」1巻

人気ライトノベルのコミカライズ版で、「次にくるマンガ大賞2019」コミックス部門1位を獲得。主人公は花街で薬屋をしていた少女・猫猫(マオマオ)。人さらいにさらわれて宮廷の後宮に売り飛ばされてしまった彼女は、できるだけひっそり暮らそうとするが、つい持ち前の好奇心で事件に首をつっこみ、次々と解決しまくって出世してしまう……。この猫猫に目をつけたイケメン宦官・壬氏が「妙に面白い 新しい玩具を手に入れた気分だ」と独り言を言うシーンもあり。「おもしれー女」シチュを堪能できる作品。

小西明日翔「来世は他人がいい」

「来世は他人がいい」1巻

「次にくるマンガ大賞2018」コミックス部門1位の人気作。極道の家で生まれ育った女子高生・染井吉乃が、祖父が決めた婚約者・深山霧島と、彼の生家(極道の家)で同居させられるところから始まるラブコメ。1巻では「イケメンの霧島と仲良くしたことで学校でいじめられる」「普通の女だと思われて霧島に飽きられる」「思いがけない行動で再び霧島に好かれる」……と、王道的要素がもりだくさん。2話のラストで霧島にキレた吉乃がとる行動は、「おもしれー女」史上最もハードボイルドかもしれない。

あきもと明希「機械じかけのマリー」

「機械じかけのマリー」1巻

主人公は元天才格闘家マリー。大財閥の跡継ぎ・アーサーの専属メイドとして雇われるが、彼が冷酷&超ド級の人間嫌いなために、なんと「ロボット」と偽ってメイド業をこなすことに。人間だとバレれば即クビだけれど、無機物には優しいアーサーに溺愛され、どんどん2人の距離が深まっていくラブコメ。アーサー→マリーは最初から溺愛ルートなものの、ロボットのフリをしている点で「おもしれー女」モノと言えそう。さらに、アーサーを殺すために送られてきた刺客・ノアが、無表情&格闘技最強なマリーを面白がってアプローチしてくる展開あり。

これらの作品を読んで、ぜひあなたも「おもしれー女」を目指してみてくださいね。

※記事初出時、本文中の人名および年代の表記に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

ひらりさ

1989年生まれ。ライター・編集者。オタク女性ユニット・劇団雌猫に所属し、劇団雌猫としての編著書に「浪費図鑑」(小学館)、「だから私はメイクする」(柏書房)、「海外オタ女子事情」(KADOKAWA)などがある。7月に初の単著「沼で溺れてみたけれど」を講談社から刊行した。

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カナガク @KanagakuCom

「おもしれー女」について考える

>最近ではVTuberの月ノ美兎、「ウマ娘」シリーズのゴールドシップなど、破天荒でゴーイングマイウェイな言動をとるタレントやキャラクターのことを
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